1. HOME
  2. 提言と新書
  3. 提言のご紹介
  4. 提言ご紹介(平成30年~)

WORKS

提言と新書

提言のご紹介

提言ご紹介(平成30年~)

個人の行動企業への影響考慮・判断/経営トップ自ら実践を

企業倫理の徹底

桑山一宏 (北関東支部)

企業のデータ改ざん、粉飾決算、会員制交流サイト(SNS)などによるさまざまなトラブルが度々大きなニュースになっている。にも関わらず企業の不祥事は繰り返されている。過去に不祥事を起こした企業は倒産や廃業に至るケースもあった。
また、グローバル化に伴い不祥事の影響は国内だけでなく世界規模になる。その賠償額等も巨大化しているのである。これだけの事態でも他人事なのであろうか、コンプライアンスと唱えられてはいるが、一向になくならない。繰り返される原因はどこにあるのだろうか。
会社組織とはいえ、実際の判断や行動は個人である。個人個人が、正しい判断をもってすればこのような事態は発生しないはずである。それは社員でも役員でも同じである。
不祥事例から考えるとSNSであれば面白いかどうか、うけるかどうか、データ改ざん、粉飾決算等はいかに手を抜いてもうけるかという事になる。このような判断は我欲といえる。自分さえ良ければという考えである。
「自分の在任期中だけは」とか「うちの部門だけは」とか「いいね!を多くもらいたい」などこの考えが間違いなのである。わからなければ問題がないというのではコンプライアンスではない。その場限りの損得ではなく、長期的かつ社会的責任まで考慮して判断をするべきである。
まずはやって善い事か悪い事か、善悪の判断をするべきである。いい加減な個人の判断が自社に多大な影響を与えるか考えてもらいたい。企業にとって生産、販売、サービスの提供により利益を得る事は命題ではあるが、何をしてもいいわけではない。
法令を遵守し適正な利益を得て、納税をし、経営者、社員、株主そして顧客、社会に分配還元されるべきである。そのためにも企業倫理は重要なのである。
企業倫理は企業を運営していく大黒柱といっても良い。柱がしっかりしていなければ崩れてしまうのである。いかにして社内に企業倫理を徹底させるかが課題ではある。教育機関等で倫理観を教えるカリキュラムはないと思われる。
個人個人の資質の問題でもあるが、きちんと教育機関などで教育されていない現状では、企業(会社)が教えていかなければならないのである。いかにして企業がそれを社内に徹底できるかが鍵となる。
まずはトップ自ら襟を正し、実践していただきたい。いかにして徹底させるか難しい問題ではあるが、きちんと対応していかなければ、不祥事は繰り返され、なくならないのである。

(令和元年6月27日 日刊工業新聞掲載)

食育・体験型観光が重要/食農文化発信で新たな利用価値創出

都市農地の有効活用による地域活性化

佐藤 秀樹(千葉支部)

都市農業は、住民への新鮮で安定した食料の供給、災害時の防災空間、都市の緑化による環境保全や良好な景観の形成、そして市民が農業を体験・実践する場として機能している。このような状況の下、2018年9月に都市農地貸借法が制定されたことで円滑な農地の貸し借りが可能となり、都市的地域における市民農園数の増加や、その開設者の主体は農業者、企業、NPO等へと広がっている。
特に、今後の都市部の農地空間の有効活用に当っては、地域の教育的機能、交流の場や外国人の体験型観光農園という視点からの取組みが重要である。
市民農園や農家等の体験農園では、都市住民や子どもが野菜等の生育を観察することや農作物の収穫・料理体験等を通じ、農作業の大変さや食べ物の有難みについて学習する食育の普及啓発へとつながる。また、高齢者および障がい者にとっては農作物と触れ合うことで園芸福祉としての役割を発揮する。
都市の農地空間を有効活用するその他の方法は、日本の地方農村部へは足を運べない短期訪問の外国人旅行者等を対象とした体験型観光農園を提案したい。都市部の身近な農作物の収穫や食文化を体験する内容等を組込むことができれば、外国人訪問者を対象とした観光ビジネスや地域住民との交流による新たな対流が生まれ、地域の活性化へつながる。日本政府観光局の統計によると、2018年12月時点の訪日外国人旅行者の年間累計は3000万人を超え、特に、中国、韓国、台湾、香港等のアジア地域からの観光客が増えている。また、JTBによると、外国人旅行者に対する意向調査では、「日本の自然や風景」、「日本食」と「日本の文化・歴史」への関心が上位を占める。
外国人旅行者が東京周辺等の都市部の体験農園や市民菜園等へ足を運び、農業者、一般の都市住民と共に食農体験等が進めば、五感を通じて日本の暮らしを良く知ってもらう絶好の機会となる。
都市の農地は、外国人旅行者をもてなすホスピタリティの空間としての可能性を秘めている。そして、日本の農業の魅力や食農文化を発信していくことで、地域住民や外国人旅行者が交流し支合う新たな利用価値を持った都市の農的空間の創出へつながるであろう。

(令和元年6月20日 日刊工業新聞掲載)

無形資産も継承/ベンチャー精神と原点回帰忘れずに

中小企業の後継ぎのし方・させ方・活かし方(下)

吉岡聰(南関東支部)

後継ぎは引き継ぎではない、自立を! 後継者が社長職を継ぐ時にはたいてい先代社長との意識のズレが生じてしまう。特に初代は、ベンチャー精神旺盛で拡大志向、主観的で厳しくも人間味があり、技術や社員を引き付けるなど目に見えない“無形資産(透明資産)”が必ずあるものだ。人材の評価や育て方も「論功行賞」型が多い。
二代目は、引き継いだ会社をつぶしてはならないと保守的に利益確保が中心となる。客観的で合理的緊縮志向、コスト削減やマネジメント重視、人材育成は評価基準による「朝三暮四」型になり結果冷たい感じを与えてしまう。
三代目は、ほぼ組織の土台や顧客が比較的安定した段階で引き継ぐため先代と違い危機感が薄くなる傾向がある。二代目の未完成を見直し原点帰りで初代の考えを再構築しようとする。しかし、多様で価値観の変化が速い経営環境ではベンチャースピリットが欠かせない。
人工知能(AI)・ビッグデータの時代、後継者には「血筋」と同時に「智筋」が求められる。二代目・三代目は、表向きは先代の考えを守ろうとするが、やはり少し違ったことをやろうとする。しかし確実に言えることは、勤務当時に身に着けた定型マネジメントと経営マネジメントの能力はイコールではないことだ。
勤務時から積極的に社外活動や社外人脈づくりなどにより自己研さんしておくことが大切だ。引き継ぎ後は、先代を反面教師として学びつつ、勤務時の知見を活かしつつ次のベンチャーのチャンスに活かす。企業が持っている無形資産を継承しつつ次に生かしてこそ事業承継は成功といえる。次の事業継続に重要なのは、経営組織のヒトにある。定型的マネジメント能力が高くても、今とは違う未来に向かう時にリスクテイクの重要性を理解し実行できなければ会社の筋力・脳力を維持できない。   さらに“経営マネジメント”には、組織をちゃんとつくれる、そのための人材を集めるスキルがある、そして人の使い方がうまいことが含まれる。幹部人材に任せる場合も同じ。後継者に最も重要なのは不易流行観で、ベンチャー精神と原点回帰を忘れないこと。言い換えるとリスクを恐れない革新志向とオーナーマインドを忘れずに「時代によって変えるもの」と「変えないもの」をはっきり分ける意識を持つことが大事だ。

(令和元年6月13日 日刊工業新聞掲載)

ノウハウなど知的資産が重要/継承前に経営資源の断捨離を

中小企業の後継ぎのし方・させ方・活かし方(中)

吉岡聰(南関東支部)

引き継ぎ前のセルフチェック
会社を次代に託すと考えた場合、後継者候補をいつ決めてどう育成するか、親族内で承継するか、外部の人材を登用し経営を任せるか、M&A(合併・買収)を進めるか、自社のヒト(後継者準備)・モノ(ノウハウ、商品、設備)・カネ(資産状況)など、対策課題は多い。
事業承継とは、「経営」会社に残る「有形無形の資産」「知的資産」を引き継ぐこと。その場合、贈与税・相続税の心配や自社株が分散している場合の集約など、自社株や事業用資産・資金の有形資産にばかりに目が向きがちだ。見落としがちなのが、培ってきた経営資源「技術や経験やノウハウ」などの知的資産(=透明資産)だ。
そこには、守り伝承すべきものと開発・進化させるべきもの、主業と副業の見極め、および伝統とベンチャーのスピリットなども考えなければならない。そこで、自身の体と事業業績が健康なうちに「事業承継前のセルフチェック」することをすすめたい。
例えば、次世代に引き継いでもらうための4W1H「①なぜ承継するか②何を承継するか③誰への承継か④承継はいつか⑤どう承継するか」の人生&事業計画の策定だ。
その中でも重要なポイントは、「引継ぎ時期における双方の物心両面の準備状況」「後継ぎ者の積極度・感性」および「後継ぎ者に残すこと・託すことあるいは不要なものの合意」であろう。そのためには引き渡す前に経営資源の断捨離をする必要がある。
負の資産と価値的資産、無形・透明資産に加えて一番の課題は人的資産(先代を支えてきた幹部)の仕分けだ。親族(特に息子・娘)を後継ぎにする場合には、自社と違う事業の会社を経験していることが成功への大きなポイント。高齢の先代経営者では踏み切れなかったサービス・商品やマネジメントに新機軸を注ぐきっかけになる。
既存の資産を活かし新しい感覚を活かす後継ぎベンチャーもやりやすくなる。中小企業の重要資源は規模(カネ・モノ)よりもノウハウ(ヒト)だ。
後をどう託すかの決断材料として、「自社のDNAや育ててきた人材と今後の経営環境の多様化」を比較検討してみる。そこから「承継してほしいもの、未練を断ち切るもの」の決断の手掛かりが見つかる。

(令和元年6月6日 日刊工業新聞掲載)

早めの引き継ぎ対策重要/オーナー経営者は多角的に検討を

中小企業の後継ぎのし方・させ方・活かし方(上)

吉岡聰(南関東支部)

経済産業省・中小企業庁は2017年、「この10年間に経営者が70歳を超えても後継者が決まっていない中小企業は、全企業数の3分の1に当たる127万社」との現状をまとめた。さらに、2015年時点での中小企業経営者で最も多い年齢層は65―69歳、平均引退年齢は70歳。25年時点でこの引退年齢を迎える中小企業経営者が約245万人。このままだと平成30年間で150万社以上の企業が減ることになり、全中小企業の60%以上に上る。ここ10年が大廃業時代を乗り越えられるか否かの正念場で、黒字廃業を放置すれば累計で約650万人の雇用と約22兆円に上る(GDP)が失われるという試算もある。
また、世代交代した企業には利益率や売上高が増える傾向にあるという。早めの引継ぎ対策が事業継続成功のカギだ。オーナー経営者は「企業は社会の公器」を改めて意識しながら事業の継続をしなければならないであろう。筆者が数々の中小企業の初代オーナー経営者に接してきた経験の中で感じるのは、「事業は承継するために起こしたのではなく、結果社会に認められ承継に至るまで事業を継続させてきた」ということだ。現実的に承継させることを考えるのは後年になってからだ。先述した中小企業の事業継続の課題を解決していくには、まずオーナー(特に初代)経営者が自分の特徴を認識しながら適切な対策方法を考えていくことが大切だ。ここにオーナー経営者の特性をいくつか上げてみると、「常に前向きで、チャレンジする」「自分の成功した技術・ノウハウに執着する」「社員の面倒見は良い、後継者育成が下手で、渡すノウハウがない」などだ。
結果、唯我独尊に陥り終にはガラパゴス化して事業継承の価値・時期を失してしまう。
一方、早い段階で次代に会社を譲ると先代社長が会長におさまり院政を敷いてしまう。自分の経験に固執し、二代目・三代目後継者の一つ一つの行動に異を唱える。後継候補者に早めに失敗できる場と機会を与えてやることも大事だ。第4次産業革命が迫ってきている。令和の時代は特に自社の固有技術の短命化が早くなるだろう。
事業承継の人やタイミングは、親族・社内・外部・譲渡を問わず第三者の意見も参考にしつつ多角的に検討してみることだ。

(令和元年5月23日 日刊工業新聞掲載)

人材不足原因の一つに若者の低定着率/労働条件の改善に主眼を

人材不足と法改正による経営者のかじ取り

岩井美喜夫(四国支部)

昨今各メディア等で取り上げられているが、人材不足が深刻な問題となりつつある。業種によりバラつきがあるものの、概ね各業界とも言えるのではないか。
その原因のひとつに、若者の定着率の悪さがあると思う。離職者の声を聞いたところ、「雇用条件と実際の現場が自分の思うものと違っていた」「時間外労働や休日労働をしたくない」など、一昔前では想像も付かないような理由が増えている。時間外労働等による少々の給料増よりも自分の自由になる時間を大切にする風潮が顕著となってきており、求人誌を見るポイントも、なるべく残業が少なく比較的定時に帰れる業種に人気があるようだ。離職に当たっても、経営者や上長に相談するのではなく、会員制交流サイト(SNS)などで相談を投げかけて、不特定の人からの意見を参考にしているケースも増加している。政府も4月からの「働き方改革」などで労働のあり方を見直してきているが、若年層とは乖離があるようだ。
若年層の定着率の悪い業界などでは、「外国人技能実習制度」を利用して外国人でその穴をカバーしているところもある。外国人労働者と言えば、世間では「安価な労働力で労働をさせて企業が利益を得ている」と言うような声もあるが、これに関しては、最低賃金の引き上げや第一次受け入れ機関への管理費などで決して安価な労働力ではなくなってきているのが現状だ。メリットとしては、定着率の悪い若年層よりも契約期間内は確実にその職に就いてくれるということだけになっている。また出入国管理法の見直しなどで今後間口としては広がってくるところだが、これは短期的な視点で捉えると一見良いようにも思われる。しかし長期的に見て我が国の将来を考えると疑問に思わざるを得ないところだ。 今後、経営者の取るべき方法としては、昨今飛躍的に伸びてきている人工知能(AI)の導入や、職場環境、とりわけ労働条件の改善を主眼に置いた経営方針を構築に取り組んでいかなければならない。同時に、会社の労働条件に関する取り組みとマッチングさせた社員教育も非常に大事なツールになってくると言えるだろう。
これまで企業内の無駄をなくす経営は既に取り組んでいる企業が大半だと思うが、さらに労働時間の無駄を削るというメニューも令和時代を迎え、経営者の管理能力における手腕の見せどころになってくると言える。

(令和元年5月16日 日刊工業新聞掲載)

タイで国策として5S活動定着/トップの意思決定と行動カギ

基礎的管理の重要性

太田能史(九州支部)

タイでは5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)活動を国策として企業に定着させている。その活動の成果は年に1回5S大会として国から表彰されてきた。表彰式の前にはコンテストを公募し、20-25社程度が書類選考でふるいにかけられ、残った7社程度が現地審査の対象となる。審査制度の発足時点から3年間ほど毎年7社程度の現地審査をしてきた。
現地表彰を受ける企業では、業種・規模の大小を問わずほとんどトップ自らが5S活動の取組みに関し説明し、各部署に引率して、そこのリーダーに説明をバトンタッチするまで案内してくれた。このようにしてタイの各地を審査して回った。審査項目はタイの5S活動の実態が審査できるような項目とした。トップの説明・態度から始まって、現場での5S活動の定着状態、改善の展開に至るまで審査対象とした。信頼性を高めるため、数値化して客観的に評価することとした。
いずれの企業のトップも自らの執務室内の5S活動の実態まで案内してくれたが、その認識の高さに敬服した。タイでは5S活動を経営活動の基礎にしっかりと位置付けており、5S活動がない企業経営は考えられないといった捉え方をしている。
このような取組みのため現場改善も隅々まで行われており生産性の高さが良く伝わってくる。
日本を取り巻く近隣諸国ではこのようにタイをはじめ高度な生産性向上活動が盛んである。高品質で安価な製品が輸入されてくるとややもすると賃金格差だと思われがちであるが、その前に高能率高生産性で作られているという、生産性格差が歴然とあるのだということを実感として捉えられていないのではないかと思われる。
日本ではそれに先んじて小集団活動や5S活動が盛んであった。現在それを実践している企業はあまり見かけなくなってきた。それだけに生産性格差はさらに広がりつつあるのではないだろうか。人手不足で研修している余裕もないし、5S活動を行うにも時間がないという。しかし、生産性格差は一朝一夕にして縮まるような生易しいものではない。
日本企業が得意とするボトムアップを奨励するものではない。トップダウンでも構わない。ものづくり企業において現場の活性化、効率化は避けて取れない。その方針をどのように出すのか、現場ではトップの意思決定と行動を待っている。

(平成31年1月24日日刊工業新聞掲載)

ドーナツ経済学とSDGs内容に共通点/限界超えず至福社会に

21世紀における経済 下

矢島英夫(埼玉支部)

今の社会は、基本的に経済成長する、経済成長し続けることが前提となっている。これを「ド-ナッツ経済学では、経済成長を頼らずに繁栄する循環的な経済を作るにはどうすればいい」という観点から始まっている。資本主義経済は数世紀をかけて、法律や制度や政策や価値を再構築し、その結果、継続的なGDPの成長を期待し、成長を要求し、成長に依存するものになった。
私たちは、経済が成長するかどうかに関係なく、自分たちが繁栄できる経済を必要としている。私たちが暮らす世界は経済学で形づくられている。国連は、2015年に、環境、経済、社会の分野にわたる17項目から成る持続可能な発展目標(SDGs)を採択。このSDGsは、多くの国や企業でその取り組みが始まる。この17項目は、「誰一人取り残さない」ことが強調されており、最終的にはすべての項目の同時達成が目指されている。
ド-ナッツ経済学では、これらの項目関連性と全体像を極めて明確に示している。ド-ナッツ経済学が世界を救うという本(ケイトラワ-ク著)の骨子は、ド-ナッツの2重の円から考える。内側の円が絶対的貧困の境界で、経済がこの円よりも小さいと貧困が深刻になる。外側の円は、環境破壊の境界線で、いわゆる地球環境上の制約を示す。また、内側の環は「社会的な土台」を示す。言い換えれば人間の幸福の社会的な土台と地球の環境的な上限の間が、人間にとって安全で公正な範囲で、この範囲にすべての人を入れるという前代未聞の事業を成し遂げることが、21世紀の課題となる。ここに示されている項目は、持続可能な開発目標SDGsの項目と形式的に完全に一致していないが、内容的には、ほぼ一致する。これより経済が大きくなると、資源が枯渇し、大気汚染や気候変動が深刻化する。つまりド-ナッツの身があるところを「人類にとって安全で公正な範囲」として、そこに経済を置くべきと著者はいう。会社でいうならば現在はやりの健康経営の運営ということになる。
人類に地球環境の許容限界以下の安全公正範囲内にすべての人を入れることが21世紀の経済システムに必要なことである。現在、環境的な上限に関しては、すでに「気候変動」「生物多様性の喪失」「土地改変」「窒素及びリン酸肥料の投与」において上限を超えており、社会的な土台に関してもすべての項目は、多かれ少なかれ下限よりも不足している。これから経済の目標は、限界を超えず至福社会にするべきである。

(平成31年1月17日日刊工業新聞掲載)

フロ-循環・貨幣制度→ドーナツ経済学/バランス取れた繁栄築く

21世紀における経済 上

矢島英夫(埼玉支部)

今までの経済は、フロ-循環である。これは、家計と企業との市場関係で家計は労働と資本を提供し賃金と利潤を受け、その所得を使い、企業から財とサ-ビスを買った。この生産と消費の相互依存により所得の循環がある。この循環は外側の三つの輪、すなわち-銀行、政府、貿易-によって別の使途に所得が流れる。銀行は、預金として所得を受け取り、投資として返す。政府は税金として所得を受取、公共支出としてそれを再注入する。貿易は、輸入されたものの代金は、外国の貿易業者に支払される。逆に輸出されたものの代金は、国内貿易業者に支払う。これら三つの支流によって市場のフロ-循環に漏出や注入が生じる。
経済の物の価格は、物の価値と「お金」の単位との積。物の価値は、消費者数と消費量により決まり、お金の単位は、物の総量と「お金」の流通総量から決まる。市場経済の社会では、人、物、金は不均衡であるが「お金」の上では、人や物は、均衡している。需要・供給の法則では、需要曲線と供給曲線が交わったところで、価格と取引量が決まる。
財は、貨幣の流れによって分配される「お金」の出入りによって物の過不足を均衡させる仕組みが貨幣制度である。物の過不足はお金を活用して物の過不足を均衡させる。資本主義は会計制度的思想である。経済の仕組みの本質は、分配にある。分配を適正に行うための手段として「お金」がある。それが貨幣制度の本質である。
私たちはニ-ズを満たすため何に依存しているのかを考えるとバランスのとれた経済となる。ド-ナッツの基本要素は「人間の幸せの社会的土台(それ以上地球を負担をかけない線)それらの2本の線で挟まれた部分が人類にとって安全で公正な範囲になる」①太陽からエネルギ-を得る地球がある。地球の中に人間の社会があり、②人間の社会の中に経済活動がある。③経済活動の中に家計、市場、コモンズ共有地、国家がある。この4つを支えているのが貨幣の流れである。これによってバランスのとれた繁栄を築く人類と21世紀の経済の流れができる。21世紀の経済は、これらの項目の関係性と全体像を極めて明確である。ドーナツの図における外側の環は、「環境的な上限」を表す。現在、環境的な上限に関しては、すでに「気候変動」「生物多様性の喪失」「土地改変」において上限を超え、社会的な土台に関してもすべての項目について、多かれ少なかれ下限よりも不足している。この疑問に答えるのが、『ド-ナッツ経済学が世界を救う』(ケイトラワ-ク著)で解決する。

(平成31年1月10日日刊工業新聞掲載)

経営に重要な創造力・想像力養う/積み木の良さ6つのポイント

積み木と経営、そして創造 下

山本英夫(南関東支部)

「◯の積み木、△の積み木、??の積み木。これらを用いて、経営や仕事において最重要項目とも言える創造力を養うプログラムを作成せよ。」 こういう問題を出されたら、何と答えるでしょうか?私なりの答えとして出したのが「経営積み木プログラム」だった。その答えは「創造力」と「想像力」にあった。 「小さな子どもの時に積み木遊びをやるのに、大きくなるに連れて積み木をやらなくなるのはなぜでしょう?」 和久洋三氏は子どもの情操教育分野や美術・創作の世界を、積み木の世界に色の世界や動きの世界、数の世界にまで広げてつくられてきました。しかし、ロジカルな世界、経営やマネジメントの世界にまで当てはめてみることまではトライされなかったようだ。私の得意分野である知的生産の技術分野のノウハウを注入し、トライしてみた。 ラベルに言葉やアイコン、マンガや写真を書いたり、印刷したものを貼りつけて、積み木に貼り込んで使うことを試してみたのだ。 主に使ったのは立方体、サイコロの□の積み木だった。メモを書き出して、並べ、グルーピングするだけなら、KJ法や親和図法の方が優れている。 そこで、積み木の良さを見直す必要が出てくる。6つのポイントを列記してみる。①重さ、形状を触って掴んで感じる現実感②木の持つ自然感、癒し感③並べ、積み重ねて、いろいろなものをつくる構造物感、全体感、一体感④それらによって感じさせるイマジネーション性、想像力を持って見立てる見立て性⑤同じ◯△??の積み木の連続が感じさせる秩序感、法則感、調和感⑥壊して、また組み立てられる再生感、安心感、創造感。 中でも、④の想像力による見立て性と⑥の創造感がポイントになる。つまり、「感性(美術・造形)ー積み木×ラベルー(文字・理論)理性」、この流れを行ったり来たり、またはループしたり、スパイラル的に動く中で、「創造力」が動き始め、育っていく、というイメージだ。より具体的な内容については後日、寄稿させていただきます。 実際の「経営積み木」は体験実感しないと絶対にわかりません。ご興味ある方はお問い合わせください。

(平成30年12月20日日刊工業新聞掲載)

IT・ICTなどで社会変化/経済・経営改革の核「創造」テーマに

積み木と経営、そして創造 中

山本英夫(南関東支部)

創造。今までも重要なものとして言われてきた。人口知能(AI)やIT、IoT(モノのインターネット)、自動走行モビリティー、ロボット、ドローン、フィンテックなど加速度的に科学・技術が進歩進化して社会を根底から変えている。そのような大変化の中で、私たち人間の暮らし・生活、仕事・労働、事業・ものづくり・コトづくり、組織・経営・経済・産業、政治・法律も変わらざるを得ない。それぞれの次元で、人・物・金・コト・ルールの再構築、関係性の再構築が進んでいくのだ。敢えて一言で言うなら、コミュニケーションの再構築だ。仕事・労働・経営の領域で言えば、ビジネス・コミュニケーションの再構築ということになるだろう。
そのような中で、コンサルとして押さえておきたい視点が「IT経営」「ICT(情報通信技術)経営」だ。デジタル、インターネットの世界を無視してトータルな経営を語ることはできない。プログラム言語教育も義務教育の中に取り入れられていく時代だ。ジェネレーション・ギャップがまた広がってしまう。格差もさらに広がりそうだ。AIやロボット、自動運転ビークル、IoT等により人材不足が緩和されると同時に雇用が奪われたり、雇用のあり方にも大きな影響を及ぼす。
そのような中においても社会が物心ともに成長していくためには、より焦点を経済・経営に合わせるのであれば、やはりドラッカー氏が言うように「マーケティング、イノベーション、生産性の向上」ということになる。そして、それらに共通して大事なことは、「改善、改革、革命」だ。身の回り、足元手元の小さなことから、商品開発・サービス開発、事業開発、経営戦略という大きなことにまで必要になってくる。
さらに、その核になるものは「意志」と「愛」と「創造」になると言ってもいいようだ。そこで、今回のテーマの素材の一つである「積み木と経営」を考える時のキーワードを「創造」に絞りたいと思う。これからの経営には「創造」がさらに重要になってくると言っていいだろう。
「子どもの創造力の育成に積み木はいい」と言われている。それでは、大人の創造力の育成にも積み木はいいのだろうか?次回はそれについて触れたいと思う。

(平成30年12月13日日刊工業新聞掲載)

「◯△□の経営」理論と実践追求/オモチャの積み木と共通項発見

積み木と経営、そして創造 上

山本英夫(南関東支部)

唐突に「積み木と経営」と言われても、ほとんどの経営者の方はピンと来ないだろう。私自身も「和久洋三氏の積み木の世界」に触れるまでは、まったく関係のないものとして見ていた。ひたすら「◯△□の経営」を追求し、その理論構築と実践実務的な展開を進めてきた私にとっては、その関連性が見えていなかった。
しかし、違っていた。「和久洋三の積み木」には、その根底に明確な哲学思想があった。18世紀ドイツの教育哲学者フレーベルの哲学思想が脈々と流れていたのだ。フレーベルは幼児期の教育における積み木の在り方を具体的に明らかにしていた。それを受けて和久洋三氏のおもいと信念と40年にわたる継続的事業の中で構築されてきたのが「和久洋三の積み木の世界」だったのだ。
そして、『「童具」の宇宙』という作品カタログの最初の挨拶文との出会い。そこにはこうあった。「40年前、わたしは個性的なおもちゃをつくるために情熱を傾けていました。しかし、多くの子ども達と接していくうちに、創作するものがどんどん単純になり、ついに球と立方体、◯△??にいきつきました。それはもうおもちゃというより子ども達が創造活動をくりひろげるための素材です。」
これで、「◯△□」を共通項として、「経営」と「オモチャ、積み木」がつながったのだ。本質を追求していき、深い深いところでつながったのだ。
具体的な積み木としては、◯の積み木として球と円柱、△の積み木として直角三角形、□の積み木として立方体の積み木を採用することにした。扱いやすさ、わかりやすさ、収まりなどを考慮して45ミリを基準とした大きさの積み木だ。
ここから「◯△□の積み木」を素材とした、大人のための「積み木による経営の世界」の創造が始まったのだ。

(平成30年12月6日日刊工業新聞掲載)

社外取締役は適切な人選を/取締役は企業統治を重視すべし

失敗でなく成功に学ぼう 下

塚本裕宥(北関東支部)

失敗に学ぶとよく言うが、失敗に学ぶので失敗するのである。大きなことも、小さなことも、成功に学ぶのが正しいのである。
今回は企業経営の根幹に関わる大切なことを述べる。正しいことを正しく行って欲しく、零細~大企業まで共通のことを、例を引いて述べる。
①客観的に見て小企業と言えども、自社経営陣とは立場を異にする社外取締役の就任を求めたいものである。第三者の立場で的確な意見具申してくれる経営アドバイザー(コンサルタント)を求める方法もある。
?大企業の系列企業では、平易に言い、親企業から当該企業に転籍した等の社外取締役を見かける。これは社外取締役の存在を形骸化する人事で、不適切な事例が多いと思う。この例の多くは失敗に学ぶ例になっていると見受ける。親企業の悪しき文化を移植の恐れがある。
③私は上場企業である大~小規模企業の株主総会に出席することがあり、その中で本年の総会であった超大企業の事例をご紹介する。なお、時には新任取締役に企業統治に関する抱負を述べて欲しく、積極的に要望する。
④新しく就任した社外取締役が、私の経歴は・・・と、豊富な事業経験を披歴して、企業統治のことを全く述べない事例に出会い、がくぜんとした経験がある。あなたは、執行役に就任したのではありませんよ・・・。社外取締役として、企業統治に関する抱負を述べるのが適切と思えるのに、それには全く触れず、内心あきれたものである。これは悪しき企業文化と思う。
⑤日本のトップレベルの企業において、このありさまでは日本での企業統治の確立は到底望めないと思う。極めて残念と思う。
⑥最近の当該企業系列の品質問題の不祥事報道を見て、起こるべくして起きていると思え、がくぜんとしている。残念無念である。
そんなつまらぬこと・・・と言うなかれ。以上こそ基本を大切にする組織文化向上の第一歩と考えたい。取締役にとり、企業統治は大切である。
製造企業の皆さま、失敗から学ばないためにも、適任といえる社外取締役の就任や企業統治の重要性に目覚めたいものである。

(平成30年11月22日日刊工業新聞掲載)

規格・帳簿元号から西暦に統一/単位記号・規定・基準など見直し

失敗でなく成功に学ぼう 中

塚本裕宥(北関東支部)

失敗に学ぶとよく言うが、失敗に学ぶので失敗するのである。裏マニュアルの存在などその典型例、小さなことでよい、成功に学ぶのが正しいのである。今回はあってはならない裏マニュアルの摘出方法など、具体的なことを提言する。企業経営の中では、非常にと言えるほど、容易なことから始めては如何か。零細~大企業まで共通のことを、例を引いて詳しく述べる。 ①間もなく新元号になる。この際、明治、大正、昭和、平成などの元号が入っている規格や帳票があったら、思い切って西暦に統一してはどうだろう。役所の書類や銀行の通帳など、その表記が元号主体の多さに気付くはずである。こんな小さな確認をすると、誤りや手続きの煩雑さの発見上手になるだろう。合理化上手にもなると確信する。 ?古い単位記号の見直しを実施するのも、注意力や細かいが大切なことを見抜く力の向上になると思う。今はMKS単位系、質量単位系の時代なのだということを自覚できる。ベテラン社員が古い単位に馴染み、新しい単位に馴染んでいない、そんなことを知る機会になり得る。「km」を「Km」、「kg」を「Kg」と表記してあるなど、後者は誤記であると分かる。 ③これらはベテラン社員や経験の少ない新入社員にもできることである。若手社員がよく知っていると気付くと思う。小さな、小さな積み重ねを大切にすると、実力向上に繋がると思う。 ④まずはやさしい規格である規定、基準から入ることをお勧めする。 ⑤「規格改定や見直しを3年ごとや5年ごとに行う」と決めながら、規定どおり見直してないなどは、よくあることである。見直し期間が短過ぎるなら素直に期間延長するよう改定すればよい。 こんなことをしていたら、裏マニュアルに近いものがあった、などの収穫があるかも知れない。ご健闘をお祈りする。こんなつまらぬこと・・・と言うなかれ。以上こそ基本を大切にする組織文化向上の第一歩と考えたい。 製造企業の皆さま、失敗から学ばないためにも、まずは自社に裏マニュアルやそれ同類の従来慣行があるか、ないかぜひご確認いただきたい。

(平成30年11月15日日刊工業新聞軽掲載)

臨界事故や品質問題から得る教訓/裏マニュアルの存在は異常

失敗でなく成功に学ぼう 上

塚本裕宥(北関東支部)

一般に失敗に学ぶと言うが、世の中の失敗をよくご覧いただきたい。失敗に学ぶので失敗するのである。失敗に学んではいけない。成功に学ぶのが正しいのである。失敗はそれを繰り返さないため教訓にすればよい。これが私の主張である。
私の主張は逆説的でなく全うな主張である。違いますか。学ぶの語源は「まねぶ」であり、私の主張は正しいと思う。
最近、「東海村臨界事故に学ぶ」-企業の社会的責任と危機管理のあり方-
という事例研究をしたことがある。多くの方はご承知だろうが、初心者のためにあえて記載するという前提の下、次のような指摘があった。
①事故等の対応は、最初の応急や緊急(暫定)対応(対策)、再発防止、恒久対応(対策)に分けるのが通例で、危機やリスク管理の初歩的、基本的な考え方である。多くの皆さまがご存じと思う。
②事故等の対応は、一般的に再発防止までは考えたり対応するが、恒久対応が甘い例を見受けるのが実態である。恒久対応は組織の仕組みや文化を、困難でも抜本(根底)的に変えることである。長期間必要なときもある。
③本事故では裏マニュアルの存在に関する指摘があったが、最近明るみになった大手製造企業の品質問題にも、同様の事実が内在すると推定する。根本から改善要だろう。特に、企業統治、企業理念、経営理念、経営方針、その他、根本に立ち返る必要がありそうである。
④裏マニュアルを作ること、それがあること自体が異常で、狂気の沙汰と言いたい。裏マニュアルを実行の企業と言い、社員と言い、倫理観の欠如やそれを通り越して、どこか狂っていたと考える。バブルの時代の悪しき産物だったのだろうか。根本的な反省が必要である。
以上から、製造企業の皆さま、失敗から学ばないためにも、まずは自社に裏マニュアルやそれ同類の従来慣行があるか、ないか是非ご確認いただきたい。
以上の論調を見て、面白いことを主張する者がいるとお気付きだろう。ほぼ絶対に失敗から学んではいけない。
学ぶなら、成功から学ぶのである。裏マニュアルなど存在してはいけない。

(平成30年11月8日日刊工業新聞掲載)

高齢化で増加、情報・費用課題/地域づくりに役立てる方策必要

増える空き家の課題と有効活用へ向けて

佐藤秀樹(千葉支部)

空き家の数が増えている。総務省統計局の「住宅・土地統計調査(5年毎実施)」によると、住宅総数(2013年10月1日時点)は6063万戸、うち空き家の数は820万戸である。08年との比較では住宅304万戸(5.3%)增、空き家63万戸(8.3%)と増加となっている。また、国土交通省が実施した14年空き家実態調査によると、空き家になった理由としては、「死亡」や「施設に入所」等で約半数を占めており、高齢者と関連した項目が多い。さらに、空き家となった建物を取得した経緯では「相続」が52%を占め、空き家の増加は相続とも密接な関わりを持っている。
空き家が増加する社会的背景は、少子高齢化によって高齢者の単身世帯や2人世帯が発生しやすく、これが空き家の発生につながっていると推測できる。また、国土交通省の「新設住宅着工戸数と滅失戸数」の推移によれば、新築住宅が好まれる傾向にある。そのため、増え続ける住宅の解体が十分に進まないことから住宅ストックが増え、空き家が増加していると考えられる。
千葉県松戸市が所有者へ行った「空き家で困っていること」のアンケート調査では、「空き家に関する相談をどこにしたらよいかわからない」「取り壊しをしたい、または修繕をして使用したいが費用が不足している」など、空き家の情報や費用に関する課題が主として挙げられている。
一方で、空き家を活用した地域活性化の取組みが行われている。さいたま市では、Babalabが「孫育て」グッズ等の企画・製造を行っている。一軒家の空き家を工房として利用しながら、お年寄りをはじめとした子連れママ等50名近くが参加して創造的な商品を提供している。
空き家の増加は景観の悪化、火災を誘発させやすくする地域の防災機能の低下やごみの不法投棄等、住民の生活に悪影響をもたらす。地域づくりに関連する空き家の活用では自治体が空き家の修繕等に関わる補助金を交付しているが、空き家の情報が十分に公開されていないことや、空き家の所有者と活用者の使用方法の合意形成がうまく進まない等の課題を克服していかなければならない。行政、地域住民がより一層連携・協働して空き家対策に取組みやすい方策を練る必要がある。

(平成30年11月1日日刊工業新聞掲載)

子どもの孤食対策全国に300カ所以上/地域の多世代交流の場に

地域をつなぐ「こども食堂」の拡大

佐藤秀樹(千葉支部)

「こども食堂」をご存知であろうか。こども食堂とは、「こどもが1人でも安心してこられる無料または低額の食堂」と、その名づけ親で「気まぐれ八百屋だんだんこども食堂」を経営する近藤博子さんは言う。こども食堂を推進している全国食支援活動協会によると、こども食堂は全国300か所以上あり、年々増え続けている。
しかし、こども食堂の参加料、メニューや開催頻度等の運営形態は、NPOや個人等の運営者によって多様である。「広がれ、こども食堂の輪!」全国ツアー実行委員会によると、こども食堂はこどもの孤食なくすことに加え、地域の高齢者、父親、母親、若者等の様々な世代や価値観を持った地域住民が集う「多世代交流型」として、自分が心地よい居場所になれるのが理想だ。
また、食堂という場を活用し、子ども同士が宿題に取組む、母親がお互いに子育ての情報交換を行う、お年寄りが子どもと一緒に遊ぶ等、地域の憩いの場としての役割も期待されている。
こども食堂を利用する人が増えている理由としては、子どもを取巻く家庭環境の変化等が関与している。その一つとして、例えば、厚生労働省の統計をみると、母子家庭の1世帯当たり平均所得金額は270.3万円で、全世帯家庭と比べると半分以下である。母子家庭ではアルバイト等の非正規雇用が47.4%、母子世帯の生活意識では、「大変苦しい、やや苦しい」が82.7%と、その割合は高い。このような母子家庭の経済的な問題に加え、母親が家計を支えるためにパートを掛け持ちする長時間労働がこどもの孤食やこどもの低栄養へとつながり、こども食堂に対するニーズが高まっていると考えられる。
最近は、こども食堂の裾野を広げるための講演会やセミナーの開催等が各地で開催されている。また、地域でこども食堂を開設するために必要な食品衛生、食物アレルギーや食育等についてまとめた「こども食堂あんしん手帖」が作成され、ウェブで公開されている。今後の課題としては、こども食堂同士の情報交換や関心のある人への適切な情報提供・助言等を行う窓口の設置、行政、企業や地域との連携による持続的な運営資金や場所の確保等が挙げられよう。

(平成30年10月18日日刊工業新聞掲載)

テレビ制作者は「今」に敏感/社会の動き先取り、旬の情報を提供

企業広報は、未来に確実に来る「今」に備える

妹尾浩二(四国支部)

数年前「今でしょ!」の流行語で一躍有名になった林修先生は現在、タレントとして大活躍中だ。林先生のセリフ「今でしょ!」に関心が集まったのは、マスメディア、特にテレビの制作者がみな「今」という言葉に非常に敏感だったからだ。
テレビの制作者は、報道番組であれ情報・バラエティ番組であれ、常に「なぜ今○○○○なのか」を自問自答しながら企画し、制作を進めている。彼らは「今」の賞味期限が短いことも知っている。スーパーマーケットなら値下げして在庫処分できるが、テレビの枠は限られていて、格安で販売することもできない。「賞味期限」を過ぎた話題や情報は、持ち越しはなくすべて即日廃棄処分される。
企業の広報は、制作者たちの心に宿る「今」の重みを理解しなくてはならない。つまり、テレビで自社の取り組みを紹介してもらいたいときや、新商品やイベントのプレスリリースを提供するときも「なぜ今、この情報が視聴者にとって必要なのか」を明確に示す必要がある。情報を提供する際は、ベストタイミングに放送が間に合うよう配慮することで、制作者は安心してそのネタを取材し、番組内で取り上げることができるのだ。
「○月△日に商品を発売するので、その直前に番組で紹介してほしい」などと企業側の都合だけでプレスリリースを流しても、テレビが求める「今取り上げるべき旬の情報」でなければ見向きもされないのだ。
旬の情報をタイムリーにメディアに届けるには、企業活動が一般の社会の動きを先取りしていなければならない。地震や台風災害は近い将来必ずどこかで発生する。「東京オリンピック」も「平成時代の終わり」も「自動運転自動車の普及」も今から予測できることだ。それらに備えて、できることは何だろうか。
これから先、いつ、何がどんなニュースになるのか。自社の商品・サービスをそれらの話題に関連付けることはできないか。企業の広報は、未来に確実に訪れる「今」に備えて、商品企画や話題作りに取り組む必要がある。

(平成30年10月11日日刊工業新聞掲載)

提供元は新聞など旧来メディア/各種媒体からの波及掲載狙う

Yahoo!ニュースに掲載される方法

妹尾浩二(四国支部)

子供を除く日本人の半数がスマホなどのモバイルでニュースを確認する時代となった。
ICT総研が5月に発表した調査結果では、モバイルニュースアプリ利用者数が2017年度末で4,687万人となり、2020年には5,600万人に達すると予想している。
スマホを見ていれば世の中の流れがつかめる、となれば新聞の購読者、テレビの視聴者は減少する。では「新聞やテレビでニュースを知る時代ではなくなった」「もうマスコミはいらない」かというと、そんなことはない。
国内で多く読まれているウェブニュースは「Yahoo!ニュース」、「スマートニュース」、「LINENEWS」、「グノシー」、「Googleニュース」などがあるが、これらに掲載されるニュースはほぼ全て、提携する新聞社や通信社、テレビ局などが発信した内容を譲り受けて転載しているだけだからだ。独自に取材して信頼性の高い情報を社会に届けるという、旧来の報道機関の役割は不変なのだ。
例えば、、Yahoo!ニュースには、主に毎日新聞、読売新聞、朝日新聞、産経新聞、時事通信、共同通信、全国の地方紙などから記事が提供されている。動画では日本テレビ系、テレビ朝日系、フジテレビ系、TBS系のニュースを見ることができる。雑誌は約150誌が配信。またマスコミ以外でYahoo!ニュースのみに配信しているWebメディアも多数ある。
企業広報としては、記事提供元のメディアに取り上げてもらえば、Yahoo!ニュースにも掲載されることになり、より幅広く自社の情報を行き渡らせることができる。つまり、Yahoo!ニュースへの掲載を増やしていくには、Yahoo!に記事提供している旧来のメディアを狙ってアプローチしていくのが近道なのだ。
主要な新聞社のほかに、私が注目しているアプローチ先としては「みんなの経済新聞ネットワーク」、「J-CASTニュース」、「リアルライブ」、「Webマガジンコロカル」などがある。これらのメディアに取り上げてもらえれば、Webニュースへの波及が期待できるので、特に地方の中小企業は積極的にアプローチするとよい。

(平成30年10月4日日刊工業新聞掲載)

すしと同様良いニュース“ネタ”そろえる/ベストなタイミングで発信を

企業広報はネタが命

妹尾浩二(四国支部)

すし屋で言う「ネタ」は、元々は「種(タネ)」と呼ばれていたものを江戸時代の粋人たちが逆さにした隠語が定着したものだ。「ネタ」は漫才や奇術でも使うように「物事の一番大事な部分」である。すし屋が客を喜ばせるネタを揃えなければ流行らないのと同様に、企業の広報も、マスコミに良いニュースネタを提供し続けなければパブリシティが成功しない。
ニュースのネタにはすし屋と同じように「新鮮さ=新規性」、「おいしさ=話題性や社会性」、「珍しさ=独自性」、「安心感=普遍性」、「うんちく=ストーリー」などが必要だ。
まず、ニュースは新鮮なほど価値が高い。何日も前に起こった出来事や会員制交流サイト(SNS)で広まっているような情報に取り上げるべき価値はない。
「おいしいニュース」とは、それを起点にちまたの話題として波及する力があり、同時に社会的な影響力を持っているニュースのことだ。マスコミは他社がまだ報じていない独自の「特ダネ」を重視する傾向がある。誰も食べたことがない珍しいネタには思わず手が伸びるのだ。
新しさや珍しさが喜ばれる一方で、すしで言えば「まぐろ」「えび」「玉子焼き」のように「安心感=普遍性」のあるネタも必要だ。驚きや衝撃ばかりでなく、ニュースには一般的でわかりやすいことも求められるからだ。
そして、すし屋の職人が語る「カンパチはなぜカンパチと呼ばれるか」、「今が旬の車えびは○○産が一番うまい」などのうんちく話に客が思わず耳を傾けるように、ストーリー性のあるニュースは読者・視聴者をより惹きつける。
あなたが「新鮮で」「おいしくて」「珍しくて」「安心できる」、そして「ストーリーを語れる」ネタを数多くそろえ、ベストなタイミングで「いいネタあるよ」とプレスリリースを発信できる広報であれば、記者が次々とあなたの会社を取材に来るのは間違いない。

(平成30年9月27日日刊工業新聞掲載)

企業評価に直観的問題発見法が有効/AIによる今後の進化に期待

AIによる中小企業のヒューリスティック

岡部勝成(九州支部)

昨今、金融機関の企業に対するコンサルティング事業やソリューション事業などに重点が置かれた記事がさまざまなところで目につくことが多くなっている。そこに必ずでてくるのが企業の定数情報による財務諸表からの企業評価のみでなく、定性情報による企業評価である事業性評価や目利き力などにシフトした与信判断をするということである。
とりわけ、中小企業に傾注したものが大半を占めているのが現状である。そのような中で、中小企業の問題解決をとらえた際、いかに問題を発見し、それをいかに解決するのかである。
問題解決のために、何からはじめるか、その癖であるヒューリスティック(heuristic)に注目する研究がある。大森信氏の「優れた企業はなぜ掃除に力を入れるのか?」『プレジデント』2018年4月16日号によれば、「ヒューリスティックは、より根源的な問題を発見して特定する、あるいは、難しい問題を解きやすい問題へと小さく分割するための手段と言える」と述べられている。当然、問題には大小、あるいは難易度といったさまざまなステージや時期によっても区分されるため、時間やコスト面などからも変わってくる。一方、ヒューリスティックは、人が意思決定し、判断を下すときに、厳密な論理で一歩一歩答えに迫るのではなく、直感で素早く解に到達する方法ともいわれている。そのため発見法ともいわれる。いつも正解するとは限らないがおおむね正解する、という直感的な思考方法なのである。理詰めで正しい解答を求める方法であるアルコリズムと対比されている。
また、ヒューリスティックは、心理学では経験則や直感などによる判断であり、コンピューターでは、通常の計算方法では正解を得られなかったり、膨大な時間がかかったりする場合に用いられる、効率的な問題解決の方法であるともいわれている。
近年、人工知能(AI)という語彙を聞かない日はないくらい日常化されているため、
AIが機能しはじめ早期完結に導いていくとも考えられる。例えば、服装からその人の性格や職業を判断するなどは、ヒューリステックスな方法といえる。
常に正しい方法とは考えられなくても問題解決に有効であると思われる経験的原理や方法を導き出すのである。これを発見的方法、常識的方法ともいう。最終結果を得るまでの探索量を平均的に減少させるための原理や方法、あるいは試行錯誤的な推測によって問題を解く方法もヒューリスティックである。
例えば、探索による問題解決を行なう場合、すべての状態をしらみつぶしに探索していたのでは処理量が膨大になって、すべての探索は不可能であることが多い。そのような場合に、与えられている問題についての固有の情報(ヒューリスティック情報)を有効に利用して、途中で不要な部分の探索を中止するなどを行なうと、効率のよい探索が実現できる。このヒューリスティックの探索において、今後AIがどこまで対応能力という観点から中小企業に対して事業性評価や目利き力を進化させるのか期待したい。

(平成30年9月20日日刊工業新聞掲載)

IoT化に向けてのものづくりについて 下

金子昌夫(千葉支部)

ものづくりにおいては、人づくりと設計情報の転写が重要であることを述べた。今回は設計情報の転写とIoT(モノのインターネット)化へのものづくりについてである。
ものづくりは、製品の設計情報を素材に転写することで価値を生み出す、例えば、自動車は設計情報をプレス機で鉄板に転写し、転写したものを組上げてできる。設計情報が転写されていない時間は、ムダとなり、転写の「密度」をあげることが生産性向上となる。それとともに、設計情報の転写の「精度」をあげ、品質が向上する。設計情報転写の「密度」と「精度」を「速度」でつくるのがものづくりの基本となる。生産性向上は、現場の問題点を把握し、工程分析、動作研究、稼働分析などのインダストリアル・エンジニアリング(IE)手法を使い、作業時間、作業のムダ排除をし、合わせて品質不良を削減する改善をすることだ。
自社において、(1)作業者の意識付け、改善結果の基準・評価、ムダの見える化等の生産性改善の基礎条件が整備されているか。
(2)作業者の手待ち時間、移動時間、段取り時間、故障時間、チョコ停時間を把握され、作業者や機械の正味作業時間比率が明確になっているか。
(3)出荷検査、ライン内検査、自主検査、部品受入検査の実施、検査の徹底、自働化、作業標準化、品質の作り込みができているのかなど、どのような状況なのかを把握し、生産性向上に必要な方法・手段を明確にし、ものづくり人材のレベルと合わせて、自社の目標を決めることが、IoT化への一歩となる。
IoT化により稼働状況、故障状況、製造品質状況、作業者の作業動作の把握ができ、分析も可能だ。例えば、機械加工時の電流や負荷の状態から加工作業状況や機械の故障状況を把握し、計画的なメンテナンスで機械稼働中の停止を防止することや、センサーの活用から作業者の作業開始・終了の記録結果からムダ排除の改善等である。
初めは、モノづくりの工程から大量のデータを取得するのではなく、機械、設備からどのような部分からどのようなデ-タをどのタイミングで抽出するかを考え、データの目的を明確にした上で、スモールスタートをすることが肝要だ。
そして、データを活用し、生産性向上に取り組み、自社の状況を踏まえながら、IoT化を高度化していくことが重要である。

(平成30年9月13日日刊工業新聞)

IoT化に向けてのものづくりについて 上

金子昌夫(千葉支部)

モノがネットでつながるIoT(モノのインターネット)、人口知能(AI)、ビックデータなどの技術を活用したものづくりについて、成功事例も多く取り上げられており、深刻化する人材不足への対応や生産性向上での競争優位から、当社もIoT化へと検討するのも当然かもしれない。センサーやカメラを使い、装置や機械の稼働データを収集し、稼働状況や機械の故障状況等が把握できれば、生産性向上や設備故障の予防活動も可能だ。でも、導入の目的が明確でなければ、データに埋もれてしまい投資の無駄になる。目的を明確にするには、まず、自社のものづくりの視点、実態を把握することが重要だ。
ものづくりは流れづくりと設計情報の転写である。流れづくりは、流れをつくる人づくりであり、ものづくりは、設計情報を創造し、その設計情報を素材(媒体)に転写することだ。つまり、自社における人づくりの実態と設計情報の転写がムダなく正確にできているかを把握することだ。
よい人づくりは、ものづくり人材を育てること、「心・技・体」の要件が必要だ。「心」とは、現状に満足せず、常に向上心を持って改善に取り組む改善意識であり、「技」は、高いレベルの技術と技能を持ち、ものづくりに活用すること、「体」は、職場で抱えている問題について、周囲を巻き込みながら解決する行動力だ。新人・若手、班長、リーダー、課長において、「心・技・体」のレベルを設定した上で、それぞれの求められる役割を明確にして育成をすれば、現場が活性化し、生産性向上への改善意識が生まれる。
人が関わるとそこには、ヒューマンエラーが発生する、対策が難しいポカミスだ。作業者にわくわく感、やりがい感を持ってもらうこと、気持ち、行動、持続への動機づけを与える仕掛けづくりが重要だ。また、対象作業に対して「認知・判断・行動」の対策を講じることだ。認知不足は教育の徹底、マニュアル等の整備、判断ミスは教育を徹底し、エラーが起こりにくい作業手順への変更やポカヨケ治具の活用だ。また、行動エラーの回避は、作業手順の見直しや複雑作業の簡易化ツールの導入等が有効である。自社のものづくり人材の育成、ヒューマンエラーの発生状況について把握することだ。

(平成30年9月6日日刊工業新聞掲載)

品質不正防ぐ継続的教育訓練必要/仕事への意識高揚カギ

顧客満足

鈴木勇(北関東支部)

大手メーカーの検査不正や品質不正が報道されている。こうした報道に接して、経営の神様、松下幸之助の語録「企業は人なり」、「水道哲学」が頭をよぎった。そこで、水道哲学をあらためておさらいしてみた。インターネット百科事典「ウィキペディア」によると、「水道哲学は松下幸之助の語録に基づく経営哲学である。幼少期に赤貧にあえいだ幸之助が、水道の水のように低価格で良質なものを大量供給することにより、物価を低?にし消費者の手に容易に行き渡るようにしようという思想(経営哲学)である。」という。目指す経営は顧客満足である。
日本工業規格(JIS)や国際標準化機構(ISO)では、製品品質マニュアルにおいて各製造プロセスで教育訓練の実行を義務付けている。教育訓練の結果は①技術者経歴書、?資格認定リスト、③教育実施記録等として記録保管され、定期的に社長のマネージメントレビューが必要とされている。
これらを通じて、経営資源の見直し、継続的に改善が図られて、顧客満足が達成できる。
教育訓練は組織上の品質管理責任者はじめ、営業部など全ての関連部門の従業員について実施し記録される。教育訓練関連規定では教育訓練実施日、時間数、講師名、出席者、教育内容などを漏れなく記入しなければならない。
教育訓練結果の評価も必要である。教育訓練の理解度テストまで実施されることが望ましい。理解度の程度によって、受講者の仕事への取り組み姿勢が異なって来る。仕事の段取り、後始末を通じて、精度、効率が期待できるからである。従業員にとっても、仕事への取組み意欲が高まり、全体の意識高揚が期待され、職場の貴重な財産となる。
検査不正の対策として、「社外の弁護士らによる特別調査委員会を立ち上げ、不正の原因究明や再発防止策を2―3カ月かけてまとめる。」と説明されている。
また、「自社の技術力への過信があった」と報道されているが、企業姿勢に驕りがなかったのか?企業は、顧客満足を達成するためのより具体的な対策が問われている。継続的に教育と訓練を実施して、企業の組織に溜まっている膿を自ら出し切る努力が必要と考えられる。

(平成30年8月30日日刊工業新聞掲載)

香り成分、脳の働き活性化/訪日客向け新コラボ店に注目

コーヒーと緑茶のリラックス効果

上野延城(埼玉支部)

“日本茶カフェ”を目にする機会が増えている。日本茶が静かなブームだそうである。
これまでは、消費者の嗜好が旨みに片寄りがちだったものが、最近では香りも同時に求められている。
生産者たちもそうした動きを敏感にとらえ、これまでにないお茶の多様化が進んでいる。
消費者サイドからすれば、喫茶の楽しみが増している。
お茶に含まれる主な香り成分。緑茶の中には、約300種類もの香気成分がある。その中で特に特徴的香りは「青葉アルコール」「リナロール」「ゲラニオール」の三つである。
青葉アルコールは植物特有の青臭い香り。気持ちをおだやかにするリラックス効果があり、疲労回復にも効果がある。青葉アルコールのにおいを嗅ぐと、単純作業を続けた場合でも作業効率が落ちにくくなる。リナロールはすずらんのような香り。アロマオイルの世界ではリラックスの代名詞イランラン、ネロリ、ラベンダーなどにも含まれる成分で、鎮静、血圧降下、抗不安作用がある。ゲラニオールはバラのような香り。ローズオイルの主成分となっており、抗菌、抗不安、皮膚弾力回復などの働きがある。
コーヒーの香りは、リラックス効果と脳の働きの活性化をもたらす。一杯のコーヒーがリラックスをもたらす。単なる気持ちのせいだけではないことが杏林大学の古賀良彦教授グループの実験で証明されている。実験に用いたのは、ひいたコーヒー豆、レモン油、蒸留水の三種類。これらの香りを順に人にかいてもらい、そのつど脳のアルファ波を測定し、リラクゼーション効果の度合いを調べる。アルファ波は、リラックスした状態であるほど多く出現する。コーヒーの香りをかいだときに、他の二つに比べ突出してアルファ波が出現する。同時に、脳の働きが格段に向上するということが判明した。
今日の大手のコーヒーチェーンの創業はお茶屋さんが多いのであることからもコーヒーの香りと緑茶の香りには共通点が多く、コラボレーションが可能である。海外からの観光客が多い場所では、コーヒーショップと緑茶ショップのコラボレーションによる業態開発がこれからの新しいリラックス・ショップとして注目されると予測する。

(平成30年8月23日日刊工業新聞掲載)

仕事・作業の標準時間設定/整合性・連続性ある評価指標値重要

労働時間短縮成果を生産性評価で見える化しよう 下

吉岡聰(南関東支部)

時短効果を反映させる労働生産性評価手法の一例
生産性の基本算出式(=アウトプット÷インプット)において、インプットは人・物・金・情報などの経営資源であり、アウトプットは景気の動向など外的要因で大きく左右される成果である。現場の生産性を評価する場合、アウトプットのみで評価するのは所得変動リスクを従業員に負わせることになり適切でない。
インプットでも人材の育成と適切な配置、適切な設備投資、および情報・データ収集・処理・分析支援システム投資は経営者の責任範囲である。経営者責任要素項目と労働者責任要素項目を区分し責任範囲を明確にする。経営者はインプットとアウトプットの関係を十分理解し、インプットである従業員の行動プロセスそのものの管理が望まれる。
労働生産性指標値は時短改善効果の評価指標値にもなり、時短分(改善効果)が従業者には分かり易くかつ給料に反映し易い評価手法といえる。時短効果を評価する労働生産性算出式のインプットは労働時間や作業現場における行動などで、アウトプットは成果そのものである。評価指標値算出までの概略手順は次の三つ。
①日常の仕事・作業内容の「標準化と標準時間」を設定する。②仕事・作業の生産性の実績を示す指標値を算出する。基本式は「予定された時間対実際に要した時間」、具体的には、「労働生産性={(標準時間×実績生産数又は実績作業単位数)÷実作業時間}×100」で表される。③標準時間を改訂した場合に労働生産性評価値を補正する。標準時間はある一定期間での自社の技能・技術水準を表すものである。
一方、その間新システム・設備改変や作業者の改善努力で能力・技術も向上するため標準時間も定期的に見直す必要がある。その際留意することは、標準時間の改訂前と改訂以後との整合性のとれた連続性のある評価指標値にすること。②の式で、改訂後の下げた標準時間で計算すると実績指標値が悪くなってしまう。これでは社員の努力を取り上げてしまうことになる。詳細の説明は省くが、この不具合を解消するための生産性は「工数低減率(改善率)」で補正した「生産性向上率」で評価する。企業は、改めて時短成果の見える化手段として生産性評価の役割を認識したい。

(平成30年8月16日日刊工業新聞掲載)

「時間当たりの付加価値」を基準に/成果をデータに反映、公正評価

労働時間短縮成果を生産性評価で見える化しよう 中

吉岡聰(南関東支部)

長を見据えた時短を評価し成果を還元する
企業が長時間労働の是正に取り組む際には、仕事の進め方を変えなくてはならない。一方現場では変えたくないなどの反発も出る。これには、単なる労働時間削減の号令ではなく、生産性を高めて利益を増やし従業員に還元するしくみをつくる必要がある。成果主義や業績主義などパフォーマンス重視の評価だけでは、従業員は成果を上げるためにただがむしゃらに働いてしまうという弊害が出る可能性がある。それが従業員個々の立場での働き方や働く時間のばらつきや不安定さがなくならない大きな要因にもなっている。
この欠点を補う手段として、筆者は、人為的判断が入ることがない1人当たりの付加価値や一人ひとりの時間短縮の成果がデータで反映される評価制度が有用と考える。さらに付け加えれば、時短との関係を明確に意識づけるためには「1人当たりの付加価値」よりも「時間当たりの付加価値」を基準にするほうが正規時間労働・短時間労働の従業員を問わず適切かつ公正な評価ができる。
また、従業員の改善による「生産性向上率」を評価し、時間短縮、仕事の質・量の向上分を、給料、手当、休暇、教育研修、健康増進費用などのインセンティブへの還元手段につなげられる。
生産性の捉え方として、一つは、投入した全生産要素に対して全産出を示す全要素生産性(TFP)がある。これは投入要素の質の向上・技術進歩・効率性・発明など、投入量以外の景気・事故・異常気象など事前には予測が不可能な事象も反映される。
もう一つは、1人当たりの生産量/生産額/売上額/付加価値額を示す労働生産性(LP)がある。これは資本装備率の違いに大きな影響を受けるが、労働時間の短縮/効率性を評価するには簡便に使える指標だ。
また、数値データが把握しにくい間接費や業務については、それを各活動単位に正しく反映させる活動基準原価計算/活動基準管理(ABC/ABM)評価手法がある。
ICT(情報通信技術)や自動化の進展および労働人口減少の中、時短の進め方とその評価方法は業種や企業の経営資源の投資要素で違う。経営者の決断と従業員への適切な説明力が重要となってくる。
働き方改革は、人口知能(AI)・IoT(モノのインターネット)時代も見据えた人と企業の成長を促す制度設計ができる企業が成功することになる。

(平成30年8月9日日刊工業新聞掲載)

価値生み出す仕事に集中/時短を動機づけるマネジメント必要

労働時間短縮成果を生産性評価で見える化しよう 上

吉岡聰(南関東支部)

企業の働き方改革の取り組みは、建前論より具体論を
長時間労働の是正は働き方改革推進の肝であり、その取り組みの一丁目一番地は生産性向上対策と言える。だが企業にとって一気に解決できる特効薬があるわけではない。日常の作業改善活動が基盤になる。現状の業務標準や社内規定の見直し、業務処理システムの改修、切り替えなどを計画的に進めていく。①ムダな仕事を洗い出し、自分の仕事の効果・効率を上司としっかり吟味して優先順位をつけてムダと思われる仕事があれば削減する②年に1回は全部門で業務標準の棚卸しをやる③新しい仕事に挑戦する時間を大胆に作り出す。要は価値を生まない仕事を止めて価値を生み出す仕事に集中する。しかし、企業には、長時間労働の是正(又は無理やり削減)で浮いた残業代をどのように振り向けるかの議論が必要だ。新技術によって人手が不要になった業種では企業収益が改善しているのに賃金は伸び悩み、真面目に働いても成長の恩恵に浴していないという状況も起きている。
また、時短を進めている企業からは、社員の改善努力で時間を短縮した分(生産性向上分)を従業員に直接分配したという事例はあまり聞かれない。人件費は「コスト」という負の視点から一律にそれを抑えるだけならば、働き方改革/時短への取り組みは単に人手不足に焦点を当てた一時的な取り組みになりかねず効果は半減する。
さらに、相対的に賃金水準が低い中小企業では従業員の多くは残業代を見込んで生活設計を立てている。労働時間の短縮で残業時間を減らしたらダイレクトに生活レベルの低下に直結する。
従業員は、仕事の密度(能率)を上げれば企業の競争力や働き手のためにもなる成果のしくみを包み隠さず知りたい。会社としても従業員の信頼を損ねては損失だ。企業は、時短を動機づけるマネジメントや効率よく仕事をこなした従業員にインセンティブを支払うなど、働いた成果が見えるようなかたちで意識づけをする。従業員の工夫・努力を喚起しながらその分を給与にも配分するしくみを考える必要がある。
企業の働き方改革は、「動機づけ、仕事の基準(標準化)、生産性の評価等」の見える化に向け、企業が主体的(目的)かつ具体的(手段)に取り組むべき段階になってきた。

(平成30年8月2日日刊工業新聞掲載)

体験型学びの場有効活用/分野横断的な協働、地方創生のカギ

環境教育促進法改定に伴う多文化共生型地域活性化へ向けた期待

佐藤秀樹(千葉支部)

2003年7月、議員立法により成立、11年6月に改正された、「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律(環境教育促進法)」は、18年6月26日、その基本方針の変更について閣議決定された。同法律は文部科学省、経済産業省、農林水産省、国土交通省と環境省の5省共管で、5年毎に見直しの検討を行うことになっている。 これまでは、さまざまなステ–クホルダーの協働による取り組みや体験学習の必要性等について強調されてきた。今回の改定では、国連の持続可能な開発目標(SDGs)や小・中学校の新学習指導要綱「持続可能な社会の創り手」の育成等に対応するため、環境教育を取巻く昨今の現状を捉えた上での内容が盛り込まれた。特に、「持続可能な社会づくりへ主体的に参加しようとする意欲」を育てるための学習の促進に焦点が当てられ、地域や民間企業による「体験の機会の場」の積極的な活用を図ることの位置づけが大きく見直された。 そして、体験の機会の場を広げるため、行政や企業、学校、非政府組織(NGO)、市民が、組織、世代、分野や地域を超えて連携し、「つなげた」学びの重要性が強調された。自然、生活や職業等の体験型学習を通じて、気づきを通じた学びの場を多く創出することが大切であり、そのためのさまざまな関係者による相互間の分野横断的な協働がますます求められると言えよう。 また、体験の機会の場の活用では、「地域や国を超えた交流の拠点」としての学びの場を創出し、地域の活性化につなげていこうとしている。日本では、外国人の労働者や観光客等が増加する中で、環境教育を通じた地域の魅力および日本らしい企業の取組みをいかに発信して地域の創生へつなげていけるかが、今後の大きなポイントであろう。実際、外国人旅行者は、日本の自然や食農文化等を体験して学ぶことを期待する声が多く聞かれる。 多文化共生による体験型の学びの場が効果的・効率的に活用できれば、日本の人やものづくりに新たなアイディアを注入してくれる良い機会になると考えられる。人は対話や体得することでさまざまなことを感じて新たな価値を見いだし、次のステップへと導いてくれることが多いものと、環境教育に携わるひとりとして思うところである。

(平成30年7月26日日刊工業新聞掲載)

元気な組織体質へ[動的平衡]保て/品質管理、PDCAで迅速処置

企業風土

矢島英夫(埼玉支部)

生物学者福岡伸一は『動的平衡』の中で次のように言っている。私たち生命体の内部では「自殺」がこの瞬間にも大量に起こっている。細胞の自殺である。分解と合成の動的な平衡こそが生きているということであり、その回転をとめないために絶えず細胞が自発的に死に、同時に新生されている。つまり死の上に生がある。それは音のない大瀑布のような流れとして生命の内部を貫いている。
さて、新聞紙上からは株主総会も峠を越した感がある。株主総会では企業風土について企業経営責任者への鋭い質問が多く見られた。望ましい企業風土は元気な組織体質から湧き出てくるものであり、脆弱な組織体質からは生まれてこない。創業当時は組織体質も若々しく元気に満ちており、経営責任者はじめ従業員の末端まで元気に満ちていた。しかし、年を経るごとに、なぜか脆弱な組織体質になっている。
企業の『動的平衡』はどうなっているであろうか?
一方で、動的平衡が機能しなくなったようにも感じられるのである。企業には、製品の提供、顧客満足に対する品質マネージメントシステムがある。国際標準化機構(ISO)では、継続的な改善項目として、業種に関係なく不適合管理(是正・予防)プロセスを管理項目として強く要求している。
食品は、仕入れ、加工、過熱、保管などの工程を経て完成する。構造体に組み込まれるアルミ製品は、原材料の受け入れ、鋳込み、仕上げ、寸法確認などを経て出荷される。これら工程にはたくさんの管理ポイントがある。品質を左右するポイントを見極め、管理基準値から外れるデータは、再発防止まで含めて、PDCA(計画・実行・評価・改善)で迅速に処置しなければならない。組織を挙げて対策、改善できるのが元気な組織体質であるといえよう。
人間の細胞にはデオキシリボ核酸(DNA)が組み込まれていて動的平衡には問題ないと考えられるが、企業はどう考えられたらよいのだろうか。
言い古されたことではあるが、日常の作業では「臭いものにはふたをするな」、処置判断ではファクトファインデング(事情調査)が、PDCAで迅速な処置が可能になり、より効果的に、不適合管理(是正・予防)プロセスを進めることができる。これが元気な組織体質であり、結果として、株主に望まれる企業風土が実現できると考えられる。

(平成30年7月19日日刊工業新聞掲載)

自他の強み知り効果的に人・組織動かす/経営層、人を見る目が重要

ストレングス・ファインダー

矢上野延城(埼玉支部)

ストレングス・ファインダーとは「強みの心理学の父」として米国心理学会から表彰されたドナルド・クリフトン博士によって開発された人材開発プログラムである。米国においては、ストレングス・ファインダーは大学やビジネススクールなどにおいて個人の強みを把握するツールとして広く活用されている。ストレングス・ファインダーの目的は、自分自身の資質や強みや他の人やチーム全体の強みを客観的に把握することである。
そして自分や他の人強みを活かして効果的に「人や組織を動かす」ことである。
米ギャラップ社のストレングス・ファインダーのプログラムのおいては、人の強みについて「変えられもの」と「変えられないもの」を明確に区別してる。「変えられるもの」とは、学習・経験・仕事」などで身につけることが可能なものであり、「技術」と「知識」と表現されている。
「変えられないもの」とは、自分の潜在能力・資質・行動パターンであり、「才能」もしくは「資質」と表現されている。すなわち、人の強みは、先天的な才能と後天的な技術と知識の三つから構成されている。
同社が優れたマネジャーが養うべき能力として指摘するものの中に、人を見る目を見る目というものがある。人を見る目を養うということを人はどこまで変えられるのかを正確に認識すると言い換えている。同社では人の強みを構成する「才能」と「技術」や「知識」とを明確に区別できる能力がマネジャーには不可欠であると述べている。
私事であるが“カエル革命6カ条”を提案している。①意識を変える②原点に返える③品揃え換える④企画を改善する⑤売り方を代える⑥陳列を替えるの「変える」「返る」「換える」「改える」「代える」「替える」をマーケティングで提案している。この6ヶ条で一番需要なのは、意識を変えることである。意識が変わらなけば後の「カエル」はできないのである。
人の意識を変えることは大変難しく、時間がかかるのである。ストレングス・ファインダーと同じであり、意識を変えた部門から業績が良くなっていくのである。

(平成30年7月12日日刊工業新聞掲載)

IOT等技術革新・異業種連携に意欲/挑戦できる環境づくりを

日本農業の未来を支える若手農業者の台頭

佐藤秀樹(千葉支部)

5月に刊行された「2017年度食料・農業・農村白書」では、農業者の高齢化による担い手不足、農地面積の減少、並びに16年度の食料自給率はカロリーベースで38%、生産額ベースでは68%とここ20年間とほぼ同じ推移であること等、日本農業の低迷が引き続き報告されている。しかし、白書では若手販売農業者(49歳以下)の動向について興味深い内容が紹介され、今後の日本農業に一筋の明るい光が見出される。
15年農林業センサスによれば、販売農家132万9,591戸の中で、若手農業者は14万675戸と、その数は全体の1割と少ない。しかし、経営耕地面積規模別農家の面積シェアで見ると、10万―20万平方メートルと20万平方メートル以上を併せた若手農家および非若手農家の割合はそれぞれ73.1%、20.3%と、若手農家の規模拡大が稲作をはじめ、畑作、露地野菜、乳用牛や肉用牛で目立つ。若手農家、非若手農家の農産物販売金額規模別の戸数割合では、1,000万円以上がそれぞれ45.2%、4.4%、300―1,000万円では、それぞれ30.2%、12.7%と、若手農家が販売金額を大幅に伸ばしている。若手農家の規模の拡大の理由について、白書では、大規模な機械や設備投資により農業生産の拡大に影響していると説明している。今後の日本農業の発展を考えた場合、若手農業者の台頭は喜ばしいことである。
また、若手農業者向けのアンケート(回答者数:1,885人)の結果では、日本農業のあり方について、「国内で国産シェアの回復を目指すべき」が48.7%、「国内だけでなく海外にも目を向けるべき」が35.1%で、国内外をシェアにいれた取組みが必要であると若手農業者は考えているようだ。農業生産で今後伸ばしていきたい方向としては、「IoT(モノのインターネット)等の技術革新」や「異業種との連携」であり、出荷・販売先では、上位から「消費者への直接販売」、「外食・中食業者」、「自営以外の直売所」となっている。若手農業者の農業の魅力については、「裁量の自由度の大きさ」が46.5%と上位になっている。
今後は、若手農業者の持つ斬新的なアイディアで日本農業に新たな価値を見いだし、彼らが様々な農業の取組みに対して挑戦できる環境を整えながら、国内外へ向けてその魅力を発信する顔の見える広告塔として日本の農業を牽引していくことが期待されよう。

(平成30年7月5日日刊工業新聞掲載)

再発防止へJQAの品質方針に注目/教育・訓練、監査など徹底を

品質データ問題

鈴木勇(北関東支部)

最近の新聞紙上等で製品品質データの報道が目に付く。JIS(日本工業規格)の品質レベルを満足していない製品が顧客に出荷されていた。長年にわたり信頼していただけに、やりきれない思いがする。気になるのは再発防止である。一日も早く信頼を取り戻してほしい。
JISに関する日本品質保証機構(JQA)の品質マネージメントの認証をうけている管理水準の高い企業でも、品質問題を起こしている場合も見受けられる。そこで、JQAの品質方針として定められている四つの項目に注目したい。特に、これら項目の方針2と項目4は品質データ問題の解決に極めて有効な項目と考えられる。
JQAの品質方針2は「試験・検査・認証等のプロセスの公平性および透明性を確保するとともに、技術・技能の向上を図り、技術革新に対応した人材の育成に努めます」とあるt。項目4は「品質マネージメントシステムの確立・推進・維持に努め、その有効性を継続的に改善し、総合力を発揮したサービスに提供に努めます」となっている。
企業の不祥事は倒産に繋がり、株主・債権者へ利益還元はできず、従業員の幸福を確保できなくなる。企業の目的は永続性にあり、長い経済活動を通じて、はじめて社会貢献活動も充実させることが可能になる。また、企業は時代の変化に対応して品質マネージメントシステムを改善・向上して行かねばなりません。アルミ台車、銅ケーブル、「がいし」などの絶縁体などの製造に当たっては、原料素材調達から製品完成までには数え切れない程の作業工程がある。各工程の作業管理値は全て計画値通りの実績を示すことは極めて難しい。そこで品質管理の七つ道具が活用されているわけだ。その上で生じた不具合・不適格事項を迅速に処理することが必要になる。つまり、品質データ問題が発生する前に処理する必要がある。
企業には製造品質に対してのプライドがあるためか、製造過程での「不具合・不適格事項」の管理については苦手で、これら基準の作成、教育・訓練、社内内部監査について消極的だ。
「ハインリッヒの法則」ではありませんが、品質データ問題も大きくなる前に作業管理パラメーターの不具合・不適格事項を解決してしまうことが是非とも必要と考えられる。

(平成30年6月21日日刊工業新聞掲載)

感じた怒り書き出して「見える化」/「怒る」「叱る」の違い認識を

怒りのマネジメントが求められている

上野延城(埼玉支部)

怒りの感情とうまくつき合えないビジネスパーソンが増えている。現代はデジタル化によって仕事の作業密度が高まったうえ、成果主義の導入が進んだことで、よりストレスを抱えやすくなった。精神的に余裕がなくなり、心が不安定だから、ささいなことで怒りの感情が爆発する。怒りのメカニズムとは、人の心を「コップ」、怒りの感情を「水」に例えると解りやすい。
激しい怒りが爆発するのは、「たまった“水”がコップからあふれるから」か「“コップ”が小さいから」2パターンである。ならば“水”を抜くか、“コップ”を大きくすれば怒りを抑えられる。
対処法①怒りの“水”を抜く、「カウントバック」6秒数えて、怒りをやり過ごす。
怒りを感じたら、頭の中で「6秒」数えて意識をそらし、相手に反射的な言動をとる(怒る)ことを回避する。6秒あれば、怒りのピークから意識を離せると言われている。
怒りの大きさを明らかに、冷静に見つめる。怒りの度合いを測る“物差し”を用意しておく。怒りを10点満点でレべル分けすれば、怒りを客観的に判断でき、自分では制御不能な10点以外の怒りはコントロールしやすくなる。
対処法②心の“コップ”を大きくする。
「アンガーログ」を使い、別の角度で怒りを分析。3段階で、怒りの原因になった「自分のこだわり」に“歪み”があるかどうかを判断する。
アンガーログは怒りの傾向の見える化である。感じた怒りをノートに書き出して「見える化」する。続けると、自分の“怒りの癖”が分かるようになる。
① アンガーログの中から、1つの出来事を選び、その出来事が起きた時の感情をストレートに書く。
② ストレートに感じたことから導き出される、「自分の強いこだわり」と「それに歪みがあるとしたら、どのような歪みがあるか」を書く。
③ 自分の強いこだわりをどのように矯正したら、自分にとっても、周囲にとっても幸せな状態になるかを書く。
「怒る」と「叱る」の違いを認識。「叱られて」という童謡あるが、「怒られて」はない。叱るには相手が良くなってもらいたいという愛情があるのである。

(平成30年6月14日 日刊工業新聞掲載)

戦争で急成長、帝国主義国家/戦費調達へ増税 直接税中心の税制に

歴史から明治150年を考え経済を俯瞰する ㊥

矢島英夫(埼玉支部)

③1895(明治28)から1920(大正9)年は、帝国主義強化と階級闘争の25年である。
日本は1904-05年の日露戦争で勝利し、南満州と樺太の一部を領土化し、 1914年第1次世界大戦を経て 10年おきの戦争で、急成長する帝国主義国家になった。日本においては、近代における歴史は戦争が主役で、その原動力は金で、金融の仕組みを知ることによって、近代の歴史を本当に理解することはできる。
②1870年(明3)から1895年と③1895年から1920年の50年は、明治・大正型の政治経済システムが成立した50年である。
ペリ-が来て1865 年日本は「開国」した。江戸無血開城をなし、権力を詐取した薩長は、明治維新政府(藩閥政府)を樹立し、近代国家をつくった。
明治元年から国づくりが始まり、1894-95年の日清戦争、1904-05年日露戦争後、太平洋戦争へと突入した。近代日本の保守思想には、こうした忌まわしい歴史が底流となって流れている。
④1920から45(昭和20)年は、経済恐慌と戦争の25年である。
1919年第一次大戦が終結後の1920年に株価が大暴落し、1923年の関東大震災で、その震災復興のための発行震災手形も不良債権化した。1920年代末の金融恐慌(27年)、世界大恐慌(29年)などから深刻化する長期不況の脱出口を対外的な拡張の戦争に走った。
1937年に始まった中国との局地戦争は、当初の思惑に反して長期的な全面戦争となった。1938年には、
「国家総動員法」が制定された。これは、国の資源と労働力のすべてを戦争目的のために動員する統制権限を、    を政府に委任した授権立法である。中でも重要なのは1940年の税制改正で、戦費調達のために導入され
た給与所得の源泉徴収制度は給与所得の完全な捕捉が可能となり、また、法人税が導入され、直接税中心
の税制が確立した。税財源が中央集中化され、それを特定補助金として地方に配るという仕組みが確立し
た。更に1931年満州事変から1945年までの「15年戦争」の終結で明治国家体制の総決算がなされた。

(平成30年5月31日 日刊工業新聞掲載)

25年尺度で非連続に変化/文明開化・国家建設、資本主義の発展期

歴史から明治150年を考え経済を俯瞰する㊤

矢島英夫(埼玉支部)

歴史も経済も、25年ごとに変化。吉見俊哉東大大学院教授によれば「歴史は長期スパンで見ると、非連続と言う法則性の上にある」という。歴史の転換の最小単位が25年である。25年の裏付にコンドラチェフの波と世代間隔がある。世代間隔という人口学的要因は、女性が出産する際の年齢の平均値で親子世代間隔になる。この間隔は過去数百年を通じて殆ど変化しない。25年尺度は、一方では景気循環の長期波動と結びつき、他方では家族の世代間隔と結びつく。世界史的な変動と世代的な変動を結ぶ最小公倍数である。
日本の経済は、25年ごとの歴史の尺度で1845年―2020年7段階で非連続に変化した。
①1845年から1870年(明3)は、開国と危機意識の25年である。
この時期の日本は、水野忠邦の天保の改革が失敗に至る時期、1840年代阿片戦争で清国が敗れ植民地化の波が極東に及んだ。ペリー来訪で日本は開国したが武士層を中心に危機意識が高まり、清国の今日は日本の明日だと1850年代に武士層を中心に危機意識が高まり、倒幕のナショナリズムとなった。1868年1月に王政復古の大号令、鳥羽伏見の戦いで、薩摩・長州の連合軍は幕府軍を打ち破り、同年5月に江戸城無血開城した。
②1870年から1895年は、文明開化と国家建設の25年である
1868年明治維新で、幕末動乱は1年で終結し、近代国家の道を進んだ。1894-95年日清戦争で台湾を領土とし、朝鮮半島に対して影響を及ぼし、1910年日韓併合となった。明治3大改革は、1872年学制、 1873年の兵制、税制(地租改正)の導入。経済的には、殖産興業政策のもと、官営模範工場の建設、交通や通信網の整備、貨幣・銀行等の金融制度の確立などがある。
経済・社会面では、この時期は日本の資本主義と労働運動の発展期である。
この25年間は、近代日本が19世紀半ば頃の西欧諸国と同じような意味で帝国主義化と資本主義化を実現し、労働運動が活発化していった時期である。

(平成30年5月24日 日刊工業新聞掲載)

地消地産・分野横断で関係づくり/在住外国人ネットワークも構築

企業のグローカルな視点による創造的価値を持ったもの・人づくり

佐藤 秀樹(千葉支部)

トヨタ自動車の理念になっている「モノづくりは人づくりから」は、有能な人材育成がものづくり成功へのカギとなることを意味する。
昨今、日本の企業においてはグローバル化による経営戦略を図る一方で、いかに地域の経済、社会や環境保全へ貢献していくかも問われている。今回は、企業のもの・人づくりを通じて経済、社会の発展や環境保全の貢献に果たす役割の視点を考察したい。
経済では、最近、農業分野で言われている、地域で消費する農畜林産物はその地元で生産するという「地消地産」の視点が、ものづくりの企業経営においても重要である。ものや人をできるだけその地域で調達することで、計画性のある安定した生産や人材づくりが可能となるであろう。それにより、地域経済のお金や人材の漏れを防ぎ、地域の活性化ひいては企業の長期的な経営戦略へとつながる。
また、社会の視点からは、女性、障がい者や高齢者等へ配慮した雇用体系が必要とされる。具体的には、その人のライフスタイル・能力に合わせたかたちでの勤務体系の多様化や、熟練の高齢者を企業や地域でのもの・人づくりアドバイザーとして活用すること等、地域の人材を十分に活かした企業経営がより一層求められる。特に、日本が誇るこだわりの精緻なものづくりの器用さの技能や精神を大切にし、次世代へ継承していくことが重要である。また、昨今、外国人の数が日本全体として増加傾向にある中、彼らの文化・生活を尊重した上で、その言語能力等の技能や外国人から見たものづくり(例えば、外国人向けの観光やお土産の開発等)の視点を有効に活用することで、グローカルな商品開発・販売を促進できる可能性がある。
さらに、環境保全では、「もったいない」精神の下、地域資源の価値を十分に認識した上で、自治体、企業、大学、NGO/NPOや住民等と連携した資源循環・環境配慮型の地域社会づくりが求められよう。
以上のように、ものづくりには人づくりや人との関係が不可欠である。企業は分野横断的な関係者の巻込みや在住外国人とのネットワーク構築を通じながら、グローカルな視点から創造的価値を持ったもの・人づくりを展開していく必要がある。

(平成30年5月17日 日刊工業新聞掲載)

プラス志向の心で観察/“自脳思考”の第一歩、市場変化に敏感に

街はビジネスヒントの宝庫

上野 延城(埼玉支部)

人々の生活意識や行動の変化を街に出かけて肌で感じることが、販売戦略や演出のポイントになる。時代の変化を街角のウオッチングでつかむことが可能である。市場変化に気づき、傾向を読み取り、現場に活かすことがマーケッテング活動には重要である。
今、経営者に求められているのは、机上のデータを眺めているのでなく、現場に立ち顧客の行動を目で見て、耳で聴き、変化を肌身で感じるフィールドワークを身につけることである。タウンウオッチングは市場変化の兆し、傾向などを感じ取り、意識や行動を変えていく自己革新のきっかけになる。
4月に1周年を迎えた「ギンザシックス」は商業面積4万7000㎡、銀座で最大級である。商業施設だけでなく3000人の帰宅困難者を受け入れるが可能である。街の防災拠点の役割を担うなど多彩な機能を持ち、今東京で人が一番集まる場所だろう。6階の「スターバックス銀座蔦屋書店」には、アート系の書籍が多数置いてあり、オイシイコーヒーが楽しめそうだ。屋上にはたくさんの花が咲いており、ベンチも多くあり、休憩することができ、子供連にも喜ばれる。屋上庭園からの眺めは最高である。
タウンウオッチングで市場の変化や消費者動向を見る目を養うことである。観察のコツは何を観察するか目的を決めること。売場、街なかの人の動き、人の持ち物・服装、人の会話(同伴者)。また自分の関心のある分野を見つけることも必要である。
観察は問題点や弱点などのマイナス志向でなく、特長や良い点を発見するプラス志向の心をもって実践することがポイントになる。どこにも手本のない時代、自分で歩き、自力で新しい方向性の発見を重ねていくことしか、未来を切り開く道はないといっても、いいすぎではないと思う。
タウンウオッチングで最も大切なのは、好奇心と自分の頭で考える姿勢である。足で考えることが、自脳思考の第一歩であり、優れた自前の発想法であり、思考法といえる。テレビや新聞、雑誌などの情報も実際街に出かけて生の情報として感じ取り、市場変化に敏感になることで、ビジネスのヒントが生まれてくる。

(平成30年5月10日 日刊工業新聞掲載)

素材・パッケージにこだわり/“相手と喜び共有する”商品続々と

日本のギフト菓子の変遷

上野 延城(埼玉支部)

いま、空港内や駅構内で、素材やパッケージなどにこだわったギフト菓子が続々と登場している。“とりあえずの手土産”ではなく“相手と喜びを共有する”。そんなギフト菓子が増えている。
焼き菓子を中心としたギフト菓子は、1980年代後半に新しい保存技術が開発されたことで半生タイプ4の商品が増え、多様化が進んだ。さらに、駅構内や空港内といった利便性の高い場所での販路の拡大により、手軽さが向上した。
ギフト菓子の変遷をみると、1927年「泉屋」が日本で初めてクッキーを販売した。31年「神戸モロゾフ製菓」が開業。47年「銀座ウエスト」開業し、後に「リーフパイ」が人気となる。バウムクーヘン、缶入りクッキー類などが流行した。70年代に入り、76年石屋製菓「白い恋人」を77年六花亭製菓が「マルセイバターサンド」を発売した。
91年「東京ばな奈見ぃつけたっ」が発売され、2000年「グラマシーニューヨーク」がJR名古屋タカシマヤ店出店。10年「シュガーバータの木」が発売された。
17年東京駅で「ニューヨークパーフェクトチーズ」と「プレスパターサンド」発売された。東京駅は、1日あたりの利用者が40万人を超える日本最大のギフトマーケット。包装紙に包まれギフト菓子が、消費者が手を伸ばすのをひたすら待つているかのように所狭しと並んでいる。
16年の国内のギフト市場規模は前年比2.5%増となった。お中元・お歳暮などフォーマルギフトは縮小傾向にあるが、食品ギフトは手軽なコミュニケーション手段として市場をけん引している。
ギフトのカジュアル化が進み、贈る相手を想ったギフト、ちょっとしたギフトなど気軽に贈る食品ギフトが増加傾向にある。食品ギフトは食べてしまうと残っていない消えてしまうので「消えモノ」といわれている。
各社ハギフト菓子の開発に力を入れる。クッキーの表面に筋を入れ、食べるときに割りやすい構造にするなど、食べやすさを追求したギフト菓子が開発がされている。
ギフト菓子は今後とも年齢に関係なく需要があり伸びるギフトアイテムであり、各メーカーとも力をいれてくると予測される。

(平成30年5月3日 日刊工業新聞掲載)

ストレングス・ファインダーとは「強みの心理学の父」として米国心理学会から表彰されたドナルド・クリフトン博士によって開発された人材開発プログラムである。
米国においては、ストレングス・ファインダーは大学やビジネススクールなどにおいて個人の強みを把握するツールとして広く活用されている。
ストレングス・ファインダーの目的は、自分自身の資質や強みや他の人やチーム全体の強みを客観的に把握することである。
そして自分や他の人強みを活かして効果的に「人や組織を動かす」ことである。
ギャラップ社のストレングス・ファインダーのプログラムのおいては、人の強みについて「変えられもの」と「変えられないもの」を明確に区別してる。
「変えられるもの」とは、学習・経験・仕事」などで身につけることが可能なものであり、「技術」と「知識」と表現されている。
「変えられないもの」とは、自分の潜在能力・資質・行動パターンであり、「才能」もしくは「資質」と表現されている。
すなわち、人の強みは、先天的な才能と後天的な技術と知識の3つから構成されている。
同社が優れたマネジャーが養うべき能力として指摘するものの中に、人を見る目というものがある。同社では、人を見る目を養うということを人はどこまで変えられるのかを正確に認識すると言い換えている。
ギャラップ社では人の強みを構成する「才能」と「技術」や「知識」とを明確に区別できる能力がマネジャーには不可欠であると述べている。
私事であるが“カエル革命6カ条”を提案している。①意識を変える②原点に返える③品揃え換える④企画を改善する⑤売り方を代える⑥陳列を替えるの「変える」「返る」
「換える」「改える」「代える」「替える」をマーケティングで提案している。
この6ヶ条で一番需要なのは、意識を変えることである。意識が変わらなければ後の「カエル」は出来ないのである。
人の意識を変えることは大変難しく、時間がかかるのである。
ストレングス・ファインダーと同じであり、意識を変えた部門から業績が良くなっていくのである。

(日本経営士会 上野延城 090-4723-8399)

OKB、ユニークサービスで業績好調/顧客志向問われる継続力

銀行のマーケティング戦略

上野 延城(埼玉支部)

ドライブスルー型の支店から、女性行員の“アイドルグループ活動まで。およそ銀行らしからぬ銀行がある。岐阜県大垣市に本店がある大垣共立銀行だ。進めてきたのは徹底した顧客志向。異業種との厳しい競争、人口減を生き抜くため、行員の意識改革と従来のイメージにとらわれないサービスで、お堅い銀行の体質を変えてきた。
同行の略称である「OKB」を使った地域おこしの活動も話題となった。行員から希望者を募り、女性ユニット「OKB45」を組織。地元のさまざまなイベントの盛り上げ役となっている。人気アイドルグループ「AKB48」と比較されて話題となったが、狙いは地域経済の活性化である。独自色を打ち出した経営が奏功し、大垣共立銀行の業績は好調である。
2017年3月期には5年前と比較して預金残高は約7800億円、貸出金も6600億円、いずれも約2割増やしている。預金に対する貸し出しの割合を示す預貸率は81%(17年3月期末)と、地銀平均の72・92%(同、64行、東京商工リサーチ調べ)を約8ポイントも上回る。他の地銀が貸し出しに苦しむ中、好調な状況である。
このユニークで強い銀行を作り上げたのは、1993年に当時、地銀最年少の46歳で就任した土屋嶢頭取。目指したのは「徹底したサービス業」である。96年に始まった金融ビックバンで、それまでの護送船団方式と呼ばれた銀行行政が一変した。
今のままで本当に生き残っていけるのか。就任後まもなく始まった激変に頭取は強烈な危機感を抱いた。まずは、行員の意識改革に取り組んだ。銀行の枠にとらわれないで、新たなサービスを提供できる人材を育てるために具体的には行員を毎年数人以上、異業種に1年間派遣する研修を取り入れた。サービス業として時代の変化に追随するためだ。
だが今、低金利の長期化や金融とITの融合したフィンテックの台頭で銀行の足場は大きく揺らいでいる。例にこだわらないサービスを打ち出し続けられるか、大垣共立銀行の継続力が問われることになる。

(平成30年4月26日 日刊工業新聞掲載)

着実な技術革新で再評価脚光浴びる/製造業生き残りの突破口に

ローテク分野が元気である

上野延城(埼玉支部)

便利なデジタルツールが増えているなかで、さぞかし文具業界は苦戦しているに違いないと思ってみると、そんな仮設は一気に吹き飛ぶ。
書店の文房具売り場では、平日というのにビジネスパーソンが足を止め、老舗文房具専門店のリニュアールオープンのニュースは後を絶たない。
いま、文房具が存在感を増しているように感じるのはなぜか。
「文房具屋さん大賞2017」を受賞したコクヨ「大人キャンパス」の発売は2015年1月。
17年は、前年比80%を記録し、累計販売数は410万冊に上る。
国内の文房具市場は、08年秋のリーマン・ショック以降、一度は落ち込んだが、個人向けの需要が伸び、ここ数年は4600億円規模で推移している(矢野経済研究所推計)
中でも筆記具は、高付加価値品を中心にヒット商品が生まれている。
イノベーションとは無縁に見えるローテク分野で、世界を驚かす技術革新が起きている。
ITやバイオなどの先端分野と異なり、革新を起こしている主役はいずれも日本企業である。ローテクイノベーションをモノにすれば、日本の製造業が生き残る確率は大きく高まる。
完全に時代遅れとみなされてきた技術が、再評価され一躍脚光を浴びるケースもある。
最近は使い方を知らない子供も多というビデオテープ。そこに使われてきた「磁気テープ」がその典型である。
データを記録するメディアの代表格といえば、ハードディスク駆動装置(HDD)。
しかし、磁気テープは、コスト安と長期保存性でHDDをはるかにしのぐ。運用にかかる総費用は数分の1、寿命は10倍に達する。
ただ、磁気テープには大きな弱点が2つある。一つは、データにアクセスするまでに時間がかかる点。もう一つが、保存できるデータ容量が限られていたことである。
一見地味ながら、着実にノウハウを蓄積してきたローテク分野のイノベーションが、今後も日本の製造業が生き延びる突破口になるはずである。

(平成30年4月19日 日刊工業新聞掲載)

人々のつながりで地域創造・活性化/共通利益得る仕組みづくり模索

社会的連帯経済の視点から地域の課題解決へ向けて

佐藤 秀樹(千葉支部)

「社会的連帯経済」という言葉を聞いたことがあるだろうか。日本では、まだ、なじみのない言葉ではあるかもしれない。社会的連帯経済とは、資本主義経済の歪みを補うべく、協同組合、NPO、社会的企業、信用金庫、マイクロクレジットや地域通貨等が行うさまざまな取組みを通じ、市民社会が中心となって社会経済の共通利益を創出・享受していこうという概念である。そのルーツは、19世紀にヨーロッパで生まれた協同組合に遡ると言われている。
社会的連帯経済という考え方は1980年頃から、経済成長に限りがみられ社会政策の重要性を唱えたフランスや英国など欧州ではじまり、その後、南米等へ広がっていった。今では、「社会的連帯経済のための大陸間ネットワーク(RIPESS)」による定期的な国際会議の開催や、スペイン、メキシコ、フランスなどでは社会的連帯経済に関する法律が可決されている。
世界では、依然として貧困、食糧、保健・医療、環境、人権や平和構築等の課題が山積し、資本主義経済から排除されやすい貧困層、女性、老人、障がい者や子ども等の弱者が主役の社会づくりを本当のものにしていく必要がある。その中で、社会的連帯経済は、市場の失敗により失われた公正公平等を確保してもろもろの課題解決へ向けて行動し、社会的包摂な世の中を創出するために不可欠な考え方である。地域社会が連帯してさまざまな社会的課題に取組み、人々のつながりを通じて地域の創造と活性化を図っていくことが求められる。
現在、私が実施しているバングラデシュのウエイスト・ピッカー(ごみ処分場等で、瓶・缶・古紙等の有価廃棄物を拾うインフォーマルな貧困労働者)を支援する取り組みにおいても、社会的連帯経済の視点は重要である。彼らは有価ごみを分別・回収して地域の資源循環に貢献しながらも、ごみ拾いは不衛生な労働として社会的な差別・偏見により排除される傾向にある。このような課題解決へ向け、私はウエイスト・ピッカーの協同組合(40世帯)を設立して労働・生活環境や地域の廃棄物管理の改善を目指しているところであるが、組合と地域社会が共通利益を享受する社会的連帯経済の仕組みづくりを模索していくこと等が今後の課題の一つである。

(平成30年4月12日 日刊工業新聞掲載)

人出不足時代、4つの留意点/良いマッチングのヒントに

採用に失敗しないために

堺 剛(東京支部)

人手不足が報道されている。以前、経営士の提言コーナーで、バブル崩壊後は人件費を抑える経営が良しとされたことを書いた。
しかしながら、給与を抑え裁量労働制にして早朝から深夜まで働いてもらおう、と考えている企業は今後考えを改めた方が良さそうだ。ブラック企業体質の会社は応募者から敬遠されるからだ。求人倍率が高くなれば人件費は上がっていくことになるだろう。
企業は、必要な人員数を正確に導き出し、賃上げをしても赤字にならないようなシミュレーションを重ねていく必要がある。
ドンブリ経営ではもう限界が来ている。さて、せっかく苦労して採用した人材が辞めてしまわないためにも次の四点を心がけてほしい。
【1.求人広告の細分化】例えば、経理募集、という広告があったとする。しかし、経理という言葉から受ける仕事の印象は人によってまちまちだ。求人票の内容が大雑把だと応募者は敬遠する。業務内容を細かく書き出し求人票に落とし込むことでミスマッチを避けることができる。
【2.新しく入った人のケア】即戦力で入社した方が仕事しやすい環境を作ることが大切である。社内・業界のルールや資料の置き場所等をきちんと教えていくことが重要だ。ムラ意識丸出しの態度は論外だ。
【3.新しく入った人に過度の期待をしない】現状を変えてくれる救世主のように新しく入った人を厚遇したり過度の期待を持ったりすることは止めよう。他の社員との溝が生まれては良い仕事はできない。自分の職が脅かされていると感じると陰湿なイジメが起こる。人間は妬む生き物だということを忘れてはいけない。
【4.採用プロセス変更】ある会社で採用しても採用しても人が辞めてしまう現象があった。社長が好んで採用する人材と実際に必要とされる人材像とのギャップがあったようだ。このような場合、思い切って採用プロセスを変えてしまうのは有効である。
採用に悩んでいる企業が多い昨今。いくつかの考えを提示させて頂いた。応募者にとっても採用者にとっても良いマッチングのヒントになりますように心からお祈りをしている。

(平成30年4月5日 日刊工業新聞掲載)

目標達成度合い速度概念で認知共有/「キャツシフロー速度」提案

女子パシュートに習う業績革新向上策

勝田 勝義(北関東支部)

平昌五輪の日本選手活躍には全国民が感動されたであろう。各選手関係者の精励刻苦で獲得した成果に敬意と賛辞を表したい。
私たちは感動敬意にとどめず組織運営に活かす具体策を見出すべきで、それを女子パシュート競技に習いたい。個人の実力で勝る相手をチーム力で圧倒した姿には、組織運営と業績向上に役立つことがあると考える。
定量的に考察するため、パシュート競技タイム=周回距離÷滑走速度の各周回合計、と数式化する。分子は既知にできるが、分母は諸条件で変動する。
しかし選手スタッフは訓練に基づいて勝てる周回滑走戦略速度を導き、個と和の力で死守したのだろう。それは選手の真に同期した腕脚動作に表れている。
競技前半で相手チームがリードしても慌てることなく戦略速度で滑走し、五輪新記録ゴールの優勝歓喜でも選手スタッフは「戦略通り」と達観していたように見えた。
さて組織業績革新に活かす具体策を考える。「利益は意志、キャッシュは事実」に鑑み、利益=売上(キャッシュイン)-コスト(キャッシュアウト)とする。自己統制できるのはコストゆえ、時間微分して「キャッシュアウトフロー速度=期間コスト÷労働時間」と定義する。
分子は目標利益や予算から決まり、分母は組織全員で認識する就業時間から算出しよう。単位は月や時間よりも分が望ましい。そしてパシュート選手の戦略速度に同期した腕脚動作のように、組織全員でキャッシュフロー速度を認知し、その予実差異の最小化に取り組むのである。
すなわち、要点は目標達成度合いを速度概念で認知共有する仕組みである。
その根拠は車運転にもあり、運転中は速度計を頻繁に見るが距離計をほとんど見ない。組織運営でも売上コストを距離に見立て時間微分したキャッシュフロー速度の導入は、全員の認知共有を促し組織業績の革新的向上に繋がると提言したい。
詳細は「キャッシュ‘ふろ’マネジメント」と称し、日本経営士会研究論文集に寄稿している。ご関心を持たれる各位のお役立ちになれば幸いである。

(平成30年3月29日 日刊工業新聞掲載)

目的到と意義と機能 明確に/満足いく良い仕事実現の大前提

目的と手段の取り違えに注意

平山 道雄(東京支部)

ものを造ったり・運んだり・売ったりまた人助けをするなど何らかの行為を行うに当たってはそれぞれに目的が存在する。日常生活の中では何気なく目的を深く考えることもなく“”生活しているが、しかしいったん企業・団体の中に入ったらいかなる作業・仕事に携わろうともその目的を明確にしておかねば良い仕事はできない。
従来は改善活動や、製品開発また管理事務の仕組みづくりに対して目的を色々討議しながら明確にして行動してきた。しかし、作業現場では「今やっていること」が目的と思い行動している人が少なくないようである。「今やっていること」は目的に対する手段であることを認識しておく必要がある。
目的と手段は切り離せない関係にある。目的に到達するまた、目的を達成するために手段を実行する。手段を実行している人々がやっていることは「何のためなのかという目的」をしっかりつかんでいるところは、満足のいく良い作業や仕事が出来ているし作業場の雰囲気・人間関係も良好の様である。目的を表現するには「意義(物事が他との関連において持つ価値・重要さ)と機能(働き・作用)」を一つずつ入れた短文で表わす。
この目的に対する手段を考え目的表現と同じように意義と機能で表現することが肝要である。
この手段が実行困難な場合は手段を目的として下位の手段を見出す。またこの逆に、示された目的が手段として実行容易であれば上位の目的を見出すことにより効果的な行動・活動が実現できるであろう。いずれにしても作業・仕事をするときは「それに対する目的を持つ」ということが重要である。
現代は第四次産業革命の時代であると同時に少子高齢化の時代でもあり、人に代わって作業や仕事をする色々なロボットが誕生してくるであろう。
ロボットを作るにしても目的が明確でないと「ただのロボット」でしかない。「○○の仕事をするロボット」を作るには○○の仕事の目的と同時に「作業分析」やそれに纏わる「動作分析」また「人間工学」といった基礎的な知識・技術が必要になるであろうことを考えると、こんとんとした現代を乗り越えて行く為に従来から効率化・合理化を図ってきた基礎的な技法・技術といったさまざまな手法を再確認し想起することが重要になって来るのではなかろうか。

(平成30年3月22日 日刊工業新聞掲載)

「情報」「人」がつながり金脈に/多対多の双方向交流をフル活用

ビジネスの情報収集3脈方法

上野 延城(埼玉支部)

正確な情報をいかに早く入手するかがビジネスの成否を左右する。
私事であるが、商品やサービスの情報取集には「情脈」「人脈」「金脈」の3脈の取り組み方を提案している。
情脈とは情報の脈のことである。情報をもらうことばかり考えていてはダメである。ギブ・アンド・テークの関係が基本である。情報を自ら発信する習慣をつけることが必要である。
今日のビジネスでは自分から情報を発信し、相手に届ける力をつけることで得られるものは、大変多いのである。
新聞や雑誌に自分で考えた情報のコラムを掲載することを推奨している。多くの新聞は電子版を作成しており新聞を購読していなくてもコラムを読むことができる。
読んだ方からの問い合わせや反応をもらうことで、人脈ができる。情報を継続的提供する情脈により人脈づくりにつながる。
ブログや会員制交流サイト(SNS)などのソーシャルメディアの登場により、消費者が自らの消費経験を発信し、不特定多数の他者に影響を及ぼすことが容易になった。
そのために他者より多くのカテゴリー知識やブランド知識を持ち、発信してフォロワーを得ているキーパーソンを発見することに注目が集まっている。
キーパーソンとは、その名の示すとおり、任意の組織、コミュニティ、人間関係の中で、特に大きな影響を全体に及ばす“鍵となる人物”のこと。現実社会においては、特定のグループで何かを決定して行動するとき、意思決定などに強いい影響力を持つ人物を指す。
マス・マーケティングの時代には、企業が消費者に一方的にメッセージを発信する一方方向のコミュニケーションであった。
インターネットの登場により、消費者から企業、消費者から別の消費者へと情報を発信することが容易になり、多対多の双方向コミュニケーションが可能となった。
口コミの絶対量が増え、口コミが消費に大きな影響を及ぼすことになった。
口コミが自分の信頼できるキーパーソンから発せられた場合には共感が得られ、消費に結びつくのである。このようにキーパーソンを捉えることが人脈づくりには重要であり、今後の新しいビジネスやサービスの開発につながり金脈になるのである。

(平成30年3月15日  日刊工業新聞掲載)

地元で手軽に買い物/働く女性・シニア世代のニーズに対応

駅ナカ・マーケティング

上野 延城(埼玉支部)

駅の商業施設が増えている。2000年以降、首都圏の1都3県でオープンした駅ビルや駅ナカは170施設にのぼる。
駅ナカ店舗の成り立ちを見てみると、JR東日本は駅一体型を中心に、専門店商業施設の「アトレ」「ルミネ」などを運営してファッションビルに変えて、駅改札内は駅ナカ商店街に変身した。
JR東日本運営の駅ナカ店舗で、中核となっているエキュート大宮、品川両店は、乗降客=潜在消費者を取り込んだ売り場構成になっている。
品揃えは高級品を含めて十分吟味した展開をしていることから、「ついで買い」消費者に限らず、幅広く需要を取り込んでいる。
JR東日本フロンティアサービス研究所が東京70km圏内1万2,500人(有効回答1万13人)を対象に実施した調査では、電車に乗る前に消費行動をした人は、全体の4%である。しかし、滞在時間が20分以上の人に限れば30%以上まで高まるとのこと。
したがって、自分の自由時間を増やすように考えて、「生活時間を無駄にしないで活用しよう」という健全な姿勢がみうけられる。
もともと駅の商業施設はターミナル駅が中心だったが、2000年代から駅ナカの開発が活発になった。
鉄道各社が不動産を有効活用するためで、最近は郊外にも広がっている。背景には働く女性やシニアの増加で地元で手軽に買い物をしたいというニーズの高まりがある。
最近の女性は多忙で、ファッションを選ぶのに時間をかけられないことから、買い物するための休日、わざわざ電車で出かけなくなった。
郊外でも駅の商業施設には仕事にも着ていけるファッションが揃ってきたことが利用増につながっている。30―40代の働く女性の多くは駅周辺の施設でほとんど事足りている。と話している。
シネコンを併設した駅ビルもあり、シニア世代も映画は都心に出かけていたけど、近くにできたので、気楽に楽しむことが出来ると語っている。
働く女性や定年退職したシニアの増加によって地元で手軽に買い物したいというニーズが高まり、駅の商業施設の新設は高水準で推移しており、駅ビル・駅ナカの開業ラッシュは今後も続きそうである。

(平成30年3月8日 日刊工業新聞掲載)

深刻化する中小企業の後継者難/産業基盤弱体化阻止へ対策急務

大廃業時代が足早に到来

上野 延城(埼玉支部)

経済産業省によると、中小企業の経営者の年齢層は年々高齢化しており、2020年頃に数十万の団塊経営者の大量の引退時期が到来するという。
後継者難から中小企業の廃業が増えている。廃業する会社のおよそ5割が経常黒字という異様な状態である。
東京商工リサーチの調べでは、16年の中小企業の休業・廃業は2万9583件。約2万1千件だった07年から大幅に増えた。
企業倒産は景気回復で年々減少しており、人口減による休廃業の流れが強まっている。
経済産業省によると、中小経営者で最も多い年齢層は15年時点で65―69歳。平均引退年齢は70歳である。60歳以上の個人事業主の7割は、「自分の代で事業をやめる」と答えた。
廃業を決断した理由の1位は、経営者の高齢化、健康問題で48.3%、次に事業の先行きに対する不安ですが12.5%しかない。
いかに高齢化が大きな問題である。廃業予定企業に理由を聞いたところ、28.6%が「後継者難」と回答した。
帝国データバンクによると、後継者不在率が最も高いのはサービス業(71.3%、)次いで建設業(70%)、不動産業(68.9%)となっている。
経産省によれば、廃業の増加によって2025年までの累計で、約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性がある。
成長力のある中小企業の廃業は日本の産業基盤を弱めかねない。
世代交代した企業は利益率や売上高が増える傾向が強く、政府も大廃業回避へ5年程度で集中的に対策を講じる構えである。
日本経済の活力を高めるうえで欠かせないのが、雇用の7割を支える中小企業の成長である。
25年に6割以上の経営者が70歳を超えるといわれている。経済産業省の分析では現在後継者不在の中小企業が127万社で、何らかの形で事業継承が行われていて、大廃業時代がやって来ることは間違いない。
倒産件数は減少傾向にある一方、休・廃業はどんどん増えている。

( 平成30年3月1日 日刊工業新聞掲載 )

対話力を高め個々の能力引き出す/ビジネス現場究極の武器

MC力のスキルを活かす

上野 延城(埼玉支部)

最近テレビ番組で司会者のことを「MC」とよぶことが増えている。MCとは、マスター・オブ・セレモニーの略称である。なぜ、司会者と呼ばずに、MCと呼ぶようなったのか。
司会者とMCとは役割が違う。司会者とは台本通りに番組を進める人。これに対してMCとは、出演者たちの個性を尊重して、その能力を引き出しながら、番組全体を指揮する人である。
台本通りに進める司会者よりも、その場の空気を読み、ハプニングを受け止めながらも番組を進めるMCが求められている。
MC力はテレビの世界だけれのスキルではなく、ビジネスにも、プライベートでも役に立つスキルである。MCは単なる司会者でなく、相手の力を引き出すファシリテーターである。ファシリテーターとは、会議などの組織活動におい中立的な立場から進行をサポートするファシリテーションという役割を担う者のことを指す。
ファシリテーターは自身では意思決定などに関与せず、会議体のセッティングや進行、グループ参加者が合意形成するプロセスを助ける役割に徹する。
ファシリテーターに求められる基本スキルは
場のデザインスキル:場を作り、つなげる。
対人間関係スキル:受け止め、引き出す。
構造化のスキル:かみ合わせ、整理する。
合意形成スキル:まとめて、分かち合う。
これにより、メンバーの相乗効果が発揮され、成果に達するまでの時間が短縮できる。
ファシリテーターの心得としては、先入観を持たないこと、ポジティブな発言をすることが挙げられる。MCの役目は番組進行だけでなく、制作サイドの意向をきちんと把握して、それを出演者たちに適確に伝える役目も担っている。
そのために必要なのはコミュニケーション能力を高めていくことである。
ビジネスの世界でも、飛び抜けた能力を持つひとりの天才型リーダーが率いるチームよりも、個々の能力を最大限に引き出すMC型リーダーのチームのほうがすごくよい結果をもたらしている。今の時代に求められているのは仕事で成果を最大にするMC的リーダシップである。
プロデュース力よりMC力を学ぶことが、ビジネスでの究極の武器になる。

(平成30年2月22日 日刊工業新聞掲載)

ブレークアウェイ・ブランドを提案/従来商品に異なる枠組み融合

成熟カテゴリーからの脱出法

上野 延城(埼玉支部)

近年、消費者の多くが話題にするような新製品や新サービスが少なくなっている。企業は短期的な成果を意識しすぎて、コスト削減や効率化を優先し、新市場の開拓や新製品開発における革新性を低下させているのではないか。
マーケティングでは「市場志向」と呼ばれる組織の姿勢に注目し、新製品開発の機能や効率の関係について研究が試みられてきた。マーケティングの出発点は顧客志向にあり、顧客を見据えることを新製品開発における基本姿勢とする志向は今日のビジネスの潮流である。
コモディティー化した市場に新商品を導入し、成功に導くことは大変難しい。
ハーバード・ビジネススクールのヤンミ・ムン教授の著書「ビジネスで一番、大切のこと」―消費者のこころを学ぶ授業―の中で既存の分類を書き換える「ブレークアウェイ・ブランド戦略」がある。
ブレークアウェイ・ブランドとは、本来の商品とはことなる枠組みを消費者へ提示し、消費者に違う商品として認識してもらうブランディングである。
一つの例として、時計という成熟したカテゴリーからファッションというカテゴリーに移住した「スオッチ」がある。
スイス時計と言えば、最高品質の金属や宝石を使い、細心の注意を払って作られ、最も高級な宝飾店で販売される商品である。「スオッチ」生みの親にして、スイス時計産業の救世主が、ニコラス・ハイエックである。「日常のファッションクセサリー」という別のカテゴリーを打ち出した、それが「スオッチ」である。
時計業界が見たことがない消費行動を示し始め、洋服やその日の気分で使い分けるために、いくつも購入した。時計に興味を示さなかった顧客も買い始めた。
1983年の発売されたブレークアウェイ・ブランドは、現在まで非常によく売れており、自ら切り開いたファッションウオッチというカテゴリーに君臨し続けている。
ブレークアウェイ・ブランドでは、異なる市場の製品や機能を取り込むことによって、当該製品は従来の市場から抜け出して、新しいカテゴリーを生み出す。
従来の商品カテゴリー中に新しい商品の枠組み提供することによって新しい市場の開発につながる。

( 平成30年2月15日 日刊工業新聞掲載 )

割引券利用・買い物促す/地域密着の紙媒体宣伝効果を再認識

折込みチラシに学ぶ消費者行動

上野 延城(埼玉支部)

紙媒体の広告で地域密着型の業態で事業を営む企業にとって代表的な広告が、新聞折込みチラシ広告である。
ミクシイ・リサーチの調査によると、普段、新聞の折込みチラシをほぼ毎日見る人は、全体の71.6%。年代別にみると、特に40―50代のチラシ閲覧率が高く、20代では低い。未既婚別では未婚42.7%、既婚82.5%である。
折り込みチラシを見るのにかける時間は、平日平均9.5分、休日平均11.4分。
年代別にみると、60代は平日平均11.7分、休日平均12.7分と長く、他の年代より時間をかけて見ていることがうかがえる。
見る人が最も多いのは土曜日で特に午前8―9時台の間に見ている人が多い。主に見ているジャンルでは、最も多く挙がったのは「食料品」ついで「生活雑貨・日用品」、「家電・電化製品」と続く。年代別では20代では「食料品」と「洋服・アパレル」が1位、「生活雑貨・日用品」は3位である。
30―40代では、3位に「ファストフード」が挙がる。小さい子供のいる年代ではファストフードに興味を持ってチラシを見ている、という傾向がうかがえる。
チラシを見てとった行動としては「ファストフードのクーポンの割引券を利用した」ことがある人は、閲覧者全体の4分の3、次いて、「普段行かないスーパー、ドラックストアへ買い物に行った」ことがある人は50.5%、「デパートのバーゲンに行った」ことがある人は47.9%。
折り込みチラシの最も大きな特徴は、タイムリーな情報を指定したエリアに広く伝達できることである。
例えば新しい店舗を開店した時、近くに住んでいる人にその存在を知ってもらいたいと思えば、チラシを使えば簡単である。
チラシを有効に活用している企業は多くある。例えば、カジュアル衣料チエーンの「ユニクロ」の柳井正社長は常々、「チラシはお客様に対するラブレター」と言われている。
広告宣伝効果をより厳しく問う時代となった今、折込みチラシが、主婦層の購買行動を喚起する効果的媒体であり、コストパフォーマンスを確認できる広告として改めて認識されている。

( 平成30年2月8日 日刊工業新聞掲載 )

前金ビジネスに浪費リスク/月次決算ちゃんと行い健康的経営に

はれのひ、について考える

堺 剛(東京支部)

はれのひ株式会社による被害総額は2億円以上と言われている。2018年の成人式の被害のみならず、19年以降に成人式を迎える利用者ですでに支払を済ませた方も多くいるようだ。成人式を楽しみにしていたお客さんのことを考えるとやり切れない気持ちになる。
はれのひの財務状況だが、16年9月期の決算は約3億6000万円の赤字、約3億2000万円の債務超過であったと言われている。また取引先の1社は、「17年から売掛金が滞留してきたため取引縮小に努めていた」とコメントしているそうだ。資金繰りが相当悪かったことは予想がつく。
株式会社てるみくらぶの時もそうだが、前金でお金をもらうビジネスは経理がしっかりしていないととても危険だ。前金でもらうことによって「たくさんお金がある」と勘違いしてしまうからである。
ここで資金繰りについて、単純化された例を出して考えてみたいと思う。
売掛金回収も買掛金支払も月末締め翌月末、というような会社の場合。売掛金額300万円、買掛金額100万円だとすれば、200万円の「使えるお金」が得られる。その200万円で従業員給与を払ったり、経費を精算したり、借入金を返済したり、設備投資をしたりする。資金の流れは読みやすい。
しかし、前金ビジネスの場合、2か月前に300万円を前金でもらったとして、無計画に役員賞与を出したり交際費を使いすぎたり高級車やマンションを買ったりすれば、買掛金100万円を支払ったり、従業員に給与を払ったりすることができなくなる。
「たくさんお金がある」という錯覚は浪費に結びつく。債務はあっという間に積もる。
はれのひは、恐らく月次決算や資金繰りを行ってこなかったのではなだろうか?
月次決算を行い、きちんと数字の分析ができていれば、このような事件を起こさなかったのではないだろうか?
中小企業では、日々の仕事に追われて、経理が後回しになっている会社も少なくない。しかしながら、それはとても危険なことであると言わざるを得ない。
月次決算を行うことは、毎月きちんと健康診断を行うようなものだ。健康的な経営を目指してみませんか?

( 平成30年2月1日  日刊工業新聞掲載 )

「心の筋力」鍛えストレスに対処/気楽にできる呼吸法がお薦め

マインドフルネスの効果

上野延城(埼玉支部)

昨今、世界中のハイパフォーマンスな企業が注目するのが「マインドフルネス」というキーワード。マインドフルネスとは、自分の身体や気持ち(気分)の状態に気づく力を育む「こころのエクササイズ」である。
欧米では、すでにその効果について、多くの実証的研究報告があり、ストレス対処法の1つとして医療・教育・ビジネスの現場で実践されている。
マインドフルネスは簡単に言えば、“今を大切にする”ということ。とかく人は、過去の嫌な出来事を思い出したり、まだ分からない未来のことを思い煩っては病気になったりする。
幸せに生きるのは、そうした過去や未来のしがらみから離れることが大切なのである。
注意を今の時点に集中させることが出来れば、過去の失敗や未来への不安も頭に浮かびにくくなる。マインドフルネスを実施すると、ストレスな場面においても否定的な感情や物事にとらわれることなく、いつでも自分を取り戻すことができるようになる。
マインドフルネスが脳の働きや構造に変化を与えることが分かってきたと日本マインドフルネス学会理事長の越川房子氏は語っている。
マインドフルネスの手法はいろいろあるが、ビジネスパーソンが実践しやすいのは、いつでもどこでも気楽にできるマインドフルネス「呼吸法」である。
背筋を伸ばしてイスに座る。足を肩幅に開き、肩の力を抜く。
視線を斜め前に落とす、または目を閉じる。
自然に呼吸し、注意を呼吸に向ける。
注意がそれたことに気付いたら、何に注意がそれたのかをそっと心にメモして、注意を
また呼吸に戻す。
越川氏はこれを1日5~10分行うだけでも効果はあるとのこと。
筋力トレーニングと同じで、切り返しにより、いつでも「今」に戻れるための「心の筋力」が鍛えられれば、自分の思うように態度や気分をコントロールでき、人間関係のストレスの解消も容易になる。
マインドフルネスは、しなやかでゆたかなこころをめざします。習得できるとストレスをしなやかに対処することができる。
感情コントロールやストレス緩和に効果があるとして、最近では、社内研修に取り入れる企業もある。

(平成30年1月25日 日刊工業新聞掲載)

80代の活動領域広がる/高齢者ニーズ獲得、シニア雇用が早道

100年時代のマーケティング

上野延城(埼玉支部)

厚生労働省は2017年9月15日時点で100歳以上となる高齢者が全国に6万7824人いると発表した。日本政府が「人生100年時代構想会議」を立ち上げた。
人生100年を前提にすると、企業のマーケティングも発想を変える必要がある。
帝国データバンクの資料によると日本は100年以上の業歴を持つ企業が2万6000社という世界に冠たる老舗大国である。
帝国データバンクの企業概要データベースに収録されている約125万社のデータをみると、それらの企業の業歴(創業や設立から現在までの年数)、つまり企業の平均年齢は40.5年。1980年代半ばに唱えられた「企業の寿命30年説」を大きく超えている。
企業の寿命は延びている。企業は長い歴史の中で、成長するための戦略だけでなく、生き延びるための戦略が必要な時期もある。
100年以上を経た老舗企業は戦争や災害の苦しい時期を乗り越えた経験は、時代を超えて老舗の中心にいつまでも残り続ける。老舗企業の代表者は異口同音に「うちの会社は今でも変化しているから、あまり老舗企業という感じがしない」、「うちの会社の歴史は、革新の連続ですよ」と語っている。
リンダー・クラットン、アンドリュー・スコット著「ライフシフト」は、人生100年時代の生き方と働き方がテーマである。本書の基本となる考え方は「教育→仕事→引退」という、3ステージの生き方はもう通用しないと述べている。
日本でもお馴染みの、20歳前後まで学校に通い教育を受け、就職し60歳まで働き、引退後は基本的にのんびりと過ごす、という三つのステージを順にたどる生き方でなく、様々な状況を行ったり来たりするマルチステージの生き方をするようになるだろう、と予測されている。
団塊の世代が、70代に突入した。人生100年時代は、いかにシニアの立場になってきめ細かくニーズをくみ取るかが勝負となる。80代の活動領域は広がっていくだろう。
シニア世代の顧客の気持ちを理解するには、シニアを採用するのが手っ取り早い。企業は高齢者を本気で戦力として雇う仕組みを整えるべきである。

(平成30年1月18日 日刊工業新聞掲載)

多様な課題解決促す原動力に/意識高める教育の普及に期待

開発途上地域での日本企業によるSDGsの普及・定着を通じたガバナンス強化

佐藤 秀樹(千葉支部)

グローバル化が進行する中、多くの日本企業が海外へ進出している。東洋経済「海外進出企業総覧2017」によると、2016年の5年前比(11年)増加率で日本企業の進出(現地法人数)を見た場合、第1位はミャンマー(11→105社)で増加率は855%、10倍近い勢いで伸びた。また、第2位はカンボジア(23→73社)で増加率は217%、3倍強伸びた。多くの開発途上国では、今後も、現地の若い労働力や経済発展等をバネにして、生産・販売の成長がますます見込まれている。
しかし、開発途上地域では、政府や企業のガバナンスが十分に機能しているとは言えない。例えば、環境関連の法制度は整備されてきているが、大気、水や廃棄物等による環境汚染は、依然としてひどい。その背景には、現地企業や市民の環境に対する意識が十分でなく、自分たちの利益追求に焦点がおかれ、社会全体を見据えた幅広い視点が欠如しているように思える。
このような状況の下、日本企業がこれまで培ってきたガバナンスやCSRの知見・経験を開発途上国で生かすことにより、貧困削減や地域づくりへ貢献していくことが可能である。その土台となる枠組みを提供してくれるのが、まさに国連193ヵ国が2016~2030年に達成すること定めたSDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」である。貧困、農林漁業、健康医療、教育、まちづくり、エネルギー、環境等、包括的且つ複眼的な視点が盛り込まれているSDGsのコンセプトを現地の社員教育等で導入することで、さまざまな角度と方向性の持った企業人そして市民としての人材育成に寄与すると思う。個人、組織、そして社会がSDGsの視点でものごとを捉えることができれば、ガバナンスの強化につながり途上国の抱える様々な課題解決へ向けた取組みを促進する原動力になると考えられる。
現在、私は、環境NGO職員として、現地のローカルNGOと協力しながらバングラデシュで市民を対象とした生物多様性教育教材の開発・普及、植林や天然蜂蜜・マングローブ果実のピクルスの商品開発等、SDGsの視点を大切にして活動している。今後、日本企業が海外において、社員、国内外のNGOや市民グループ等ともより一層連携しながら、SDGs教育の普及に貢献していくことを大いに期待したい。

(平成30年1月11日 日刊工業新聞掲載)

提言と新書