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WORKS

提言と新書

提言のご紹介

提言ご紹介(平成27年~平成29年)

企業存続の要、人事評価を考える
「目標管理シート」で評価/各自の能力見える化
永井 守(東京支部)
多くの読者の方は、仕事をあんなにこなす人が平社員で、全く仕事の成果が上がらない人が何故部長なのと日頃感じておりませんでしょうか。筆者も全く同感で20歳代のころから感じていた。
毎月、品質改善会議が開催され、前回決定された問題点の解決期日に間に合う人と間に合わない人がいた。問題の大きさにより完了期日は差があるが、期日に間に合わない人は決まっていた。その人はそれでも立派な役職を持っている人だ。片や納期内に完了する若手は平社員だった。このような人事評価はおかしいと若いころから感じていた。
そんな時期に故石川馨先生が「日本的品質管理」や「TQC」に関する本を出版され、「方針管理」の考え方も世の中に知られるようになった。石川先生の言われる品質管理は社長を先頭に全社員が一つの目標に向かって改善活動を行うことだった。
特に筆者が強く感じたのは「方針管理」で、社長方針がある部の方針になり、課・係の方針となり、最後は一担当者の目標管理に展開される。各担当者は上司の方針と整合した自分の目標を設定し、目標を達成したかどうか、毎月確認会議にて確認される。
ここで、ある課は全ての担当者が目標を達成しているのに対し、ある課は目標を達成している担当者もいれば、全く目標に達成してない担当者がいる。
この状況を読者の方々はどのように感じるだろうか。①すべての担当者が目標を達成している課長は、課長の責任を全うし管理・指導する能力があると評価すべきだ②一担当者がずば抜けて実績を上げている担当者はその能力を他の社員に指導する立場の職責に抜擢することがその企業が繁栄する事になる―。
この能力を評価する方法として「目標管理シート」で目標の達成状況を評価する事が可能となる。この「目標管理シート」は管理の基本である、プラン(P)、ドー(D)、チェック(C)、アクション(A)の内容を記載する書式になっている。
したがって、この「目標管理シート」の状況で各自の能力を見える化でき、人事評価に役立つことが可能となる。各自の能力を評価し、人事に反映させる事が重要と考えている。
(平成27年1月8日 日刊工業新聞掲載)

商社の購買戦略
利益拡大へ品質保証体制構築/良きベンダー選定重要
永井 守(東京支部)
「商社が品質保証をする」―。この体制を確保している商社は日本・世界で何社存在するでしょうか。
筆者は大手電気メーカに勤務していたころ、ハードディスク駆動装置(HDD)媒体の品質管理を担当していた。HDD媒体のアルミ基板はその当時日本製はなく、米国から購入。購入先は商社、その商社は米国から基板を調達し、筆者が勤務していた企業に納入していたが、機械的特性不良が多発し、納入の都度ロット不合格となり米国に返却、米国に品質改善依頼のために頻繁に出張していた。
このような状態では、その商社の利益は、このロット不合格の処理費に充てることとなり、利益はなく、商社の社長はよくこぼしていた。筆者はその基盤の納入品質を向上するため、機械的特性の検査方法を米国企業に改善要求を行い続けた。その結果、納入品質が改善され、全ての納入ロットがロット合格となり、その商社は納入伝票に数量を記入するだけの女子事務員を雇用し、社長は他業務の拡大を図り、会社を拡大していった。
筆者の企業は他の製品もその商社経由で購入する事となり、その商社は更に拡大していった。商社は良い顧客を確保し、いや確保されるように品質保証体制を構築することで、利益拡大は可能となる。商社は、品質(Q)、価格(C)、納期(D)の3条件を満足させると、注文増大・利益拡大は約束されるが、どうすれば「Q・C・D」を満足させることが可能となるでしょうか。
商社は製品を製造しておりません。そのため良きベンダーの条件を以下に記載する。経営者の品質認識は重要で、経営者の認識不足の企業を選定し大失敗した苦い経験がある。また、設備に品質管理能力を持ち、寸法精度が優れている設備を持っている企業は安心して購入できる。相互の利益を目的に基本契約を取り交わす企業。生産中止時・4M変更の事前届、クレームの期限内回答、工程監査の受諾、品質改善会議への参加、その他両者合意事項の締結が重要になる。
さらに設計、生産技術、品質保証、製造・検査部課長の勤続年数が長期にわたって勤務しているか。以上の実施事項を確保する事により、利益があり、企業の存続につながることになる。
(平成27年1月15日 日刊工業新聞掲載)

経営戦略としてのブランディング
社員への意識の醸成不可欠/BSC経営の手法有効
近藤 肇(中部支部)
ブランド構築は企業にとって重要な課題だ。それはブランドが確立されれば、その効果が多岐に亘って浸透するからである。
① 消費者に対してはブランドイメージを具体的に伝えることができ、購買時の意思決定を容易にすることができる。
② 企業にとっては、価格決定権を得ることができ、法的な保護を受けること、自社内の意思統一を図り社員のモチベーションの向上に役立つなど、さまざまな利益が得られる。
ブランドは、ヒト、モノ、カネ、情報に次いで“第五の経営資源”とも言われている。
マーケティング戦略の専門家イドリス・ムーテイによれば、「10年先を計画すればブランドを育成できる」といわれる。それは人の育成と同様に重要だ。
そのためには、インナー・ブランデイングの構築が不可欠だ。インナー・ブランデイングとは、社員へのブランド意識の醸成を図る流れを言う。アウター・ブランディングに対する概念として位置づけられる。
価格、品質、サービスなどお客様に関わる全ての部署が対象になる。そしてブランド構築のために有効な経営戦略として、BSC経営(バランススコアカード経営)が挙げられる。
BSC経営とは、貸借対照表上の有形資産に止まらず、社内の知的資本を最大化するために知的競争力や成長力の源泉として人材や企業の“ブランド力”をも総合的に評価する経営管理手法だ。
目標展開をするために、①顧客の視点から視た指標②内部プロセスから視た指標
③ 学習と成長から視た指標を作成する。
それらを5年~10年後をゴールとする戦略マップとして作成する。そのプロセスの中で、ブランド構築の指標をマネジメントサイクル(P~D~C~A)として定着化することだ。
インナー・ブランデイング構築の過程では、以下に掲げる人事制度や各種イベントが効果的だ。
① ブランド構築への貢献度を評価基準とする。
② 自分は何をなすべきか?何ならできるのかを明確にする。
③ 管理職、リーダーはブランド構築のために品質管理などを徹底して社員の採用に対するアピールをする。
④ 創業祭、周年行事などを通じて全員参加型の社風を創り求心力を高める。とりわけモチベーションを高める効果を発揮する。
(平成27年1月22日 日刊工業新聞掲載)

中小会計・金融における金融機関の説明責任
概算CFと独自FCF複線化/有用性企業に指導を
岡部勝成(九州支部)
わが国における負債総額1,000万円以上の企業倒産件数は2011年度1万2707件、12年度1万1719件、13年度1万536件と減少基調をたどっている。14年度の月別平均(4月~11月)で見ても731件と年間では1万件を下回ることが予想できる。
また、11月の有効求人倍率も1.12倍と22年ぶりの水準に戻り、景気の回復感が出つつある。
中小企業庁は、14年10月2日から10月10日までに、全国の商工会などを通して中小・小規模企業の1,414社にアンケート調査を行い、同年11月21日に「ここ1年の中小・小規模企業の経営状況の変化について」を公表した。
これによると,1年前と比較した売上高の状況は、「増加した」が49.9%、「減少した」が34.5%、経常利益の状況は、「増加した」が38.8%,「減少した」が47.6%だった。
経常利益が増加した要因としては、「売上高の増加」が76.0%と最も多く、「経常利益の減少」をあげる要因としては、「原材料・エネルギーの変化」が62.9%と最も多く、次いで「売上高の変化」が54.0%となっていた。業種で見ると、卸売業や製造業では「為替の変化」を挙げる企業も一定割合あった。
このような状況の中、金融庁が公表した14年から1年間の金融機関に対する監督・検査方針によると、「デフレ脱却と『好循環』の実現」、「金融仲介機能発揮の前提としての金融システム・金融機関の健全性の維持」としている。
また、重点課題には「人口減少への備え」が盛り込まれた。つまり、収益性が低く、人口減少率が高い地銀は金融再編を進めることを意図していると思われる。具体的には,肥後銀行と鹿児島銀行の経営統合などが挙げられる。
中小企業にとっての最大のステークホルダーは、金融機関(銀行・信用金庫等)である。その金融機関は、中小企業に対する与信判断を中小企業会計基準(企業会計基準、中小会計指針、中小会計要領など)を通して間接金融を中心とした貸出金を提供することで、金融システムの円滑化を図り金融機能の維持・発展に努めている。
しかし、金融機関は実務において中小企業会計基準(財務諸表)に信頼性の保証があるのか懐疑的であり、金融庁の金融検査マニュアルが認めている概算キャッシュ・フロー(当期純利益+減価償却費の2期平均)と金融機関が独自で作成しているキャッシュ・フロー計算書のFCF(フリー・キャッシュ・フロー)の複線化における実態や役割は明らかにされていない。
金融機関はそれらの有用性を中小企業に対して教育・指導すべきであり、歴史的背景から勘案しても中小会計要領の資金繰表へのバイアスは危険である。
また米国では、金融機関が中小企業に対してキャッシュ・フロー計算書の提出の義務化と、その企業実態に合致した修正キャッシュ・フロー計算書の作成によるFCFで与信判断を行っている。
つまり、日米間の中小企業会計と中小企業金融の関連性において乖離現象が発生している。
今後、わが国における金融機関の説明責任を果たすことは肝要であると考えられる。
(平成27年1月29日 日刊工業新聞掲載)

品質保証を確実にするQC工程図の作成方法
工程図と工程表を区分/改版簡単 最新工程表を現場に
永井 守(東京支部)
QC工程図の作成・運用に苦労をしておりませんか?ISO/TS16949でも、統計的手法を活用した分析結果を基にQC工程図を作成するように求められている。
1975(昭50)年ころ、当時電電公社(現NTT)と言われた大きな国家企業があった。NTTにコンピュータを納入していた企業はH・F・O・Nであり、品質指導はこの巨大企業が「工場調査」と言って各企業の品質管理体制の改善指導を行っていた。
ある時その巨大企業が筆者の会社に工場調査にやって来た。それは、それは、厳しいチェックで事業部長・各部門の部長は大変緊張して工場調査を受けていた。その工場調査で提出する資料に、QC工程図があり、その記載内容を徹底的に質問攻めに合った。このような経験から、QC工程図には大変刺激的な想い出があるのと同時に管理内容や記載内容について勉強させて頂いた。
当初のQC工程図は、フローチャートと工程表が一体になっているため、見やすいものの、素早い改版ができないため、工程変更が多発する製品には不向きだった。
ハードディスク駆動装置(HDD)媒体は高度な技術を要求されるため、品質管理の内容も高度な管理を要求され管理する要因が数多くあった。当初電電公社で指導を得た旧QC工程図を作成し管理していたが、頻繁に変更される管理内容をフォローするためにQC工程図の改版に間に合わない。
そこで、やむなくQC工程図を改版せず、「作業変更指示書」に変更内容を記載し現場に変更指示を出すようになった。
「作業変更指示書」を受け取った現場はQC工程図と両方を見ながら作業をする事になるが、すぐまた作業変更指示書が発行され、複数の作業変更指示書とQC工程図を見ながら作業をしなければならなくなる。
なぜ「作業変更指示書」で指示すると改版が必要になるかと言うと、QC工程図のような重要か管理ポイントを明記する書式になっていない事による。1作業に複数の「作業変更指示書」が存在すると、製造ミスが多発する。そこで、QC工程図とQC工程表を区分し簡単にQC工程表が改版できるようにした。その後は改版した最新のQC工程表を作業現場に配付した。
(平成27年2月5日 日刊工業新聞掲載)

ファブレス企業を生かす道とは
「先行製品品質計画書」作成/技術・運用人材確保を
永井 守(東京支部)
ファブレス企業は生産工場を持たないため、管理経費のみが購入製品に付加されることで、安価で製品を供給することが可能だ。また、自社ではヒット商品を頻繁に開発することはかなり難しいが、完成したまたは商品化が近々完了するヒット商品を探すことはそれほど困難なことではない。
次々とヒット商品を探し出し、販売チャンネルに載せれば企業の繁栄は間違いない。ただ、ファブレス企業の弱いところは、開発技術部門・製造技術部門・品質管理部門・製造部門が無いためこれらの技術者が不在ということだ。
しかし、これらの技術部門が無くても十分商品の販売を行える。それはヒット商品を決定後ISO/TS16949で要求している「先行製品品質計画書」を立案できる技術者が、商品を供給する企業と共同で作成し運用・管理すれば良い事になる。「先行製品品質計画書」を作成するためには、設計審査・法規制への対応・試作評価・量産評価・QC工程図の作成及び審査・製造企業への工程監査・出荷検査体制の構築・クレーム対応技術を処理可能な技術者がいれば問題ない。
新商品では次々と新しい技術が導入されるが、その技術は「先行製品品質計画書」の作成要領に追加して行けば次の商品に対応可能だ。
そこで、ファブレス企業に必要なのは、「先行製品品質計画書」を作成する技術者の確保だ。「先行製品品質計画書」を作成するには、設計時にFMEAにて要因管理すべき事項を見極める技術、製造条件と製品特性の関係を分析できる技術、QC工程図・QC工程表を作成し審査できる技術、統計的手法を活用する技術、検査手法の熟知、購入先の管理技術、購入先と一心同体で品質保証体制を確立し、運用する能力が求められる。
これらの技術はGHQが日本に品質管理を教えた時代から変わっていない、今後も不変と信じる。筆者がファブレス企業の利点を重視したのは外注管理で高品質で、ある程度の利益を上げたことが起源で、外注管理の延長にファブレス企業が見えて来たからだ。外注管理もファブレス企業も製造元に丸投げで無く自社のやるべき事項を実行する事が重要だ。
(平成27年2月19日 日刊工業新聞掲載)

ISOは経営そのもの
品質向上・利益拡大に全力/業務分担明確化実効性高める
永井 守(東京支部)
時々、ISOを取得するだけで当社は満足していると言われる方がいる。ある業界ではISOを取得しているだけで請負単価が上がると言う人もいる。またISOの管理体制とモノづくりの品質管理システムは別で、二つの規定で運用していると言う方もいる。
筆者は1970年ころから品質管理を担当し、そのころ日本の品質管理の父と言われた石川馨先生がTQC、TQMを唱え現存する「日本品質管理賞」が品質マネジメントシステムの実行を表彰している。
読者の皆様がご存知のデミング賞は51年に設立。そのデミング賞を手本に米国で87年マルコム・ボルドリッジ賞を設立。その後94年ISO9001が設立され、米国ビッグスリー共通の要求事項のQS-9000と集合され、ISO/TS16949が設立された。
マルコムボルドリッジ賞は、レ-ガン政権が日本の高品質で売り上げが落ち、それに対応するため設立した。この流れからマルコムボルドリッジ賞やISO/TS16949、ISO9001は品質を向上させ、売上・利益を上げるための品質マネジメントシステムだった。
ところが、冒頭のように形式のみの管理に徹している企業がある。ISO事務局員を置き、目標管理・内部監査・マネジメントレビュー・文書管理等管理工数を発生させているが、品質を向上させる活動を実施せず、利益を上げるための活動になっていない企業だ。
それではどのようにしたらこのムダを失くすことができるのか。ISOの取得有無にかかわらず読者の社内で、業務分担が不明確で問題解決が進まない経験をお持ちではないだろうか。ISO取得に関係なくこの業務分担を明確にすることが業務を遂行する上で必須事項だ。
この業務分担を明確することで、問題は解決し、利益も上がりISOも取得可能となる。業務分担が明確になると、顧客要求仕様を設計部門が図面を作成し、作成された図面を製造部がデザインレビューを実施、量産評価分析を品質管理部は実施する等部門間の情報処理内容を明確した品質保証体系図を作成する。
これが品質マネジメントシステムの全容で、企業の利益拡大・会社存続するために何が必要で、何を実行するか、それにはどのような組織を構築するか、至極当たり前の作業がISOだ。
(平成27年2月26日 日刊工業新聞掲載)

21世紀の経営として生まれた「超・図解経営」上
図解で「難しい経営」がカンタンになった
理論・実践・実務三位一体/経営の基本を図解・体系化
山本英夫(南関東支部)
安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」もいよいよ正念場を迎え、消費税再増税問題も抱えながら、景気立て直し策として、中小企業政策と起業・創業支援に乗り出した。
そこで改めて課題となるのが、経営の原理原則と基本の啓蒙普及と、その在り方・進め方だ。日本には、『エッセンシャル版マネジメント』(ドラッカー著)のような経営の教科書的ものが少ない。あったとしても、中小企業の経営者や従業員のみなさんには分りにくいものとなっていることが多い。
また、基本的な用語解説やマーケティングやセールスの本、会計経理の本、経営・事業計画の立て方や目標管理の本などが多く、原理原則的・体系的に書かれていて、分りやすく実践実務的なものは少ない。
とりわけ、中小・小規模企業は、「人・物・金」において、ないないづくしなのが現実だ。そこを何とか、キッカケをつくって成長の善循環に入ってほしいと切に願う。今までよりも少ない時間で学べる、または教えられる、原理原則的かつ体系的に構築された、分りやすくて実行しやすい内容のものが求められている。そして、次の学びにつながっていくような、広さ・深さ・高さのある内容であることが望まれる。
シンプルでわかりやすくて、人生にも生活にも、仕事にも役立って、実践に移しやすいプログラムが今ほど求められている時はない。「進化した、新しい経営」への模索が始まっている。荒削りでいいから、一石を投じる「新しい経営」が必要だと思う。
そのようなニーズの中で、一つの試みとして構築したのが「超・図解経営」だ。○と△と□のたった3つの基本的な図形を基にして、経営の基本を図解し、その上で難しい経営の内容や手法についても補助線や補助図を用いながら、短時間でわかるような体系と内容となっている。
さらに、それらと連動したメモの書き方、アイデアの出し方、企画・計画の立て方などの技術とツールまで含めた理論と実践と実務が三位一体となった体系となっており、実践的な体系として構築された「新しい経営」の世界が広がっている。
(平成27年3月5日 日刊工業新聞掲載)

21世紀の経営として生まれた「超・図解経営」㊥
○△□で視点で、「難しい経営」がオールイン・ワン
シンプル経営実践→成果/「基本」「目標」「行動」で定義・構築
山本英夫(南関東支部)
「見える経営・わかる経営・できる経営」。それが「超・図解経営」の3大方針。そして、基本テーマは「世界一シンプルな経営の実践で成果を上げる」ということ。「世界一シンプルであるためには、どうあればいいか」、「実践的にあるためにはどうあればいいか」、「成果につなげるにはどうすればいいか」。
そして、「三つの言葉で経営を定義することができれば世界一シンプル」という仮説からスタートした。「基本」「目標」「行動」という誰でも知っている三つの言葉を選び出し、それらを用いて仕事にも経営にも人生にも当てはまる経営の定義を行った。「経営とは、基本を徹底して、目標を明らかにして、行動すること」。
これをさらに分かりやすく、一目で見てわかるように図形化している。基本は□、目標は○、行動は△というように。その上で、○△□の3つ図形を用いて、基本的な二つの経営図解を試みた。一つは「○△□のおでんの図」、一つは「○△□の経営ピラミッドの図」。前者は、○△□の三つの図形をおでんのように串刺しにしたもの。後者は、○△□の三つの図形を一つずつずらして重ね合わせてピラミッドのようにレイアウトした。
体系的な「図解経営」を構築するためには「○△□の経営ピラミッド」の方が具合がよく、それをベースにして六つの経営基本項目を図解。①基本経営図②ライフワークバランス経営図③CS経営図④目標管理経営図⑤SWOT分析経営図⑥理念経営図である。さらに、会計の基本がわかる図解や、ドラッカーが分かる図解も用意している。
次に、「生きて、動いて、変化する経営」を表現するにはどうしたらよいか、と考え、将棋にヒントを得て、カード化した。カードにすれば、動かしながら説明ができる。さらに、実践的であらんとして○△□の積み木を用いた経営の世界にもチャレンジしている。
また、成果につなげるため、交流分析やポジティブ心理学、選択理論心理学や感性論哲学なども研究してきている。
さらに、○△□で経営を図解で分かりやすく説明するために、いろいろ調査研究して分かってきたことは、それが禅の世界(「仙厓和尚の○△□乃書」)や現代アート(フランスの芸術家ピカビアの「支える」という作品)にも通じる世界があり、思っていた以上に広がりや深みがあるということだった。経営は、芸術であり、人間学でもある。
(平成27年3月12日 日刊工業新聞掲載)

21世紀の経営として生まれた「超・図解経営」㊦
図解を超えて、広がる新しい経営の世界
カード・積み木使い分かりやすく/20時間「経営学習の革命」
山本 英夫(南関東支部)
「超図解・・・」と言うタイトルの本がパソコンや経営の分野でたくさん見受けられるが、今回紹介している「超・図解経営」は、その類とは一線を画する内容となっている。単なる図解を超えて、新しい経営の体系を構築した画期的なものだからだ。
一つ目は、図解を超えて、カードという平面的なツールを用いて複雑な経営を分りやすく解説しているということ。アイコンを付して「見える化」したカード化することで、生きて、動いて、変化している経営を表現している。
二つ目は、図解を超えて、積み木という立体的なツールを用いて複雑な経営を分りやすく解説している。○△□の積み木を用いて、「触れる化」して、人間関係の在り方や概念的な経営理念の世界や人間存在の世界について身体でわかる加速学習理論(五感学習)も採り入れてつくられている。
また、経営シミュレーションゲームともリンクしており、経営のタイミングやバランスを体感できるプログラムも用意されている。
三つ目は、図解を超えて、日々の現場実務に使えるメモやノートという知的生産ツール類とその技術も含めた実践的なトータルな経営体系となっていることだ。
その教育学習体系は、「感性論哲学」という哲学と「加速学習理論」をベースとして、その上に交流分析などの心理学分野の学問的世界、さらにその上に「超・図解経営」の世界が展開されている。グレード構成になっており、「超・図解経営4級(4講座から構成)」「同 3級基本(4講座)」「同 3級実務(4講座)」「同 2級(4講座)」「同 1級(4講座)」「同 特別講座(13講座)」「同 インストラクター講座」という具合になっている。
たった一つの「○△□の経営ピラミッド」の図を起点に、経営の基本と原理原則をベストシンプルに学ぶことができるようになっており、今まで学んだ経営理論や経営手法の総括もでき、それらを活かして使えるように配慮されている。
すべての企業にとって必要な経営の基本と原理原則と実践実務を支援できるものとなっている。しかも、従来200時間はかかっていた内容を10分の1の20時間ほどで学ぶことができる実践的なものだ。ここから「経営学習の革命」が始まろうとしている。
(平成27年3月19日 日刊建設工業新聞掲載)

日本の今後「海外進出の条件」
ベトナム進出経験に基づく/日本式海外進出条件の提案
佐藤富夫(南関東支部)
毎年、年初に「世界的、日本的な政治・経済・気候変動」が発生している。2014年からの世界経済のデフレ化の中で、回復基調を探し求めた日本経済のデフレ時代の方針転換として、国内回帰が始まっている。「止まって居られない、為替・金融」時代に円安・法人税軽減・脱石油(新エネルギー水素)経済・隣国(中国・韓国)の内外不安・中東・ウクライナの政変ととどまらない。世界政治経済に新たなチャンスを求めた選択が「国内回帰」だけで、グローバル企業として、世界で信頼され、世界で必要な企業となりうるのであろうか。
グローバル企業は国内の0.2%しか存在していないと言われる。この企業だけに視点を当てることに99.8%人的経済の影響に余り効果のないことを「アベノミクス」が昨年証明できたはずで、真のグローバル、国際化は数十億~2000億円企業の日本文化を発展させる経済行為を海外で実践することではないかと考えさせられる。
大企業が海外に出ることは日本経済・世界経済にも、大きな影響が出ず、マスコミの扱いやすさだけが紙面を賑わせる、玉虫色の扱いのためであることは多くの納税者は理解している。
中小・中堅企業が大企業を目指す中で不足するもの(市場・人材・資金・資源)を活用する場が「グローバル」であり、日本に本社があり、海外に営業・生産部門があり、都合の良い参入を「グローバル」という時代が終焉したと感じる。
日本生まれ、ベトナム育ち、アメリカ・EUで大勢する企業が地方の田舎で「スタート」することが日本の価値でありたい。
(平成27年3月26日 日刊工業新聞掲載)

風土改革は上杉鷹山に学べ
失敗を糧に立て直し/TQC=TQMの思想に通ず
永井 守(東京支部)
近年「風土改革をしたい」、「制度を変革したい」と良く聞くし、インターネットでもそのワードを探す事は容易だ。風土改革を望む企業はどのような自社内の雰囲気・状況を想定しているのだろうか。筆者はこの風土改革ですぐ浮かんでくるのが、童門冬二さん著書の「上杉鷹山」だ。上杉鷹山は、九州・日向の秋月家(3万石)から17歳で米沢藩に婿養子に入る。
米沢藩は武田信玄と川中島で戦った上杉謙信が起こし、2代目の景勝の時に豊臣秀吉から120万石を賜る。関が原の合戦では、石田三成に味方したため、30万石に減らされ、さらに4代目藩主が急死したため、5万石に減らされる。上杉鷹山が婿養子に入ったとき、藩は火の車で、藩を返上することも考えていた。
鷹山は、藩主でありながら一汁三菜、木綿の着物を着、知能障害のある奥方と側室も取らずに、一生を過ごした。その中で鷹山は改革を行うが以下の原因で失敗する。①改革の目的が不明確、全員に趣旨が不徹底②改革の推進者が一部の人間③一方的おしつけ、改革される側の痛みに深い理解と同情を欠く。そこで、鷹山は④民を富ませる(心、金銭面、厚生)⑤改革が楽しいものと実感させる⑥士農工商が身分を忘れて一体となる⑦若き人材を登用する、を実行し見事に財政を立て直した。
以上から読者の方はピンと思いつく事がないですか。日本の品質管理の父を言われる石川馨先生著書「TQCのはなし」だ。この小冊子には鷹山が行った事項の現代版がある。①の「改革の目的が不明確、全員に趣旨が不徹底」は方針管理・目標管理になる③の「一方的おしつけ」は全社員が自主的に現状の問題点を分析し、改善活動を行う④⑤は改善に対する公平な報酬を与え全員社員のやる気を出させ⑥は当に全員参加のTQCだ⑦は人事管理を重要視し、人材登用を実施することだ。
昨今ISO品質マネジメントシステムの形骸化が叫ばれ、ISO取得企業に有益でないと言われる方があるが、ISO品質マネジメントシステムの要求事項はTQC=TQMの思想で作られたシステムである事を強調する。
( 平成27年4月2日 日刊工業新聞掲載 )

五つのコアツールの必要性
ISO規定に「品質計画書」/保証・経営士も重要と痛感
永井 守(東京支部)
読者の方々がご存じのISO/TS16949(自動車生産及び関連サービス部品の品質マネジメントシステム)で要求されている五つのコアツールは形式ではなく、品質保証上更に経営上必要である事を痛感しましたのでご紹介する。
ある企業に勤務していたころ海外から部品を購入することになった。製品・部品を購入する場合は、ISO9001品質マネジメントシステムの規定により、品質保証部門がISO/TS16949で要求されている五つのコアツールで「品質計画書」を発行することになっていた。購買先を選定する部門がその規定を無視し、購入を始めた。
購入開始にあたって購入する企業が同行して購入先の工程監査を実施し品質管理上では問題ないステップを踏んでいたが、問題が発生した。購入する企業も日本では名の知れた一流企業だったが、購入先の工程監査を実施とともに、筆者が勤務していた企業の「品質計画書」の有無を確認していなかった。購買先を選定する部門は「品質計画書」を作成せず購入を進めてしまった。
ここで、「品質計画書」の内容を説明しておこう。「品質計画書」は製品を実現するために実施すべき事項をチェックシートのように記載した書式で、この「品質計画書」を発行し、「品質計画書」の記載事項を確実に実施する事で大きな品質問題の発生を防止する事が可能となる。
例えば購入開始には、①購入仕様の取り交わし、②試作評価の実施、③試作評価データを元に統計的手法を活用し、品質保証するためにQC工程図・QC工程表を作成、④QC工程図・QC工程表の審査、⑤工程監査の実施、⑥外観良否限度見本の設定、⑦、⑧・・・などだ。
この時大きな問題となったのが「外観良否限度見本の設定」作業を怠り製造元は良品と判断した部品を大量に製造してしまった。
一方購入側は不良判定で、商品として出荷できないために大量の不良在庫を抱え出荷がストップしてしまった。こうなると、不良発生分を当初の納入計画に間に合うように工程を再構築しますが、間に合わない。「品質計画書」を作成せず運用したために、新製品の市場出荷は大幅に遅れることになった。
(平成27年4月9日 日刊工業新聞掲載)

品質と生産連携管理で利益を出す
良品率の把握が第一歩/工程ごとの条件正確に記録
永井 守(東京支部)
1.生産管理と品質管理を連携した管理システムの必要性
一つのエピソードを紹介します。数十年前職場巡回をしていた時、生産管理の担当者が必至の形相でケーブルの圧着作業をしていました。その人に「何故、ケーブルの圧着をしているのか?」と尋ねると、自分の生産管理業務のミスによりケーブルの納期が間に合わず、そのリカバリー作業を製造部に断られたと言う。
圧着作業には技能認定が必要であり、未認定者では圧着不良を発生させます。結局、そのケーブルは納期には間に合ったが、納入後不良が多発しました。結果的にそのクレーム対応で自社の生産工程は大混乱し、顧客からは損害請求の要求を受けました。
しっかりとした生産管理を行っていれば、このようなことにはならなかったはずです。生産管理で人的ミスを極力発生させないシステムが存在すれば、先ほどの問題を防止できたに違いない。また、立派な生産管理システムを持っていても、歩留まりが予定を下回ると生産計画は計画倒れとなり、納期遅延が発生したり、納期確保のバッファー用に造り貯めをしたり、結局、利益が減少する方向に進んでしまいます。
2.品質(歩留まり)が悪ければ、生産計画は絵に描いた餅!
2-1.各工程の良品率を把握する
ひと言で「品質管理」と言ってもその範疇は幅広く、拡大して行くと経営までつながっていくことになります。
品質管理の第一歩は、何はともあれ良品率の把握、不良発生分析から始まる。筆者も入社した当時は、良品率の把握で10工程もある工程毎の良品率を、どのようにして正確なデータとして集めるかに頭を悩ませていました。
熟考に熟考を重ねた末に考案したのが「トラベルシート」で、このシートによって各工程の良品率と発生不良項目を正確に把握することに成功しました。
このトラベルシートに工程毎の「製造条件」を記録しておくと、製造条件と良品率との関係を分析する事が出来き、製造条件の変化値と良品率の関係を創刊分析すれば、品質改善することが可能となります。

管理する限界値をオーバしそうになったら、製造条件を管理限界内に引き戻すと目標とする良品率を確保する事が出来ます。

(日本経営士会、永井守、0422・53・2979)

品質管理の歴史
全部門が不良発生予防/利益上げる目標管理で企業繁栄
永井 守(東京支部)
筆者が昭和44(1969)年に大手電気会社に入社、磁気ドラム(HDD開発以前の記録装置)の検査部門に配属された。磁気ドラムは、直径が60センチメートル位の銅パイプに磁性メッキしたものだ。
1. 全数検査時代
磁気ドラム装置の検査で、電源ケーブルを接続し電源を入れると、みごとにヒューズが飛んだ。別のケーブルでもヒューズが飛んでしまった。
この時代、納入先の品質が悪く、受入検査で全数検査を実施後後工程に供給する考えが主流だった。
2. 工程管理重点時代
磁気ドラム検査部門を経験後、ハードディスク駆動装置(HDD)に搭載される磁気媒体の品質管理を担当することになり、最初の業務はNTT(当時日本電信電話公社)の工場調査を受けるための準備だった。NTTの工場調査で最も重要なのが、QC(品質管理)工程図の審査だ。
QC工程図は製造工程で管理を十分することで、不良を失くし出荷品質を向上させる目的で活用するものだ。このころになると、完成品を全数検査にて不良を除去するのではなく、工程を管理することで、不良を作らないとの考え方だった。
3. 設計品質の要求が高まる
QC工程図を作成し、不良削減・不良撲滅が進んだが、良品率が向上しない。この原因は、設計が不十分だったことによる。当初HDDは磁性体を塗料状にしてアルミニウムの円盤に塗装し、電気炉で焼付をしていた。塗装室のダスト管理値や湿度管理値が重要だが、その当時これらの管理規格が設計されていなかった。ISOの要求事項に設計審査が詳細に記載されているのは、設計が重要である事が明確に示されている。
4. 品質マネジメント・システムの必要性
87年、米国レーガン政権は、日本の高品質におされ、米国企業の競争力が低下したこと憂い、マルコムボルドリッジ賞を設立した。同賞は品質不良を発生させる部門は設計や製造・検査部門のみではなく、社長以下全社員が品質向上活動を実施する必要があることをうたっている。これが石川馨先生が唱えたTQC=TQMだった。筆者は、ISO9001:1994年第2版以前に既に品質マネジメント・システムは存在していたことを強調する。全部門が不良発生を予防し、利益を上げる目標管理を実施する事が企業の繁栄につながる。
(平成27年4月23日 日刊工業新聞掲載)

中東ビジネスと安全リスク管理(上)
有望市場と裏腹/テロ・紛争で怖い地域の感覚広がる
長谷川正博 (東京支部)
BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)やVISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)と並ぶ有望市場として捉えられているMENA(中東北アフリカ)市場。中東地域は、言語・宗教・文化の面で同質性が高いため、一つの大きな市場として捉える事ができよう。
一般的に、ある市場が有望かどうかを検討する際、①市場規模②日本製品を購入できる層が存在するか③競合状況はどうか④日本製品の位置付けや評価、などが判断基準となる。
ちなみに市場規模を表す一つの指標である人口数は、イラン、トルコ、イスラエルの非アラブ諸国を除き、GCC(湾岸協力会議)加盟諸国が約5000万人、これ以外の中東アラブ諸国で約1億人の約1億5000万人(2014年時点、IMF〈国際通貨基金〉データによる)であり、1人当りGDP(国内総生産)は最高のカタール(9万4264ドル)から最低位のイエメン(1,594ドル。共に15年時点値)まで幅があるが、一般的にはGCC諸国など「金持ちの国」との認識がある。
同地域の特徴としては、人口増加率が高く若年層が多い、一定の富裕層が存在し今後中間層の増加が見込まれる、日本製品の評価が高い、などがあり、将来的にも日本企業にとっての有望市場であると言えよう。
市場としての魅力とは裏腹に、従来、中東は仕事がやり難い地域という見方が強かったものの、近年では中東諸国がよくなってきたとの評価が高まる傾向にある。世界銀行と国際金融公社が「仕事のしやすさ」という指標を発表しており、10年版では中東諸国の「仕事のしやすさ」指標の順位は、GCC諸国の中ではサウジアラビアが世界全体で13位にあり、バーレーン20位、UAE33位、カタール39位と続く。
世界の国数は184カ国であるから、この4カ国は上位2割(約40カ国)に入っている。また、経済自由度(日本22位)はバーレーンが12位を獲得、カタール25位、UAE35位、オマーン47位、クウェート71位、サウジアラビア74位と上位クラスにランク付けしている。
ただ、残念ながら、このような評価に水を差すような、昨今の武装集団によるテロの頻発、スンニ派大国サウジアラビアとシーア派の盟主イランの「代理戦争」の様相を呈しているイエメン情勢などのため、「危険で怖い地域」との感覚が広がりつつあり、同地域に拠点を有している企業や、進出を計画している企業に深刻な影響を与えている。
(平成27年5月14日 日刊工業新聞掲載)

中東ビジネスと安全リスク管理(中)
危機管理方針・対応を明確化/正確な情報取集網構築
長谷川正博 (東京支部)
せっかくの有望な市場性を有している国・地域にもかかわらず、「危険が怖いから近寄らない」、「君子危うきに近寄らず」との立場をとり、当該市場を放棄することはビジネスの可能性を潰すことにもなり、その危険度を十分認識した上で、企業としての危機管理体制の整備、個人の危機に対する自覚と自己の安全管理を徹底することにより、ビジネス展開を図ることが望まれる。
海外における危機には二つあると言われる。まず「自分が招く危機」。これは自分の方から危機的状況を誘致しているもので、本来、避けることができるものや、予防的行動をとれば防げるものである。
例えば、治安の危ない時に危険な場所に行ったり(典型的な例としては、2004年4月「渡航延期勧告」が出されていたイラクに入国し人質となった男女3名の事件)、現金や貴重品を不注意に身に付けるなどである。
故意によるものとしては、現地の人達の敵意や反感を招くような態度や言動をとることである。二つ目は、向こうからやってくるもの、避けることができない「招かざる危機」(例;本年3月にチェニジアで起きた博物館襲撃テロ事件)。このような危機に対しては、それによるマイナスの影響をできるだけ少なくするノウハウや、サバイバルスキルを身に付けておく事が必要である。
危機管理への対応は企業側が行うべきものと、個人が自覚し、実践すべきものとがある。企業は自社の海外駐在員や出張者に対して「安全配慮義務」を負っており、適切な危機管理を実行する責務があり、現地側の勤務状況やリスク環境を適切に把握し、必要な安全対策を実施しなければならない。
企業が整備しておかねばならない体制としては、危機管理に対する方針の明確化、危機対応体制の構築・維持及び適宜な見直し、情報収集・分析及び通知、関連マニュアルやガイドラインの策定と整備・通達、危機管理教育の徹底等であり、特に大前提となるのが正確な情報の収集と客観的な分析及びその通達・勧告の実施である。
情報の収集にあたっての情報源には次のようなものがある。「情報は量より質である」ことも銘記すべきである。
① 部(地域担当管理者、現地拠点責任者、本社スタッフ)、②取引先(取引銀行や取引先企業)、③専門家(海外の会計事務所、弁護士)④公的機関(業界団体、大使館・商工会議所・JETRO(日本貿易振興機構)など公的機関、IMF・世銀など国際機関)、⑤一般の情報源(新聞・テレビ、研究者等)などであるが、日本本社と現地側とでそれぞれの特性に応じたネットワーク構築が望まれよう。
(平成27年5月21日 日刊工業新聞掲載)

中東ビジネスと安全リスク管理(下)
「セルフ・ディフェンス」が基本/私生活面でも留意を
長谷川正博 (東京支部)
危機対策の基本は、危険を遠ざけ、遭わないようにすることだが、そのためにも個人一人ひとりが危機意識を持ち、「(日本も最近は危険性は高いが)海外は日本より何倍も危険だ」ということをしっかり認識することである。業務上だけでなく私生活面でも、滞在国や地域の文化、法令、宗教、価値観等を正しく理解し、現地の人達に接する努力を怠ってはならない。海外では自分の身は自分で守ることが安全対策の基本(あくまでも「自己責任」という認識が必要)だ。
滞在・出張先国の政情や、地域の治安状態に通じておく事も必要である。的確な情報収集は個人的なトラブルを未然に防ぐことにもつながる。欧米での安全保障や危機管理の専門家の間では、”Think unthinkable”(考えられないことを考えろ)、とか”Never say NEVER”(決して起こらないとは決して言うな)が合言葉になっているという。
海外赴任や出張する場合、個人として留意すべき事項としては、①「セルフ・ディフェンス」に徹する②日本にいるのと同じ安全感覚を持たない③現地の人・スタッフなどとの信頼関係を築く、反感をそそるような言動は避ける④現地では、目立たない、行動を予知されない、注意を怠らない、を常に念頭において行動する⑤現地の治安状態に通じ、どこが危険か、何が危険かを知り、何を予防したらよいかを学ぶ、また、⑥現地の治安状況や犯罪対策に通じておくことも大切である。
なお、テロに巻き込まれない予防策の1つとして、現地の政府・軍・警察関係施設、欧米諸国(特に米国)の在外公館、宗教関連施設、公共交通機関施設や多くの人が集まる場所などにはなるべく近づかないように注意すべきであろう。
前述したように、企業側、個人側双方の体制整備・自己認識をベースとし、有望市場である中東市場を開拓・拡大しながら、自社製品・サービスの拡販を図っていくことが必要であろう。現在中東地域に居住している日本人は、外務省「海外在留邦人数統計(14年度)」によると、GCC(湾岸協力会議)6カ国で5,900人、これ以外の中東アラブ諸国で460人であるという。
居住国ではUAE(アラブ首長国連邦)が最多。これから当該市場開拓を行う計画があり、拠点設置を模索している企業は、日本人としての生活のしやすさ、外国企業への規制の少なさ、賃金レベルや生活コスト面、比較的自由な国柄であること、インフラ面、サウジアラビア東部とコ-ズウェイで結ばれているなどの利点を持つバーレーン(中東のシンガポールの位置付け)が適切ではないだろうか。
(平成27年5月28日 日刊工業新聞掲載)

障がい者雇用で人材不足解消
グローバル企業の独自理念/障がい者雇用率だけには縛られない
佐藤 仙務(中部支部)
消費税増税時にメディアは盛大にその話題を取り上げた。しかし、二年前に障がい者の法定雇用率が上がったことはほとんど報道されなかった。
現在、障がい者雇用率は民間企業で約2%。50人に一人は障がい者を雇わなければいけない。しかし、多くの日本の企業は、この目標数値を達成できていない状況だ。なぜなら「障がい者を出来るだけ雇いたくはない」と考えるのが企業の本音だからだ。
しかし、安倍政権の経済政策「アベノミクス」や東京オリンピック・パラリンピック誘致の決定によって、建設業を中心に仕事量は回復傾向にある。だが、少子高齢化なども含め、人材不足を焦り出す企業が続々と増えてきた。そこで、日本の企業や政府が考えたのが「外国人雇用」だ。
現在、外国人の優秀な若い人材を積極的に採用する企業が増えてきている。もちろん、それは決して間違いではない。なぜ、企業は「日本内部」から人材を探そうとしないのか。そこで今回、私がご紹介したいのがグローバル企業「ネスレ」の障がい者雇用への取り組みだ。ネスレ日本では、主に下記の2点を軸に「障がい者雇用」への施策を独自に編み出している。
1 ダイバーシティ(多様性)と障がい者雇用
さまざまな違いをもつ社員が集まった組織こそ新しい発想やイノベーションが生まれやすいと考え、意欲ある社員には性別、国籍、年齢、障がいの有無を問わずに成長の機会を提供したいと考えている。また、法定で定められた障がい者雇用率だけに縛られるのではなく、障がい者の個人個人の意欲や能力を発揮できる場を提供したいと考え、具体例を挙げると、「ネスカフェ アンバサダー」(オフィスでマシンを無料で使用できるサービス)で、自ら進んで開拓し、成約させた社員もいるという。

2 柔軟な勤務体制と個人業績を重視した評価システム
誰もが働きやすい環境を整えるべく、在宅勤務や時短勤務などの柔軟な勤務体制と、個人の業績を重視した評価システムを導入。
「障がい者雇用」は法律によって縛られて渋々やるものではない。グローバル企業「ネスレ」が気付き始めたように、企業側に「メリット」があるからこそ積極的に行うものなのだ。そうやって、障がい者雇用が増えれば、仕事に困っている多くの障がい者が救われる。
人材不足で「外国人雇用」ばかりに目を向けていた日本企業も救われる。ウィンウィンの関係になるのではないだろうか。

(平成27年6月4日 日刊工業新聞掲載)

インターナルブランデイングの運用
戦略マップで部門役割明確化/PDCA,人事考課にも反映
近藤 肇(中部支部)
経営戦略としてのブランデイングは極めて重要なファクターであり、企業内にブランデイングの構築を図ることは、BSC(バランススコアカード)経営の管理手法である社内プロセスの視点及びイノベーションの視点から具体化を図る上にも重要だ。
これを、インターナルブランデイングと言う。(ちなみにインナーブランデイングとは同義語である)
例えば、大学のブランド化を目指すプロジェクトについて、目標展開の枠組みとして、
BSC(バランススコアカード経営)を活用する。すなわち、目標展開を全学レベルで導入し、○年後をゴールとする戦略マップを作成して各部門の役割を明確にして具体化を図っていく。
① 就職センター、入学センターなど…顧客の視点として指標を作成する。
② 学内事務センター…内部プロセスとして学内事務の効率化を図り、顧客からのクレーム、要望に応答することを目標とする。また改革、改善に関する提案を指標化する。
③ 研究開発部門…社会、消費者のニーズに対応した研究テーマが「真の役割」である
(例)TLO(大学の技術移転)…大学が産と学の「仲介役」を果たす組織として重視されている。
④ 経営管理部門…財務諸表に基づいた経営管理をする。
⑤ IT部門…情報共有の実現~生産性、情報の共有化等全体最適を目指す。
それらの各指標体系の構築はまさにインターナルブランデイングの重要なプロジェクトである。そしてマネジメントサイクルに則って、P(プラン)~D(ドゥ)~C(チェック)~A(アクション)の一環として人事考課システムにも反映する必要がある。
人事考課規定及び人事考課表に具体化しますが、一般的には以下のような考課項目に従って実施する。
① 業績考課…経営課題に対する成果を検討する。幹部、管理職は数値目標が中心となるが重点課題としてブランデイングを考課項目に取り入れる。
② プロセス考課…目標管理にブランデイングを考課要素とする。
部下育成、組織管理、職務基準等にインターナルブランデイングの浸透度を評価する。
③ 能力考課…ブランデイングの習熟度、トレーナーとしての自己啓発が評価の対象になる。
(平成27年6月11日 日刊工業新聞掲載)

情報漏洩の原因と対策
危険性を徹底分析/品質管理同様組織で漏洩防止を
永井守(東京支部)
2005年1月―14年11月の間にウィキペディアで集計した情報漏洩は87件にも上る。各企業の多くは既にISMSすなわちISO/IEC 27001を取得し情報漏洩防止対策は取られているはず。それが何故情報漏洩するのか。
ISO 14001では「環境要素抽出表」なるものが存在し、企業活動(R&D、商品開発、設計、量産評価、QC工程表の作成、工程監査、量産開始、受注、梱包、輸送、設置、保守、廃棄処理など)の各活動で環境に悪影響を与える要因を「環境要素抽出表」で抽出し、環境に悪影響を及ぼさないように管理をしている。ISMSでもこのような考え方の分析表を作成し、運用すれば情報漏洩は防止できる。
新聞・テレビで報道された退職社員が中国企業に情報漏洩を行った事件は、社員出勤時に情報を持ち出す危険性を徹底的分析し、漏洩防止対策を怠っていたものと推測している。
例えば、社員が社外に持ち出すことのできないように、複写可能な媒体持ち込み・持ち出しを防御できる体制でなかったと言える。
また、退職後過去使用していたパスワードで社内システムに入り込むことができないようになってなかった事も考えられる。
他の事件で、業務委託先の社員が情報を持ち出した事件もあった。これは委託先への管理規定が不十分であった事が考えられる。社内で情報漏洩防止対策を講じているのなら、同じシステムを委託先に適用すれば良い。
筆者の過去経験で、製品の生産が不足しているために生産管理部門が独自の判断で下請け企業に生産を依頼したことがあった。生産を委託する場合、工場・作業員・設備・工具の確保は生産管理部門が確保可能だが、不良発生防止や情報漏洩の防止を委託先に義務付け・管理徹底する指導力はない。
生産管理部門は生産委託をする際、関係部門に事前通知し、不良発生防止や情報漏洩の防止の構築依頼を行うことが重要だ。
組織で業務を行う事が重要で、これらの一連の体制作りが品質マネジメントシステム。
ISMSも同様なシステムを構築していけば情報漏洩は発生しない。
管理体制の構築はISO9001の品質マネジメントシステムの考え方を導入することが重要と考えている。
(平成27年6月18日 日刊工業新聞掲載)

革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)公募について
イノベーション創出支援/独自技術持つ中小にチャンス
市木 圭介(南関東支部)
独自技術を保有する「中小企業」のオーナー社長に、注目していただきたい。内閣府が公募した「ImPACTプログラム・マネージャー」(http://www8.cao.go.jp/cstp/sentan/about-kakushin.html)だ。
公募は終了したが、「実現すれば産業や社会のあり方に大きな変革をもたらし、わが国はもとより世界を驚かせるような革新的なイノベーションの創出を目指すもの」であり、「PM 採用数は、3―4名程度を上限とし、PM1人あたりの研究開発プログラムの金額規模は総額10 億円程度から15 億円程度を目安とする」(公募要領)。
Q&Aを通読すると大学の研究者を念頭にした項目も多いが、本件プログラムは、むしろ独自技術を保有している中小企業に適していると思われる。「自社の独自技術を活用し、大がかりに資金投入して、(これこれ)夢のある開発に取組みたいが、小さい会社ゆえに資金調達できない」。私のコンサルティング経験のなかで、中小企業オーナー社長がこのように語られたことは一度限りでない。
PMの雇用形態を見てみよう。科学技術振興機構とPMは雇用契約を結び、勤務地は同機構(東京)、任期は研究開発プログラム終了時まで(最長平成31年3月31 日)、給与は年俸制(約2000万円)を基準。なお、「PMのエフォートは、企業が100%、大学が90%」とある。「エフォート率」は、一般のビジネスパーソンにはなじみがないが、国の競争的研究資金に応募する際求められる指標。研究者1年間の仕事時間100%とする時、応募研究にどの位時間をあてるか示すものだ。中小企業では当然に、有能な技術者研究者を出向させ、研究開発に専念させることができよう。
また、研究会やワークショップにかかる費用のうち、会場借料など必要経費を除き、基金の性質上支出できない使途もあり、出向元(中小企業)がある程度資金サポート可能であろう。
本稿まとめるにあたり、補助金・助成金については、経営士のノウハウを活用し、合わせて行政書士として事業者申請サポートに積極的に取り組んで参りたい。
(平成27年6月25日 日刊工業新聞掲載)

中小・小規模企業にとっての「環境経営」
コンパクトエコシステム推奨/理念掲げPDCA回す
福井 浩(南関東支部)
最近のニュースには、「環境経営」という言葉が、目につくかと思う。経済産業省の関東ブロック機関であります関東経済産業局でもこの言葉を使い企業に啓蒙している。例えば環境経営セミナーの開催、環境経営テキスト・事例集の発行等を行っている。環境経営を実践する方法には環境マネジメントシステム導入が近道であると考えられる。
大企業は既に環境マネジメントシステムの導入(例えばISO14001の導入)などで先行しているが、中小・小規模企業は環境マネジメントシステムの導入は余計なものと考えられがちだ。しかし環境マネジメントシステムの導入を経営改善に役立てている企業も多数ある。
また環境問題への対応は企業の存続を左右するとも言われている。そこで日本経営士会では中小・小規模企業向けの環境マネジメントシステム(EMS)の構築をしている。
このEMSの名前はコンパクトエコシステム(CES)Rと言います。コンパクトエコシステムは他のEMSと同様、環境理念を構築「プラン(計画)、ドウ(実行)、チェック(評価)、アクション(改善)」のPDCAサイクルを回すことにより目標を達成、経営上の課題解決にも活用可能なシステムだ。
企業の理念を作りPDCAを回し全社で取り組むなどして環境目標など達成すれば体質改善につながる。似た例では経営革新計画を作りPDCAを回している企業は通常企業の黒字割合が33%に対して78%が黒字化達成をしている。この様に企業には理念を作りPDCAを回す習慣付けが如何に重要かが分る。体質改善の切り口としてコンパクトエコシステム導入が有効な手段かと考える。
CESのガイドラインは分りやすくするために20ページ足らずにまとめている。CSR(企業の社会貢献)にも取り組めるように編集してありる。費用は登録料5万円、更新料は2年ごと3万円、支援料は1時間1万円でリーズナブルだ。
中小・小規模企業にとっての「環境経営」をこれから実践しようとお考えの方は全国に「環境経営士R」がいますが、日本経営士会に連絡されれば地域の「環境経営士R」を紹介することになっている。
(平成27年7月2日 日刊工業新聞掲載)

「環境経営士」の活躍
中小向けシステム普及/環境保全・社会貢献など支援
福井浩(南関東支部)
最近「環境経営」という言葉が定着してきた。この言葉の語源を見てみると、1992(平成4)年ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された「地球サミット」において21世紀に向けての国家と個人の行動原則である「環境と開発に関するリオ宣言」採択された。
これに伴い、設立された国連環境計画(UNEP)がISO(国際標準化機構)に対して環境に関する国際標準化への取り組みを要請した。96(平成8)年9月に世界初の環境マネジメントシステムの国際規格であるIS014001が発行された。
この時から環境マネジメントシステム(EMS)の言葉が長く使われていたが、日本経営士会はいち早くこれからの企業にとっては環境面を考えない企業は存続できないであろうと考え、「環境経営士R」という資格を作り、従来の経営に環境面を加えた環境経営士を養成することとした。
この環境経営士の資格は、環境の全般的な事についての知識、すなわちエコ検定合格程度の知識(ベーシックコース)と従来の経営管理に環境面を付け加えた知識(アドバンストコース)を体得できる様、養成している。アドバンストコースの具体的内容は企業経営の中での環境保全の取組、環境関連法規制、LCA分析と活用、経営マネジメントと環境保全、環境マネジメントシステム、環境報告書の作成、SR〈社会的責任〉、企業における環境教育などだ。
「環境経営士R」は全国に約150名おり、企業を環境経営面から支援をしている。また中小・小規模企業でも取り組み易い環境マネジメントシステム:コンパクトエコシステムRの普及活動を行っている。
実際にコンパクトエコシステムを導入された企業は省エネをしCO2を削減、事業系ごみを分別しリサイクルに回し、最終的に廃棄物をゼロにするゼロエミッション活動に挑戦するとか、工場周りの清掃をして社会貢献活動をしている企業も多くでてきた。
このような活動をしている「環境経営士R」の養成は「環境経営士養成講座」を日本経営士会が東京で2カ月に1回開催、地方でも随時開催しているので「環境経営士」で検索をしてほしい。
(平成27年7月9日 日刊工業新聞掲載)

イノシシと地方創生
対策、先ず山林の手入れから/ブナ科木材で6次産業化
永井 守(東京支部)
最近各地にイノシシや熊そしてサルが人里に出没し、住民を悩ませているニュースをテレビで目にする。筆者が小学生のころこのような現象はなかったと思う。
小中学生のころ、風呂や釜戸の燃料は薪で、小中学生は学校が休みになると山間地でありながら1時間以上かけて薪集めに行くのが常だった。
なぜ1時間以上かけて薪集めに行くかと言えば、近くの山には枯れ木集めがされ、枯れ木がないためだ。
薪で最も母親に喜ばれたのは、火力が強いナラの木だった。ナラの木、これは熊・イノシシが好んで食べるドングリの実をつける。
そして、老木になるとナラの木は立ち枯れとなり、それを見つけて薪にする。
なぜ、ナラの木が立ち枯れになるか、その原因「カシノナガキクイムシ」が羽化しやすい高齢のナラの木に病原菌を植え付け枯れ木にして、ナラの木を巣にして幼虫を増やす。
(ナラの木はブナ科でシイ、ブナ、カシ、クヌギ、コナラ、ミズナラなどを指す)
子供のころ、山のあちこちに炭焼き小屋があり、ナラの木を切って炭を焼いていた。暮らしそのものが、熊・イノシシのえさである、ドングリがよく実る環境にしていた。
わが家のテーブルはブナ科の合板を使用し、なかなか高級感があり満足している。また「カシノナガキクイムシ」が幼虫を飼育するために開けた穴は板に製材した場合、居酒屋などの壁に貼ると風情がある。
残りの枝は炭に加工する(炭の製造業)か、バイオコークス(工場)を製造する事により新しい産業が発生する。得られた燃料はビニールハウスの暖房になり季節外れの野菜や果物の栽培(近代農業)が可能となる。
これらのイノシシ対策が、第6次産業に変化し、山林の手入れにより河川が富み魚介類が豊富となり、漁業が盛んになり、魚介類の加工・販売・観光に発展していく。
このように、ブナ科の木々を老木になる前に伐採する(林業)ことから始まり、製材業・合板製造業・家具製造業・家具販売業・漁業・魚介類加工業・近代農業・野菜や果物の加工業・販売業・観光に発展する。
これらの産業は日本各地で対応可能で、地方創生に役立つと考えている。
(平成27年7月23日 日刊工業新聞掲載)

中国の若手女性経営者はチャレンジ精神が旺盛
チェーン店戦略・複合店経営/業態開発へ熱いまなざし
上野延城 (埼玉支部)
2014年の夏に日本への研修で来日した上海交通大学、海外教育学院生総裁コース2回目の研修が3月4日から10日まで、計7日開催された。
テーマは「チェーン店戦略・複合店経営」である。前回同様に研修団への講演と企業訪問・見学への依頼を受けた。参加者の業種は生活雑貨用品や婦人・子供衣料品等の流通業とショッピングセンター・デベロッパーの不動産業の経営者だ。
研修団は男性19人、女性12人で女性が4割で年齢構成も30―40代が中心だ。
1回目のセミナーは「次世代型チェーンストアの経営戦略」で筆者が講演をした。2回目は月刊「商業界」編集長である笹井清範氏による「日本の小売業の変遷とこれからの業態開発」の講演を開いた。
企業視察の一番目は東京・合羽橋で100年以上料理道具を営んでいる「釜浅商店」。
職人向けの専門店から、一般消費者へと対象顧客をかえ、さまざまな大型店に出店している企業。経営者からは会社の方針である、良い道具には、良い理由があります“良理道具”には料理をおいしくするかたちがありますとのコンセプトの解説を頂いた。店内視察では包丁の正しい選び方と使い方を担当者から説明を頂き、参加者は熱心に聞き入っていた。
2番目は生活提案型ライフスタイルショップとして日本全国に展開、業績を伸ばしている「アクタス」の業態開発店舗で東京・天王洲アイルにある「スローハウス」。インテリアショップからライフスタイルショップに業態開発した企業で「ひとの力を信じ真に豊かな人生を創造する」というミッションを全員の合言葉にしている。
担当者から業態開発の手順と解説。質問にも丁寧な回答を頂き参加者は満足していた。
今回の参加者は若手の女性経営者が多く、中国での業態開発の参考にしたいと意欲的であった。同時通訳者も20代の女性であり、企業訪問した会社の経営者からは若いのに素晴らしいとお褒めの言葉を頂いた。
中国の若手女性経営者が海外での研修を積極的に進めている。わが国でも女性の力を引き出すために企業の対応が急がれており、中国の若手女性研修プログラムは参考になる。
(平成27年7月23日 日刊工業新聞掲載)

プロコンサルタントの養成(上)
森田 喜芳(東京支部)
最近、われわれ経営士のコンサルタント業務が多様化してきている。従来は企業内に所属している経営士のコンサルタントが主力であったが、最近の傾向として、中小企業も外部のコンサルタントを活用する動きが出始めており、経営士もこれらの対応に努めている。
経営士会は、3年前から新しくプロのコンサルタント(経営士)の養成プログラムをスタートさせており、最近ようやくその成果が実を結んできている。
現在、経営士会のプロコンサルタント育成のステップは①経営士補養成校座②経営士養成講座③プロコンサルタント育成講座④プロコン・アドバンスコースの四つの講座を設けて実施している。
具体的には①と②は座学による経営士の養成講座であり、③のプロコンサルタント育成講座は特定企業と契約を結び、座学ではなく、企業の実態を現場の視察し、経営士会及び企業の監督者からの聞き取り調査、また、従業員へのインタビューなどを行いながら具体的な3年間の「中期計画」を作成、その結果をまとめて企業に提案している。
その後われわれの「中期計画」の提案が企業側で賛同いただいた場合は、次のステップの④プロコン・アドバンスコースでの人材育成を図っており、既にこのステップに入って2年目のプレス、溶接業種の企業と今年からスタートした機械加工業種の企業でそれぞれ1社の合計2社との3年間の個別契約により、われわれが③でご提案申し上げた「中期計画」の実現に向けて毎回企業を訪問して受講生&講師が一丸となって取り組んでいる。
なお、①、②、③の講座はそれぞれの日程は多少異なるものの土日を基本の短期集中講座で実施している。④については3年間のプログラムで、基本的には1ヶ月1回くらいのペースで進めて3年間で成果を達成するような計画だ。現在の2社からのわれわれの実施段階の評価は大変好評で、今後の成果に大いに期待している。
以上のように、われわれ経営士会のプロコンサルタント育成のプログラムにより、多様化している企業のニーズに具体的により現地、現場、現物、主義にて実際に「やってみて、してみて!」プロコンサルタンとの育成に取り組んでいる。なお、④の修了生にはその成果として今後1本立ちして開業しコンサルタント業務が出来るような指導も併せて行っている。
なお、更なる詳細は「経営士養成講座」を検索してほしい。
(平成27年7月30日 日刊工業新聞掲載 )

プロコンサルタントの養成(下)
永井 守(東京支部)
最近の経営士養成講座での修了生の傾向は①30―40代の企業に入リ経験を積んできた人達②60歳前後の人達、の2つの段階に分かれている。①のケースは企業で仕事を覚えて、今後自分たちが勉強&飛躍する将来のためのステップとして受講。②のケースは定年を目前に控えて、次の自分の人生設計をどのようにしていくか。自分の今までの経験を生かしての仕事の選択肢としてコンサルタントを一つの候補として勉強し「経営士」の資格を得る、など二つの別の目的を持った人達が受講しているのが特徴だ。
そのため、受講生も最近の3年間では、北海道、東北、北陸、中部、関西、九州など首都圏以外の人達の受講生が圧倒的に多く全国区からの受講生だ。受講期間の毎週の土、日、を遠方から飛行機で来て、ホテルに1泊し、東京の講座会場まで通って頂いている。
講師としては大変有り難く、その熱心さに頭が下がり、身の引き締まる思いだ。従って、経営士会と講師陣も最大の成果を上げるべく、熱心な指導と緊張感に包まれて講義している。修了生は同期会を作り、お互いの近況や勉強会など、定期的に集合して活動している。いわば「全国区 同期会」での展開だ。
その結果、われわれとしては、修了生には①プロコンサルタントとして1本立ち②継続した企業のコンサルタント③新規客先の開拓などいかに展開していくかといった懸案項目の解消がポイントだと考えている。
その解決の前に、経営士会がやらなければならないこととして、現在単独で実施している他の講座(a)MPP講座、(b)経営支援アドバイザー養成講座、(c)各種セミナーなどとの連携したプログラムの構築と教育システムを一気通貫したものに仕上げていかなければならない。
今後の経営士会は、それらの各プログラムが緊密につながり、有機的に機能するように展開を行い組織的に成果の上げ、会員のリクエストに応える行動をMUSTとして目指している。なお、「経営士会」および「経営士養成講座」の詳細は検索、もしくは「日本経営士会」に連絡すれば案内することになっている。
(平成27年8月6日 日刊工業新聞掲載)

地方創生における地域金融機関の役割
創業・事業承継・再生支援/中小融資の手法・指導開示を
岡部 勝成(九州支部)
黒田・日銀総裁は,「日本経済は長期デフレから脱却しつつある。しかし、持続的成長を実現していくには克服すべき課題も多く、金融機関の役割は大きい。」と述べている。さらに、「①大手行は世界経済に貢献を②地方創生を後押しするのが地域銀行の役割③経営統合検討は望ましいと指摘。その上で『世界や日本経済の構造変化をいかに金融ビジネスに取り込めるか』と提言した。」とも述べている(日本金融通信社、2015年7月3日)。とりわけ、②の地方創生を後押しするのが地域銀行の役割にフォーカスすると、地域は高齢化、人口減少、事業承継等いった問題が山積しており、これらを放置したり、先送りすると金融ビジネスへの影響は大きいと考えられている。
そのため各地域においては、地域の特性を活かしたビジネスマッチング、創業支援、事業承継支援、企業再生支援などの産学官金の連携を強化した取り組みが行われている。
こうした中にあって、わが国企業数の97・7%は中小企業であり、中小企業の発展なくして、地域の発展もないことは言うまでもない。
東京商工リサーチによると企業倒産件数は、14年度9543件、月平均795件、15年度4月748件、5月724件、月平均736件と減少基調が続いている。
また、5月は完全失業率3.・3%、有効求人倍率1.・19倍となっているものの、地域へのタイムラグがあるため、その実感は中小企業にとってデータとは必ずしも一致していない状況は、今も昔も変わっていない。
中小企業の資金(金融)支援は融資の間接金融、ファンドによる直接金融など多様化してきているものの、前者が圧倒的な割合で占められ、後者はわずかだ。
そこで、金融機関が融資の際に、与信判断の1つである回収可能性をみる手法を紹介する。
長期資金(融資)では、1年間に返済する元金(利息は除く)と2期分の(当期純利益+減価償却費)÷2の返済源資とを比較し、与信判断材料としている。
例えば、元金返済が毎月10万円だと、年間返済は120万円となる。一方、返済源資は前々期の当期純利益100万円+減価償却費30万円=130万円、前期の当期純利益110万円+減価償却費30万円=140万円だと(130万円+140万円)÷2=135万円で、120万円より135万円が大きいため、返済は可能とされる。
逆に、返済源資の方が不足した場合には、返済は不可能と判断されるが、社長の役員給与が700万円以上ある場合には、それを超過する役員給与を返済原資に含めて計算することもある。
このような手法は地域銀行のみならず信金・信組等の金融機関は活用しているため、中小企業への教育指導という観点から開示説明し、支援することが地方創生へとつながるのではないだろうか。
(平成27年8月13日 日刊工業新聞掲載)

身近な経営的教え
植木の病自ら摘み取る/企業経営も自ら確認・判断を
鈴木勇(北関東支部)
約330平方メートルの屋敷に松の木、モチノキなど植木がある。約50年前にボーナスから捻出して購入したためか、眺めていると愛着が感じられる。そのモチノキがスス病で枯れそうになった。数年前から元気が無くなり、毎年来てくれる植木屋に相談したところ、スス病にかかっているので消毒が必要となり、2度消毒してもらった。
しかし、植木に元気がなく、木の頂上までススで真っ黒に覆われてしまった。枯れ寸前だ。そこで原因を自分で調べることにした。足場を組み上げて見ると、小枝から葉まで真っ黒にススで覆われ、ススを取り除くと大きさ数ミリのカイガラムシが木の皮に無数にこびり付いていた。
カイガラムシは終生、樹上生活をする。雄は繁殖期に羽が生えて移動するが、雌はのろりと樹木を移動する。樹液を吸い、その排せつ液にスス病菌がついてススが発生する。雌は子孫を残すため、新芽が出る枝先から枝先へと移動する。小枝直径5ミリメートル、長さ10センチメートルの範囲に約30匹、少なく見積もっても数十万匹がモモチノキに吸い付いている。
薬剤散布を徹底することも考えられるが、飛散防止を完全にできそうもない。隣宅の生活環境に悪影響を与えることも問題。そこで、命綱を着け、グーグルで目を養生し、指でカイガラムシを剥ぎ取ることにした。3か月程かけて剥ぎ取った。今年はモチノ木も生気を取り戻している。
カイガラムシが何時から住み着いたのか、鳥あるいは木の葉に付着して風で運ばれて来て住み着いたのかは謎だ。植木屋任せにしていては、愛着のあったモチノ木も枯れてしまっただろう。
重要な判断は人任せにせず、自分の目で確かめることの大切さをカイガラムシから教えられた。会社生活で良く先輩から自分の目で確認することの大切さを教わった。企業経営についても同じような局面があるような気がする。カイガラムシ退治し、スス病対策が終わったと考えるのはまだ甘い。何匹かは生き延びているはずである。昔は木の根元にはアサリなどの貝殻を撒いて、カイガラムシが嫌う環境を作り、追っ払っていたらしい。植木に限らず、企業にとっても、生きて行く為の望ましい環境が必要である。「免震偽装」などの悪の芽を摘み取る企業風土、体質が今こそ求められている。
(平成27年8月20日 日刊工業新聞掲載)

ISOダブルスタンダードで苦悩する企業
情報処理ルート体系図化/目標管理明確化で利益創出を
永井守(東京支部)
ISOについて、①ダブルスタンダード、ISO向けと社内用の規定が存在②ISOは実務で役立たない③ISOは面倒くさく実用的ではない④ISOは利益を生まないといった声を良く耳にする。
ISOの認証を取得していることで、企業のネームバリューが向上し顧客から受注を受けやすいとの安易な発想でしかISO取得価値はないのだろうか。
ISOの要求事項を企業が運用管理することで、出荷商品を品質保証することが可能となる。管理体制の拡充でムダ・ムラが無くなり、管理工数の低減により製造原価が改善され、市場競争力の強化により、受注競争に勝ち、利益の向上が達成できる。
このように、ISOを適正に運用管理することで利益の獲得が図れる。こうしたことがなぜ起こるのか分析してみよう。
① ブルスタンダード発生原因。構築された品質マネジメントシステムが取得した企業の現実とかけ離れしまっていることが上げられる。なぜ現実とかけ離れてしまうのか。それは、ある企業向けに構築した品質マネジメントシステムをそのまま他の企業の品質マネジメントシステムに適用することにある。
企業の規模・組織および業務分担は全ての企業で異なる。これに共通の品質マネジメントシステムを導入すること自体に誤りがある。取得する企業の品質マネジメントシステムを構築する場合、品質マネジメントシステムの体制を示す品質保証体系図を各社各様にトップマネジメントと各部門の責任者が業務責任分担を取り決め、情報処理ルート(受け付け・分析・決定・承認・指示・実行・報告)を体系図化する必要がある。
② ISOは実務で役立たない
③ ISOは面倒くさいだけで実践的では無い原因。これは、先ほど述べた品質保証体系図が現実と合致してないことに起因する。例えば客先からクレームが寄せられた時、受け付け・原因分析・クレーム発生部門への改善指示・文書の改訂や治工具の設置そして客先への回答説明をどの部門が実施するか決定されていることが必要だ。
④ I SOは利益を生まない理由。これはISOの要求事項にある目標管理方法を明確に実施する規定がないことで、目標管理シートの活用を薦める。
(平成27年8月27日 日刊工業新聞掲載)

日航機事故30年、品質管理の視点から分析
イレギュラー工事に原因/「設計・開発変更管理」明確に
永井 守(東京支部)
今年で早30年。日航機事故が新たに取り上げられ発生原因は、「後部圧力隔壁」の修理ミスでこの修理内容を「品質管理」の観点から分析してみる。
修理は破損した新たな外壁を取り付ける際、「スプライスプレート」と呼ばれる1枚の補強板でリベット接続をさせるが、事故機は1枚の補強板を切断し2枚の補強板にして補強を行った。この切断により、接続する外壁と接続する補強板2枚で補強するところ、1枚の補強板で圧力を耐える事になり、その部分から破断が発生したと当局は分析している。
1枚の補強板を接続する設計部門からの指示に対して、何故2枚に接続した補強板をわざわざ使用して取り付けしまったのか。報告では、横方向にリベットを3カ所打つ事になっており、新たに接続する隔壁・補強板・従来の隔壁3枚を、2本のリベットで接続される指示になっている。
ところが、事故品は補強板が2枚に切断されているため、一見3枚の板を2本のリベットで接続しているように見えるが、補強板1枚で強度を確保した状態になっている。修理性から見ても、2枚の補強板を接続するより、1枚の補強板を接続する方が作業性は優れていることは誰もが考えることである。
それがなぜ2枚の補強板を取り付けることになったのか、ここで補強板作成時点にミスがあったことが考えられる。隔壁接続のリベット穴間隔は既に初期設計当時から設定されており、修理の為に作成された補強板のリベット穴間隔が少し短いと仮定すると、補強板を取り付けすることは不可能となり、1枚の補強板を接続・分離することで容易に補強板を取り付けすることが可能となる。推測だが、補強板のリベット穴間隔寸法を間違えて穴あけしてしまい、補強板を取り付ける前の工程で誰かが補強板を切断した事が考えられる。
筆者は大手電気企業に勤務していた時、設計ミスによる改造指示は正式図面を添付が無く、指示内容が不明確のため改造製品の不良が多発した。
日航機事故もこのイレギュラーな工事によるものと考える。ISO Q 9100では「設計・開発の変更管理」で明確に規定されている。
(平成27年9月3日 日刊工業新聞掲載)

日本版CCRCと地方創生
高齢者ケア・支援多様化/実行には多くのコンサル必要
佐藤富夫(南関東支部)
日本経営士会も日本国内の高齢化対策の一環として、10年前から東京都や神奈川県で、介護健康情報公表制度調査員として活躍されている会員先生が多くいる。
私も調査員として東京都内を3年間担当した。
2年前に地域産業支援代表として活動中、日本政府も2014年9月に日本版CCRCを発表しました。
日本創生会議の提言は、一言で言うと東京圏より、地方に、高齢者と介護人材が集まり、人口流入に拍車が掛るという危機感が強く、全国的に認識とご理解のPRと考えて頂くこと。国家的対応が必要と同時に大変幅の広い仕事のため、経営士会員の協力の場が多くなると考える。
CCRCとは、コンパクトに軽度から重度まで複数の介護施設を集中して設けるシステム。高齢者が健康状態に応じたサービスを受けられる環境づくりを目標としている。米国では、23年前よりスタートし大変多くの実績があり、また、日本でもミニ版としてスタートしている地方都市がある。
長野県佐久市の成田山薬師寺にピンピンコロ地蔵という地蔵様があり、コロッと死ねる「ご利益」を追い求め年間5万人の参拝客がやってくる。昨年私も拝見させてもらったが、参道にはピンコロ団子、ピンコロTシャツなどなど大変な賑わいだった。
奈良県の吉田寺というお寺は、「ぽっくり往生の寺」として高齢者の間では、ご利益がある有難いお寺とのこと。私達も今後の人生は増々高齢化を見ながら、ピンピンコロリ、ネンネンコロリを支援したく考えている。
実行には多くのコンサル業務が要求されます。
多くの方々の御成信のおありの方の、お言葉をお待ちしております。
日本の現状を少々お知らせいたしますと、同居している介護者の介護時間は、要介護5の人は、ほとんど終日、80%程度の時間を取られているとのこと。平均寿命と健康寿命の差は、男性で9・13年、女性で12・68年(平成22年厚生労働省完全生命表)だ。
今後増々高齢者の対応に応じたさまざまなアプローチが必要だ。
(平成27年9月10日 日刊工業新聞掲載)

ゲームで楽しみながら環境経営を学ぶ
学生の就活前企業研究に一役/事業活動の現実を知る
河上晃(近畿支部)
2015年度の学生の求人状況は大きく回復し、明るい見通しである。就活の最大の目的は、
学生が就職した企業で充実した職業人生活を送れる環境とめぐり逢うことといえるが、入社3年以内の離職率30%強の厳しい現実もある。
最近のニュースでは、「環境経営」という言葉がよく目につく。日本経営士会は、愛知県中部大学の伊藤佳世准教授のご指導のもとESDエコマネーチームによって開発された「環境ゲーム:もし社長だったら」(ゲームで楽しみながら環境経営を学ぶ講座)を伊藤佳世准教授の許可を得て、普及のために日本経営士会中部支部において制作した「環境ゲーム」がある。
その環境ゲームを、大阪府内の某大学で就活中の学生3名と弊会(日本経営士会)会員2
名とで行った。学生の環境への意識は高いものがあり、特に就職希望企業の環境活動には強い興味を示した。就活前の学生の企業研究の一環として環境ゲームを行えば、就活の深掘りになると考えられる。
ただ、環境経営を討議するには、それなりの基礎知識が必須であり、その面では商工会議所で実施しているECO検定(環境社会検定試験)が、環境関連の基礎知識を習得するのには最適と考える。
そこで、大学内のエクステンション講座などでECO検定対策セミナーを実施して、E
CO検定の受験から環境ゲームへと進めると、就職希望企業の立場に立った企業研究がで
きることになる。
「環境方針」や「環境側面」など、就職希望企業のリアルな事業活動を研究することができ、その企業で働くことの現実を能動的に理解できる。
企業にとってはCSR(顧客満足度)活動の発揮になり、学生にとっては企業活動を深く理解できてエントリーシート作成や面接試験への大きな自信にもなる。さらに雇用のミスマッチの課題解消にもなるだろう。
企業の目立つ部分のみでなく、本当の事業活動の現実をどう伝えるのか。
このリアルの部分に真剣に取り組むことは、学生が就職した企業で充実した職業人生活を送るための企業や大学からの大きな支援になると考える。
日本経営士会は環境経営について主に初心者向けに環境ゲームの普及を図ると同時に、
より専門的には「環境経営士R」の資格を作り養成を行っている。
( 平成27年9月17日 日刊工業新聞掲載 )

優良企業になる7大要素
商品開発の計画万全に/社員全員前向きにQCD向上
永井守(東京支部)
筆者は、優良企業になる七つの要素があると考え、以下にその内容を紹介する。
第1に、商品開発計画、筆者がある企業に勤務していた時、新製品の出荷が迫り量産生産を開始したが、不良が多発し設計変更を余儀された。
設計部門は設計変更による評価を十分せず、生産を再開したが、再び不良が多発した。(設計変更→不良多発→設計変更の繰り返し)。このことにより、出荷が大幅に遅れ市場のシェアを獲得する事ができなかった。
この原因は、完璧な開発計画が作成されてなく、設計評価・QC工程図の作成・量産評価・出荷審査など一連の実施計画を設定せず、量産を開始した事に起因する。
第2に、製造しやすく・高い良品率を達成する設計か、デザインレビューを実施する事だ。
設計不良により、組立後の精度が悪い・組立工数がかかり過ぎ等排除すべきだ。
第3に、安定した生産ラインを構築しているか。QC工程図の完成。
QC工程図の作成において、点検頻度や管理値を過去の経験で設定するのではなく、統計的手法で変化やバラツキを分析し設定する事が重要。
第4に、社員全員が会社の目標・目的に向かって活動しているか。QCサークル・5S・改善・提案などの活動を実施しているか。
社員全員がQCDの向上を前向きに活動する会社風土を作り上げることだ。
第5に、会社の全ての社員が目標達成のために、目標管理活動を実施しているか。目標管理を実施する場合、「目標管理シート」を活用して行うことだ。
第6に、品質・納期・価格が適切な購入品を仕入れるために、購買管理の戦略を持っているか。
QCDが悪く、クレーム対応が遅い購入先とつい合う事は避けるべき。また、納入日程が決定した時点で、購入先が倒産すると客先に大迷惑をお掛けする事になり、次の受注はあり得ない。
第7に、将来も経営が安定し、適切な価格(C)・品質(Q)および納期(D)を要求する顧客取得で、過度なQCDを要求する企業は避ける。
大口受注を受けても、納入先が倒産する事は避け、将来性あるか評価する必要がある。
以上、優良企業を維持するには、上記事項を厳守する事が重要になる。
( 平成27年9月24日 日刊工業新聞掲載 )

優良企業になるための1つ目の条件・・・商品開発
他社に先行シェア確保/社会環境からニーズ読み取る
永井守(東京支部)
ソニーは「音楽を携帯し気軽に楽しむ」というコンセプトで「ウォークマン」を発売、当時ラジカセ時代にラジオなし・カッセットテープで良質の音楽を聴く商品は爆発的にヒットした。
このコンセプトは「ラジオ機能なし」で音楽を聴くと言う普通考えられない商品だった。このコンセプトでの開発は競合他社が開発を全く考えなかったもので、思いもよらぬ商品だった。
シェア確保は、競合他社が思いもよらぬ商品を開発したり、他社より先行した技術力により商品開発を行うことにより、独占的に市場を獲得可能となる。
このように、商品開発力が高い企業は競合する商品がないために、思い通りの価格設定を行え、利益率の高い販売活動が行える。
では、商品開発はどのような手法を活用するか、紹介する。
① 会環境から顧客が欲する商品開発
ソニーの開発手法を想定するに、おそらく「連関図」を活用したものと思われる。
連関図法は字の如く、物事を関連付けて理論展開する方法で、読者がご存知の「風が吹けば桶屋が儲かる」的理論展開を進めて行く。
例えば、ソニーのウォークマンについて想像で展開してみる。
ラジカセ人気がピークを迎えつつあり、新たに新商品を開発し他社が思いもよらぬ商品を開発し、市場を独占する→そこで、発想を展開し、「散歩の時に良好な音楽だけを聴き快適にしたい」と結論する→軽く・薄く・良質な音響→この内容を「品質機能展開」により、製品規格値(寸法・重さ・音響発生の周波数帯など)を設定(設計)する。
設計できれば、製品実現計画に従い生産し、販売する。
②先端技術開発を予測し、活用した商品開発環境に優しい、ハイブリッドカーについて考えてみよう。
ハイブリッドカーのアイデアや技術は1970年代からあったが、ハイブリッドカーに必要な大容量のバッテリーが未開発だった。
最近、大容量のバッテリーを利用することができ、ハイブリッドカーが量産されている。
同様に、高齢化で足腰が弱まった老人向けの「ロボットスーツ」は過去から必要とされてきたはずですが、関連の技術が開発された事で実現している。
( 平成27年10月1日 日刊工業新聞掲載 )

プロコンサルタントの育成①
受講期間中3回企業訪問/三現主義で事業計画作成
森田喜芳(東京支部)
最近われわれの仲間である経営士の育成を、座学だけでなく、実際の企業に行って診断する必要性が出てきた。最近新しく入会してくる経営士の中からの要求も出てきており、そのリクエストに応えるべき新しい経営士の講座「プロコンサルタント育成講座」を開設している。この講座は、既に「経営士養成講座」などを修了している「経営士」が主に受講。企業診断をした企業には更に3年間勉強する「アドバンスコース」の講座も設けている。
現在の「経営士養成講座」は短期集中講座で土、日、の11日間コースは本部で、年に2回、また他の13支部で開催をしており、本部で本年度は「第41回経営士養成講座」を9月5日よりスタートして10月10日に修了予定だ。
次のコースである「「プロコンサルタント育成講座」は、既に第5回を迎え、次回は11月7日より12月5日までの12日間を経営士会本部にて開催する。この「講座」も年間2回の予定である。この講座は現場での学習を含み受講期間中に3回企業訪問して現場視察~経営士&監督者との打ち合わせにより最終的には3年間の経営計画(中期計画)を受講生が主体となって作成してまとめ、企業側に報告している。
この講座はいままでのコンサルタント育成講座では、他に類がない中小企業の現場に行き、三現主義(現地、現場、現実)を確認しながら、企業の経営者&監督者との面談により改善項目の抽出を行い、3年間の中期事業計画を作成する講座だ。
現在までの過去4回では、受講生より大変な人気で企業からもご好評をいただいている講座。その後、受託企業には経営士会の全国大会で「特別賞」などの表彰もしており、日本経営士会、受講生、受託企業の三位一体となって実施している大変ユニークな講座として好評である。
なお、「経営士会」及び「プロコンサルタント育成講座」の詳細はHP検索もしくは「日本経営士会」に連絡すれば案内することになっている。
( 平成27年10月8日 日刊工業新聞掲載 )

プロコンサルタントの育成②
「道場」で師範と学ぶ/最初の工場見学「目からうろこ」
森田 喜芳(東京支部)
新しいプロコンサルタントの誕生する育成課程は、初めてのプロコンの卵の人達をいかに効果的で効率よく育成して、一本立ちさせていくかの育成業務でかなりの熟練者と教育プログラムが大変重要だ。
これらの育成業務は、経験豊かな現役コンサルタント業の講師の指導により、企業の協力を得て、コンサルタントの仕事の仕方からご提案、最後に実際のコンサルタンティングまでを実施する。現実の仕事の仕方を現実の企業を診断して、経営者や監督者とのヒヤリング、また講座の開始前には従業員に事前のアンケートや面談などを実施して現状把握してから講座をスタートする。
これらの実態の講座を受講するメンバーには、オリエンテーションとして講座実施のプロセス、事前の確認事項、機密保持契約などを結び、企業の決算状況なども理解してもらっている。
原則として講座は土、日の短期集中だが、3日間の企業訪問を金曜日に企業が操業している時に訪問し工場視察して経営者&監督者との打ち合わせで実態の把握と今後の計画などを確認し、12日間の講座修了時にはまとめとして企業の経営者にご報告し、ご評価を頂いている。これらの業務を通じてプロコンサルタントとは何かの「実務編」を学ぶ機会を持っている。
この育成講座は今後のプロコンサルタントを目指す人達の修行の場で大変良い機会であり、いわゆる「道場」で師範と一緒に学ぶチューター(Tutor)制度と言っても良い。
これまで過去4回の受講生は、皆さん座学での修業を積んできているものの、現場や企業訪問、経営者、監督者との打ち合わせ、質問の仕方から問題点や改善点を抽出などは現地、現場にて修行をしてもらっている。
中には工場見学などは初めての受講生には、「工場見学の仕方」の講義をして現場を訪問している。それらの受講生は最初の工場見学は「目からうろこ」の連続であり、驚きと現実のコンサルタント業を学ぶ講座では当会が唯一の講座である。
なお、さらなる詳細は日本経営士会の「プロコンサルタント育成講座」を検索してほしい。
( 平成27年10月15日 日刊工業新聞掲載 )

プロコンサルタントの育成講座③
専門性実務でさらに磨く/中小支援ノウハウを蓄積
森田 喜芳(東京支部)
経営士会での「プロコンサルタント育成講座」の最終報告で、今後3年間の中期経営計画を企業側に提案して、企業側が受け入れられれば、その中期計画を3年間で実現する講座「アドバンス・コース」というコースを受講生に提供している。
このアドバンス・コースは3年間にわたり企業と一緒になり、コンサルタント業務を現実に経営士会の専門講師と毎月1回の割合で企業訪問してその進捗状況の確認と次のステップの事前打ち合わせを行っている。
最終的には、この講座の目的は実際の企業からコンサルタントの実務を学び、「独立プロコンサルタント開業」に向けての修行の場である。これらは受講生の今までの経験や知識、スキルの違う全国からの受講生がそれぞれの専門性を更に磨きをかけて、お互いに切磋琢磨して中小企業の支援をしていき、ノウハウの蓄積と独立開業のネットワークの構築に大いに役に立つことであると考えている。
現在、「アドバンス・コース」は既に二つの東京都内の企業と協力して実施している。1期生&2期生の受講生は全国から広範囲にわたり、九州地区、東海地区、関東地区からの人達の集まりで毎回積極的な活動を展開している。1カ月に1度の企業訪問では、各人の専門分野の事前の準備と企業訪問後の翌日には次回の進め方などの打ち合わせを行っている。
毎回の企業訪問に際し、受講生の自主的な申し合わせで自前の作業服に着替えて、現場視察を行っている。この学習姿勢は企業側の工場従業員の皆様には受講生を受け入れて頂き、緊密な関係の中で仕事が進められている。
この講座は3年間の受講の中で、受講生自身の専門分野をテーマにした企業での学習と現場での知識を習得して独立開業する大変良い受講生同士の出会いと同期会などの横のつながりは生涯の友となり有形、無形の財産となり今後の人生に大いに役立つ出会いであると考えている。
なお、このアドバンス・コースは「プロコンサルタント育成講座」の修了生を対象に提供している限定したプログラムである。
詳細は日本経営士会のホームページ(HP)を検索していただき、事務局に連絡すれば案内することになっている。
(平成27年10月22日  日刊工業新聞掲載)

プロコンタントの育成④
実践舞台、企業診断で腕磨く/真の強み無形資産探す
青樹道弘(東京支部)
一般社団法人日本経営士会が特長のある養成講座を開講していることは、8日の森田喜芳氏の原稿で説明があった。第5回プロコンサル育成講座が2016年4月9日から始まる。既に4回を実施している他に類を見ない講座だ。
弊会では、経営士養成講座を修了すると「経営士」の資格が付与される。経営コンサルタントを目指すうえでは必要な資格だと考える。しかし、「資格」だけはあるものの、実践舞台がなく、活動の一歩を踏み出せない人も中には居る。そのためのフォローアップ講座がまさにこれだ。
実際の企業に出向き、経営者・経営幹部へのヒアリングポイントを的確に掴む技を磨いている。その協力してもらう企業からは決算申告書ベースの財務諸表3期分を提出してもらい、資料上の分析を行う。日本経営士会は企業と機密保持契約を取り交わし、同時に講師・受講生にも誓約書の取り交わしが義務付けられている。
この講座は13年6月から始めている。第1回目の企業は金属切削加工業、第2回目の企業は精密板金加工業、3回目は業務用冷凍スイーツ加工業、4回目は精密金属(難削材)切削加工業に診断を受けてもらった。
企業診断では、どの企業も数点の課題が挙げられた。実際の訪問日は企業が稼働している金曜日を診断日に充てている。診断後土・日曜日でヒアリングや工場診断の結果から抽出された問題に対してグループ討議をし、次なる詳細なヒアリング内容を決める作業となる。これを2週実施後、企業の保有する「真の強みとなる無形資産」を探す。
分析方法は中小企業経営革新等認定支援機関に基づく手法やSWOT、PEST、3C、5FORCEなどフレームワークを使って2チーム(1チーム5名以内)で討議を進める。受講できる人数を10名以内としているのはそれ以上になると診断企業訪問上からも、収容スペースなど制約があり難しい事が現実にあるためだ。
実践的なヒアリング内容はまず経営者の考え方(経営理念・経営方針・将来への抱負)だ。ヒアリング項目を決める際には、この企業の業界、位置づけ、外部から入手できる情報、など事前調査をチームで実施しておく事が前提となる。
なお更なる詳細は「プロコンサルタント育成講座」を検索してほしい。
( 平成27年10月29日 日刊工業新聞掲載 )

プロコンタントの育成⑤
幹部ヒアリング最大の山場/経営提案後の講評経て修了
青樹道弘(東京支部)
経営者から話を伺う時はヒアリングのマナーなども講義している。もちろん工場診断の視点やメモの取り方も講義する。製造現場では、モノづくりの部品や製品に目がいってしまいがちだが、工場の説明を受けながら、いかにメモを取るかが重要だ。
撮影の許可は事前に確認しておくので、それに応じた診断が必要になる。金曜日の午後から診断を開始し、3時間ぐらいで終了する。この日は現地で解散だがどのチーも、目の前で知り得た情報などを近くの喫茶店などでまとめて、翌日からのグループ討議に備えているようだ。
翌週の金曜日は経営幹部にも加わってもらい、九つの切り口に関するヒアリングが実施される。ヒアリングの内容については、2チームから抽出された課題を組み合わせて内容を決める。この作業はなかなか工夫が必要だ。
企業を訪問し、切り口ごとに担当者している受講生からヒアリングを始める。この週の土・日曜日がこの講座の最大の山場だ。
講座進捗によって終了予定時間の17時が19時まで延長されることが多々ある。
クロスSWOT分析後、ポートフォリオ作成、アクションプログラム立案までこの後の2週の講座でまとめる。1週あけた後の金曜日に企業を訪問し、「経営向上のご提案」として、受講生から企業にプレゼンテーションを実施する。このレポートは企業側に提出され、経営者から講評を受ける。
ここまで12日間の短時間だが、とても内容の濃い講座で一緒に討議した受講生はその後も良い仲間となって同期会を開催し、横のつながりを作っていることも事実だ。
最終日には「修了式」が行われる。
修了式からその後の懇親会に診断企業の経営者にも出席をしてもらい、12日間の苦労話や今後のそれぞれの進む道に対して話が弾む。
このプロコンサル育成講座で立案した計画はその後の更なる3年間のフォローアップのためのアドバンス講座につながる仕組みができている。これから受講を目指す経営者はプロの経営コンサルの視点で自社を診ることができ、将来プロの経営コンサルタントを目指す者にとっては実践を経験する事で自信が付くと言う非常に価値のある講座だと胸を張って言える。
なお「日本経営士会」「プロコンサルタント育成講座」の詳細は検索もしくは「日本経営士会」に直接電話にて問い合わせをしてほしい。
( 平成27年11月5日 日刊工業新聞掲載 )

経営士養成講座―①
森田喜芳(東京支部)
最近、浜松地区にある自動車用部品のT-1サプライヤーの金属加工メーカーを訪問する機会に恵まれた。自動車会社と取引先の関係について現状を教えてもらうために訪問した。当日、応対してもらった取締役営業部長さんとの話の中で、海外展開について日本の大手自動車メーカーさんの対応の仕方を聞かせてもらった。
世界のトップメーカーは、日本人以外の従業員がいる場合は全て「英語」による取引の話を徹底しているとのことだった。別の大手の自動車会社でも、同じように英語を主体に商談しているものの100%英語に徹しているのはさすが、トップメーカーだとのことだ。
小生も某自動車会社購買担当を経験していたが、現在はそこまで徹底されているとは知らず、時代の変化に一瞬驚きの話だった。
営業部長さんの話では、これからは海外展開が企業の生き残り戦略がMUSTであり、そのコミュニケーション・ツールとしては、言語を現地語又は英語が必須の条件で、自社でも実施しているとのことだった。
日本経営士会本部は、「経営士養成講座」を年間2回開いている。最近では10月度に開催して修了したが、その中で常に変化に対応すべき時間の調整時にはいくつかのテーマを予備に準備しているが、今回もその機会が訪れた。
約1時間半の時間帯を英語によるワンポイント・レッスンをアシスタントの女性にお願いして実施したら、その講義時間が大いに受けて、受講生&講師から今後はこの養成講座の正規の講座のプログラムとして組み込んだらどうか。と皆さんからリクエストされて、「瓢箪から駒」の現象だった。
我々の「経営士養成講座」は「海外展開に必要な基礎と実践手法」の講座を設けており、毎回アンコールが出るほどの人気講座だが、経営士コンサルタントとしてのMUST項目のコミュニケーションについては迂闊にもあまり重視していないきらいがあった。
今後はこの教訓を生かして次回以降の養成講座に英会話を取り入れていこうと考えている。
なお、「経営士会」および「経営士養成講座」の詳細は検索、もしくは「日本経営士会」に連絡すればご案内することになっている。
( 平成27年11月12日 日刊工業新聞掲載 )

経営士養成講座-②
森田喜芳(東京支部)
経営士会の「経営士養成講座」を修了した「経営士」にコンサルタントへのステップとして「プロコンサルタント育成講座」を開設している。この講座は、既に「経営士養成講座」などを修了している「経営士」が主にプロコンサルタントを目指して受講していることは以前にご紹介したとおりであるが、同時にセミナーや講演会などに講師としての活躍する出番のリクエストも出始めてきている。それらの講師としての育成も別の機会を見つけて育成の場を提供している。経営士養成講座を修了したメンバーが中心となって「オーシャンズ」という勉強会を定期的に開催している。

オーシャンズの定例会は現在のまで15回開催している。当初は第36期「経営士養成講座」を修了した「同期会」からスタートして3か月に1度定例会を行っており、現在は多くの経営士やその友人や仲間たちで毎回30人のメンバーにて開催している。そのオーシャンズの定例会では「道場」という新しい経営士になられた人達を対象に「講師」への登竜門として門戸を開き、毎回2名が挑戦しており、道場主、師範代、よりの評価コメントを頂き、「講師」としての1本立ちする道を設けている。現在までに既に8名の挑戦者が「講師」として巣立っている。

最近、ある大手の企業を退社した人が現在再就職を目指して企業訪問し面接をおこなっていた。自分の過去の仕事での経験をPRして、就職活動を行っているが、ご自身の長年の経験した仕事のPRには企業側では、ほとんど興味を示さなかった。しかしながら、自分の経験を生かした「講師」として「経営士養成講座」などで講話を実施している講演資料や講演会の写真などを見せて説明すると、企業の面接官は途端に興味を示して身を乗り出して話を聞き質問するようになってきて、面接での話が大きく前進してきたとの事であった。これはオーシャンズでの「道場」の挑戦が大きく役立ったとの話を聞いた。

我々、経営士会では「経営士養成講座」の修了者には「道場」の提供と「講師」への登用を行っている。是非とも多くの経営士養成講座を修了して講師などで活躍していただける事を期待している。

尚、「経営士会」及び「経営士養成講座」の詳細は検索、もしくは「日本経営士会」に連絡すればご案内することになっている。

( 日本経営士会:森田喜芳 042・946 ・1443 )

経営士養成講座③
60年以上の伝統と実績/「一杯飲んだつもりで自己研鑽」
釜澤 直美(南南東支部)
64年の伝統と実績を誇る日本経営士会は、1951年(昭和26年)、日本の産業復興に向け、企業経営を担う人材の育成並びに企業経営のノウハウを支援する組織として、当時の通商産業省(現在経済産業省)と経済安定本部から推奨され、誕生した。その役割は現在も設立時に目指した三つのミッションを粛々と真摯に遂行している。
本紙面では三つのミッションの内の一つ「経営コンサルタントの育成と研鑽支援活動」についてご紹介したい。このミッションの主な活動に「経営士・補養成講座」がある。この講座は、経営コンサルタント並びに戦略的経営を目指す経営幹部・後継者向けへの講座として経営士会は38年にわたり、800人を超える経営コンサルタントや企業経営のビジネスリーダーを排出している伝統ある講座だ。
昨今、日本を取り巻く経済環境は経済連携協定(TPP)に見るように域内の国家間で自由な貿易環境が確立され、一段とグローバル化が進展する事が予想される。これらのグローバル時代を迎え、経営コンサルタントに求められる能力として、国際感覚、特に海外に進出される企業等に的確な戦略的経営指導、各企業ニーズに対応した人材の育成支援能力等が強く求められてくる。
こうした中、この「経営士・補養成講座」を担当する講師は、大手製造業並びに商社、外資系企業の経験者、更には国家資格を持ち活躍中のコンサルタント諸氏が行なうのでグローバル化時代に即応した実践的な講義が受けられると好評である。さらにこのコースは、土・日中心の講義のため、現役ビジネスパーソンも無理なく自己研鑽に挑戦ができるのも人気の秘密だ。
この経営士養成コースには、経営士会総合研究所が主に実施する「経営士養成講座」、各支部が主に実施する「経営士補養成講座」、経営士資格筆記試験等があるので、自身の素養に合わせて挑戦することを推奨したい。
最近、ある雑誌に「一杯飲んだつもりで自己研鑽」の記事が載った。自分が本当にやりたい事に就きたいが、素養が足りないと悩む諸氏、グローバル化時代に即応した経営コンサルタントを目指す諸氏、一杯飲んだつもりで、日本経営士会が誇る伝統あるこれらの講座に挑戦されてはどうだろう。2016年1月開講予定の「第42期経営士養成講座」受講生募集中。
( 平成27年11月26日 日刊工業新聞掲載 )

経営士養成講座④
企業とは…目的は・誰のもの/自分が信じる企業観確率を
石倉 憲治(東京支部)
年明け早々にスタートする「第42期 経営士養成講座」の受講生を現在募集中だ。受講者には各分野ごとの専門知識、能力を身につけてほしいと願っている。講座全体を通して、是非『自分が信じる企業観』を確立されることを期待している。
経営学において、昔から企業とは何か。 企業の目的は。 企業は誰のもの。などの論議が行われてきた。企業観と呼ばれる論議だ。
現在の企業観において素朴な疑問は、「企業とは、企業経営に日々汗水流して活動している経営者やその従業員のものではなく、投資の対象としてリターンに血道をあげている投資家・株主のものである」とされることだと思う。
この疑問に対し、「株主が企業に投資をすることで、企業は事業活動の生命線である行うべき研究開発投資ができる。また、株主は企業のリスクを負担している。もし、事業活動の結果、決算で欠損が発生したとしても経営者と従業員の生活および仕事は、当面支えられるし、事業活動は続けて行えるであろう。だから株主が持つ取締役選任・解任権、定款変更等の決議権はそのリスク負担に対する株主自身の負担軽減のために付与された権限だ。  企業が株主のものであるから経営者と従業員は安心して働けるのである。企業は株主のものである」と説明するのだろう。
企業観は各国により異なる。分類すると二つに大別される。一つは米国、英国で定着した考え方のアングロサクソン型と呼ばれる“株主用具観”で、前述の疑問に対する回答の思想だ。
もう一つはドイツなどのヨーロッパで定着した考え方で、ライン型と呼ばれる“多元的用具観”だ。会社は多様な利害関係集団の共通の用具(利益を生み出すもの)と考える思想だ。従来、日本はライン型の“多元的用具観”の思想が支配的だったが、バブル崩壊後、2005年に新しく会社法が制定されて以来、アングラサクソン型の“株主用具観”が強く支持されるようになった。 受講を通じて、このあたりのオジリナルな考え方の確立も期待している。
なお、経営士養成講座の詳細はHPで検索されるか、もしくは「日本経営士会」に直接お問合せいただければご案内している。
(平成27年12月3日 日刊工業新聞掲載)

優良企業になるための条件㊤
設計品質、チェックシート活用/品質計画書で設計不良防ぐ
永井守(東京支部)
設計品質を語る上で品質管理の歴史を振り返って確認しよう。
1970年代のころ、筆者が品質管理担当者として購入先の工程監査(受入検査部門)を行った際、何故か受入検査部門の社員が全数検査を行っていた。理由を聞くと不良率が高いため、全数検査を実施し、不良は購入先に良品と交換するようにしているとの回答だった。
受入検査の抜き取り検査で不合格となったロットは全数返却をするように変更した。
購入先に対しては、不良を作らない工程管理を実施するように指導したが、設計不良により、工程管理では不良を撲滅することはできなかった。
設計不良の発生原因は、①仕様項目や図面寸法の記入漏れ②試作又は量産評価の未実施③予期せぬ仕様項目を規格化しないための不良発生で、これらの設計不良を撲滅する手法は、「①仕様項目や図面寸法の記入漏れ」は、確認漏れ防止方法を確立すれば良いことで、チェックシートを活用すれば解決できる。
仕様書および図面を作成する担当者がセルフチェック段階でチェックシートを活用する方法や設計審査でチェックシートを活用する方法もあり、また仕様書においては決まった仕様書書式に規格値を記入する方法を使えば良いことになる。
「②試作又は量産評価の未実施」は、ISO/TS 16949で要求しているように、「品質計画書」に実施する日程・内容を記載し、「品質計画書」に従って実施すれば問題ない。
「③よきせぬ仕様項目を規格化しない」は、少し苦労するが、やはりISO/TS 16949で要求している「FMEA」(Failure Mode and Effect Analysis=故障モード影響解析)
を活用すれば良いことになる。
不良が発生しそうな項目を予測して、事前に不良予測発生項目を規格化すれば良いことだ。
例えば、「爪切り」で深爪を防止するために、深爪防止ストッパー(できるかどうか分かりませんが)を付加すれば良いことによる。
「故障モード影響解析」は、特性要因図や連関図で解析することが可能だ。
このように設計不良の防止で、工程内の不良防止による原価低減や出荷後のリコール防止で莫大な設計不良コストを皆無にすることができる。
(平成27年12月10日 日刊工業新聞掲載)

優良企業になるための条件㊦
工程設計と工程管理品質/各項目設定、一連の作業で不良防止
永井 守(東京支部)
企業の生産活動においてしっかりとした商品開発後、設計審査を完了すると、次はQC工程図(製品が完成するまでのフローチャート)・QC工程表(管理する内容記載した表)を作成する工程設計になる。
このQC工程図・QC工程表に従い作業を実施すると、不良を作成しない製造方法となり、以下に内容を紹介する。
まず第一に検討することは、管理する項目を決定することで、分かりやすくラーメンを作る例で考えてみる。
ラーメンをゆでる際、お湯の温度とゆでる時間を決定しなければならない。ラーメンだから簡単に温度と時間を管理しなければならないことはすぐに思いつくが、工業製品の製造ではこんなに簡単に探し出すことはできず、「FMEA」・「特性要因図」・「連関図」などの手法を活用する。
管理する項目が決定すると、品質特性を決定することになり、ラーメンでは「食感」とか「歯触り」が上げられる。
食感とか歯触りは「官能」ですので、これを科学的な数値に置き換えることが必要になり、ゆでる(温度・時間)と麺の(硬度・伸び率)を決定しなければならない。
この温度及び時間を割り出すために統計的手法を活用し、管理する数値を決定する。
ゆでる温度を100度Cとし、ゆでる時間と麺の硬度または伸び率を相関分析すれば、ゆでる(温度・時間)が得られる(ここではゆで時間を3分と設定)。
QC工程表に管理する項目として、ゆでる温度が100度Cであることをお湯の温度を棒状温度計にて確認し、温度が100度Cであったか確認結果をチェックシートに記載する。麺を鍋に入れ、時間が3分経つとタイマーがゆであがりを知らせる。
麺がゆであがると、お湯切り→どんぶりに汁と麺を入れる→なると・卵・のりなどの盛り付けを一連の作業手順書に従い完成させる。
このように、QC工程図・QC工程表を作成するには、管理すべき項目を「FMEA」、「特性要因図」、「連関図」などにより設定し、管理する数値は統計的手法で割り出し、
管理する内容はQC工程表に記載し、「管理結果=証拠」はチェックシートや管理図に記録を保管する。
この一連の作業から不良を作ることを防止する。
(平成27年12月17日 日刊工業新聞掲載)

優良企業の条件①
競合社に優位なPR資料作成/購買決定者に積極コンタクト
永井 守(東京支部)
営業戦略
販売までに実施した、商品開発・設計審査・QC工程図・QC工程表の作成、この内容を確実に実施できるよう技能訓練を行い、QC工程図・QC工程表に従い実施されているか内部監査体制を構築、これ以後の領域は営業部門の業務に入ってくる。
営業部門は、上記の魅力ある商品かつ品質保証された商品を販売するにあたり営業戦略を策定する必要がある。営業戦略を二つの観点から考えてみる。
一つ目は、競合他社に対する強みと弱みを分析し、競合他社に打ち勝つ販売商品のキャッチフレーズを考案することだ。考案する手法は、品質機能展開を活用し、徹底的に競合他社に優位な商品を開発し、営業用PR資料として作成する。
二つ目は、販売先を定め、どのようにして営業を進めて行くか営業戦略を策定する必要がある。営業戦略を策定する手法は、連関図・アローダイヤグラムがある。
1、連関図の活用方法は、自社の営業環境(ターゲットとする顧客とのパイプの太さ、競合他社の価格・サービスの競争力、立地条件、営業社員の素質等)を分析し、営業活動内容=営業戦略を策定し、営業戦術を立案する。
例えば、顧客の購買決定者を情報収集により探り出し(企業によっては、担当者が購買決定権を持っていることも考慮)、購買決定者に積極的にコンタクトし、顧客が購入する条件を聞き出し、顧客要求条件を満足する体制構築内容を明確にする。
大きな営業戦術が決定したら、アローダイヤグラムに実施事項と実施予定日を営業戦術順に記入、そのアローダイヤグラムの実施計画に従い活動を行う。
2、また以下に記載した営業活動事項をターゲットとする顧客に合わせて実施事項を抽出し、アローダイヤグラムに記載して営業戦術を作成する。
「顧客のニーズ調査」、「提案アイテムの検討」、「プレゼンの実施」、「訪問回数」、「他社から購入している理由調査」、「交渉計画書作成」、「アプローチ方法の選定」、「他社と
優位点調査」、「前回の逸注原因」、「顧客情報入手経路調査」、「ターゲット価格の設定」、「競合他社との差別化」、「客先購買決定者との信頼関係確保」
(平成27年12月24日 日刊工業新聞掲載)

優良企業の条件②
両社繁栄の精神で体制づくり/購買先調査・監査など入念に
永井守(東京支部)
購買戦略
企業が競合他社と品質(Q)、価格(C)、納期(D)、クレーム対応力(R:レスポンス)で一歩先んじる事で、受注量の増加及び次期新製品の納入が約束される事は間違いない。
このQ・C・D・Rを優れたものにするには、自社の他部材の購入先の品質マネジメントシステムも重要になる。優れた購入先を選定し、売買で良い関係を持ち続ける方法はどのようにして実現すべきだろうか。
第一に、信じ難いと思われるが、自社の体制づくりだ。
1、購入先からの購入仕様書・図面でより安く、より安全にするために仕様書および図面の改善要求を受け入れる心構えが必要になる。
2、購入価格の値引きは慎重にすべきで、あまり購入価格を下げ過ぎると購入先が品質保証をする工程(製造方法、購入部材、部材の購入先)を最悪にし、品質トラブルや納期トラブルが多発する。
3、妥当な要求品質の設定が必要で、1個の不良でも対策書を要求する企業があるが、1個の再発防止対策は至難の要求で、特に価格設定が終わった後の要求は購入先に大きな精神的・物理的ストレスを与え長い売買関係は続かない。
4、以上、要求仕様+購入価格+要求品質を合わせて購入価格を設定すべきだ。
5、1から4項までの基本精神は、購入先特に外注先とは上から目線ではなく、同志として対応することが重要で、この精神を守ると両社が繁栄すると、強く主張する。
さて以上購入側の体制を述べたが、次に購入先への要求内容を以下に述べる。
1、購入先候補が決定した後、購入先の販売先・帝国データバンクなどによる購入先の経営状態を調査し、発注後購入先の倒産や合併を避ける。
2、購入先の品質保証体制が確実かチェックシート(65項目、説明は省略)を基に工程監査を実施する。
特にQC工程図の審査を厳重に実施し、不十分な点は改善指導を行う。購入先に決定すると、工程変更・技能者変更等4M(人・機械・材料・方法)+1V(購入先)変更の事前届け出を基本契約に盛り込み、品質管理状況報告も義務付ける。
購入先への要求は多々あるが、紙面の関係から省略する。
(平成28年1月7日 日刊工業新聞掲載)

優良企業の条件③
目標管理シート使い能力評価/モラル向上で全体レベルアップ
永井 守(東京支部)
購買戦略

「企業は人なり」と良く言われるが、長年品質管理を担当し、つくづくそう感じている。
ISO9001やISO/TS 16949の品質マネジメントシステムを構築しても、各人が行う業務を理解し、質の高い業務を行ってこそ企業の利益が得られる。
筆者が大手電気メーカに勤務していた時、事業部長がこの「企業は人なり」を各部長席の壁に貼り付けたことも懐かしく思い出される。
多くの読者の方は、仕事ができる人が平社員で、全く成果が上がらない人がなぜ部長なのと日頃感じていないでしょうか。
毎月改善会議が開催されているのに、全く解決できない人が立派な役職を持っている。このような人事評価はおかしいと、若いころから感じていた。
故石川馨先生の「TQM」は「方針管理」で、社長方針がある部の方針になり、課・係の方針となり、最後は一担当者の目標管理に展開される。
各担当者は、上司の方針と整合した自分の目標を設定し、毎月目標を達成したか確認会議で発表される。
この達成度を評価するには「目標管理シート」を使用し、目標を達成するための活動内容を明確(プラン:P)にし、「目標管理シート」の内容に従い実施(ドゥー:D)し、目標未達成の場合(チェック:C)、活動内容を変更(アクション:A)する。
この「目標管理シート」の達成の為の活動内容、達成成果度及び達成スピードで各自の能力を見る事が可能となる。この評価結果を基に人事評価を行い年功序列・学歴に関係無く人材登用を行えばよいことになります。
一方、社員全体のレベルアップとTQMにつながる団結力を考慮しなければならない。
社員全体のレベルアップでは、モラルの向上が必要で、このことを行った人が大河ドラマで活躍した黒田官兵衛だ。
官兵衛は藩政を協議する会の名称を「異見会」別名を「腹立たずの会」とし、どんな意見でも腹を立てないとの掟を作った。これは、出席者の身分は問わず何を言ってもよく、これで、士気が上がったと考えられる。
この考え方は海外でも発生した「ブレインストーミング」につながり、奇抜なアイデアを尊重し、アイデアを結合して新たなアイデアを生み出すことを奨励している。

(平成28年1月14日 日刊工業新聞掲載)

中小企業・小規模事業者の人材教育と人財育成㊤
自己研鑽に励み能力アップ/継続してやり遂げることで相乗効果
長谷川正博 (東京支部)
中小企業・小規模事業者(以下「中小企業」という)の多くが「人材不足」「社員の定着率」「幹部社員・番頭格の人材不在」ひいては「後継者不在」の「ヒト」の問題を抱えているケースが多い。
周知のように、「企業は人なり」と言われる。社員個人個人が自己の持っている能力のレベルアップを図り、自己研鑽に励むことにより、社員の質の向上を通じて会社全体のレベルが上がることになる。
「ジンザイ」には4種類あると言われている。「人罪」「人在」「人材」「人財」である。これらは読んで字のごとくで、あえて説明する必要はないだろう。人罪を排除し、人在を人材にさせ、人材を人財に格上げしていくことが肝要であり、まずは「鯛の頭」である社長自ら(および幹部クラスも)が人財となるべく自己研鑽などにより最大限の努力をする必要がある。
社員教育の3本柱は「OJT」、「Off JT」そして「自己啓発」があることは周知の通りだ。中小企業の社員教育はOJTが主となっているようだが、幹部クラス社員や役員らは外部セミナーなどへの参加によるOff JTとともに、自己啓発により能力向上を図りながら、人財になるべく努力すべきであり、また会社としても時間・費用面での支援を用意すべきだ。    自己啓発は、あくまでも、自分に必要な知識、技能、教養等を自分から意欲的に取り組んで勉強することであり、部下を教育・指導する立場にある部課長など管理職も自己啓発により自分の能力向上を図ることが求められよう。
東京都下のある企業は、本社事務所内に「図書館」を設け、社長が推薦する書籍を月1冊以上読み読書感想文を出させ、提出ごとに「はんこ」をおし、年度末の表彰対象としたり、また、新聞の経済・政治面を読み、毎日の朝礼時にその感想を順番に発表(これも「はんこ」がおされる)させるという事を数年間続けているという。
当然、部下の発表のみならずその上司(管理職)も勉強していることは言を待たない。読書や新聞記事を読み、まとめ、発表するという単純な方法かもしれないが、一つの事を継続してやり遂げることを通じて自分の業務遂行を完遂する気持ちを醸成したり、社員の基礎・一般知識の向上も図りながら、モチベーション向上につながる効果があるのではないだろうか。
(平成28年1月21日 日刊工業新聞)

中小企業・小規模事業者の人材教育と人財育成㊥
管理職者は「T字型」になる努力を/外部講習など教育投資重要
長谷川正博 (東京支部)
中小企業は、自社が現有する社員でまかないきれない″人材不足″を補うために「キャリア人材の採用」、いわゆる中途採用者を活用するケースが多い。中途採用者は「即戦力化」能力が求められ、中間管理職として採用されるケースも多いだけに、入社時の教育が一般社員に比べ重要になる。
中途採用者は多くの場合、他企業での職務経験を持ち、さまざまな考え方と態度を身に付けているだけに、自社の経営理念や方針に馴染ませるためにも、入社時に十分な教育を行う必要がある。
彼・彼女らへの教育には、自社の企業理念・体質、経営方針、管理制度や職制等機構、中途採用者の心構えなどに重点を置き、早期に自社に馴染めるよう、社長責任の一環として実行すべきであろう。また、本人も配属先の部下となる社員の性格や仕事への意向などにも耳を傾け、自分の管理方法・方針を前もって立てることも必要であろう。
管理・監督職である中間管理者の教育は、企業にとって最も重要である。彼・彼女らは1つの職場(部門)の長として、部下を指導統率しながら、職場(部門)の業務を管理・遂行する立場にある。管理職者への教育は、一般に管理・監督能力の向上と自分の業務分野に関連する専門的な知識・技能の高度化を目的として行われる。
しかしそれだけでなく、変化に対応できる応用能力や、視野を広げるために業務とは関連の無い一般知識についても教育する必要があろう。管理職者はいわゆる「T字型人間」になるよう努力をしなければならないと思う。
「T」の縦棒は、自分の業務の専門知識や自己の持つ技能に関する深い知識を、横棒は経営・経済・政治・業界等自己の業務や企業に関連する幅広い知識の習得を表している。
彼・彼女らへの教育方法としては、「Off JT」をベースとした外部セミナー参加や、ここで習得した知識を部課長会等の機会に社内で発表、参加者による討議による相互研鑽や、社長を囲んだ「一泊研修」の機会を作り、ノミニケ-ションも図りながら自社の経営課題や将来の姿の自由討議、経営戦略の検討を通した中長期経営計画の土台作りなど、「経営幹部の一人」としての自覚を植え付け、経営への参画意識を向上させることも有意義なものとなろう。
費用はかかるものの、会社として「会社の将来への投資費用」として予算化をし、制度化させることが重要であろう。
(平成28年1月28日 日刊工業新聞)

中小企業・小規模事業者の人材教育と人財育成㊦
事業承継も経営計画の一部/後継者育成経営者の大きな責務
長谷川正博 (東京支部)
本稿の最後の課題として「事業承継」問題に触れてみたい。中小企業庁編「小規模企業白書2015年版」によると、経営者の平均引退年齢は中規模企業の場合1990年では66.1歳、2000年67.5歳、10年67.7歳と推移しており、また小規模事業者のそれは、それぞれ68.1歳、69.8歳、70.5歳との事である(同書、P.55)。
ただ、筆者が見聞している限り70歳半ばを過ぎても、まだ頑張っておられる社長さんは大勢おられる。70代後半になって会長職に退いて、長男に後継社長職を譲ったものの、「まだ頼りない」として完全承継されていないケースや、適格な親族がおらず、また社員の中にも適格者(と思われる人材)がおらず、5年後、10年後はこの会社はどうなるのか、と他人事ながら心配されるようなケースも結構見受けられる。
いずれにせよ、事業承継自体も「事業承継計画」を作り、中長期経営計画の一部として位置付け、企業の存続、成長、発展を目指して策定する経営計画の中で、どう上手に後継者にバトンタッチするかを考え、計画に落とし込み、これに従って必要な手順を踏み進めることが、経営者としての重要な責務であろう。後継者を育成する責任は経営者にあると共に計画的に進めるべきである事を忘れてはならない。
筆者の国内外4企業、十数年の会社経営を通して得た自分なりの結論は、古今東西を問わず、やはり「企業は人」ということだ。会社の業績は勿論大事な要素ではあるが、数字のみを良い悪いと論じてみても、それだけでは基本的な経営の強化にはならないと思う。  やはり、社員の一人ひとりの状態、つまり部下の状況をよく把握し、的確な認識の下に指導がなされなければ、良い仕事はできないし、優秀でやる気のある社員(=人財)に育てていくことはできないであろう。経営は人に尽きる。
経営陣の能力と、管理職者の職場の牽引力と、それに続く社員の素質、気持ちの持ち方に尽きるのではないだろうか。社員一人一人の能力を向上させ、会社全体のレベルアップを図ることが経営者の重要な役割であることを再認識し実行していくことが重要だ。
昔何かの本に書いてあったが、「努力というものは、あらゆる可能性を考えて成し遂げようとする執念にある。そこに人間の素晴らしさがある」。この努力をしようという気持ちを引き出すことが経営者・経営幹部の1つの大きな責務ではないだろうか。
(平成28年2月4日 日刊工業新聞)

ISO9001.2015は、利益を上げる要求事項満載
マネジメントレビュー最重要/実施手順・情報、文書で明確に
永井 守(東京支部)
ISO9001:1994年版の要求文書から大幅に表現が洗練され、企業がISO9001を実施すれば、確実に利益を上げる要求事項が随所に記載されている。
その主だった事項は、4.1項に「外部の情報を監視」とあり、企業環境の分析を意味しており、企業環境を分析することで将来開発すべき商品計画を立てることで、企業の存続が可能となる事を要求している。企業環境分析は、将来予測される商品開発手法を以前から紹介している「連関図」による商品開発だ。
重厚長大産業の衰退、パソコン周辺機器のフロッピーデスク(FD)装置の衰退、そして近年の携帯電話産業の衰退に見られる事実だ。
企業は現状商品の維持では数年後は必ず売り上げを下げていく。ISO9001はこの事を強く要求しているものと考えている。
4.4.1項には、「品質マネジメントシステムを確立」とあり、ISO9001の根幹をなす考え方で、製品開発、設計及び設計審査、QC工程図の作成、内部監査、目標管理、マネジメントレビュー、トップマネジメントからの目標設定、これらをPDCAのサークルで回すことだ。
そしてこれら運用するには、トップマネジメントのリーダーシップが不可欠であることが、5項に記載されている。
企業が利益を上げ、発展するには顧客の評価が不可欠であり、5.1.2項には顧客重視がうたわれており、顧客からのクレーム対応を確実する事が8.5.5項に記載されている。
顧客が要求している製品を検証する為に検査機器が適正であるか、7.1.5.1項にその要求が記載され、これらの品質マネジメントシステムを運用するに当たり必要となる事が、全社員への教育の実施で、7.2項で力量の確保を要求している。
以上述べてきた事項を実施するには、手順書が必となり、7.5項では文書化して情報を明確する事が記載されている。
ISO9001の最も重要な実施事項はマネジメントレビューで、特に①顧客の反響、②目標の達成状況、③品質マネジメントシステムの成果、④不具合の再発防止策内容、⑤品質推移、⑥内部監査での指摘事項、⑦購入品の品質状況、⑧リスクの発生防止、⑨改善すべき事項 等を検討し、企業体制の向上を図る。
以上、このようにISO9001は企業が実施すべき事項と再認識したい。
(平成28年2月11日 日刊工業新聞掲載)

本社と海外拠点の情報体系が決め手
拠点の独自判断はトラブルに/本社承認の品質保証体系図が重要
永井 守(東京支部)
筆者が大手電気メーカに勤務していた頃、その企業がフィリピンに組立工場を設立した。そのフィリピン工業に向けて東南アジア製の部品を調達するために、香港に調達拠点を設立する事になった。
筆者が担当したのは、香港で東南アジアの購入品を品質保証し、フィリピン工場へ供給する業務だ。
香港に転勤する前に地方工場を設立、製品の出荷責任は本社、地方工場は本社の指示に従わなければならない。
ある時、地方工場は独自判断で製品を出荷し、品質トラブルを発生させてしまった。この経験から、本社の承認機能・香港の部品調達機能・フィリピン工場の製造機能を踏まえて業務権限範囲を決定しないと大きな問題が発生する事を懸念していた。
大きな問題とは、本社には設計機能、香港は購入先工場の認定と品質保証機能、フィリピン工場は製造機能がありどのように連結して運用するか不明で、これらの機能が分離したままで運用すると、当然トラブルが発生する。
例えば、香港が新部品の調達先を選定した場合、装置として問題なく機能するかどうかを本社の承認なしで製品に搭載し、出荷した場合、品質トラブルが発生する。
また、フィリピン工場で工程数低減のために、新管理方法を開発し、この管理方法が適正かどうかに関する技術評価を本社で確認せず、製品を出荷した場合も当然品質トラブルを発生させる。
これを防止するために、独自で処理できる業務、必ず本社の承認を受ける業務を品質保証体系図に表し、規定を作成することが重要だ。
品質保証体系図の例として、
①新規図面を本社が発行し、香港が受付台帳に登録後フィリピン工場へ送付。
②香港で新規購入部品の調達が可能となった場合、フィリピン工場で装置搭載評価を実施し、本社が承認後承認結果を香港が受け取り、海外部品の購入を開始する。
③フィリピン工場で工数短縮のために、管理方法を改善、その改善方法と改善評価結果を香港に報告、香港は受付台帳に登録後本社に変更願いを行い、本社の承認結果を香港がフィリピン工場に連絡し、改善作業を開始。
是非、海外進出をする場合においては、事前に品質保証体系図を作成し、問題無く情報が処理される体制を確認の上、海外進出をすることをお勧めする。
(平成28年2月18日 日刊工業新聞掲載)

寛容の風土は落とし穴
企業の不正・ルール違反駆逐へ/行動基準繰り返し教育・訓練
鈴木 勇(北関東支部)
ゴルフを始めて40年近くになる。スコアの方は、齢とともに、百を切るのに四苦八苦している。始めた頃は、練習にも力が入り、特にコンペでホールインワンを達成した時の喜びは消えることがない。ただ、出費が嵩んだので、ホールイン保険に入ったのは良いが、次回こそと意気込むが勝利の女神からはすっかり見放されてしまったようだ。
ゴルフをしながら、気になっていることがある。“フェアウエイ・6インチ”OK,“グリーン・ワングリップ”OKである。
始めた時の先輩はゴルフが上手で、英国紳士と言われるだけあって、ルールに厳しい方であった。始めた頃のゴルフ場は、造成ラッシュも続き、フェアウエイの芝の管理も決して良い状態とは言えなかった。キャッデイから救済処置が認められるとホットしたものである。
正式競技では当然のことながら、OKボールは許されない。つまり、アマチュアゴルフゆえに仲間に限って“寛容の風土”が許される。OKボールが許されるのは、プレーの進行時間の短縮上のことであり、良いスコアが出て満足しても、プレーヤーの実力(技量)向上には全く役に立たないのである。ボールの位置がどうであれ、クラブフェースをボールに正確に当てれば、狙い通りに飛んでいくはずだ。それが出来なくて苦労しており、奥の深い、魅力あるスポーツにしている。
さて、2015年も企業不祥事が目についた。どうして企業不祥事が発生するのだろうか。発生の都度、企業責任者が出てきて、ステークホルダーへのお詫びや、対策が種々述べられている。気になるのは、不祥事が発生するに至った真の原因が説明されていないことである。
消費者が長年にわたって拠り所としてきたブランド名が株式欄の片隅に追いやられているのは情けない。不正経理の対策として、社外取締役を入れるとか、監査法人への業務改善命令など…種々言われている。
しかし、ほとんどの企業では、既にCRS体制は確立されていると思う。企業の行動基準に“適正な会計”を行うと明記されておりながら“不正な会計”が現実に発生していれば、経理処理時点での判断行動として、明らかにルール違反である。企業が対面している状況がどうであれ、それぞれの業務判断行動において、正しい判断行為がなされる企業風土が必要だ。
アマチュアゴルフでいう“寛容の風土”は企業の将来にとってマイナスになるだけであろう。“寛容の風土”は業務処理時の判断行動を邪魔しているといえる。
企業の行動基準を繰返し教育・訓練を積み重ねて、職位に関係なく“寛容の風土”を駆逐し、企業人の日々の修練、向上を積み重ねマンネリから脱却する努力が大切である。
(平成28年2月25日 日刊工業新聞掲載)

“AEC”の活用と生産拠点の見直し・再構築を! ㊤
分厚い中間層消費市場拡大/コスト減・事業拡大絶好のチャンス
長谷川正博 (東京支部)
昨年12月31日、ASEAN経済共同体(AEC)が正式に発足し、総人口6億2000万人、域内名目GDP2.5兆ドル(約284兆円)の一大経済圏が誕生しました。この人口規模は、経済共同体の中では、欧州連合(EU)の約5億人、北米自由貿易協定(NAFTA)の約4.6億人、メルコスール(南米南部共同市場)の約2.8億人などと比べて最大であり、さらに、EUやNAFTAはそれぞれ先進国を中心にした共同体なので、今後人口が増える(=消費市場規模の拡大)ことは、日本同様、期待しにくいと言える。
一方、ASEANは平均年齢が若く、今後も人口増加が見込まれ、また、加盟各国の経済発展につれて、先発6カ国を中心に中間層(世帯年間可処分所得が5,000ドル以上35,000ドル未満)や富裕層(同3万5,000ドル以上)の割合が増えていくことが期待されている。例えば、独立行政法人国際協力機構(JICA)が2014年6月にまとめたASEANの25年の予測によると、13年から25年の年平均成長率は全体で5.9%、総人口は25年に約6億9400万人に達し、所得水準の上昇に伴い、10年から25年にかけて中間所得層及び富裕層の合計比率が56.4%から76.5%に増加。また、これによりASEANの消費市場は10年から25年にかけて3.96倍に拡大するとしている。さらに最近では、この中間所得層が”アッパーミドル”、”ローワ―ミドル”と上下に広がりをみせ、分厚い中間層を形成してきており、消費意識や消費性向も「価格重視型」から「高品質な製品及びサービス」へ、という変化も見られるようになっており、消費市場としての魅力がますます高まっている。
また、この共同体発足により、ヒト・モノ・カネの流れもより活発になり、域内での関税撤廃(ちなみに、関税については、発足時点で、ASEAN10カ国全体で9万9,434品目中9万5,463品目(96.0%)の品目の撤廃が完了)により、生産拠点の最適化や生産ネットワーク網の再構築などによりコスト削減や事業規模の拡大も期待されることになる。AECを活用することによって、生産適性が有利な国に生産を集約させ効率的な生産体制の構築を行うなど、ASEAN経済統合のこのタイミングは、東南アジアでの事業展開を考える絶好のチャンスであると言える。
(平成28年6月9日 日刊工業新聞掲載)

“AEC”の活用と生産拠点の見直し・再構築を! ㊦
“広域アジア”の戦略立案/イスラム市場への製品供給も視野に
長谷川正博 (東京支部)
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、中国、インドという2大人口大国=消費市場に隣接しているという地理的優位性もあり、この両巨大市場向けの輸出生産基地としてのASEAN拠点の見直しも必要になろう。またこの地域は、AECに加えASEANや加盟国が締結している自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)や環太平洋連携協定(TPP)等広域での経済連携と組み合わせることで、点から線へのより広域での経営戦略が可能となることも有利性と言える。   例えば、ASEANと中国の間では、2010年1月にASEAN・中国自由貿易協定(ACFTA)に基づき、中国・先発ASEAN6カ国の間で約9割の品目の関税が撤廃され平均関税は12.8%から0.6%に下がったと言われている。
中国向け輸出としてASEANで何が生産できるかを検討してみるのも企業経営上重要な戦略となるだろう。
日本からの中国輸出、および中国リスク回避の観点から中国内での生産を、ASEANからの輸出に切り替える事を検討する良いタイミングと言える。また、インドとASEANとの間のFTAは10年1月1日に発効しており、関税率の引き下げ幅や例外品目が多く残っているという面では若干見劣りはするものの、一般的に関税率の高いインド市場を狙う上で、ASEANは有利な地位を獲得したことと言える。
ただし、本FTAを使ったASEANから中国・インドへの輸出は、いまだに若干の通関手続き上(原産地証明などの面で)の課題は残っている様だが、この面での注意も払うことにより、ASEAN諸国に生産拠点を持つ日本企業は、これを積極的に活用できるというものです。
またASEANの有利性の他例としては、加工食品産業や女性用化粧品等は、マレーシアやインドネシアでのビジネスを通して、「イスラムマーケット(ハラール市場)でのノウハウの蓄積」や「ハラール認証の取得」をしながら中東諸国や北アフリカなどのイスラム諸国(いわゆる”MENA”市場)へのマーケティング活動を展開することも考えられ、販売市場拡大の一助としても検討に値するのではないか。
これからの対アジア戦略を考える時、アジア各国を縦割りにして経営する方式から広域に捉えた経営体制を構築することが必要だろう。アジア統括本社的な機能を持ち、個別の国や地域だけに精通しているのではなく、アジアを広域に見ることのできる人材を育成しながらそのような体制を敷くことも検討に値するのではないだろうか。
(平成28年6月16日 日刊工業新聞掲載)

内なる経済 江戸時代を食から考える
新田開発、コメ増産人口急増/栄養失調・伝染病、寿命・身長は最低
矢島 英夫(東京支部)
室町幕府が崩壊し戦国時代になると各地の武将が競い合った。その基盤は経済力にあった。経済力は、コメの生産力である。その増産は、河川の治水工事で新田開発。新田開発の過程で赤米のインディカ米が作付された。日本最初の農業技術書「清良記」(17世紀)によると、新田開発された水田は開墾してもすぐ収穫できない。そこで野生の強靭さをもつ赤米が、開墾後の水田の主役となり、新田開発の第一段階において「稲作のパイオニア」となった。16~17世紀は、新田開発に次いで人口革命の時期だった。戦国大名の規模の大きな領内開発、小農民の自立に伴う「皆婚社会」化による出生率増などが主たる要因である。
人工は江戸時代初期1600年代1200万人が、享保期(1716~1735年)には、3000万人に。この人口増は、新田開発によるコメの増産。また、江戸時代の日本は鎖国をしていた。つまり、食糧自給率が100%だった。

江戸時代の人口とコメ消費

人口(万人) 耕地(千町) 実石高(万石) 1人分/年(石) 1人分/日(合)
1600年 1,200 2,065 1,973 1.64 4.49
1730年 3,208 2,971 3,273 1.2 3.28
1850年 3,228 3,170 4,116 1.75 4.79
(速水融・宮本又郎「概説173,170-18世紀」)

平本嘉助「骨からみた日本人の身長の移り」1981年によると栄養失調や伝染病が多く江戸時代の成人の平均身長は、155cm、女は、145 cm。歴史上の全時代で最も小柄であった。江戸期の食事は、1食あたり一汁一菜か二菜であり、極めて質素で、肉等の蛋白質が少ない食事で栄養状態が悪かったうえ伝染病が度々流行し乳幼児も子供も簡単に死んだので、平均年齢も下がった。
立川昭二の「江戸病草紙」1998)によると、速水融が信州諏訪地方の宗門改めの人別帳をもとに、2才児の平均余命を求める。寛文11(1671)年~享保10(1725)年のそれは男36.8才、女39.0才、享保11(1726)年~安永4(1775)年になると、男42.7才、女44.0才であった。因みに最高権力者たる将軍で15代の平均は、51歳。12代将軍の家慶は、27人の子がいたが成人に達したのは、13代将軍家定の1人のみ。また、寿命と共に身長も有史以来最も低いのが特徴。5代将軍綱吉は、124cmと小柄である。他の将軍は、8歳で死亡した7代の家継の除き150-160 cmであった。

(平成28年6月23日 日刊工業新聞掲載)

中小企業のESのすすめ㊤
職場のモチベーション知る経営指標/意識調査で問題浮き彫りに
吉岡 聰(南関東支部)
1.なぜ、昨今従業員意識調査が注目されているか? まず、社会的な背景から説明したい。

① M&A(合併・買収)や組織再編、分社化等、組織が劇的に変化するケースが増加している。こうしたケースでは、新体制を円滑に軌道に乗せるために新しい経営方針や体制の浸透度や社員のコミットメント度合を把握し対応していくことが極めて重要になっている。 ② 成果主義の浸透に伴い、多くの職場で社員に疲弊感やモチベーションの低下で職場が不活性化し、品質や生産性の低下などの重大問題に発展しているケースが増えてきている。こうした問題の根本的な解決には、社員の疲弊感の原因やモチベーション向上の要因を正しく把握し対処することが不可欠となった。③企業の問題解決や成長発展のためには、「社員の認識や価値観、動機づけ要因、満足度などの把握が重要である」という認識が広まり、それを可能にする意識調査が一層注目されてきた―ことなどがある。
次に企業の内部的事情として、④近年、従業員満足度を従業員のモチベーションや意欲を図るための経営指標の一つとして位置づける。⑤働く人や働き方の多様化に伴い、届きにくくなる“社員の声”をしっかりと把握し、業績の向上につなげる必要が出てきた。⑥ESは顧客満足度(CS)に非常に関連が強く、ESが高い企業はおのずとCSも高くなる傾向がある。
以上のような事情は、企業規模の大小にかかわらず抱えるようになってきた。筆者がアドバイスをしている中小規模の食品加工会社でも調査活動に取り組み始めた。

2.意識調査を実施することでどんな効果が見込まれるか?

①新しい経営方針やビジョン、大幅な組織変更、新人事制度導入など経営者が打ち出した施策の現場への浸透状況が確認でき、今後の対策立案上の参考情報が得られる。 ②組織や各職場、社員の状況を属性別で定量的に把握できるため、問題や課題が浮き彫りにでき、的を絞った対応策を立てることができる。 ③調査結果に対するフィードバックや問題点への対処を迅速に実施していくことにより、社員から経営・組織に対する信頼感が醸成され、組織へのロイヤリティーが高まる。④意識調査を継続的に実施して行くことで状況の推移をモニタリングができ、組織力向上に確実に結びつけることができる―などの効果が挙げられる。

(平成28年6月30日 日刊工業新聞掲載)

中小企業のESのすすめ㊦
職場の活性化、主体的取り組み大事/人材育成・組織改革に効果
吉岡 聰(南関東支部)
3.なぜ、従業員満足度(ES)調査を組織改善の手段となるか?

昨今も変わらず、企業が共通して抱える問題の主な項目としては次のようなものが挙げられる。ビジョンなど方針・方向性に関するものとして、①ビジョンや方針の抽象的・分かり難さ②会社の方針が社員の理解されないこと。戦略や戦術的なものとして、経営計画を作っても十分に実行されないこと。
業務の流れや仕組みの関するものとして、①仕組みルールを取り入れても形骸化してしまう②社内システムが機能しない、効果が上がらない③無駄に思える会議やミーティングが多いこと。組織体制に関するものとして、①経営層と現場層に壁のようなものがある②部署間が協力し合わず対立することがあること。評価の仕組み人材育成制度などに関するものとして、①人事評価制度の運用がうまくいっていない②研修に参加しても業務の役に立っていないこと。
コミュニケーションや人間関係に関するものとして、①提案や意見が中々出てない、②社員に自立心や主体性がないこと。

4.どうすれば、ES向上活動を継続させられるか?

①経営・管理層主導のES調査では、経営者の都合の良い回答を得たい意識が働き、誘導的な質問項目になる可能性がある。そこは覚悟が大事で、経営者はこれに取り組むためには一線を超えるような意見が出ようとも耐える覚悟が必要で、まず信頼関係を築くのが最も重要なポイント。②外部に調査を依頼した場合通り一遍になりがち、従業員が職場の問題解決プロジェクトとして主体的に取り組む環境づくりが大事。③個人や職場の問題・課題は、職場単位で改善活動を促進させる。会社全体の問題・課題は、経営層に改善・改革の提案をする等、提案制度との連携や事業提言などの環境づくりも視野に入れる。④プロジェクトが野合集団にならないためにも、活動目的、目標設定、取組み活動計画を作成するルール・枠組みや調査で得られた個人情報の取り扱いのルールも明確にしたい。⑤ESプロジェクトチームでの取り組みは幹部候補育成の手段として幹部への登用の実績例も見られる。これは人材育成や組織改革への動機づけとして大事なことといえる。

(平成28年7月7日 日刊工業新聞掲載)

「顧客が伝道者になる共創マーケティング」
BツーCツーC型で企業成長/潜在顧客獲得、「口コミ」効果に期待
上野延城(埼玉支部)
「コトラーのマーケティング3.0」でフィリップ・コトラーは、新たなマーケティング活動の基盤に共創、コミュニティ化、キャラクターの構築の3つを挙げている。
共創マーケティングという言葉には、消費者の意見を聞き、商品開発やサービスの改善を行うイメージがある。
共に創ると書いて「共創」。すなわち、企業と顧客が関係を築き新しい価値を生み出すことである。
共創マーケティングのベースになるのは共創コミュニティである。共創コミュニティとは、企業と消費者、あるいは消費者同士が交流する場のことである。
今日、企業が注力すべきは「エンゲージメント」である。
エンゲージメントとは、一言で言えば企業の存在や成長を応援してくれる行動を顧客が取ってくれることである。
商品を積極的に再購入し、また友人や知人に熱心に奨めると言った実際の行動がエンゲージメントである。こうした顧客が多ければ多いほど、企業にとっては安定的・持続的な利益をもたらしてくれる。
多くの欧米企業が顧客エンゲージメントの向上を最優先課題の一つとして挙げている。
顧客と共にブランドを育てていくための中長期的かつ双方向のつながりを持ち続けるためには良好なエンゲージメントは欠かせない。
エンゲージメントが築けると自分だけでなく、家族や友人・知人に積極的にブランドを推奨してきくれる「伝道者」になってくれる。伝道者とは、キリスト教で未信者にキリスト教の教旨を伝え、入信を促す働きを職業としている人のこと。
マーケティングでは、企業のメッセージを中立の立場で効果を広く伝える人のこと。
どの企業も自社のブランドを買い続けてくれる支持者を増やしたいと考えてきたにも関わらず、支持者を育成するための具体的な対策を推進する企業は少ない。
顧客が顧客を呼ぶBtoCtoC型のマーケティングが伝道者を増やす要素になる。
伝道者になった顧客は、企業の代わりに潜在顧客にコミュニケーションをしてくれる。
しかも、広告よりも数倍効果がある「口コミ」という強力なメディアである。
顧客を自社の伝道者にできるように顧客との共創コミュニティを深めることが、今後のマーティングではなくてはならない存在になる。
(平成28年7月14日 日刊工業新聞掲載)

コモディティ化回避の方策を探る
経営戦略に新しい競争次元必要/原点に立ち返り価値提案を軸に
上野 延城 (埼玉支部)
コモディティ化とは、製品カテゴリーにおいて、品質、機能、形状などの競争における差別化特性が無くなり、顧客からすると製品に違いを見出すことのできない、どの製品を買っても同じという状態のこと。
コモディティ化は、標準化の進展、技術の発展、ライフサイクルの成熟化などの理由によって、製品やサービスにおける本質的部分で差別化が困難となることで起こる。
今日、コモディティ化はあらゆる産業において無視できない最重要課題となっている。
STPと言われている「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」を中心とする伝統的なマーケティング論理はコモディティ化した市場においては有効性を失いつつある。
驚異的なイノベーションもいつか必ずコモディティ化されると観念している経営者も多い。コモディティ化を回避するための企業、戦略としては、付加価値の付与による多機能化が一般的であるが、顧客の求めている以上の性能をつけていることが多く、消費者にとっては購買決定に至らないのである。
回避するための経営戦略には新しい競争次元を創造していく必要がある。
小売業にとってのコモディティ化とは、商品目線でモノを売ろうとする姿勢にある。安売りを強調したチラシはこれを象徴するものである。
「顧客は本当に値引きを要求しているのか」を問い直すべきである。「顧客は何を求めているのか」「私たちの顧客は誰なのか」という商売の原点に立ち戻るべきである。
「何を売るか」という商品目線でなく、「どのような価値を提供するか」という顧客目線で望めば、値下げはそれほど意味を持たないことがわかる。
地方のあるスーパーは、安売りでなく、料理相談コーナーの設置や健康レシピの商品を提供するなど、顧客への価値提案を軸にした事業戦略で業績を伸ばしている。
すなわち、売り方の差別化でできる可能性もある。コモディティ化した成熟市場でも技術革新は生まれ、差別化が実現することはある。
成長段階と成熟段階では、有効となるマーケティングは異なるはずである。
回避するためには、従来の思考回路からの脱却に他ならない。
(平成28年7月21日 日刊工業新聞掲載)

歴史人口学から現代を考察する㊤
人口の増減と社会変化つぶさに考察/江戸期は飢饉で人工停滞
矢島 英夫(東京支部)
一.人口学は確実な未来予見を行える。「歴史人口学」は、地域に残る人口史料を分析し、人口の推移や庶民の生活を明らかにする学問。日本を代表する歴史人口学者の速水融氏は、近世を中心に、明治時代以前の人々の膨大な史料を読み込み、人口の増減によって社会がどう変化するかをつぶさに観察する人口動態予測の一つには、合計特殊出生率(TFR)がある。これは1人の女性が生涯で産む子供の平均数。?
TFRが2.07人を切ると、20~30年以内にその地域の人口が減る。古代の日本の人口は、戦前の数学者の沢田吾一が奈良朝時代の戸籍を使って、当時の人口は560万人という推定をしている(『奈良朝時代民政経済の数的研究』)。
二.享保6(1721)年に8代将軍吉宗が始めた全国の国別人口調査。1721年から定期的に、全国を地方別に人口調査した。享保6年の調査では、大体2600万人と算出。算出人数は、武士と子供を除いていたので、そこに武士と子供を加えると大体3200万。
三.560万(奈良時代)から900年を要して1200万(江戸初期)に2倍に。そこから100年足らずで新田開発による食料生産の増加により17世紀に人口が3200万(江戸中期)と倍増した。全国国別人口調査が行われた享保6(1721)年から弘化3(1846)年の間に、日本には3回の人口危機、大きな飢饉、凶作、もしくは疫病の流行があった。最初は享保の飢饉で、享保17、18年。この飢饉の原因は、中国で大発生したウンカが、東シナ海を越えて、主に西日本に拡がり、西日本が凶作になった。そして人口も減った。更に出生率が低下とも重なり、西日本の人口は減った。更に人口転換による少産少死の近代社会への転換により18世紀は、人口は、停滞。
四.速水氏は言う、鎖国令が出てキリスト教が禁止された裏に、日本は、室町時代まではよき中華世界秩序の一員で、足利将軍は明の皇帝から日本国主にするといって任命されている。
この鎖国令は、ヨーロッパ或はキリスト教を拒否することを楯にしながら、実は、中華世界秩序から抜け出して独立することを意味した。鎖国を中華支配からの隔絶と、日本から金が大量流出防止のために行われた。
(平成28年7月28日 日刊工業新聞掲載)

歴史人口学から現代を考察する㊦
人口急減社会制度面から対処/合計特殊出生率上げる対策急務
矢島 英夫(東京支部)
人口が減少又は停滞している時期には、文化が成熟し花開く。人口減少社会では生産量を増す必要がなく、人口が減ることで1人当たりの所有物が増す。社会が成熟し、人は余暇を楽しむようになり、経済は停滞する。代わりに芸術・文化にカネが回る。人口減少をきっかけに拡大一辺倒から価値観を転換し、文化を成熟させる方向に社会やカネの回し方を変えて行くことが必要。
日本では速水融氏から始まる歴史人口学は、鬼頭宏氏に継承され発展した。縄文後半、鎌倉、江戸後半に人口減退期を迎えた日本は、21世紀の現在4度目の減退期に直面した。現在の人口減少は、近代経済成長の限界、日本独自の家族制度等が要因である。人口減少化において、東京・大阪などの大都会の一極集中が進み、地方がますます疲弊する。
これは、江戸期の18世紀の人口停滞期と同一である。人口が減少・減退した理由として、これまで主に気候変動が挙げられるが、過去縄文後期に寒冷化が進み東日本の人口が急減、鎌倉期は、逆に温暖化による作物の減少、江戸期は、寒冷化により飢えが頻発し、食糧が不足によって人口増加が制限される。
いわるる、人口支持力低下である。技術発展のおかげで食糧生産量が増え、人口支持力が上がり人口が増える。人口支持力が限界を迎えると人口停滞期が来る。そこに飢えが起きると人口減少が起こる。
江戸期17世紀は、新田開発により多産となり、経済水準を上げたが18世紀になると当時の環境・技術では、経済を増大できず、人口支持力が限界となった。また、晩婚化と少産少死が進み現在の日本と同様となった。江戸期の人口停滞は、現在の人口減少に日本はどのような社会を目指すのか社会の構造変化のソフトランデイングに向けて基本的な経済をどのように変えて行くのがいいか、現在のマイナス金利政策を進めて行くのが良いのか。基本的に考える必要がある。
人口変動は社会体制、生活様式、政治制度などのシステムに影を落とす。少子化、人口停滞を江戸18世紀の時代を考え現在の日本に生かし人口急減社会への対応をシステムで考えなければならない。1974年の人口白書で2010年に日本の総人口がピークを迎え、その後は減少することを予測していた。42年前に分かっていた人口減少の対策を取らなかった。合計特殊出生率を上げることが急務と考える。
(平成28年8月4日 日刊工業新聞掲載)

シェアリングエコノミーの時代
「所有」から「利用」へ/新しいサービスで世界市場年平均29%成長
上野 延城(埼玉支部)
最近、シェアリングエコノミーが注目されている。「シェリングエコノミー」とは欧米を中心に広がりつつある新しい概念で、ソーシャルメディアの発達により可能になったモノ、お金、サービス等の交換・共有により成り立つ経済のしくみのことを指す。
典型的には個人が保有する遊休資産の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある。
貸し借りが成立するためには、信頼関係の担保が必要である。そのためにソーシュアルメディアの特性である情報交換に基づく穏やかなコミュニティーの機能を活用することができる。
近年、カーシェアリングに代表されるシェァ型サービスは、車以外にも衣料品や家、など幅広い分野に広がっている。
シェア型サービスは、国内よりも一足先に海外で話題となった。世界各国に広がるシェァ型サービスの中で、特に大きな成功を収めているのは、米国を中心にカーシェァリングサービスを展開する「Zipcar(ジップカー)」である。
ICカードで手軽にシェァできることが受け、2015年6月時点で90万人以上の登録会員がいる。日本でもカーシェァ市場はまだまだ伸びると予測されている。カーシェァは「所有」から「利用」へという経済全体の大きなトレンドに沿ったサービスである。
今後、世界各国で新しいシェアリングサービスが生まれ、経済的生産性が期待できる。
矢野経済研究所「シェアリングエコノミー市場に関する調査結果」(15年9月)によると、日本国内におけるシェァリングサービスの市場規模は、14年度時点で233億円と推計され、18年度に約2倍の462億円に達すると予測されている。(年平均成長率:18.7%)
また、世界におけるシェァリングサービスの市場規模は、13年時点で150億ドルと推計され、25年には約22倍の3,350億ドルに達し、既存のレンタルサービスと同等の市場規模になると予測されている(年平均成長率:29.5%)。
シェァの魅力は、モノの貸し借りという行為を通じて、人とつながる楽しさ、同じ価値観を共有する喜びなどを味わえるところにある。
(平成28年8月11日 日刊工業新聞掲載)

中小企業がコピペ体質に陥らないために㊤
ネット検索・情報依存で自己責任低下/全体・個の意 常に確認
吉岡 聰(南関東支部)
5つのゲンで自律的にPDCAを回す経営を
筆者は最近、身近なビジネスの場でも結果や情報のみを求める傾向が目立ってきたと感じている。一つの体験は、会議でネット検索をしながら単なる情報紹介をするだけで自ら意思を反映させない幹部社員が増えてきたこと。もう一つは、あるセミナーで、講師(筆者)に配布テキストの原本をデジタルファイルでの提供を要求してくる受講者、また資料収集目的で話しの輪に加わらずに帰ってしまう上級管理者クラスの受講者。これでは社員の思考力はもちろん、会議までもがロボットに置き換えられる時もそう遠くないことを想像したくなる。
あらゆる事象や情報・通信の技術化(ICT)で自分の意思決定権を指一本に委ねてしまいかねない時代、日常の業務においても「情報を検索し、情報を提供する」だけの感覚が支配することになる。脳や手作業の低下、ひいては自己責任感の低下に至る。SNSよるもっともらしい情報が独り歩きして社内の“総意”に拡大していきかねない。取得した情報にだれも責任を取らず“無責任な総意”に進展してしまう危険性がある。
そうならないためには真の理念・目的を一里塚としながら全体の意、個の意を常に確認し合うことにある。アナログな意思疎通には、いったん自分の考えるプロセスが必然的に発生する。
多様・多量な情報から得られた経営スタイルや手法は短兵急に模倣できる。しかし、それは自社の組織文化の中から創出したものではない、コピー経営である。近未来は、中小企業経営といえども「ビッグデータの情報収集と分析はAI、その判断と独自性思考は生身の人間」と役割の棲み分けできる自律型経営を意識していかなければならない。
組織がICTコピペ化経営に陥らないための意思決定には、「情報検索⇒情報を読み取る倫理・智を展開する⇒情報を咀嚼する⇒自分の言葉にアレンジする=情報をブレンドする」の手順を意識したい。さらに、泥臭くも現場で根強く唱えられている「3ゲン(現)+2ゲン(原)」主義を思い起こしてほしい。「現場」で、「現物(現象)」、「現実」を確認し、結果に至る原因メカニズムの「原理」を知り、期待される課題を把握し、果たすべき機能の「原則」を考えつつPDCAを回していきたい。
(平成28年8月18日 日刊工業新聞掲載)

中小企業がコピペ体質に陥らないために㊦
経営者は現場の実態見る努力を/自立・自律心で人間の判断脳磨け
吉岡 聰(南関東支部)
組織のコピペ仕事にだまされない三つの眼
一つは経営者の眼。部下は誰しも上司の不機嫌な顔を見たくない、不都合な情報を伏せたがるものだ。事態を好転させてから話そうという思いもあるだろう。ある企業の幹部から聞いたエピソードがある。創業者社長にある報告する時、煮詰まっていない案件を外して用意した。社長はただ聞くだけで、報告は何事もなく終わると思われた。その瞬間「あれはどうした」と、省いた案件を突いてきたそうだ。
創業者だけに、事業の勘所を熟知しており勘も鋭い。いろいろなところから情報を集めるパイプも持っている。自社の古い体質の踏襲(コピー体質)、社員の前年目標の上乗せ計画など社員のコピペ仕事、そして安易な外部のコピペ情報にだまされないためには現場や冷厳な事実を知る強い意志が要る。経営者は自ら現場に降りて冷静な目で実態を見る努力をしなければ情報が偏る恐れがある。
二つは職場の客観的な眼。情報が氾濫しそれが簡単に入手できる時代、どこかの会社で実施されていた内容をそのまま提案される社員の改善案等、内容を咀嚼していないので実行のコツは分からない。あとはあなた任せ・成り行き任せ。こういう状況が、企業に共通する情報過多時代の職場風景ではないだろうか。しかし、コピペへの誘惑から逃れて自分の言葉だけで表現することは至難な時代である。職場ではグループ議論を習慣づけながらコピペ情報の是非を客観的に判断する社員の分析力・問題解決力の向上に努めたい。
三つは自社を見つめる眼。他社のマネジメントシステムや手法の事例が簡単に入手できる。モデルをコピペして自社に取り入れた企業の経営者は間もなく、何の効果も出ないじゃないかと後悔とも恨みともつかないたま息をつく。ズルズル形骸化したシステムの維持にコストをかけ続ける。始めは拙くもエキスを理解し咀嚼しながら自社流に開発するのが正解といえる。筆者の知る少し突っ張ってへそ曲がりなところがある若い社長は時間をかけながら自社流の人事管理システムやリスクマネジメントシステムを作り上げた。真の自社のしくみ(仏)は自社の自立・自律心(魂)からしか作れない。総てがAI(人工知能)活用や外部依存が可能な時代を迎え、人間の判断脳をさらに磨かなければならない。
(平成28年8月25日 日刊工業新聞掲載)

生産性の視点
まちづくり、5指標を管理・改善/繁栄へ思い切った対策必要
盛重 芳文(中国支部)
わが町、山口県宇部市と商工会議所がまちづくり会社「にぎわい宇部」を設立し、タウンマネージャを募集している。
廃墟と化した商店街をいかに再生するか、空き店舗、地権者対策、まちづくり企画と再生推進を狙いとしている。私はこれに応募したいと考えている。
全国の市町村の大部分が不成功に終わっているプロジェクトの再現である。まちづくり、商店街を一つの会社グループと見た時に欠落しているものは①生産性向上②品質向上③コスト低減④サービス品質の向上⑤製品・商品・品揃えの革新が全国いずれの街も欠落していることに気付かず、小手先の思い付きの積み重ねを継続して失敗していることに気付いていない。
創業、経営革新、女性起業、若者起業などをもてはやすが隣接に見える機械製造工場、化学プラント工場の生産性に追いつくことは到底不可能である。この暗黙の承認が衰退の言葉表現となる。追随並ぶことは不可能にしても昨年よりは今年と向上、低減、進歩、革新の指標が何か明確にあるだろうか。
大企業が進展し、小規模企業、中小企業が呻吟し、いつも中小企業をしている差はこの5点の指標管理改善に尽きる。
これに着目した小規模企業、中小企業が突然変異のように成功した事例が各地に発生すると、商工会議所、経済産業局、日銀支店はもてはやす。しかし最近の地域銀行は金融視点からこれらを冷静に見ている。容易にもてはやしに乗ることはない。
地域別商店街、市別商店街、県別商店街、同じく小規模事業、中小企業を年度別、5ケ年計画的指標の進歩向上改革改善が観察遂行されない限り、全国の組織が賽の河原である。
アベノミクスと日銀は、明確な指標管理を目指す点が過去と違っている。
原油等々国際情勢変化で意の侭にならず切歯扼腕であろう。小規模事業、中小企業、創業、経営革新も急速な高齢化弱体化と少子化人口減でローカル大部分はアベノミクスに反して急速に弱体化していく。
この指標対策管理は、地域街区毎のM&Aと事業連携契約数だ。パソコン設置数、売上高、納税高である。空き店舗、空き家の死に筋退治数だ。
悪貨は良貨を駆逐する。事業、店舗の繁栄はまず不採算、死に筋野撤去からである。思い切ったこの対策着手無くして改善も向上も無く失敗だ。これを推進する約束で応募したい。
(平成28年9月1日 日刊工業新聞掲載)

創造的適応のマーケティング
消費者ニーズそのものを創りだす/新しい価値の提案が重要
上野 延城(埼玉支部)
マーケティングを特徴付ける有名な言葉に「創造的適応」がある。創造的適応とは、市場にただ適応するだけではなく、創造的に適応するという意味である。
顧客が大事だという発想はしばしば適応型マーケティングにつながるが、それだけでは不十分である。
顧客が大事であれば新しい価値を提供することも重要なマーケティング活動である。
マーケティングとは、単に消費者ニーズを聞いてそれにふさわしい企画して発売するという適応的な活動だけでなく、そうした適応の基盤となる消費者ニーズそのものを創りだす活動である。
市場に創造的に適応することがマーケティングにおいては成功の決め手である。
そのためには消費者の持つその製品についての本音を探ることが欠かせない。
日清食品が「カップ麺」をあまり食べない女性層に向けて新商品を開発した記事が新聞に掲載されていたので、創造的適応の事例として記してみたい。
開発にあたっては、約30%の女性がカップ麺を敬遠する理由を深く調査したところ、多くの女性はカップ麺自体が嫌いなわけでないことが確認され、課題は大きく二つに絞り込まれた。
一つは“他人の目”。職場の昼食でカップ麺を食べていると、どうしても他人の目が気になり、食べたいけど食べられなくなってしまう。
もう一つの課題は“自分の目”である。自己管理の意識が高ければ高いほど、健康やダイエツトが気になってカップ麺を食べることがためらわれる。
そこで自分の目の開発では、女性が食事の際に重視するのはカロリーだけでなく、野菜であることに気づき、野菜をたくさん盛り込み、パッケージでそのことが一目で分かるように工夫した。
また、他人の目の課題解決では人気俳優の口から「いい、食べっぷりだ」のプロモーション活動を積極的に実施した。
いい食べっぷりとは、男性であろうと女性であろうと褒められることであり、何ら一目を気にすることではないというわけである。
女性のカップ麺に対するニーズに適応し、世間や社会に向けて新しい価値の提案をして価値の創造を目指した。
新商品の売れ行きは上々のようである。これこそ、創造的適応を目指したマーケティングである。
(平成28年9月8日 日刊工業新聞掲載)

成熟市場におけるイノベーション
競合の優位性減らす「中立化」戦略を/市場投入期間の短縮が重要
上野 延城(埼玉支部)
今日、市場の多くは成熟し、限られたパイを巡って激しい競争が展開されている。製品のライフサイルルが成長期から成熟期に入り、成長が鈍化した。
需要は買替えか買増しが中心となり、わが国の市場は成熟市場となった。
成熟市場とは、ビジネスの周期的変動の影響を除いた成長率が典型的には、10%以下の段階のこと。
「ライフサイクルイノベーヨン成熟市場+コモディ化に効く14のイノベーション」(ジェフリー・ムーア著)にはイノベーションの効果として「差別化」「生産性向上」「中立化」の三つを上げている。
このなかで「中立化」という考え方は大変参考になった。
イノベーションの望ましい結果のひとつに中立化がある。これは、競合他社の優位性に追いつき、自社の欠点を克服することで、他社の差別化要素を無効化する戦略であると述べている。
中立化の例としてSUV(スポーツ多目的車)が自動車市場に最初に登場したときに、フォードをはじめとする数社が先行者として差別化要素を有していたが、その後、中立化を目標として他のすべての自動車メーカーが自社のSUVを提供しはじめた。
中立化は変化する競合環境に対する重要な対応策である。中立化のためにはイノベーションが必要と述べている。
中立化を目指すイノベーションの目標設定には差別化を目指す場合と異なるアプローチが必要である。
「クラス最上級」を求めるのでなく「必要にして十分」な目標を追求する必要がある。
その理由は、クラス最上級の製品は、それが市場で最初の製品でない限り、投資に見合うだけの高い利益をもたらさない。また、中立化においては機能の豊富さよりも市場投入までの期間短縮の方が重要であるということ。
中立化とはイノベーションによりターゲット市場における競合他社の優位性を減少または消滅させることができた状態である。
これまは、イノベーションの効果はターゲット市場において競合他社を十分に引き離すことができる差別化戦略が主体であったが、成熟市場におけるイノベーションには他社に抜きんでるということではなく、競合の差別化要素を弱体化、また無くす目的とする中立化という戦略も大いに効果がある。(平成28年9月15日 日刊工業新聞掲載)

文具業界の勝ち残り戦略に学ぶ
日本の家電メーカーの失敗教訓に/独創的商品・新市場に挑む
上野 延城 (埼玉支部)
ヒット商品が相次ぐ文具業界が元気である。2015年の国内文具市場は前年比9%増えた。
“のぞいてみよう!ちょっと気になる文具の世界”のキャッチコピーで第12回「書く・貼る・捺す・デジる」展が8月23・24日に都内で開催された。ビジネスユーザーを中心に来場者で会場はあふれていた。
文具業界では最高益を更新する企業も多い。その要因は「日本の家電メーカーの失敗に学んだ」とある大手メーカーの幹部は述べている。
日本の家電はコモディティ化のワナに陥り、製品の機能や品質でライバルと区別できなくなり価格競争に巻き込まれた。文具も製造技術や部品はコモディティ-化が急速に進んだ。そこで自社で製品を開発・生産し、過剰品質にならず消費者が求める独創性のある商品開発に注力した。
新市場にも挑んでおり、展示会であるメーカーは防災商品に取り組み、災害時などのいざというときに着る布団&エアーマットを開発した。歩ける寝袋で靴を履いたまま着られ、ゆったりサイスで前面ファスナーの、すぐに着られて、すぐ脱げるものである。
しかも収納はA4ファイルサイズなので書棚や机の引き出しなど効率的な保管が可能である。
また、新設の「子育て家族に役立つ文具」コーナーでは筆記具メーカーとテープメーカの共同開発した書いた文字が貼れる商品は専用ペンで筆記台に文字を書いて、その上からテープを貼ると、文字をテープに写し取れる。食品容器やコップにお名前シールが貼れるので便利である。この商品は手芸用品やベビー用品などの新たな販路開拓につながっている。
文具売場には芯が太らないシャープペンシル、きれいに消せるボールペン、針のいらないステープラや女性向けのおしゃれな封筒など、ちょっと前には見ることがなかった新しい商品が多く陳列されている。こうした新機能をもつ文具が開発され書店やドラックストアーなどでも文具を扱う店が増えている。
また、付加価値の高い製品は国内はもとより海外においても人気を得ており、各社は海外市場への販路を見出している。文具業界の踏ん張りは日本企業の勝ち残りの道を示しており学ぶ点が多くある。

(平成28年9月23日 日刊工業新聞掲載)

拡大するスポーツ産業マーケット
五輪追い風、政府目標25年に15兆円市場/新ビジネス創出の好機
上野 延城(埼玉支部)
中小企業庁は2016年7月に「中小企業等経営強化法」を施行した。これは,「経営力向上計画」で稼ぐ力を強化するチャンスであるとしている。また,2016年8月19日『ニッキン』によると,中小企業庁は信用保証制度見直しのため,有識者の作業部会を設置してから約1年が経過した。15年12月に中間論点の整理をとりまとめ,16年4月から議論を再開した。現在では中間論点に沿って有識者から意見を聴取している段階であり,具体的な方向性は固まっていない状況にある。その中の議論の一環として,中小企業の経営改善や事業再生に関する意見を聴取し、複数の委員から指針作成の2案が出されている。
一つ目が「経営に関する健康診断指針」の策定である。これは、深刻な経営難に陥る前の健康診断ツールの必要性を主張する意見である。二つ目が、「中小企業と金融機関の信頼関係構築を促す指針」の策定である。これは、金融機関のコンサルティング機能に注目し、平時から良好な関係構築を図り経営悪化を未然に防ぐ狙いがある。作業部会は16年度末までに最終報告書をまとめる予定であり、この二つの指針策定が最終報告書に盛り込まれるのか焦点になりそうである。
一方、16年8月17日『日本経済新聞』によると、金融庁は地域経済の縮小を防ぐには、地域金融機関による企業支援が不可欠であるとしている。かつて銀行は「天気がよい時には傘を貸し雨が降ると傘を貸さない」と言われた。現在、地銀各行は「現場力強化」を掲げ,担保に依存せず融資する事業性評価のノウハウ確立を急いでいる。
雨の日も取引先企業と「二人三脚」で乗り越えることが地域金融機関が地域経済に果たすべき役割や使命であり、それは今まで以上に大きくなる。また、昨今の金利低下が経営者の投資マインドにプラスに働いていると言われている。低金利で金融機関の事業環境は厳しさを増しており,2017年3月期の収益環境は厳しく利益も減少する金融機関が多いと見込まれる。その中で,地域金融機関には事業性評価への取り組みを推進してほしい旨金融庁は要望している。
貸出先企業の成長性を見極めて適切なアドバイス・提案を促し、貸出先が成長することで金融機関自身も成長するという共存共栄のビジネスモデルを構築することが重要である。つまりコンサルティングサービス等、金利面や条件面ではない付加価値を求められている。金融庁は、15年9月―12月に取引先企業が金融機関についてどうみているかヒアリング調査を実施した。今後はその調査で得た情報を基に,各金融機関に対し事業性評価の方法や成功事例等の情報を提供していくとしている。
中小企業と金融機関との対話を深め、事業性評価推進がどこまで浸透しいくか地域創生のカギを握ると考えられるため今後進捗状況を注視していきたい。
(平成28年10月6日 日刊工業新聞掲載)

環境経営士の提言
業務効率化でコスト減・省エネ/経営者の具体的行動を積極支援
多賀吉令(中部支部)
環境経営とは、企業と社会が持続可能な発展をしていくために、地球環境と調和した企業経営を行なうという考えである。
環境関連規制の対応だけでなく、幅広い環境活動が求められている。中小企業の方々には多くの悩みをお持ちだと思う。
例をあげると①整理整頓ができず、工場、事務所内が乱雑②仕事の遅い人と早い人との差が大きい③ミスが多い、事故が多い、不良品がよく出る④在庫が多い、材料が余る、廃棄物がたくさん出る⑤一生懸命働いているのに利益が上がらない⑥同じ失敗を繰り返す― など。このような問題を解決するためには、経営改善が必要だ。
経営改善のポイントはムダを省いて業務の効率化を図ること。
原材料の使用量を少なくしてコストを削減し、作業効率を高めて時間を短縮する。これらの改善は、環境負荷を減らすことにもなる。ムダに捨てていた原材料を効率よく使用することは資源の節約やゴミの節減につながり、作業時間を短縮させることは節電など省エネルギーにつながるからだ。
環境経営は経営改善に環境の視点を加えたものだが、収益を犠牲にしてまでも、地球環境や地域の環境を良くしようというものではない。環境経営が環境改善につながるということは収益を上げるために効果的な面があるということだ。
収益が上がる、効率が良くなり無駄が省ける、不良が削減されクレームがなくなる。このような取り組みが結果的に環境も良くする一石二鳥となる。
環境経営士には、「企業内環境経営士」と「外部からの支援環境経営士」がある。役割は基本的に今まで述べた「経営と環境の両立」への気付きから始まる。環境経営士は顧客にセミナーや訪問で「気づいていただく」ことだ。
具体的な行動とは①環境負荷の低減(省エネルギーによるコストダウンの取り組み・資源の有効利用・廃棄物を出さないゼロミッションの経営)②生物多様性への取組み③企業の体制づくり(環境行動宣言・EMSの構築)④従業員および家族等の環境意識の向上(eco検定取得のための研修・地域社会でのボランティア活動の推奨等)その他日本経営士会の支部活動としての地域内連携活動がある。
特に日本経営士会環境社会創出委員会では、企業体制づくりとして、中小企業向けのコンパクトエコシステム(CES)の普及活動を行なっている。
私は同中部支部所属で、経営士・環境経営士として活躍しているが、別に日本ボイラー協会岐阜支部でボイラー実技の講師もしている。ボイラーシステムでの省エネルギー対策などを説いている。
今後、個別に経営士や環境経営士の立場から話が進められることを期待している。
そのためには地元の経営士や環境経営士がその足となり手となり積極的に動くことが肝要だと考えている。
(平成28年10月13日 日刊工業新聞掲載)

人の印象は戦略的に創る㊤
販売戦略的な感じの良さ、訓練で習得/接客品質今一度見直しを
柳沼 佐千子(北関東支部)
マナーだけでは売上につながらないことをご存じだろうか?
ビジネスマナーとは、ビジネス上の一般常識のことである。マナーは必要であるが、常識
を学べば、売上向上の数値結果を得られるかというと、必ずしもそうとは言えない。
過去出向いた企業のほぼ100%が、社内で既に「お客様には、明るい対応をするよう
に」と育成指導している。しかしながら、誰一人として「明るい対応とは何か?」を、具
体的に答えることができないのだ。曖昧な指導をしている現状は、大企業も中小企業も同
じである。
企業では、契約率、再来率など売り上げ向上という数値結果を接客・営業社員に求める。数値結果が欲しいなら、常識レベルとは別に、人の好感度を戦略的に作り出す「印象力向上」に視点を変える必要がある。
例えば、観光で訪れた魚市場の接客の雰囲気をイメージしてもらいたい。おそらく活気
がある・元気がいいなどが浮かぶのではないだろうか。では、高級ホテルのフロントスタッフの接客はいかがだろうか。洗練された・丁寧・上品などにキーワードが変化するであろう。
どちらも観光関連業種であるが、接客のスタイルには違いがある。
社員スタッフの好印象対応は、各企業が目指す姿やお客様の傾向から割り出し、変化さ
せなければならないのである。
これこそが、一般的なマナーとは狙いが異なる、販売戦略型の「印象力」なのである。
スタッフ社員の印象を販売戦略として取り入れた企業では、最短では一か月後から、数
値向上の結果を目の当たりにするところもある。結果を得て大喜びした企業の中には、リ
ピーター率が約10%増、契約率が前年比約150%。交通機関でのサービス調査で約30%増等もある。
お客様が感じる一見、曖昧な「スタッフの感じの良さ」は、具体的に訓練することにより習得できる。商品や値段、店舗内装などは現状のままで、売上向上を実現することが可能なのである。
バラバラになっている接客品質をいま一度、見直してみてはいかがだろうか。嫌いな人の話は聞きたくない、好ましい人と会うのは楽しい。人間の本能的な感情に「具体化」させたアプローチをしていないのは、実にもったいない話である。
(平成28年10月20日 日刊工業新聞掲載)

人の印象は戦略的に創る㊥
顧客の感情揺さぶる戦略必要/接客・営業、「脳」から組み立て
柳沼 佐千子(北関東支部)
「担当を変えてくれ!」思わず言いたくなったこともあるだろう。
好きな人とは話したいが、嫌いな人とは会いたくない。これが営業成績にダイレクトに響
く「人の印象」である。
脳から捉えると、人の印象は右脳のパートである。右脳は楽しい・嬉しい・好き・嫌いなどの感情を担当する。そして左脳は、値段・割引率・材料・技術・比較などの理性である。
お客様が購入の有無を決めるまでには流れがある。①右脳→②左脳→③行動の順である。
出会いから購入を決めるまでの流れを、人の印象(右脳)、商品説明(左脳)、購入の有無(行動)として考えてみる。
例えば、ここに誰もが認める品質の良いシャンプーがあるとする(②商品説明)。好きな人と嫌いな人とどちらに説明されたときに、買う確率が高いだろうか(①人の印象)。企業研修中に質問すると、ほとんどの人が好きな人からの話は素直に聴くが、嫌いな人から説明されたら買いたくないと答える。品質や成分が全く同じものなのに、購入の有無を変えてしまうのだ(③お客様の購入)。
イメージしてもらいたい。心の中にピンクと黒の2種類のサングラスがある。私たちは
人に出会った瞬間に、どちらかのサングラスをかけるのだ。明るい、さわやか、話しやすそうなど、好ましく感じたときはピンクをかけ、心が開いた状態になる。
その逆で、暗そう、怖そうなど悪いイメージを持つと黒のサングラスをかけ、心を閉ざす。出会った後は、そのピンクと黒のフィルターを通して、相手の話を聴くのである。ピンクのサングラスをかけた人が説明した商品は、ピンク色に見える。黒のサングラスをかけた人がいうことは、薄黒く見えるのだ。要するに、商品そのものの購入判断の前に、「人の印象」というフィルターがかかるのだ。
過去伺った企業は、社内教育が左脳のパートに偏っている。他社との比較や割引率などの説得説明の教育に時間を割いている。
売上向上を目的とするなら、社員の印象を向上させ、出会いのファーストステップとなるお客様の右脳を揺さぶる戦略が必要だ。人の印象と商品説明の右左両輪を強化するのである。
あなたの会社では接客や営業を「脳」から組み立てているだろうか。
(平成28年10月27日 日刊工業新聞掲載)

人の印象は戦略的に創る㊦
[笑顔]「会話の向上」全員研修/リーダーは社内練習継続に集中
柳沼佐千子(北関東支部)
「さまざまな研修をしてきましたが、効果を実感できないのです」―初めて企業を訪れたとき、このセリフを何度聞いたことか。このセリフがでてくる企業には、共通点がある。それは、リーダーに代表で研修を受けさせ、社員全員に浸透させようという点だ。
例えば、10店舗で1,000人のスタッフが働いている企業があるとする。各店舗の店長
10人を一度に集めて研修を実施し、各店舗のスタッフ100人ずつを育成しなさい、と
いう構図だ。このやり方は、一見効率がいいように感じるが、逆にうまくいっていない。
筆者の専門である印象力を向上させるスキルを社内に浸透させることを例に挙げよう。①本人のスキル、②教える能力、③継続する力、この三つが結果を出すためには必要だ。
しかし、一つ目の本人のスキルとなる「感じの良い対応」は、曖昧なままで具体的手法がわかっていない。リーダーも初めて学ぶ内容なのに、初心者がいきなり教える役割を求められるのだ。二つ目は、自分ができることと、教えることはまた別だ。スポーツの世界でも名プレーヤーが名監督とは限らない。
三つ目は、学んだスキルを社内全員で継続させるノウハウを持っていない。これらが主な問題点である。
初めて学んだことを部下に教えると、的確には伝わらない。まるで伝言ゲームのようになる。当初目標達成のためだったはずの研修の内容が、ゆがんでしまい、薄まるのだ。その状況で浸透させ、売り上げ結果を出せと指示されるリーダーは、生きた心地がしないだろう。
上記の理由から、全員が研修を受講することを最初に提案する。人の印象の要素である「笑顔」や「会話の向上」等は、身体で再現し訓練する必要がある。スキル、知識、翌日から即実行できる練習プログラム等を全員が共有している状態を整える。
そしてリーダーを「継続させる役割」にするのである。全員が知っているという土台があれば、リーダーは、号令ひとつで社内練習を即実行し、継続することだけに集中できるのである。
研修結果に効果があったと感じるのは、社員が継続して実行できているときだ。効率的
に効果を出すはずの選択が、一番遠回りになっているのである。
(平成28年11月3日 日刊工業新聞掲載)

小規模を強みに変える力
際立つ独自性・強み生かしマーケティング/顧客に「心地よさ」提供
上野 延城(埼玉支部)
中小企業の数は約381万社で、日本の全企業数の99%を占めている。また、日本の
従業員の約7割が中小企業で雇用されている。
規模の大きさが強さに直結しない時代がきている。一般的には、中小企業は大企業に比べて経営資源の脆弱性を語られることが多い。
しかしながら、現実には大企業が必ずしも中小企業より優れているわけでなく、規模が小さい企業には小さいことの強みがある。
逆に、経済の成熟化、需要の多様化、人口減少といった時代は、小さな企業にとって追い風となり得る。
しかし、多くの小規模企業が時代の追い風を生かしきれていなのが現実である。小さくとも強い企業が共通して持つのは、際立った独自性である。
独自性とは、他とは違うことでうまれた個性、つまり自社の強みのことである。
消費者にも大規模量販店での買い物が好きな人もいれば、小さな店での買い物に魅力を感じている人もいる。
小規模の強みを生かしたマーケティングでは、小さな店に惹かれる人々をターゲットにすりほうが効果的である。
客層の特性は、こだわり、個性、専門性を重視する消費者であり、店員のアドバイス、店員とのコミュニケーション志向、気に入った店は長く利用したいという関係性志向である。
すなわち、顧客の期待に応えるためには「本物志向の非価格志向」「関係性志向のきずな力」「人的コミュニケーション力」の三つがポインである。
値段が同じなら鮮度の良いいアドバイスを的確にすることで、お客の満足度は高まる。
町の魚屋さんが、「奥さん、煮つけならメバル、塩焼きなら、今日はアジがいいよ」と、的確に生の声の情報提供は大型店にはできない。
小さな企業には大企業にはできない小規模の強みを生かしたマーケティングがある。ご用聞き、配達、量り売り、店内加工、旬の説明、適度な会話などである。
このほうが買い手にとって心地よいからである。消費者は、こういう心地良さを明らかにした店に集まり、人気が高いのである。
小売の将来を予想するのはなかなか難しいが、ヒューマン・タッチの昔風を大事にしている老舗商店が生き残っている現状から学ぶことが多くあると感じる。
(平成28年11月10日 日刊工業新聞掲載)

「パリ協定」批准の中で
温暖化対策と経済発展の両立を基軸/地域分散型再生エネで地方創生
宮川 晃(近畿支部)
2016年度版環境白書によると、温暖化は確実に進行し世界平均で、0.85℃上昇1880~2012年)、海面水位も19cm上昇(1901~2010年)、これからの気温上昇の予測は最大で4.8℃上昇(2081~2100年)、海面水位は最大82cm(同)の上昇と予測されている。このまま推移すると地球の環境変化による生物の生命の存続が危ぶまれる。現在の日本でも、異常気象・災害の多発、熱中症・感染症の増加、生態系の変化など深刻な現状だ。
昨年11月30日~12月13日に、フランス・パリで、気候変動枠組み条約COP21におけるパリ協定の採決がされた。
パリ協定は、①目的は、世界共通の長期目標として、産業革命前からの地球の平均気温の上昇を2℃以下に、1.5℃をめざす努力②目標は今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収のバランス(実質ゼロ)を達成できるよう、最新の科学に従って急激に削減③各国は、削減目標を作成・提出・維持し、5年ごとに提出・更新し前進を示す④長期戦略では、全ての国が長期の温室効果ガス低排出開発戦力を作成・提出するように努める?協定の目的・長期目標のため5年毎に全体の進捗を評価するため、協定の実施を定期的に確認する―などが決められた。
日本は、中期目標を30年度に26%削減をめざすとしている。ヨーロッパの約半分の消極的な目標だ。
パリ協定の批准は、温室効果ガス排出量の約40%を占める第1位の中国(28.0%)と、第2位の米国(15.9%)が、温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」を批准した。このことで、第6位の日本(3.8%)’いずれも2013年排出量)の批准なしでも「パリ協定」が発効する状況だ。
日本は世界でもまれな、太陽光・水力・風力・バイオマス・地熱・波力などの再生可能な自然エネルギーの豊富な国だ。地域でのエネルギー自立を目指し、地域分散型の再生可能な自然エネルギーの活用・開発を優先的に進めれば、世界で最も早く温暖化対策が前進するとともに、中規模・小規模の発電所づくりで新たな産業と雇用が創出される。
同時に、エネルギーを外国から輸入にたよる前にあった地方から食料とエネルギー、都市から商品の国内での地域循環も再生し、過疎対策で悩む地方創生に役立と考える。こうすることで、世界の地震の約2割が発生、活火山の約1割が存在する日本の地理的条件に合わない原発からの脱却も目指せる。
(平成28年11月17日 日刊工業新聞掲載)

雑談力をビジネスに活かす
間の取り方を身につける/「言葉の炎」で化学反応活発に起こす
上野 延城(埼玉支部)
雑談はビジネスの潤滑油といわれ最近のビジネス雑誌には特集が多く組まれている。書店にも雑談をテーマとした書籍がビジネスコーナに大量に陳列されている。
雑談を時間を無意味に過ごす「ムダ話」と考えている人もいる。仕事中の雑談は仕事とは関係ない話しのように見えるが、後から仕事に役立つことは多くある。
雑談には相手の心をほぐし、自分を強く印象づける効果もある。今、雑談力が見直されている。かっては無駄話、時間つぶしのようなネガティブなイメージを持つ人が多かったが、ビジネスの成功につながる重要なスキルとして見直されているのはなぜか。
雑談には場をなごませ、相手との距離を縮めるコミュニケーションの基礎となる重要な機能があるからである。
昨今、メールや会員制交流サイト(SNS)などコミュニケーションツールが発達し、人と人が直接会話する機会が減ったことで、気軽に話ができない悩みを抱く方々が増えている。そのために仕事に役立つ通信講座や研修会が開催されている。
相手が気持ちよく話せて、自分に親しみを感じてもらえる。そんな心地いい雑談のカギを握るのが、相づち、間の取り方といわれている。
間の取り方とは、話すテンポやスピード、心の距離のこと。雑談の目的は、気持ちよく言葉をやり取りして、リラックスした雰囲気を作ること。それだけに、話の内容以上に間の取り方が重要になる。
雑談が苦手な人は、話を一方的に続けてしまう人が多い。間の取り方を身につけることで、自然なキャッチボールができるようになる。
アサヒグループホールデイングスの泉谷直木会長は、「雑談力は重要なビジネススキルの一つだ」と言う。
雑談の「雑」には混ぜるという意味がある。「談」は「言」と「炎」という字からできている。混ぜ合わせされた何かを言葉の炎で加熱して、新しいものを生み出していく。
雑談というのは、本来そういう力強いものなのである。混ぜるものが増えれば増えるほど化学反応は活発になり、思いもよらないものがそこから立ち上がってくる。
雑談とは「言葉の炎」で化学反応を起こすこと。いい会社は必ず「雑談」を大切にしている。と話している。
(平成28年11月24日 日刊工業新聞掲載)

モノよりコト消費が拡大
消費者は心の豊かさを重視/商品・サービスに意味的価値も提供
上野延城(埼玉支部)
コト消費とは、一般的にはモノを所有したり、モノの機能を消費するのでなく、商品・サービスを購入することで得られる体験・時間などを楽しむ消費とされる。
友人や家族と時間や体験を共有するための消費、習い事など自分の経験値を高める消費などである。
モノが売れない時代、消費者の心をつかむためには、コト消費の視点が欠かせないといわれている。コト消費が広がっているのは、消費者が物質的な豊かさよりも心の豊かさを重視する傾向にシフトしているからである。
コト消費では同じ商品・サービスでも消費者がさまざまな目的で消費を楽しむ。
心の豊かさを重視する人の割合は年々増加傾向にある。新しい生活ニーズをかなえるのは、モノよりコトであることからコトが支持されている。
コト消費にマッチする商品・サービスを提供するには、コトづくりの視点がポイントになる。コトづくりとは、商品・サービスの価値を生み出す仕組みやプロセスをつくり上げることである。
企業が消費者に商品・サービスを販売する際、モノの機能的価値以外に意味的価値を提供することである。意味的価値とはモノと一体化しているデザインやブランド、ソリューションである。すなわち、モノとサービスを別物として考えるのでなく、一体的に提供する商品づくり、ユーザーの使用情報に基づく付加価値づくりである。
小売業では来店動機を増やすために、コトを売るスーパーやコンビニエンスストアが盛況である。買った食べ物を店内の客席で飲食できるイートインコーナーを設けているスーパーでは、イートインコーナーを活用して体操教室や工作教室を開催している。
買い物だけでないコト機能を店につけ、競合店との差別化を図っている。
百貨店各社が2017年の初売りで販売する福袋の内容も「コト消費」関連の企画が多い。
手軽にキャンピングカーを利用できる商品や五輪輩出チームと練習できるもので、購入者が自ら体験できる福袋である。
企業側がコトづくりを発信することに加えて、消費者がコトづくりに積極的に関与できるような仕掛けや仕組みを用意することで、より消費者に受け入れられる商品・サービスを提供できると考えられる。
(平成28年12月1日 日刊工業新聞掲載)

口コミ効果は信頼革命
影響力ある消費者情報源/シェアリングエコノミーの成長支える
上野延城(埼玉支部)
有効活用していない自宅や別荘、空き部屋を他人に短期間で貸し、使用料などを受け取るシェアリングビジネが広がっている。
総務省統計局によると2013年10月1日時点における全国の住宅数は6063万戸と、5年前に比べ、305万戸増加、一方、空き家は820万戸で空き家数は、5年前に比べ、63万戸(8.3%)増加、空き家率は13.5%と、過去最高を更新し続けている。
空き家が増えておりシェアハウスへの活用が今後注目されている。
日本自動車工業会の調査では2015年の乗用車の月間走行距離は350キロで13年に比べると80キロも減っている。
複数の人が同じ自動車を使うカーシェアリングは、企業による利用が増えている。レンタカーなどより使い勝手が良く、収益の向上に貢献している。
不稼働資産の有効活用策、ITの進展で個人主体の新たなビジネスとしてシアリングが盛況である。
見ず知らずの人同士なのに抵抗や問題を解決しているのは「口コミ」の力なのである。
インターネットの普及で商品やサービスに関する情報は、豊富に手に入るようになった。しかし、かえって消費者は良い商品やサービスを理解し、適切な選択ができにくくなっている。
口コミによる情報は既存メデイアより信頼性が高い。世界的なマーケティングリサーチ会社のニールセンが、2013年に行った調査結果によると、商品やサービスに関する情報発信を行うさまざま媒体の中で、消費者の84%が友人・家族などによる口コミが、信頼でき影響力があると答えている。
慶応義塾大学の調査によると、企業が提供する商品やサービスに関する情報に関して、消費者の90.5%が何らかの不満をもっており、消費者は、企業が都合のいい情報しか提供していないと半数以上が感じている。
口コミは、消費者が求める情報を的確にストレートに表現することから、消費者とっては利用しやすい情報源になっている。
互いの信頼関係がシェアリングエコノミーの成長を支える原動力である。相互に相手のことを信頼し合っている関係、信頼することができるような関係をつくる信頼革命の時代が将来やってくと予測する。
(平成28年12月8日 日刊工業新聞掲載)

新市場を創る親孝行商品の開発
高齢者向けアイテムに注目/感謝を込めた贈り物ヒット商品に
上野延城(埼玉支部)
総務省が敬老の日を前に発表した人口推計によると、女性の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は30.1%となり、初めて3割を超えた。男性は24.3%。男女を合わせると前年から0.6%増の27.3%である。65歳以上の人口は73万人増の3461万人で、割合、人数とも過去最高を更新した。
今年の65歳以上は、女性が前年より38万人増えて1962万人、男性は35万人増の499万人である。厚生労働省は認知症の人が2025年に700万人に達するとの推計値を明らかにした。65歳以上の高齢者の5人に1人に当たる計算である。
警察庁生活安全局によると14年に認知症が原因で行方不明になったとして家族から警察に届かられたのは1万783人。2年連続で1万人を超えている。
また、事故に巻き込まれるケースが問題になっている。厚生労働省も全国の自治体を通じて実態調査を始めており、同省担当者は「行方不明者が見つかった際、所持品は身元特定の大きな手がかりになっている」と説明する。
私事になるが、このような、高齢者対策として、ある宝飾メーカーに新市場の開発ステップをコンセプトに「ID(身分証明)付きペンダント」を提案、商品化した。
金属製の小型タグに氏名や住所、連絡先、血液型、持病などを彫り込んだペンダントである。
予想外の緊急事態の際にも連絡先を本人に代わって第三者に伝えることができる。
顧客からは「徘徊で困っている」「認知症を患っている家族が心配」「親に持病があるので万一の時に」などの理由で贈答用に求める人が多くいた。
この商品は高齢者の認知症対策だけでなく、中高年者の登山やアウトドア向けの商品として、また海外旅行のお供として家族からの贈り物としても人気がある。
父の日、母の日、両親の誕生日のギフトとして最適なアイテムである。ある宝飾店では両親に感謝をこめた親孝行力をアップするギフト商品として品揃えしたところ口コミで広がり売上げの拡大につながった。
親孝行の手段は幅広く多くあるのでそれに対応した商品開発をすることにより、新しい市場を創ることが可能と予測する。
(平成28年12月15日 日刊工業新聞掲載)

経済を数学で考える
「メビウスの輪」との連想から/経営・仕事一捻りして良い結果に
矢島英夫(東京支部)
1、大円を小円が滑らずに転がると転がった距離と中心が動いた距離が同じになる。例えば自転車が動いたとき、タイヤが進んだ距離と自転車の進んだ距離が同じである。
すなわち、外側を回る時、小円の中心の動く軌道は、大円の半径Rと小円の半径rを足した半径(R+r)の円周となり、円周は、半径に比例するので大円(例えば半径2)の円周より小円(例えば半径1)の円周一周分多く小円は回転(2+1=3回転)し同様に大円の内側を小円が回るとき小円の中心は、大円の円周から小円の円周を引いた円周を動き、大円の円周から小円の円周一周分少なく、小円は、回転(2-1=1回転)する。これは、観覧車の動きと同じである。
2、上記1を経済に例えると外回りの経済は、発展する。外回りは、技術革新又は、人口増の場合であってこの時は、文化は停滞する。内回りは、経済は現状維持又は減速状態となる。内回りは、経済は縮小するが文化は、繁栄する。正に観覧車は、現状維持の例である。
3、経済は、好不況が交互にやってくる。仮想と現実を行き来するメビウスの輪の考えを取り入れて考えてみる。そこで、経済を仮想空間上にあると考えると、経済は、国の領域を超えて飛んで行くが、政治の現実は国の領域内に留まる。また経済は、現実面に現れるのは、結果が生じて現出する。途中の経過は、目に見えないところにある。仮想を現実と交互に変化することにより、経済の景気、不景気は繰り返す。
経済も景気だけを追うのでなく不景気という現実も必要である。無駄という考え方にメビウスの輪にある。ここにいう無駄とはメビウスの輪の特徴である一捻りしたところである。経済そのものは、仮想なもので、結果は、後になって現れる。結果を良くする悪くするのも方法次第である。考え方を一捻する処に良い結果が現出する。永年続く老舗企業の考え方は現実的である。世の中の変化に合う様に経営や仕事のやり方を柔軟に変えて行く処にある。
(平成28年12月22日 日刊工業新聞掲載)

「リセールバリューの買い物スタイル」
買値より高く売却狙う/リユース市場での評価・相場で商品選び
上野延城(埼玉支部)
今日の若者は“リセールバリュー”を考えて買い物をしている。
リセールバリューとは、一度購入したものを販売する際の、再販価値のこと。
中古車販売などの際に使われることが多い。乗用車などを使用後、中古車販売店や新車購入時の下取りとして、販売するときの価値のことである。
若い人に高額の時計が売れているのは、売ったらいくらになるかを考えて買い物をしている人が多くいるからである。
物は古くなれば安くなるというが常識であったが、中古品を扱う仕組みができたことで、買値よりも高く売却できることが可能になった。
ワインや日本酒、焼酎なども個人がネットで簡単に転売できるようになり、人気の銘柄は何倍もの高値で売られている。
中古品・リユース業界の専門誌「リサイクル通信」によると2014年の国内中古品市場規模は、前年比7%増の1兆5966億円で市場拡大は5年連続となった。
このうち35.6%をネット販売は占めた。同調査では、今後もリユース市場は拡大し、25年には2兆円の規模に拡大すると予測。
中古品を売買する経験者の人口は、25年に日本の人口の約半数を占める約6200万人に達すると見込んでいる。
新商品を購入する際には、リセールバリューを意識した選択の仕方が浸透し、リユース市場での評価や相場が新商品選びの一つの指標になり得るとしている。
不動産の世界もリセールバリューの考え方が浸透すれば、新築偏重という傾向は改まるかもしれない。
そのためには、新築の段階で価値が下がらない建物を建てること、常に建物のメンテナンスを続けることが必要である。
環境省「リユース業者の環境意識高度化事業消費者へのアンケート調査」によると、リユース品を購入したことがある、38%。不要品を売却したことがない、62%。使わなくなったブランド品が自宅にある、54%。昔は中古品に抵抗があったが、今はなくなった、64%。である。
手軽に中古品を売買できる仕組みが市場に出てきたことで、将来的には売ることを前提にして買い物をするという消費傾向が広がっていく可能性は十分あると予測する。
(平成28年12月29日 日刊工業新聞掲載)

脳科学でマーケティングは進化する
消費者の心理や行動把握/製品開発から広告・販売まで応用可能
上野延城(埼玉支部)
消費者は潜在意識で何を求めているか、何を買いがっているか、脳波を測定して本当のニーズを解明する―そんな脳科学の手法を、製品開発からパッケージ、広告展開まで一連のマーケティングに応用する「ニューロマーケティング」という画期的な手法が今、
確立されつつある。
ニューロマーケティングとは、神経科学と市場調査を組み合わせ脳の反応を計測することで、消費者の心理や行動を把握しようという試みである。
「消費者の“買いたい!”を作りだす実践脳科学」の著者、A・Kブラディブ博士によると、脳の情報処理の最大95%は潜在意識が行っている。商品を売るためには、その95%に働きかけなければならない。と語っている。
ニューロマーケティングを取り入れることで企業は5つの分野で活用できる。と述べている。1番目は「ブランドイメージ」である。ブランドが消費者の深層心理でどんな意味を持つのか、その感情を会話ではかるのは不可能だ、それを科学的に計測することができる。
2番目に「製品開発」である。ニューロマーケティングによって、脳が新製品のどんな部分を楽しみ、どんな部分を楽しくないと感じているか。それを計測して製品デザインに応用できる。
3番目は「パッケージ」である。どんなパッケージが消費者の目を引くのか、それを理解することが企業の売上げ、収益に直接的に結びつく。
4番目は「店舗環境」である。店内には写真、ディスプレイー、POPなどさまざまなものがある。消費者は無数の情報にさらされている。そのうち何が効果的で何が効果的でないのか、継続的に脳波を計測していけば、何が消費者の購買行動を決定付けたか知ることできる。
最後には「広告」である。テレビ、ラジオ、インターネット、フェイスブックなどすべての広告を分析して何が効果的かを計測する。このように製品開発から広告、販売まですべての過程でニューロマーケティングを応用することができる。
人間の脳を理解すれば、よりよい製品やサービスを開発し、より効率的なマーケティングを展開して売り上げを伸ばすことが可能になる。
市場の変化が激しい現代には重要な要素となっていくと予測する。
(平成29年1月5日 日刊工業新聞掲載)

一人身世帯が社会を変える
独自のモノ・コト消費行動を研究/新たな商品・サービスに注目
上野延城(埼玉支部)
晩婚化や高齢化、社会認識の変化に伴い、一人身世帯が増え、今や3軒に1軒はひとり暮らしである。
厚生労働省の2015年版となる「国民生活基礎調査の概況」によると、お年寄りがいる家のうち1/4強・552万世帯は「一人きり」である。
今世紀に入ってからのみの動きを見ても、単独世帯は250万世帯強・核家族は300万世帯ほど増え、3世代世帯(祖父母、夫婦、子供)は100万世帯以上減っている。この50年近くの間に3世代家族の比率は10ポイント以上減少し、その分単独世帯や核家族世帯が増加している。構成比で見ると核家族世帯よりも単独世帯の増加率が大きく、未婚の人が増加しているようすが容易に想像できる。
ひとりを楽しみ、謳歌する人が増えている。16年シチズン時計の20代以上の独身男女への調査では、休日の過ごし方は「ひとり」で過ごすことが多いが「80%」、人とあうことが多いが「20%」となっている。
じゃらん宿泊旅行調査では、宿泊旅行に占める「ひとり旅」の割合は06年度、11.2%、15年度、17.5%。宿泊旅行を同行者別にみると、この10年で「友人と」「恋人と」が減少する一方、最も伸び率が大きかったのが一人旅である。特に男性が多く、属性別でみると20―34歳男性は約29%、35―49歳は25%を占める。
全国の20―30代の未婚男女に結婚願望を聞いたところ、生涯未婚率(50歳時点の未婚率)は男性で4人に1人、女性で7人に1人に上る。
13年レジャー白書によると、ジョキング・マラソンやトレーニングなどひとりでできスポーツが人気である。
好奇心旺盛で、何事にも前向きな一人身世帯、ある程度自由になる資金もあり、価値があると認めたモノ・コトには消費を惜しまない。
ひとりで生きる人たちはライフスタイルや消費行動も独自であり、その行動を研究することが必要で、企業も社会もそれに合わせて変わっていくことにより、新たな商品・サービスが生まれてくるものであり、ひいては企業にも大きな利益をもたらしてくれる。
一人身世帯はこれからの社会を変える巨大な力になると予測される。
(平成29年1月19日 日刊工業新聞掲載)

価格競争でない価値創造型販売促進
書費社の深層心理科学的に調査/情緒的・自己表現価値引き出す
上野延城(埼玉支部)
終わりなき低価格競争から抜け出すためには、消費者の深層心理を研究した価値創造型の販売促進が必要である。
深層心理とは、人間の心の深層、すなわち無意識を研究し、意識現象や行動を説明しようとする心理学である。一方、価値創造型販売促進とは、消費者の深層心理から、商品のもつ価値を探り、それをもとに開発された販売促進である。
商品の価値には「基本的価値」「機能的価値」「情緒的価値」「自己表現価値」がある。
基本的価値は、商品における明細事項的な価値を表す。機能的価値は基本的価値を踏まえ、他社製品に差別化が図れる機能面における価値を表す。
情緒的価値は、その商品を使ってみて感じる感覚的なことである。自己表現価値は、商品を顧客が所有・使用することで完結する価値ではなく、他人に対して自分を表現できることで生じる価値である。これら4つの価値のうち基本的価値や機能的価値は各メーカーで常に研究開発されており、これだけを訴求しているだけでは、他社との差別化が難しい。
今後、特に重要なのは情緒的価値や自己表現価値を消費者の深層心理から引き出すことである。そのためには、モチベーション・リサーチが有効である。
モチベーション・リサーチとは、消費者がどのような動機で商品を買ったかを科学的に調査することである。調査方法の代表的なものとしては、深層面接法、集団面接法、投影法などがある。
消費者はある特定の商品は購入するが、他のメーカーなどの同程度の商品は購入しない等の購買・受容行動がなぜ起こるのか調査する手法である。動機をできるだけ確実につかむことにより、販売促進の効果をあげることができる。
安いから買うという消費者は、もっと安いものがあればそちらに流れてしまう。低価格を訴求しない価値創造型の販売促進では、商品やブランドの潜在的に秘めていた価値を消費者に伝えることにより、そのものの評価を押し上げることが期待できる。
マーケティングの新しい切り口を立ち上げる際の成功確率を高めるためには、消費者にどのように価値を伝えれば効果的なのかの、価値創造型の販売促進を研究することが重要である。
(平成29年1月12日 日刊工業新聞掲載)

プレミアムフライデーの進め方
「生活の豊かさ」消費につなげる/コト消費・生活者の価値観重視を
上野延城(埼玉支部)
毎月末に金曜日の消費喚起を目指す官民連携の「プレミアムフライデー推進協議会」が設立された。日本百貨店協会、日本チェーンストア協会など流通団体を含む15団体が参加する。
2017年2月24日に全国で活動を始める方針や、ロゴマークを無償提供して知名度を高める。
プレミアムフライデーは経済産業省や経団連も加わり、協力企業が毎月末金曜を軸に午後3時で従業員に終業を促す取り組みである。
長時間労働の見直しなど働き方改革とも連動しており、買い物や観光、家族との団らんといった「生活の豊かさ」を消費につなげる狙いがある。
実施日を月末金曜にしたのは、消費を意識したためである。
金曜日の消費支出は週末に次いで多い、しかも月末であれば給料日に近く財布のヒモも緩むとの思惑がある。
第一生命研究所の永濱利廣・首席エコノミストによれば、有給休暇取得による消費刺激効果などを基に算出したプレミアムフライデーの経済効果は1日当たり1236億円。
16年のハロウィーンの市場規模が1345億円、バレンタインデーが1340億円と試算されているので、これに匹敵し、毎月実施されると大きな市場と予測される。
すでに具体的な取り組みにむけて動き始めている自治体や企業もある。
飲食店の中には早めに開けて、会社帰りの客を呼び込む準備をしている。
しかし、今のところフレミアムフライデーが社会全体に受け入れられているとは言いがたいが、日本社会の横並び意識を脱皮するためにも実施すべきである。
月末の金曜は忙しい小売業や外食産業には労働強化になるなどの声が上がっているが、生産性向上には結びつくはずである。
参加企業もセールよりも、少しぜいたくな買い物や旅行を楽しむといった需要を掘り起こしたい考えであるが、モノ消費よりコト消費へと変化する生活者の価値観を重視した考え方で取り組むことが必要である。
プレミアムフライデーを活用して、新たな経験・体験を積み重ねて日々を充実させるためのコト消費を積極的に提供していくことが重要だ。
新しい制度を浸透させるためには、売り気があまり強すぎると逆効果になりがちになることもある。スマートな展開を期待したい。
(平成29年1月26日 日刊工業新聞掲載)

インサイトマーケティングの重要性
顧客心理深く掘り下げ真の姿理解/新商品・サービス開発に有効
上野延城(埼玉支部)
市場が目まぐるしく変化する現代は、マーケティグが企業の盛衰を左右するようになる。
インサイトマーケティングが注目されている。インサイトとは直訳すると「洞察力、見識」とか「視野に入れる」という意味で用いられている。
マーケティングにおける意味としては、生活者の意識や行動を深く掘り下げ、彼らが気づいていない意識を見抜くことである。“なんとなく”行われている生活者の判断や行動、嗜好の核になる心理がインサイトなのである。インサイトを上手に活用することで、生活者の欲求を刺激し、行動を引き起こすことが可能になる。
例えば、とくに理由はないけど、その商品をとても買いたくなる。買うつもりなかったのに、買ってしまう。価格が高いとわかって、あえて高いほうを選んでしまう。この「なんとなく良い」と思わせるポイントこそがインサイトである。生活者の“なんとなく”の判断や意思決定を促す、カギとなる無意識は、合理的な考え方では簡単に説明がつかないがために、活用できれば強い武器になり得るものである。
インサイトに注目が集まっているのは、生活者の心を確実に動かせるマーケティングが求められているからである。インサイトは最初に消費者インサイトを探ることから始めることである。「思わずその商品が欲しくポイント」のことである。
インサイトは広告から生まれてきた考え方といわれている。どうしたら消費者を振り向かせ、人の心を動かすことができるかというところから作られている。
これまでの消費者分析とインサイトでは、人のとらえ方が根本的に違う、従来の消費者分析では、人は論理的にモノを考え、合理的に判断し行動すると考えられてきた。それに対してインサイトは、人は気持ちや感情で行動すると考える。
すなわち、消費者を一人の人間としてみることの意味である。インサイトは消費者のホンネを探るものであり、それを方法論化し、組織的に行うことである。
顧客の心理を、もつと深く掘り下げ、顧客の真の姿を理解しようという考え方に基づく、インサイトマーケティングは今後の新しい商品やサービスの開発に非常に有効である。
(平成29年2月2日 日刊工業新聞掲載)

PDCAサークル活動の活発化
良否・気付き・苦労、顧客の声と一緒に整理/検討材料の充実が肝心
平山道雄(東京支部)
PDCAサイクル(管理のサイクルPlan ・ Do・ Check・ Action) に関しては誰もがよく知識として持っている。
しかし、関係職場間ではPDCAサイクルを回す活動(PDCAサークル活動)の行われることは多くないようである。この理由は担当者がPとDの行動の間に違和感・異常を感じた現象に対して自分の経験・能力で処置してしまいCとAが忘れ去られているかまたはC・Aは終わったと思い込んでいるようである。サークル活動の活発化行動を考える必要があると思う。
PDCAそれぞれについて再確認すると次のようなことである。
P(計画):これから行う生産・工事の実施計画を設定する。
D(実行):計画に基づいて各種生産・工事の作業を進める。
C(検討):計画段階を含めて作業結果を検証し確認して評価する。
A(処置):確認・評価結果の課題を処置して再発防止策を次の計画に盛り込む。
これをサークルとして生産・工事のオーダー毎にD(実行)を完了した時点において、?C(検討)会議”を、工事・オーダーが完成した直後に主要担当者を招集して開催することが管理者として最も重要であり、その進め方と内容を充実させることが効果を得る要である。見込み生産では、外部との関係は内部行動の良否として捉えられるであろう。
しかし、受注生産・工事については顧客を加えた計画であり顧客は工事の成り行き・経過を見ている。そのため顧客の見解・意見を充分に取り入れなければならない。C(検討)の活動結果は関係者に知らせると同時に顧客にも何らかの方法で知らせることが次期発注依頼に良い結果をもたらすことになるであろう。 P‐D‐C‐Aサイクルを回すことは一連の事業・業務・工事の改善効果を引き出すのに大きく役立てられる手法である。
PDCAサイクルを効果的に回すためには、P・Dを実行している間において要所要所において、良い点・悪い点・気の付いた事・苦労した事など顧客の声と共に日記的に整理して?C(検討)会議”の材料とすることが成功のカギとなる。
PDCAは生産管理・品質管理から生まれたものであろうが、解釈の仕方・応用の仕方によって、個人の生活面から全ての企業・事業所をはじめ経済界に至るあらゆるところで仕事や生活の改善面での効果に期待の持てる手法である。
(平成29年2月9日 日刊工業新聞掲載)

アパレル産業低迷の理由
消費者のおしゃれ意識変化/低価格「ファストファッション」台頭
上野延城(埼玉支部)
衣料品が売れない状況が続いている。低迷の理由として「若い消費者のファッション離れ」が指摘されている。
日本百貨店協会が発表した2016年の全国百貨店売上高は、15年比2.9%減(既存店ベース)の5兆9780億円だった。6兆円を割り込むのは1980年(5兆7225億円)以来36年ぶりである。
売り上げ構成比で3割を占める衣料品の不振が目立つ。婦人服(6・3%減)、紳士服(5・3%減)、子供服(3・9%減)は共に前年割れ。
目立ったファッションの流行がなく、低価格のカジュアル衣料の活用したおしゃれが若者に浸透している。
通販サイトや交流サイトで買い物をする人も増え、百貨店は流行発信源になりにくくなっている。現状アパレル業界は売り上げ左右する要素が多く、世相の流行にも大きく影響される分野である。年によって全く違う流行へ対応する必要がある業界なので、企業の施策ひとつで売り上げに大きく影響する。
近年、おしゃれの傾向が大きく変わりつつある。それは「ファストファッション」の台頭が原因である。低価格で流行に合わせた商品を量産するファストファッションが、アパレル業界のバランスを大きく変える要因となっている。
ファストファッションの強みはシンプルゆえにどの年齢層でも着ることが出来るという点である。ユニクロでおなじみのファーストリテイリングには、若い人からお年寄りの方まで幅広い客が来店しており、業界で圧倒的な売り上げを見せている。
アパレルのオンラインショッピングサイト、ゾゾタウンを運営する「スタートトゥディ」は「世界中をかっこよく、世界中に笑顔を」という企業理念のもとに、衣料品不況が叫ばれる中、2016年3月期の売上高54,422百万円(前期比32.1%増)の業績を上げている。
日本のアパレル小売市場規模は約9兆3500億円(繊研新聞推計)と言われている。
既存企業では長年競争し成功した体験を持つ多くの「業界人」は想定外のライバルの出現や消費者のおしゃれ意識の変化に対しての対応が遅く、時代の変化に取り残されていることが、アパレル産業の大きな課題である。
(平成29年2月16日 日刊工業新聞掲載)

エンゲージメントマーケティング
キーワードは共感と愛着/ブランドづくり、顧客も積極的に行動
上野延城(埼玉支部)
今日、企業が注力すべきは“エンゲージメント”である。エンゲージメントは約束や婚約といった意味で、婚約指輪をエンゲージリングということで親しまれている。
企業の中で顧客に対するマーケティングでも用いられるようになった。それが顧客エンゲージメントである。顧客エンゲージメントとは、企業自体や商品やブランドなどに対する消費者の深い関係性のこと。
多くの企業が顧客エンゲージメントの向上を最優先課題の一つとして挙げている。従来の考え方と一線を画しているのは「満足度」でなく「愛着心」に注目している点である。
企業の存続や成長を応援してくれる行動を顧客が取ってくれることである。
商品を積極的に再購入し、また友人や知人に熱心に薦めるといった実際の行動がエンゲージメントである。こうした顧客が多ければ多いほど、企業にとって安定的、持続的な利益をもたらしてくれる。
インターネット時代に入り、顧客参加の技法やソーシャルマーケッテイングとも相まって、消費者が積極的に関与できるようになった。
顧客エンゲージメントには、消費者がブランドに参加し、共有し、そして反応するという2ウェイの新しいコミュニケーションがベースにある。中でもブランドに顧客が参加するという概念が従来と異なる。今や自動車会社の開発チームが、新ブランドの乗用車について顧客とネットでコミュニケーションしている時代である。各種の業種でエンゲージメントが実施されている。
顧客がエンゲージメント行動を起こす根底の意識としては、企業の経営理念やビジョン、
商品・サービスの基本方針に対する共感と企業や商品・サービスに対する愛情が不可欠である。単に、その商品やサービスが好きだからというのでなく、企業の基本的な姿勢や考え方に対して共感を持っていることである。
その商品を購入するだけでなく、商品・サービスを友人・知人に積極的にクチコミしてくれる。また、新たな商品・サービスの開発や、より優れたサービス提供のためのヒントを提供してくれる。
顧客エンゲージメントを創るためのキーワードは共感と愛着に力を入れることである。
(平成29年2月23日 日刊工業新聞掲載)

アンガーマネジネントが注目
怒りのコントロール3つのコツ/職場などの人間関係を円滑に
上野延城(埼玉支部)
職場や家庭でイライラして怒鳴ったりとストレスが多い現代社会。そこで注目されているのが、怒りの感情と上手につきあう“アンガーマネジメント”。
アンガーマネジメントは1970年代に米国で開発された心理トレニングである。当初は軽犯罪者に対する矯正プログラムなどに使われた。怒りやイライラをコントロールすることを狙いしているが、怒るのがダメということではない。
アンガーマネジメントとは、怒る必要のあることを上手に怒れるようになり、怒る必要のないことは怒らないようになる。日本ではこの数年に急速に浸透し、日本アンガーマネジメント協会の講座受講者は昨年は延べ18万人で前年比7割増えた。
昨今では、アンガーマネジメントを導入する職場が増えており、大企業なども研修に力を入れている。岡山県の中学校では、アンガーマネジメントを教育方法の一貫として試みている。
生物学的には男性のほうが怒りっぽい。米国では男性が受講するものだが、日本では30―40代の女性が多い。同協会の話しでは2011年のスタート当初は、ほぼ女性のみだったといい、現在も男女比は4対6と女性が大半を占める。
アンガーマネジメント協会の入門講座では具体的には、三つのコントロールを実践することを掲げる。
第1が「衝撃のコントロール」で“怒りの感情のピークが過ぎるように6秒待つ”ことを実行している。反射的に怒鳴らず、深呼吸するなどしてみる。
第2が「思考のコントロール」で、相手の行動を①全く問題ないこと②少しイラットするけど許せること③許せないこと―の三つの基準に分ける。
第3が「行動のコントロール」で、怒りを①重要かどうか②変えられるかどうか―という2つの軸に分類して行動を考える。“変えられないけど、重要ではない”なら仕方ないと思うといった対処法がある。同協会では“練習すれば誰でもできるようになる”と力を込めている。
怒りを分類しコントロールして、それにあった行動をすることで、職場や家庭で人間関係を円滑にする“怒り制御の術”としてアンガーマネジメントが今日の社会生活で注目されている。
(平成29年3月2日 日刊工業新聞掲載)

大量陳列から絞り込みへ
商品の並べ方ひとつで売り上げ変動/消費者が選びやすい見せ方を
上野延城(埼玉支部)
幅広い品揃えを売り物に集客してきた、衣料品大手が店頭に並べる商品点数の見直しを始めた。売れ残り消化のためのセールが増え、利益を圧迫している。
国内衣料品市場はファーストリテリングのように定番商品に絞り大量販売するSPA(製造販売型小売業)と、利便性が高いインターネット通販に集中し、他の業種は苦戦が続いている。
1990年に約15兆円あった衣料品市場は9兆円程度まで減少し、値ごろ感の高いSPAとネット通販に人気が集中傾向にある。
セレクトショップ最大手のユナイテッドアローズは2017年春夏商品を前年比で最大で3割減らす、しまむらも3割程度削減する。
無印良品を運営する良品計画は衣料品の品ぞろえを今春から大幅に見直す。婦人服を中心に品目数を1割減らしながら、サイズ展開を拡大。
100円ショップのダイソーを展開する大創産業は商品を大量に陳列するのでなく、通路を広くして商品を選びやすい店に改装する策に出る。
キャンドゥでは20―30代の女性を取り込むために、陳列棚を低くして、入り口近くに女性向け商品を並べる。
買い物客の足を引きとめ、商品に興味・関心を持たせ、最終的な購買意思を決定づけるのは、陳列の方法によるところが大きく、商品の並べ方ひとつが同じ商品の売り上げを変えてしまうことさえある。
ほとんど客は来店後に購入商品を決めるといわれている。はじめは買うつもりがなくても、商品を買い物客の目にとまりやすい場所に陳列し、つい欲しくなるような演出を施しておけば、購入する可能性が高まる。
陳列方法を大別すると“量感陳列”と“展示陳列”がある。量感陳列とは、商品をまとめて陳列することで、活気とボリューム感、安さを演出する陳列方法。
展示陳列とは、ステージやコーナーなどに商品の魅力を強調したり、特定の商品を目立たせる陳列方法。季節や素材、ブランド、カラーなど何らかのテーマを設定したうえで、なにをどのように見せるかというストリーを絞り、効果的にディスプレイするやり方。
買い物客にとっては比較しやすく、選びやすい陳列は大量陳列より絞り込まれた品ぞろえの店舗なのである。
(平成29年3月9日 日刊工業新聞掲載)

心理的価格設定の戦略
消費者が驚く付加価値搭載/威光放つ 常識上回る値付けに注目
上野延城(埼玉支部)
一般に企業が製品価格を決めるときは、製造コストなど費用や製品の需要を考慮して決定する。
企業側の決定に加え、消費者心理を考慮した価格決定として、「端数価格」「威光価格」「慣習価格」があり、こうした価格は「心理的価格」と呼ばれている。
端数価格とは500円、1000円といった切りの良い数字より、498円、980円など端数の価格にすることで割安感を出す方法。
端数価格は食品や雑貨などの日用品に加えてサービス等でも頻繁に用いられる価格戦略である。
威光価格とは製品やサービスの質やそれを消費することによるステータスの高さを消費者に感じさせることができる価格である。
例えば、高級ファッションブランドによる装飾品などの場合、購入頻度が低く、品質やその効果を判断しにくいため、高級感を演出するために意図的につけられた価格である。
慣習価格とはいくつかの製品には長期にわたり一定の価格に維持されているものがある。
そうした製品の価格を慣習価格という。
典型例としては、自動販売機の缶ジュースがある。メーカー、種類に関わらず同じ価格に設定されている。
心理的価格で今、注目を集めているのが威光価格戦略である。2016年10月発売の1台29万9880円のソニーの超高級ウォークマン。
オーディオマニアが驚く付加価値を惜しみなく搭載した、普及機の約20倍という超高額商品が当初の予測を上回る販売ペースが続いている。
パナソニックは14年10月から超高級美容家電を限定販売している。イオンの力でビタミンCを浸透させる美顔器が4万円、ダブルミネラルを髪に与えるヘアードライヤーが3万円。10年ほど前から美容家電に力をきたビューテイプレミアムシリーズは、従来機種に比べ大幅な価格引き上げとなる。
成熟市場では中途半端な値段を付けるのでなく、常識価格を大きく上回る値段を設定し、消費者が驚く付加価値を乗せた、価格創造商品の時代に入った。
デフレ下の低価格志向と決別し、作りたいモノを作り、売りたい値段で売る路線転換を評価する向きは多い。
(平成29年3月16日 日刊工業新聞掲載)

売れない時代のデータ活用法
あらゆる角度から顧客把握/データ取捨選択、消費者行動を知る
上野延城(埼玉支部)
情報科学に対する近年の関心は、ビッグデータがどこまで企業競争力に貢献しうるかという点にある。ビジネスで活用が期待される消費者の購買履歴をはじめとする行動データは、消費者と企業が関わる様々な場所で収集・蓄積されるようになっている。
購買だけでなく位置情報サービスを利用した行動履歴の分析も進んでいる。こうした蓄積するビッグデータから知識を獲得し、売れない時代に生き残りを図る動きは多方面でみられる。
これらのデータは量こそ膨大だが、得られる情報には限界がある。特に消費者の購買行動には問題点があること理解しておかねばならない。
消費者が購入するまでのプロセスに関わるものでは、消費者が店舗訪問前から購入を計画していようと、店内で勧められるままに購入しようと、販売履歴に記録されるデータは変わらない。
また、消費者の製品選択に関するものでは、同じ製品を何となく買い続けることも多い。一方で、その製品に心酔して積極的に買い続けている消費者もいる。どちらもデータの上では同じ購買履歴が並ぶ。蓄積されたデータは結果しかわからない、製品購入にあたり、消費者の製品に対する感情までは記録されない。
こうしたデータに表れてこない問題を解決するために最も有効な方法は、量ではなく幅のあるデータをそろえ、多角的に現象を検討することである。即ち、あらゆる角度から顧客を把握することが必要である。
消費者が購買行動を行った際に、来店前に購入決定がなされたのか、もしくは、来店してから購入意思決定がされたのか、を知ることは、消費者の行動を解明するために重要な概念の一つである。
ビジネスにおいて重要なのは、顧客を正しく知ることで、顧客がいつ何を求めているか、一人ひとりが様々なチャネルを通じてどのように接触しているかを理解することが出来れば、マーケティング施策に役立つ。
企業が売れない時代を生き残るための競争力を得るには、顧客データの過信は禁物であり、インプットされたデータを収集して取捨選択することは人間の仕事になる。
データの外側にある消費者行動に関する知識が必要になる。
(平成29年3月23日 日刊工業新聞掲載)

続・PDCAサークル活動の活発化(C・Aが重要)
自由奔放にブレーンストーミング/束縛のない柔軟発想で改善
平山 道雄(東京支部)
PDCAサークル活動でP・Dが満足に行われたとしても何等かの不合理・不都合な点が多少なりとも出てくるものである。小さなトラブルが後に大きなトラブルを引き起こすことも少なくない。特に受注工事・生産の場合は顧客へ引き渡し後、代金回収の完了時点で全て終了と思っている様であるが、この間に必ず色々な問題(トラブル)が発生している。PDCAサイクルを回す上で最も重要なのはCとAであり、これを着実に実行することにより顧客からの信頼も厚くなり事業の更なる発展が期待出来ると云うものである。PDCAサークル活動は改善活動の1つとして位置づけられる。
C(検討)ではP・Dの良否を評価し再発防止策を検討する。P・Dに携わった人から、良かった事項・不具合・違和感・問題点別に一意一文で箇条書きにした資料を集める。特に屋外工事の場合は完成納入後における雨・風の日の状況を実地に検討して置くことが重要である。
水はけはいかがか・風にあおられていないかなどを見ることで検討の資料・データとなる。また受注生産・工事の場合は顧客アンケートも会議資料に加える。資料は不具合状況が歪曲されずに正しく把握できる様に心掛けなければならない。そのためにも会議では発表者が不利益を被ることの無い様に考慮することが必要である。
C会議では自由闊達な意見を求め再発防止策をまとめる。すなわち「どうやったか→どうやるか」「どう対応したか→どう対応するか」などを検討する。そのために会議ではブレーンストーミング方式を取り入れて進行することが望ましい。
A(処置)ではCの結果を受けて関係部署・関係者・担当者へ改善を指示する。
改善指示をした後に於いては必ず後フォローを忘れてはならない。後フォローにより更なる改善が生まれる可能性もあり得る。それらの結果を踏まえて、次期のP・Dに広く反映させることが肝要である。
ブレーンストーミング法には、四つのルール ①批判厳禁②自由奔放③量を求む④便乗発表 がある。この四項目を検討会議で遵守することにより、参加者全員が固定観念・立場・こだわり・因習などに束縛されることなく発言を容易化し、そこに柔軟な発想が期待され価値ある改善結果が得られる。
(平成29年3月30日 日刊工業新聞掲載)

新しい大人化の戦略
大人の8割が40代以上/[新型50・60代]のライフスタイル注目
上野 延城(埼玉支部)
現在、日本の総人口は約1億2000万人。そのうち最も多い年代は40代と60代で
団塊の世代とその子ども(団塊ジュニア)である。
日本の平均年齢・中央値は46歳になる。年代別で見ると、数字に変化がでる。50代以上の人口は現在約5800万人で大人の半数を占めるが、3年後には約6000万人に増え、大人の10人に6人は50代以上になる。40代以上では現在約7600万人、これが20年には約7800万人に増え、大人の10人に8人となる。
高齢化というと、年をとった老人が増えると想像しがちであるが、実は急速に進んでいるのは、40代以上が大人の8割という社会全体の大人化なのである。
近頃は従来子ども向けやフャミリー向けだった商品やサービスに大人向けが増えている。
かつては子供向けとされたお菓子だが、近年はプレミアム感を打ち出した大人向けのお菓子が注目されている。
ちょっと値段が高くても、品質がよく、おいしいものを食べたいという大人のニーズが、お菓子市場の拡大に繋がっている。
最近、ロングセラー商品を「大人化」した商品が増えている。明治の「大人のきのこの山・たけのこ里」不二家の「カントリーアマム(大人のバニラ・ココア)、ネスレの「キットカットミニ大人の甘さ」など、各メーカーが定番のお菓子を次々と大人向けへ展開している。
お菓子市場のターゲットは子供から大人の戦略である。
博報堂新しい大人文化研究所では、40―60代を“新しい大人世代”と呼び、調査研究を行っている。
これまでわが国では若者やヤングファミリーのライフスタイルは語られてきたが、今後は50・60代の人口が増え、これからの新しい大人の傾向をリードしていく新型50・60代の登場により「新しい大人のライフスタイル」に注目が集まっている。
調査によると、40―60代の88.2%は「これから自分なりのライフスタイルを創っていきたい」と語っている。特に女性はいずれの年代でも90%を超ており、女性がその傾向をリードしている。
社会全体は「若者社会」から「新しい大人社会」と急展開しており、新しい「大人」を捉えた戦略が今後のカギとなる。
(平成29年4月6日 日刊工業新聞掲載)

流通BMSが一段の進化
顧客に近づく事業モデルで生き残り/最新「スマクラ」成長のカギ
上野 延城(埼玉支部)
流通BMSとは、「流通ビジネスメッセージ標準」の略で、流通事業者(メーカー、卸、小売)が統一的に利用できるEDIの標準仕様である。
EDI(Electronic Data Interchange)とは、商取引に関する情報を標準的な形式に統一して、企業間で電子的に交換する仕組み。受発注や見積もり、決済、出入荷などに関わるデータを、あらかじめ定められた形式にしたがって電子化し、インターネットや専用の通信回線網など通じて送受信する。
紙の伝票をやり取りしていた従来の方式に比べ、情報伝達のスピードが大幅にアップし、事務工数や人員の削減、販売機会の拡大につながる。
経済産業省の「流通システム標準化事業」により、2007年4月に制定された。
流通BMIに対応することで流通事業者は、発注、出荷、受領、検品、請求などのデータを高速かつ低コストで交換することができる。
消費の変化から、顧客が店に来るという形からこちらから顧客に近づく事業モデルを持たないと、これからの流通業は生き残れない。
博報堂生活研究所が、生活者が選ぶ「2017年ヒット予測」を発表した。そのランキングの女性部門1位に「ネットスーパー」があげられた。スマートフォンの普及により消費者のネット購買の意識が上がり、スーパーもネットビジネスに力を入れている。
高齢化や買い物時間の短縮化等、消費者の利便性ニーズに対応しなければスーパーもますます厳しくなる。
消費者向けデリバリーサービス等の新事業サービスを展開しなければならず、そのためには物流施策が重要ポイントになってくる。流通取引の効率化、コスト削減がこれまで以上に重要な課題になる。
流通BMSが一段と進み、流通BMSクラウドサービス「スマクラ」も登場する。スマクラはスばやく、マちがいなく、クまなく、ラくらくする最新のクラウド型サービスである。取引先もクマスラを導入することで、発注・受領・納品・請求など、ペーパーレスでの取引が可能になる。ITの専門家がいなくても円滑な導入・運用ができるような導入後の支援体制・運営支援もサービス化している。
ディストリビューション・システムの時代を向え、その対応が今後の成長のカギになる。
(平成29年4月13日 日刊工業新聞掲載)

逆転の発想がヒット商品
成長企業、課題解決・成功のカギ/なお鮮明な″ロケットの父“の所見
上野 延城(埼玉支部)
逆転の発想による成功事例が商品やサービスには数多くある。
ヨドバシカメラが店内の商品の前に掲げられたバーコードにスマホをかざすだけで、他のネット通販などと価格比較ができるサービスを始めた。
それにより値引き交渉も増えるが、実際に店舗では接客が弾み、店で購入を決める客が増えているとのこと。
安値競争でネット通販に押され気味の店舗販売が、あえて比較を促すことで販売の機会を増やすという逆転の発想である。
たばこの値上がりで客足が遠のく中、あえて新技術やこだわりを詰め込み、高級たばこを販売、ピースブランドに愛着を持つ40―50代の愛煙家の心を掴み、1000円たばこの売れ行きが予想を大幅に上回るヒットになった。
『逆転の発想』というタイトルの本は、ロケット開発の父と呼ばれた故・糸川英夫氏が1974年に出版したものであるが、今日、読んでもきわめて新鮮で刺激的である。
この中で新世代の商品開発というテーマは大変参考になる。
どんな時代にあっても、新商品の開発は企業の生命線であると、新商品開発のチェック・ポイントを記している。
特に、「マスクド・ニード」(潜在需要)の発見、「どうやって社会のニードをつかむか」ということがやはり第一の基本になると述べている。
発見方法の一例としては、“非言語系の表現に注目せよ”ということ。いわゆるボディトークを観察する方法である。
異常な行動をしている人がいたら、みな何か欲望をもっているわけだから、その欲望をボディトークの観察でつかむことである。
先日の日経新聞に衰退の危機にある農業の救世主とみられている企業参入と植物工場の記事が掲載されていた。
赤字の例が少なくなく、撤退することも多いが、そうしたなか利益を出して成長する企業の成功のカギは逆算の発想にあると記している。
成功企業は店頭でいくらで売れるかを考え、投資額や栽培の青写真を描いていると述べている。消費者の需要をつかんで生産するマーケティングの発想である。
いろんな壁や多くの問題にぶち当たった時、逆転の発想が課題解決のヒントになり道が拓けることが多いのである。
(平成29年4月20日 日刊工業新聞掲載)

非言語的コミュニケーション
伝える・読み取る能力を鍛錬/表情明るく他の人の心も元気に
上野 延城(埼玉支部)
私たちの社会生活において、コミュニケーションという営みは欠かすことのできないものである。コミュニケーションを行う際のメッセージ伝達方法は、大きく言葉と非言語に分かれる。
言葉コミュニケーションとは「言葉」を使ったコミュニケーションの全てを対象とするのであって、必ずしも音声を伴っている必要がない。例えば、書記言語である手紙や筆記を用いたコミュニケーションもまた、言語コミュニケーションなのである。
「非言語」コミュニケーションとは、言葉以外の手段によるコミュニケーションのことである。
人間は日常的に複数の非言語的手がかりを使いメッセージを伝達しあっている。「目は口ほどにものをいう」といった諺にも示されているように、言葉よりも顔の表情・視線・身振りなどのほうが、より重要な役割を荷なっていることがある。
言葉的メッセージはそのほとんどが意図的に発せられるのに対し、非言語的メッセージは各人の経験によって体験した方法に基づいて無意識に伝達される場合が大部分を占めている。
好ましいコミュニケーションを行うためには、メッセージの伝達方法をスキルとして表現できることが望ましい。
非言語コミュニケーションは、言葉を用いず相手の感情や心理状態、返答などを判断するのに役立つ。また、非言語コミュニケーションを使って相手の考えていることを正確に読み取るには、相手との親しさや距離感を深めることが重要である。
非言語コミュニケーションを意識的に多く用いることによって、読み取る能力は鍛えられる。感情や気持ちが率直に表れるのは、むしろ非言語のほうである。
メラビアンの法則では、話し手が聴き手に与える印象の大きさは言語情報:7%、視覚情報:55%、聴覚情報:38%の割合と言われている。
言語的コミュニケーションの内容を正確かつ効果的に伝達するためには、相手に好意・信頼・敬意を抱かせる非言語コミュニケーションが重要になる。
表情を明るくすることは、他の人のこころも元気にする。それは非言語的コミュニテーションといえる。
非言語的コミュニテーションの重要性を認識することである。
(平成29年4月27日 日刊工業新聞掲載)

おもてなし規格認証制度
サービスの高み目指す4定義/地域ぐるみの観光・産業振興期待
上野 延城(埼玉支部)
経済産業省は、わが国のGDP(国内総生産)の75%を占めるサービス産業の活性化・生産性向上のために「おもてなし規格認証」を創設した。
「おもてなし規格認証」を申請し、認定されることで、サービス事業者には認証マークが付与される。
「おもてなし規格認証」制度は、サービスの質の「見える化」を進めるための制度として構想が始まり、2015年の成長戦略に盛り込まれた。
16年8月にスタートし、今年1月に運用を開始、2月時点で1万件の登録がある。2020年までに30万社の事業者の認証を目的とする。
サービスの質を「見える化」することで顧客に来てもらい、その声をフィードバックし、サービスの向上と質を高める狙いがある。
おもてなし規格認証は、サービスを提供するすべての事業者にとって、高品質なサービスの提供・維持・向上を促し、より高い生産性を実現するための、共有化された枠組みである。
「おもてなし規格」4つの定義は顧客・従業員・社会(地域)の満足を高め、発展させ続ける「プロセス」である。
① お客様の期待を元に、共に価値を創ること ②従業員の意欲と能力を引き出すこと
③ 地域・社会と共生していくこと ④継続・発展していくこと。
サービスの多くは、接客を通じて提供した「製品」とその製造のプロセスから成り立つ。
基本的な日常サービスから、創意工夫を凝らしたオリジナリティのあるサービス、最高体験のおもてなしなど、よりサービスの高みを目指すことを目標とする。
まずどんなサービスをおこなっているかについて、30項目を事業者自身でチェックする。チェック項目は「情報提供」「設備」「職場環境」「業務理解」などである。
次に認証機関が第三者として認証する。サービスの質に応じて「紅認証」「金認証」「紺認証」「紫認証」をつける。
この制度の活用によりサービス事業者の生産性向上を高め、サービス産業の生産性の伸びを2020年までに倍にすることを目指すとしている。
この制度を通じ、観光インバウンド対策を推進し、観光立国の実現、サービス産業の成長による地域発展も地域ぐるみで実施していきたいと考えている。
(平成29年5月4日 日刊工業新聞掲載)

3世代消費マーケティング
「コト」消費ニーズに照準/顧客目線デオンリーワン提案重要
上野 延城(埼玉支部)
3世代消費、祖父母の孫のためのモノの消費、または共に過ごすことによって生じる消費が注目されている。三菱総合研究所の調査(2015年8月)のよると、三世代消費の金額はおよそ年間3兆8000億円(教育費含む)にも上り、最近注目をされている訪日外国人旅客による国内消費額2兆円(2014年)の約2倍に当たる規模となっている。
内訳をみると、第1位はプレゼント・お祝い(29%)、第2位は旅行・レジャー(19%)、
第3位は食費・飲料費(17%),第4位は外食(11%)となっている。
孫と楽しい時間を過ごす「コト」消費へのニーズがうかがえる。
内閣府の平成24年度「団塊の世代の意識に関する調査結果」によると、「自由にできるお金があった場合の使途」について、優先順位では「子や孫のための支出」は4番目となっている。
また、13年にJTBが実施した夏の旅行に関する意識調査では、3世代で旅行をしたい人は12%と前年比倍増で、3世代旅行市場の今後の拡大が見込まれる。
ファミリーレストラン各社は夫婦と子供という従来パターンから祖父母も含めた利用に客層が変わっていることを受け、高齢者が好むメニューの開発を進めている。
高齢者に対応したメニュー開発だけでなく、設備面でもシニアの目線に立った店づくりで、3世代需要の推進をしている。座席の配置では祖父母を含む3世代の利用増を踏まえ4人席を6人席に拡大を図っている。
3世代消費を狙った販促としては、日本百貨店協会が提唱し、1999年から始まった「孫の日」(毎年10月第3日曜日)は期待外れに終わったケースである。当初はメディアでも数多く取り上げられるなど、一定の盛り上がりを見せたが、年を経るにつれて失速した。
いまや孫の日の関連セールを見かけることも少なくなった。定着しなかった理由は、高齢者の財布を狙おうとする魂胆が見えて、反感を誘った。
東京デズニーランドでは、3世代で楽しめる企画として家族ごとの異なる希望に合わせてツアーを提案した。
3世代消費を取り込むには、それぞれの楽しみ方を具現化するオンリーワンの提案力が重要である。
(平成29年5月11日 日刊工業新聞掲載)

銀ブラは常に時代の“旬”
東京五輪見据え改装相次ぐ/老舗も健在、懐かしさもある憧れの街
上野 延城(埼玉支部)
日本を代表する商業エリア銀座。銀ブラの言語は銀座をブラブラではない。銀ブラ証明書を発行しているのは創業百年の「カフェーパウリスタ銀座本店」である。
証明書には、あなたは本日、銀ブラ(銀座通りを歩いてカフェーパウリスタにブラジルコーヒーを飲みに行くこと)を楽しんだ事を証明します。と記載されている。
大正時代、パウリスタは文化活動の一拠点で、文学の世界では芥川龍之介、菊池寛、正宗白鳥、広津和郎、久保田万太郎、久米正雄、佐藤春夫、獅子文六、等の文学者の多くが常連であった。その関係で、昔を懐かしむ人が訪れるのも少なくない。パウリスタは、コーヒー一杯で1時間でも2時間でも粘っていても、いやな顔をしなかったとのこと。
今日、銀座は相次ぐ商業施設の開業・改装で大きく変わろうとしている。銀座では商業集積が一段と進んでいる。
2020年東京五輪を見据え、内外の観光客を呼び込むため、今後も再開発やリニューアルが加速するとみられる。
銀座の強みは新陳代謝の激しさが時々の主役を引き付けていることである。今年70代に入る団塊世代がまだ若かった頃、完成間もないソニービル周辺は若者であふれていた。若者発ファッションの「みゆき族」も銀座で誕生し、時代の主役は若者であった。
80年代にはOL層を狙いの有楽町マリオンができた。
90年代には銀座の地価がバブル期の3分の1に下がり、経営に行き詰まった店の跡に海外高級ブランド店が増えた。また、低価格のファストファッションやカジュルショップが乗り込んできたことから、若者客が銀座に増えた。
近年はインバウンドの急増で外国人観光客に対応した店が目立っている。一時は爆買い客で銀座通りが、ごった返していたが、近頃は落ち着きを取り戻してきた。
大人の銀ブラで、ゆっくり買い物を楽しめる空間を増やし、目の肥えた客を呼び戻そうとしている。
長い歴史を有し、代々続く老舗も多い銀座は、変えるものと守るもののバランスの巧みさで、いつの時代も憧れの街であり続けている。
店や人は入れ替わっても、銀座はそれぞれの時代に最も適した時期の「旬」であるという点は一貫している。
(平成29年5月18日 日刊工業新聞掲載)

海外に見る中小企業のキャッシュ・フロー計算書と資金繰表の現状と課題
フィリピンの中小に過度の負担/身の丈に合った制度の見直し肝要
岡部 勝成(九州支部)
フィリピンの企業形態は個人企業“パートナーシップ”会社に区分され、それぞれ異なる法律で規定・運用されている。フィリピンでは、2010年1月1日から中小企業版IFRS(以下、IFRS for SMEs)を基礎にした中小企業版PFRS(以下、PFRS for SMEs)を強制適用されている。04年12月31日までは、一律にアメリカの会計基準をベースにした旧基準であるStatement of Financial Accounting Standards(以下、SFAS)が強制適用されていた。
現在、大企業にはFull PFRSを、中小企業にはFull PFRS あるいは PFRS for SMEs を、マイクロ企業にはFull PFRS、PFRS for SMEs、SFAS、あるいは内国歳入局(以下、BIR)による税法基準のいずれかを適用することが規定されている。では、企業規模の区分指標がどのようになっているのかを見ると総資産額(土地を除く)と従業員数において大企業は1億ペソ以上、200名以上、中企業は1,500万ペソ以上1億ペソ未満、100名以上200名未満、小企業は300万ペソ以上1,500万ペソ未満、10名以上100名未満、マイクロ企業は300万ペソ未満、10名未満となっている。参考に現在の為替レートでは1円=約0.4ペソとなっており、300万ペソは約120万円となる。
また、中小企業のうちマイクロ企業が97.1%(約150万社)、小企業が2.3%(約3.5万社)、中企業が0.6%(約0.8万社)となっている。実際にフィリピンでは99.6%が中小企業(マイクロ企業含む)の事業数を占めており、日本の99.7%と類似していることがわかる。さらに、実態調査を行うべくBIR、監査法人、中小企業へのインタビューを試みた。BIRではキャッシュ・フロー計算書をSFASは必要、BIR税法基準は不必要、中小企業は必要、資金繰表では中小企業は不必要である。監査法人ではキャッシュ・フロー計算書をSFASは不必要、BIR税法基準は必要、中小企業は必要、資金繰表では中小企業は必要である。  中小企業ではキャッシュ・フロー計算書をSFASは不必要、BIR税法基準は不必要、中小企業は必要、資金繰表では中小企業は必要である。とりわけ、監査法人と中小企業によるとキャッシュ・フロー計算書と資金繰表は同レベルで必要である、という結果が得られた。また、財務諸表監査の対象となる年間利益が600,000ペソ以上の中小企業に対しては、BIRは厳しく管理を行っているようである。これはドゥテルテ大統領になり厳格化という名のもと政治的に影響しているとのことであった。今回のインタビューから中小企業は、総じてキャッシュ・フロー計算書と資金繰表の必要性やBIRの税法基準にて処理されているという実態が浮き彫りにされた。これは専らPFRS for SMEsの対象企業がBIRの税法基準を不当に選好適用し、コンプライアンス体制が周知徹底されていない。つまり中小企業に過度の負担を強いらせている結果であるとも推察される。制度と運用のミスマッチが引き起こされ中小企業に対する身の丈に合った会計制度や会計基準を見直すことが肝要である。かかる日本にも示唆を与えているように感じ得るため,今後日本とフィリピンの比較検討をする必要はあろう。
(平成29年6月1日 日刊工業新聞掲載)

サービス産業の生産性向上策
深刻化する人手不足、対策急務/新ビジネスモデル構築のチャンス
上野 延城(埼玉支部)
なぜ日本のサービス産業の生産性が低いのか―。
一般に、サービス産業の生産性は向上しにくいといわれている。
生産性が高いとは、少ない労働力で大きな収益を生みだすことである。
サービス産業では生産と消費が同時に発生するという特徴がある。これは製造業と大きく異なる点である。製造業では機械という有形資産を利用して、これまで人が担っていた作業を機械が代替えして生産性を向上することができる。
サービス産業では直接に人を介した供給となりがちなので、製造業のように単純に機械で労働を代替えすることはできない。サービス産業で生産性を上げるには、機械化できそうな部分は出来るだけ機械化することで生産コストを下げて、人が行う作業をいくつかの単純なプロセスに分けることである。
セブンイレブン・ジャパンやファミリーマートなど大手コンビニエンスストア5社は消費者が自分で会計するセルフレジを2025年までに国内全店舗に導入する。
カゴに入れた商品の情報を一括して読み取るICタグを使い、販売状況をメーカーや物流業者と共有化する。深刻化する人手不足の解消を担うとともに、流通業界の生産性向上につなげる。
サービス産業の付加価値の源泉は人材であり、従業員、マネジメント層、経営者など各段階で求められるスキルや能力がある。わが国の従業員1人あたりの研修費用は米国に比べて少ない。経済同友会からはサービス産業の経営学につき高等教育の提言や経営者向けの教育の充実を求める声が上がっている。
諸外国では経営人材を育成する高等教育が発展している。コーネル大学ホテル経営学部はホテル経営専門の経営人材の育成プログラムを提供。ホテル経営学の世界最高峰と評されている。卒業生では、星野リゾート社長、星野桂路氏が有名。
デジタル化やグローバル化の大きな「うねり」中で、産業構造が激変する時代を迎えようとしている。サービス産業にも新たなフロンティアが開かれようとしている。サービス産業にとっても、こうした大変革は脅威となり得るが、新しいビジネスモデルを構築し、飛躍的に生産性を高める大きなチャンスにもなる。
(平成29年6月8日 日刊工業新聞掲載)

第四次産業革命の波に乗ろう
IoTを知り将来の夢描く/技術課題などの整理、早期に研究・行動を
平山 道雄(東京支部)
現在は、第4次産業革命時代と言われて、産業界の変革から個人の生活様式までが変わりそうな勢いを感じる。一部の大手企業では、IOTの導入により原価低減や納期短縮を図ったり、また設備保全(PM)や安全面などに効果を見いだし、さらには生産管理と結び付けて生産性向上に役立てているようである。
IOTは「モノのインターネット」と訳されているが、「モノ」について考えると「モノ」は、製造業→流通業→利用者へと段階を経て利活用されている。
この各段階においてのコンピューターによるネットワーク化の活用を考え具現化し、さまざまの段階を関係づけてインターネット化すればその時点でのIOTが実現されたことになるのではないだろうか。
IOTは総括的な表現言語でありそれぞれの国や企業によって異なる。米国ではIICと呼ばれているようであるが、日本はIVI、ドイツはインダストリー4.0であり日本においては日独2国間での協力により推進されるように思われる。
多くの工場は、NCマシンの使用経験を持っているであろうし、事務処理への大型~PCのいずれの電子計算機についてもほぼ全ての会社が活用し企業間の相互連絡に使用しているのが現状である。これらの経験を踏まえて、IOTとは何かまたどんなものなのかを知り、企業にとってどの様に役立つのかをしっかりつかむ必要がある。そこにはさまざま異なった形の将来的夢があるであろう。
工場においては、QCDS(品質・原価・納期・安全)への活用もあるし、生産加工・組み立て・検査など作業の無人化も一つの方向であろう。そのためにはロボット・センサー・制御機器などAI・電子機器を搭載した設備機器が不可欠となるが、これらに対応していく為には自社独自の生産加工技術・管理技術などを整理しておく必要がある。
また同時にインターネットに対しての防犯・安全・保安などのセキュリティ対策が重要課題となる。
中小企業といえども近い将来にはこのIOTの波に乗らなければならない時代が来るのは必定であろう。そうであれば、早い時期から自社内に研究会を設けるか地域の商工会議所・商工会を中心に勉強会・研究会を設置して知識・知恵を得る行動を採り、可能な範囲また実現出来るところから徐々に実施したらいかがなものであろうか。
(平成29年6月15日 日刊工業新聞掲載)

ウェブ時代のブランディング戦略
ブランドづくりは“SUBARU”/イメージ磨き続け理解・信頼獲得
妹尾 浩二(四国支部)
自動車メーカーの「SUBARU」は「水平対向エンジン」と「4WD(4輪駆動)」にこだわり、「スバリスト」と呼ばれる根強いファンを持つ。国内シェアがわずか4%ながら、トヨタや日産にない独自の強みを武器に世界で健闘する。同社のブランディング戦略は、中小企業にも参考となる点が多い。
そんな「SUBARU」にあやかって、ブランド価値形成のプロセスを解説したい。ブランドづくりは、See(Search)、Understand、Believe、Action、Relation、Up Dateの6段階となる。
① Seeは店舗や看板、広告で「見かける、知る」。あるいは、Search「(検索して)見つける」。つまり、「認知」の段階である。知られなければ存在しないのと同じ。認知度向上の手段は、CMや新聞広告、折込チラシ、看板などがあるが、予算が少ない中小企業は優先順位を間違えてはならない。さらにネット検索で容易に見つかるよう、ウェブコンテンツや会員制交流サイト(SNS)の活用など、最大限有効な対策を施したい。
② Understandは「理解する」。広告や看板だけで自社の考え方やこだわり、製品の優位性などを説明するのは不可能である。それらをウェブサイトに読みやすく掲載したり、イベントやキャンペーンなどを通じて手間ひまかけて理解してもらう必要がある。
③ Believeは「信用・信頼する」。ステークホルダーの信頼獲得には、社員が個々の案件に誠実に対応するのが何より重要だが、社会的信頼度の醸成には、マスメディアで報道されるのが早道である。新聞記事やテレビニュースは認知・理解・信用を一挙に高める。「プレスリリース」の書き方や配信方法を学んでPRを実践すべきである。
④ Actionは「購買・利用する」だけでなく「人に勧める、紹介する」などの行為も含まれる。ブランディングは「買ってもらう」ことが最終目的ではなく「応援してくれる人を増やす」ことが目的なのだ。
⑤ Relationは、「関係・結びつき」。購買客や見込み客、ファンとの関係性を構築し、継続的に深めていく取り組みとして、メルマガやSNS、感謝イベントの実施などがある。これらは直接の販売効果が目に見えにくいので軽視されがちだが、不可欠な取り組みといえる。
⑥ Up Dateは「更新」。情報過多の時代、広告だけでなくWebコンテンツ、プレスリリース、イベントなどあらゆる情報を絶えず更新し、自社のブランドイメージを磨き続けるのを忘れてはならない。
莫大な広告費を使い露出を増やしても、社会の理解や信頼を獲得し、関係を継続・更新していくのは容易でない。ブランドは「一日にしてならず」、なのだ。
(平成29年6月22日 日刊工業新聞掲載)

セルフマーケティングの時代
技量・価値高め企業から必要とされる人財に/自力で未来切り開く
上野 延城(埼玉支部)
最近、「働き方」を取り上げた記事や雑誌を目にすることが多くなった。
厚生労働省は、一億総活躍社会の実現にむけた最大のチャレンジであり、日本の企業や暮らし方の文化を変える「働き方改革」の実現に向けた取り組みを進めている。
働き方改革は自分の売りは何か、何をしたいかといった労働の質を問われる内容である。
リンダ・グラットン著「ワーク・シフト」は2012年に出版され世界的ベストセラーになった。
働き方の未来として2025を想定した働き方を示唆している。この中で著者は働き方の未来に対してとりわけ大きな要因の一つとして、ゼネラリスト的な技能を尊ぶ常識を問い直すべきだと記している。
未来の仕事の世界で成功できるかを左右する要因の一つは、その時代に価値を生み出せる知的資本を築けるかどうかだ。とりわけ、広く浅い知識や技能を蓄えるゼネラリストを脱却し、専門技能の連続的習得者への抜本的なシフトを遂げる必要がある。
未来にどういう技能と能力が評価されるかを知り、その分野で高度な技能を磨くと同時に、状況に応じて柔軟に専門分野を変えることが求められる。
また、個人の差別化がますます難しくなるなかで、セルフマーケティングを行い、自分を売り込み、自分の技量を確立する必要性も高まる。すなわち、セルフマーケティングが重要になってくる。
セルフマーケティングとは、自分自身をマーケティングすることである。企業のマーケティングプロセスと同じように自分自身を製品と見立ててマーケティング戦略を立てることである。それにより、自分の価値が高まり、企業から必要される人財となれる。
また、著者は仕事の世界で必要な3種類の資本として、第一の資本は、知的資本、要するに知識と知的思考力。第二の資本は、人間関係資本で人的ネットワークの強さと幅広さである。
同時に、生活に喜びを与えてくれる深い人間関係も含まれる。第3の資本は、情緒的資本で自分自身について理解し、自分の行う選択について深く考える能力と述べている。
変化が起きる時、仕事への意識を変える必要があり、未来は自力で切り開くことが重要なのである。
(平成29年7月6日 日刊工業新聞掲載)

女性の視点を生かす経営戦略
[上質は日常]新しい発想で業績好転/店舗・商品開発の成果続々と
上野 延城 (埼玉支部)
正社員をすべて女性にした百貨店。大手小売業では、店長や売り場責任者を女性に任せる例はあったが、全員を女性にする試みはなかった。
セブン&アイ・ホルデイングス傘下の西武百貨店所沢店は女性社員だけの店舗として営業を始めて4年になる。
業績は好調でありこの秋には、現在地下1階のみで展開している食品売場を2層に拡大し、店舗の入口である1階を食品で展開する。
通常、百貨店の1階は化粧品や婦人雑貨などで展開されることが多く、食品展開は珍しい取り組みで、新しい発想で食品強化を推進する方針である。
郊外型店舗は、足元商圏の顧客により高い頻度で来店いただくことが不可欠であると考え、「上質は日常」を強みとする食品をさらに強化することで全館を活性化させ、首都圏郊外型の新しい百貨店モデルに取り組むと責任者は述べている。
女性役員の比率が高い企業の業績が好調である。女性比率が1割を超える企業は、今期の予想営業増益率、自己資本利益率が全上場企業平均を上回った。働き方を整え、多様な人材を活用しようとする企業の強みが出る結果となった。
2012年から16年の4年間で、上場企業の女性役員数は2倍以上に増え、着実に成果が上がってはいるものの、その割合は依然として3.4%(16年)にとどまっている。
女性役員が就いている会社から女性の視点を生かした商品が生まれヒットしている。
消臭芳香剤・防虫剤メーカーのエステーの役員は社長のほか社外取締役、社内取締役に1人ずつ女性がいる。
社内アンケートによると、役職に就きたい女性は50%と企業の平均的な値に比べて高い。
女性だけの開発チームを立ち上げ、「シャルダン ステキプラス」というヒット商品が誕生した。
ある調査によると企業の女性活用と経営業績では、女性の能力発揮に取り組んだり、管理職へ登用するなど、女性の活用が進んでいる企業ほど業績が良いと述べている。
女性に支持されるサービスやモノはヒットするといわれ、女性の視点を生かした店づくりや商品開発ではポイントになる。
女性を活かせる企業になることが、今後の経営戦略には重要である。
(平成29年7月13日 日刊工業新聞掲載)

なぜ、いま働き方改革か
労働時間短縮と生産性向上両立/ロードマップ作成し確実に実行
上野 延城 (埼玉支部)
働く人の生産性を高め経済を元気にしようと雇用改革の動きが広がっている。背景には産業構造の変化や労働力不足がある。
政府は「働き改革実現会議」で実行計画を決定した。

多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会を追求する。
働く人の視点にたって企業文化や風土を変える。
働き改革こそが労働生産性を改善するための最良の手段である。―などその意義が述べられている。
今や、あらゆる企業で経営上の最重要課題として「働き方改革」に取り組んでいる。食品世界最大手のネスレ(スイス)の日本法人であるネスレ日本。4月に「ホワイトカラー・エグゼンプション」をほぼ全社員に導入した。
実質的な同一労働・同一賃金で働き改革の最終形が見えてきたとして、生産性向上と社員満足を目指すトップダウンのマーケティング視点である。
セブンーイレブンのオープニングスタップ募集の案内には、「365日24時間いつでも好きな時間に働けます。あなたの希望に合わせた働き方で一緒に働いてみませんか?」の内容で、「早起きが得意なシニアの方は早朝から活躍できます、年齢性別は問いません。
学校の放課後や予定が空いている土日も希望のシフトで働けます、週に1日、2日でもOK」など働きやすい時間が選べるようになっている。
案内チラシの裏面には履歴書が記入できるようになっており「面接の際にはこちらにご記入の上ご持参ください」とまで記されている。
書店には数多くの働き方に関する本が並んでいる。今日、若い人だけでなくすべての年代の人が、働くことを人生の中でどう位置づけすればよいのか、考えるべきタイミングを迎えている。
働き方改革では、とりわけ長時間労働の短縮が経営の喫緊の課題になっている。
一方、それによって生産性が落ちてはどうにもならない。テクノロジーを活用しつつ労働時間短縮と生産性向上を両立することが求められている。ホワイトカラーの労働生産性を高めるには、自律的で創造的な働き方が必要なのである。
働き方改革は、制度を作って終わりでなく、生産性を確実に高め課題解決するロードマップを作成したマーケティング視点が重要なのである。(平成29年7月20日 日刊工業新聞掲載)

伝わるメカニズムの極意
双方向のコミュニケーション意識/相手の立場に立ち、反応を観察
上野 延城(埼玉支部)
仕事ではさまざまな伝えるシーンがある。こちらとしては一生懸命「言ったつもり」「伝えたつもり」なのに、相手からは「わかりにくい」といわれることがある。
そこで、「伝える」を「伝わる」に変えることが必要である。伝えると伝わるとの違いは何か。伝えるとは自分の考えや誰かに言われたことを、一方的に他方へ受け流す「行為」のことである。一方向のコミュニケーションのため、相手がそれをちゃんと受け取ったかどうか関係はない。
自分目線で話すため、相手に自分の伝えたい事が伝わらないことがよくある。
伝わるとは自分の伝えたい事がきちんと相手に伝わっている状態のこと。一方向ではなく双方向のコミュニケーションのため、相手と通じ合っている状態である。
「伝える」と「伝わる」は一文字違いである。コミュニケーションとは「伝える」でなく「伝わる」ことが重要である。
伝えるを伝わるに変えるメカニズムのポイントの、一つ目は「分かりやすく伝える」ことである。そのためには「相手が分かる言葉を使う」「相手の立場になる」「感情を込める」
「たとえ話を使う」などがある。
特にビジネスシーンで、最も意識するのは「結論から伝える」ことと、「論理的に伝える」ことである。
二つ目は「相手の反応を観察する」である。どんなに分かりやすく伝えたつもりでも、相手に「伝わった」かどうかは、相手の反応を観察することによって知ることができる。
反応を観察するとは、相手のことをよく見て、聞いて、感じること。納得していれば、表情や言葉も分かった内容になる。
伝えるべき内容がたくさんあるとき、つい早口になってしまうことが多いのである。
「伝わっていないな」と思ったら、別の言葉での説明を試みることが必要である。
コミュニケーションというものが双方向のやりとりであることを考えたとき、相手にとっての「話す」は、自分にとっての「聞く」である。その逆もいえる。どちらが欠けてもコミュニケーションは成立しない。
相手の立場に立ち、その気持ちになることが需要であり、どう話せば、相手に伝わるか、そのことを考えなければ伝わらないのである。
(平成29年8月3日 日刊工業新聞掲載)

真の顧客ニーズの捉え方
消費者の本音・こだわりにアプローチ/ニーズを創造、新市場開拓
上野 延城(埼玉支部)
変化の激し時代、真のニーズを捉えることは大変難しい。
マーケティングの第一人者コトラーはニーズとウオンツを次のように定義している。
ニーズは「人間が感じる欠乏状態のこと」でウオンツは「その欠乏を補うための具体的な解決策(製品・サービス)」としている。
ニーズとウオンツを説明する上で、よく使われるのがレビット教授の「ドリル話」、消費者が欲しいのは4分の1インチドリルでなく、4分の1インチの穴である。
モノより顧客ニーズの重要性を説いたこの話は50年近い時を経て、再注目されている。
多くの場合、人は形にして見せてもらうまで自分は何が欲しいのかわからないものだ。
顧客のニーズをつかむ方法に究極の定性調査という「エスノグラフィー」という調査方法がある。
「エスノグラフィー」とは、デザイン思考と呼ばれるイノベーションを起こす方法や考え方の文脈で行われるユーザー観察の手法の一つである。
対象者の生活を一緒に体験することにより、対象者の属する集団を感覚的・視覚的に理解するのに適した手法である。
実際に調査対象となる人々と暮らしや仕事の現場を共にしながら、生活行動や作業を観察していく方法である。
近年では、ビジネスシーンでも消費者理解に役立てるべく、多くの企業が採用している。
この調査方法を応用すれば、アンケートやインタビューのような方法では把握できない、調査対象の人々自身も無意識で行っている行動に関するデータが入手できる。
人間の意識の95%は潜在化しているという調査もあり、エスノグラフィーはその潜在化した無意識の行動にアプローチする有効な手法で、消費者の本音やこだわりにより深く迫ることができるとされている。
商品の持つ機能に対して事前に発見が難しいニーズを顧客からのクレームから受けることより、ターゲットと用途を変更し、大ヒットに繋がった商品も多い。
顧客ニーズが多様化・高度化している現在、それを明確に把握することは容易ではない。消費者行動を観察し、情報を収集し、顧客ニーズに答えるだけでなく、顧客ニーズを創造していくことが新たな市場の開拓につながっていく。
(平成29年8月10日 日刊工業新聞掲載)

ホワイトスペースの習得法
ビジネスモデル・イノベーションに挑む/新成長領域で顧客価値提案
上野 延城(埼玉支部)
戦略コンサルタント会社、イノセントの会長であるマーク・ジョンソンはビジネスモデルの空白をねらえ「ホワイトスペース戦略」という著書の中で、新しいビジネスモデルでなければ成功しえない事業領域を「ホワイトスペース」と規定し、ビジネスモデル構築の枠組みを示している。
ビジネスの世界で「ホワイトスペース(空白)」という言葉は一般に、まだ開拓されていない領域や、まだ需要が満たされていない市場という意味で用いられる。
ホワイトスペースは新しい顧客・製品を新しいビジネスモデルで提供するというビジネス領域である。ホワイトスペースで成功するためには、これまでとは異なる新しいスキル、新しい強み、新しいビジネス手法が求められる。
ホワイトスペースで新たな顧客価値提案を確立しようと思えば、「顧客がどのような商品を買いたがるかを推測するのではなく、ある環境で顧客がどのような役目を成し遂げたいと思っているかを考えるべきだ」と述べている。
新たに取り組むビジネスを成功させるためには、ビジネスモデルという設計図を描く必要がある。ところが、そうしたビジネスモデルの発想は、これまでのマーケティングの枠組みでは考慮されていなかった。多くの経営者は、新しいテクノロジーや製品を生み出すことが成長のカギになると考えているが、それは違う。
次の成長をもたらすためには、破壊的な新しいビジネスモデルにイノベーションを組み込まなければならないこと多いのである。
企業は過去の成功体験の頼り、その殻から飛び出そうとしないのである。
顧客に新しい価値を提供するには、ある程度のリスクを取りながら、新しい成長領域を探さねばならないのである。
ホワイトスペースをものにすれば、変動の激し今日のビジネスの世界で活動するあらゆる企業にとって得るものは極めて大きい。
ビジネスモデル・イノベーションを成し遂げることのより、成長ギャップの出現や市場の変化、革新的なテクノロジーの登場、社会的な脅威に対処しやすくなる。
ビジネスモデル・イノベーションを通じてホワイトスペースをものにする方法を学ぶ必要があると著者は語っている。
(平成29年8月17日 日刊工業新聞掲載)

日本マーケティング大賞に学ぶ
市場創出・顧客拡大・郷土愛に訴求・・・/大胆で細やかな活動実績評価
上野 延城(埼玉支部)
公益社団法人日本マーケティング協会創立50周年を契機に創設された「日本マーケティング大賞」では、総合的に周到なマーケティング計画のもと目覚ましい成果を上げたプロジェクトを大賞、特定分野における優れたプロジュクトを奨励賞、そして全国的とはいえないが地域的に優れた取り組みを地域賞として表彰している。
2009年、第1回の日本マーテティング大賞には「ユニクロ(ヒートテック)の開発・販売、(株)ファーストリテイリングが受賞した。
14年、第6回日本マーテティング大賞に輝いたのは、ネスレ日本のオリジナルマシン「バリスタ」の開発と「アンバサダー制度」の導入。これによりインスタントコーヒーにおけるオフィス市場の創出に成功した。
単なるインスタントコーヒーの販売でなく、アンバサダーという顧客を介しながら顧客を拡大するという販促展開を実施した。
コーヒーマシンの販売によって利益を得るのでなく、コーヒーマシンの利用によるコーヒー販売を利益源とした。
16年、第9回、日本マーテティング大賞には、「47都道府県の一番搾り」(キリンビール)が受賞した。
受賞理由は国内でビールの売り上げが鈍化する中、47都道府県ごとの特性をいかした商品を製品化。消費者の郷土愛を効果的にマーケティングに生かし、多くの支持を集めた。
開発・販売・プロモーションなど、企業の様々なリソースを色々な部門にて地域に投下してダイナミックに展開して、販売数量は初年度目標の2倍以上となる約270万ケース(1ケースは大瓶20本)を記録した。
閉塞感が蔓延していた日本国内のビール市場に一石を投じることになった、大胆かつ細やかな総合的マーケティング活動と高く評価された。
このプロジェクトはビールを通じて地元を好きになってもらいたいという熱い想いがベースになっている。
日本マーテティング大賞は厳しい経済環境の中でも、企業組織における新しいマーケティングやビジネスモデルの開発を積極的に促すことで、消費者の生活の向上と経済・社会の活性化に資する活動を奨励し、マーケティングのプレステージを高めることを目的としている。
(平成29年8月24日 日刊工業新聞掲載)

「働き方改革の危機・契機・勝機への対策㊤
自社の「働き方改革」の目的は生産性の向上
業務をルール化・見える化/標準化に取り組み最適分析
吉岡 聰(南関東支部)
政府主導の働き方改革という大波が、大企業から始まり全企業の労使双方に押し寄せている。しかし、企業が一斉に右倣えと脱残業を進めるだけでは、働き方改革も経営改革もかなわぬ結果になる。働き方改革への取組みが、自社の生産性と事業成長につながる方法を考えなければならない。
一般的には、「生産性=アウトプット(産出量又は付加価値)÷インプット(投入資源)」で表される活動の結果を示す相対指標(比率)である。生産性を高めることが経営の目的であれば、手段としては、変数の“インプットを小さくしてアウトプットを大きくする”ことになる。しかし、企業活動の目的はアウトプット(成果)を最大化することにある。  視点を変えて、目的を“アウトプットを増やす”とした場合、「アウトプット=生産性×インプット」となる。この式を単純に見ると、インプットを小さくすればアウトプットが小さくなることになる。そこで、インプットの「ヒト・モノ・コト」を単なる“量”と捉えるか、“質”と捉えるかで手段が違ってくる。“量”で捉えれば、残業の削減、人員の削減、買入コストの削減という一刀両断的な対策はとれない。しかし人口減で、投入できる人的インプット“量”は、今後増加は難しい。そこでインプットを大きくするためには、ヒト・モノ・コトの“質”を高めてそれぞれの付加価値向上に取り組むことに尽きる。
生産性を高める一つの手段として、質の高い業務の標準化への取組みが必要だ。ここに、標準化の適切性を分析する二つの方法を提案したい。本論での標準化は、業務の「ルール化・共有化・見える化」を意味する。一つは、生産性向上分岐点分析の方法で、職場の“属個人の仕事”と“標準化された仕事”の関係から“個人のスキルアップ・創造への転換”への余力度を分析する。もう一つは、標準化の最適分析方法で、「職場の仕事力は、“個人の能力”と“標準化による共用力”がバランスする時点から職場全体の生産性は暫時高まっていく」との視点に立ち、生産性に寄与する最適な標準化率を見つけ出す。
これらの概念は、筆者が標準化の支援した数々の企業の取組みで、成功・失敗の分れ道の要因を考える中で経験的に導き出したものだ。
(平成29年9月14日 日刊工業新聞掲載)

「働き方改革の危機・契機・勝機への対策㊥
生産性向上に向けて、まず業務の生産性向上分岐点分析をしよう
職場の労働生産性 現状を知る/個の時間と能力最大限に生かす
吉岡 聰(南関東支部)
日本の強みと言われてきた勤勉さや組織力・チームワーク力を基盤としてきた集団的なマネジメントは、自動化やIT化の進展とともに経済のグローバル化でガラパゴス化してきた。
その結果として企業の生産性の低下に表れてきている。働き方改革において当面の課題となっている「残業抑制/労働時間の短縮」も生産性の向上なくしては解決しえない。
1人当たりの付加価値を示す日本の「労働生産性」は、2014年に(OECD経済開発協力機構)に加盟する34カ国中、24位と低迷している。
さらにはIoT(モノのインタ-ネット)や人工知能(AI)の普及により、“個”には人間特有の能力をこれまで以上に高い水準で求められる。
組織はこれまでと違い個の時間と能力を最大限に活かす職場づくりが必要になる。これまで個人が受け身的に張り付けられたままの業務を組織的に剥がし、個の仕事の自由度を高めてやらなければならない。そこで現状業務の分析評価が必要になる。
その方法として、経験から得られた私案を提示したい。
狙いは、現状の職場内の仕事を、「属個人のもの」と「標準化されたもの」「個人の能力向上・創造性転換への余力」に分解し、「生産性向上分岐点分析」を求めて生産性を管理することにある。
属個人化した(依存した)仕事量(種類又は時間):A、標準化された仕事量(種類又は時間):B、余裕時間又は生産性向上量:C、総就業量(種類又は時間):Tとすると、T=A+B+Cとなる。
ここに、C=0であれば、職場は常に余裕がなく、常に残業しなければならない状況が発生していることになる。定常業務だけをこなすだけで創造的思考に回す時間もない。
さらに、個人の立場から見れば、属個人化したままの仕事(固定業務):Aの割合が大きければ自分だけでこなさなければならず、周囲の協力を得るのが難しい。
一方、標準化された仕事量:Bが多いほど周囲と仕事のシェアがしやすくなり、仕事の自由度が増すことになる。ここに、生産性分岐点量(種類又は時間):Pとすると、原価管理で馴染みのCVP分析(損益分岐点分析)に倣い、個人又は職場全体の仕事の余裕度や生産性分析の簡易手法として、「生産性向上分岐点分析:P=A÷{1-(B÷T)}」の式が活用できます。
(平成29年9月21日 日刊工業新聞掲載)

セ「働き方改革の危機・契機・勝機への対策㊦
業務の個属化脱却に向けて、標準化の最適分析をしよう
職場内標準化、効率良く推進/「革新的生産性向上」導く次の一手を
吉岡 聰(南関東支部)
働き方改革の中で、まず「残業抑制/労働時間の短縮」「同一労働同一賃金」を中心とした取組みが必要になってくる。さらに「少子高齢化と就労人口減」は、非正規社員の限定社員化、AI・ロボット化によるブルーカラー・ホワイトカラーの職場縮小、それに伴い高度専門社員や幹部選抜に伴う賃金体系の見直しが常態化する。
特に低生産性や低賃金労働者依存の企業には人的対策が必要になる。そこで、特定の個の能力に焦点を当てるか、働く人個々の生産性の向上に傾注するか、組織の生産性に視点を当てるかである。中小企業の場合、生産性を高める取り組みは、後者二つが中心となろう。
資源量が小さい中小企業ではインプット“量”を高めにくいが、小さな改善の積み重ねや少額のIot投資でもインプット“質”は高めやすく、結果、生産性が向上することができる。
その基盤として、自社の標準化への姿勢が重要になってくる。その基本概念は、個人に属化したままの現状業務を「職場内標準化」で、仕事の協業化を進める。そこから個人の余裕が生まれて個人の専門力と創造力の向上に振り向ける。いわゆる「職場の生産性向上=職場の標準化力向上×職場のチーム力向上×個人の創造力向上」の公式で表すことができる。
そこで、生産性向上と標準化作業を効率的に進めるためには、生産性に寄与する最適な標準化率を見つけ出す分析手法が必要になる。標準化を進める中で、職場全体仕事の標準化率は上昇していき、属人的仕事率は低下していくカーブをそれぞれ描く。その過程で、エネルギー不足で職場の生産性カーブが低下していく最少点(時期)が発生する。しかし、「属個人的仕事量」対「職場標準化仕事量」が適切化して生産性向上に寄与し始める転換点(変曲点)がやがてやってくる。
標準化への取り組みが失敗する多くの要因は、この変曲点前で諦めてしまうことにある。そこを乗り越えるとさらに標準化率が高まり、「標準化仕事量の最大化点」と「属個人的仕事量の最小化点」の限界時期に達する。次の手は、この標準化により生まれた余裕“量”を暫時“質”に替えるべく、IoTシステムの構築や事業パラダイムを見直す「革新的生産性向上対策」に取り組むことだ。
(平成29年9月28日 日刊工業新聞掲載)

キャシュレス決済への対応
利便性向上・消費喚起へ普及加速/IT時代、変化に乗り遅れるな
上野 延城(埼玉支部)
日本は海外に比べると現金主義と言われてきたが、近年はキャシュレス化が進んでいる。
これまで現金払いが当たり前だったお寺や山小屋にも、キャシュレス決済の動きが広がっている。
利便性向上と消費喚起のため政府もキャシュレス決済の普及に力を入れている。
2027年までに決済比率を4割にする目標である。訪日外国人の増加も相まって、加速度的に広がっていきそうである。
国内のキャシュレス決済は現在約2割なので、10年で倍増させる計画である。
野村総合研究所によるとの2014年度のキャシュレス決済サービスで最も利用されているのは、クレジットカードで47兆円、次はコンビニ収納代行の9.7兆円、3番目は
電子マネーの4兆円である。
一方で、現金による決済は87.2兆円もあり、キャシュレス決済サービスの合計額をいまだ上回っている。
今日、様々な事業者が多様なキャシュレス決済のサービスを提供しており、消費者は自分の好みに合ったサービスから広く選ぶことができる。
今後キャシュレス決済を普及させていくためには、個別企業による創意工夫に加えて、キャシュレスを実現していくという方向性を社会全体で共有されることが重要になる。
近い将来本格的なキャシュレス社会になることが予見される。キャシュレスへの対応を怠ると、お客様から敬遠される時代が目の前に迫っていることを認識しなければならない。
消費者がどんどんとキャシュレスになっていくと、現金決済しかしないお店ではでは買い物をしなくなる。
小銭を気にすることなく手軽に支払えたり、多額の現金を持ち歩かなくてもよかったりと消費者にとってもクレジットカードで決済できるメリットは大きい。
キャシュレスとは現金の電子化と言われている。キャシュレス社会への対応は、IT化を進めることと同義だと考える必要がある。
ITの進化による時代の変化は速いので、十分に注視する必要がある。最近では財布を持たなくてもスマホさえあれば買い物や飲食ができる時代が始まっている。
時代の流れを掴み、その時代に即した対応を取らなければ生き残ることはできない。
(平成29年10月5日 日刊工業新聞掲載)

サービス業の生産性を上げる!シリーズ 上
顧客満足と対話の「質」重視/相手に「好感触」残し契約率を上げる
柳沼佐千子(北関東支部)
造の現場で、耳にする生産性。日本では、製造の生産ラインでは、かなり強いといわれていますが、サービス業では、まだまだ遅れている。
サービス面の生産性を向上させるには、どんな視点で、何に取り組めばいいだろうか?
サービス業では、以下二つを提案している。①お客様との時間を少なくして、契約率を上げる②社内での情報共有や協力をスムーズにする。①の場合、一般的に思われているのは、お客様との対話や説明、訪問の回数を減らすと、契約も受注も減るという考え方だ。
もちろん、何度もお客さまと会う回数が多いほうが親密になる。会えば会うほど好きになるという心理学の視点から説明しても、理にかなっている。しかし一方で、お客さまに時間をかけているのに、業績が上がらない人もいる。もし、契約率が同じだという前提だとしたら、1人当たり、1契約当たりの時間とコストが軽減できれば、生産性は、アップする。
では、どうしたらいいのだろう?
それは、お客様さま満足とコミュニケーションの「質」を上げればいい。イメージしてほしい。嫌いな人に、何度も電話されても、会っても気分が悪いだけである。「質」が悪い。時間と労力と結果が比例しない。どちらかというと反比例だろう。行けば行くほど、嫌われる。
では、好きな人だったら、どうだろうか?相手から、会いたい!来て!話したい!となるわけだ。これは、まるで恋愛と同じである。好きな人とは会うのも話すのも楽しいけれど、嫌いな人からは、いくらアプローチされても、避けるだけ。要するに、同じことを話すにも、一度の訪問や電話が、お客様の心に、好感触として残るかどうかなのだ。
好かれる人は、「質」の高い時間を提供できるともいえる。目に見えない「感情の動き」が、サービス面の生産性には、重要な役割を果たしている。
次回の記事では、②の社内の生産性について、ご紹介する。
あなたの社員は、お客様に、好かれているのか?嫌われているのか?周りの人を見渡してみてほし。社内の同僚の社員から、正直、買いたいか?そこからサービス面の生産性の向上がはじまるのである。
(平成29年10月12日 日刊工業新聞掲載)

サービス業の生産性を上げる!シリーズ 下
社内協力・情報共有スムーズに/上司は笑顔、「好かれる」印象重要
柳沼佐千子 (北関東支部)
サービス業の生産性向上について、以下2つを提案している。①お客様との時間を少なくして、契約率を上げる②社内での情報共有や協力をスムーズにする。
今回は、②についてである。社内の生産性を上げるには、上司と部下、部門間のコミュニケーションの円滑さが重要だ。
例えば、上司が朝とても機嫌が悪いとする。すると、部下全員がそれを察知し、なるべく話しかけない、急ぎでなければ、翌日に報告をしようなどと、行動を変えてしまう。
怖い、不機嫌という印象を与える上司も同じである。部下は、顔色をうかがって、意見を言わない。そういう会社に限って、「うちの社員は、意見をださない。自らアイディアを考えない。やる気のない社員に、モチベーションを上げるにはどうしたらいいのだ?」と本気で、部下を変えようとしている。
そういう上司は、とても不思議に思っている。「こんなに仕事がデキるオレに、なんで部下がもっと近づいてこないのだ?なぜ、他の上司と比べても人気がないのだ?これだけ正しいことを教えているのに、部下が思ったように改善されない」あなたの会社にも、こういう上司がいるだろう。
実は、本人だけが気付いていないのだが、「印象が悪い」のだ。その原因は、いくつかあるが、その中で、一番に改善することは、上司が笑顔になることなのである。好かれる人には、笑顔がある。
上司は、自分から先に部下に向けて、笑顔を出すことなのだ。すると、相手の心が一瞬で開き、話したい、近づいても大丈夫という、心の状態を創り出すのである。これは上司だけの話ではない。社員全員が上下関係や部門に関わらず「好かれる」印象になれば、社内の生産性はぐんとアップする。話しやすい、安心して近づける人間関係は、社内の意見が活発にし、行動をスムーズにする。出社することが楽しくなると、新人が辞めない、心の病気の人が減ることもイメージできる。
目に見えない「ヒトの感情の動き」に取り組むことが、サービス業の社内生産性向上の重要な視点なのだ。
まずは、あなたが、毎朝出社前に、鏡を見て、笑顔の練習をしてください!
(平成29年10月19日 日刊工業新聞掲載)

中小企業のキャッシュ・フロー計算書における倒産回避の提言
損益計算書黒字でも「実際は赤字」/CF計算書の教育・実施が肝要
岡部勝成(九州支部)
内閣府が2017年10月6日に発表した8月の景気動向指数において、景気の現状を示す一致指数が前月比1.9ポイント上昇の117.6となり、3年5カ月ぶりの高さとなった。そのような中、ここ数年間の企業倒産件数は減少基調にあり、東京商工リサーチの調査によると2016年に倒産した544社のうち半数以上が黒字倒産であったという状況からもいかに利益だけに偏った経営を行うことの憂慮がある。専門家は、「損益計算書で黒字でも実際は赤字であった」という事例を指摘している。
企業のキャッシュ・フロー・マネジメントキャッシュを考えるときに、「キャッシュは真実,利益は意見」と言われていたことを思い出す。そこで登場するのが、上場企業を対象としたいわゆる大企業向けのキャッシュ・フロー計算書である。その先駆者であるアメリカでは1987年からキャッシュ・フロー計算書の作成を義務化した。ではわが国のキャッシュ・フロー計算書における制度化の進展をみると1953年の資金繰り表、88年の資金収支表、99年のキャッシュ・フロー計算書へという流れがみてとれる。
とりわけ、キャッシュ・フロー計算書は監査対象となっている主要財務諸表の三表の一翼を担う形ですでに20年近くが経とうとしている。ただ、ここでいう監査対象とはキャッシュ・フロー計算書の作成の義務化された上場企業である大企業での話しである。近年の大企業の倒産件数は僅少であり、すでに述べた倒産のうちほとんどが中小企業であることを勘案すると、損益計算書を中心とした発生主義による経営のてん末であると考えられる。いわゆる、粉飾決算によるものであると言っても過言ではなかろう。キャッシュ・フロー計算書の作成目的には、企業の資金を獲得する能力、債務の支払能力、配当金の支払能力、資金調達の必要性に関する情報をステーク・ホルダー(利害関係者)である株主、債権者、取引先等に提供することであり、キャッシュ・フロー計算書は一会計期間における企業のキャッシュ・ フローに関する情報を体系的に要約・表示していると言われている。上場企業はまさにキャッシュ・フロー計算書に基づいたキャッシュ・フロー・マネジメを実践しており、ここで問題提起にしたいのは,わが国における中小企業におけるキャッシュ・フロー計算書の作成の浸透とその義務化である。中小企業向けの会計基準・会計制度ではそのレベルまで至っていないのが現状である。
資金繰り表の作成とその義務化的な実態は、キャッシュ・フロー計算書における制度化の歴史的背景をみても53年の資金繰り表は古くから慣れ親しんでおり認知度や活用度、あるいは重要性は今日も変わらずに脈々と受け継がれているように描写されている。
中小企業の倒産回避を勘案すると、今こそ中小企業へのキャッシュ・フロー計算書の作成による活用ならびに教育を含め実施することが肝要であろう。
(平成29年10月26日 日刊工業新聞掲載)

新しい働き方フリーランス
存在感高まり協会発足/失業時所得補償、団体保険創設の動きも
上野延城 (埼玉支部)
企業に属さず、場所や時間に縛られない働き方を選ぶフリーランスが増えている。
フリーランスとは、特定の勤務先を持てず独立して仕事をしている働き手や、個人事業主として事業を切り盛りしている人を指す。
30―40代を中心に、自分の人生は自分でデザインしたいという人が増加している。
フリーランスとして働く人は従来、プログラマーやグラフィックデザイナーのような特定の技能を持った人や、公認会計士、税理士といった有資格のプロフェッショナル人材が中心だった。しかし、今日は企業のマーケッテイング部門・広報関係でも活用が増えている。
人手不足とインターネットを通じた仕事の受発注が普及してことで家事代行やデータ入力のような作業など比較的単純な作業にも広がっている。
ランサーズの「フリーランス実態調査」によると、2016年の国内のフリーランス人口は前年比5%増の1122万人に上る。労働人口の17%を占める。
存在感は高まり、1月にフリーランス協会が発足。クラウドソーシングの企業など約50社が参画しており、フリーや副業の活動を支援する。
米国ではフリーランス人口が労働人口の35%を占める5500万人に上る。
経済産業省の調査によると「雇用関係のないフリーランス」に現在の働き方のメリットについて聞いたところ、「自分のやりたい仕事が自由に選択できること」が最多、5割を占めた。雇用関係のある層と比べ、30ポイント以上高い。
フリーランスの良いところは、努力した分、しっかりと収入に返ってくること。
能力によっては収入か大きく伸びる可能性も秘めている。その一方でフリーランスならでは悩みも全ては自分の責任となる。
政府は特定企業に属さず働くフリーランスを支援するため、失業や出産の際に所得補償を受け取れる団体保健の創設を提言している。
一般のサラリーマンでは得られない多くのメリットがあり、今フリーランスで働くことを選ぶエンジニアの方が非常に増えている。
個人が先行するかたちで新しい働き方を模索し始めている今日、フリーランスとどう向き合うのか、企業も考えるときが到来している。
(平成29年9月7日 日刊工業新聞掲載)

上海交通大学の研修に学ぶ
中国の経営者、グローバル化に積極対応/人材育成方法に強い関心
上野 延城(埼玉支部)
2014年夏から開催の上海交通大学、海外教育学院の日本での研修は17年8月で12回目になった。これまで参加された企業の内訳は、業態開発のデベロッパー関係者が多く、その他ではアパレル、靴、雑貨、家具、スポーツ用品の業種である。
また、デベロッパーの中には2回参加されている企業も多くいる。
研修の内容はこれまでは企業戦略的な項目の要望が多かったが、最近は、人材育成の方法やおもてなしなどマネジメントに対する依頼が増えている。
研修の方法は講演と企業訪問が主な内容である。例えば、午前中にテーマの講演を行い午後はテーマに関連した企業を訪問して先方よりレクチャーを頂くスタイルである。
そのため、講演で得た知識を現場で確認できることから、質疑応答が具体的となり参加者からの満足度が高く、好評である。
研修団の参加者は経営者、幹部で20―30人の構成である。
訪問企業には人脈を活用して、貴社見学のお願いの内容と参加者名簿が事前に送られている。
毎回、上海交通大学より研修団への講演と企業訪問・見学への依頼を受け、訪問予定の企業に説明に伺っている。
多くの企業からの質問は、上海交通大学の研修制度の総裁コースの内容で、経営者・幹部が団体で日本に勉強にくる目的のことである。
中国の経営者は海外での研修を積極的に進め、グローバル化に対応しようとしている。と回答している。
企業訪問でのレクチャーに対しも、熱心にメモをとり、質問も大変多いのである。
かつて、日本の企業研修も高度成長期には、従来の企業内訓練から幅広い概念の教育訓練の体系化などが行われ職能の進展と連動する形で行われた。しかし、バブル崩壊から現代、企業は新しい時代の人材育成をどうしたら良いかの答えが無く、人材育成の手法は混迷している。
上海交通大学の研修制度は理論と実務を取り入れており、大変参考になる。
グローバル化に対する企業の対応が急がれており、海外での研修を積極的に推進することが、必要である。
そのためには、日本の経営者も中国の経営者に負けないで、先頭に立って自ら広く勉強することが重要である。
(平成29年11月2日 日刊工業新聞掲載)

広報PRを企業経営の重要課題に (上)
新聞・テレビなどに効果的に情報発信/自社の認知度・信頼度向上
妹尾浩二(四国支部)
例えばこんなケースがある。同業界で売上規模も似通った中小企業2社。新聞やテレビで頻繁に紹介されるA社と、そうでないB社。A社は次々と新しい取引先を開拓し、人材の確保も順調だ。B社は、ライバルA社のテレビニュースや新聞記事を目にしては、じだんだを踏んでいる。
A社とB社の差とは何か。それは、広告宣伝にかける予算の多寡ではない。PRのノウハウを知っているかいないかの差である。自社の新商品や取り組みをマスメディアに向けて発信し、無料で取りあげてもらえる方法やコツを、A社は知っているのだ。
A社のようにPRがうまい会社は、トップが広報PRの価値をよく理解していて、様々な書籍を読み、専門セミナーで勉強している。ニュースネタになりそうな商品やイベントを考案し、自社でプレスリリースを配信したり、記者との関係づくりを行ったり、PR専門の会社を使って積極的に仕掛けている場合もある。
では、中小企業がPRに取り組むと何が良いのか。それは、企業の認知度アップや業績拡大に大きく寄与できるからだ。マスメディアで企業の特色や強み、商品のメリットが紹介されると、自社の情報が広く行きわたると同時に、企業の社会的信頼性が保証される。テレビのCMや広告チラシの内容には誇張や演出が含まれるのが当たり前とされている一方で、新聞記事やテレビのニュース・情報番組の内容はおおむね事実と受け取られる。自社の認知度・信頼度を上げたいなら、広告よりも新聞記事やテレビニュースで紹介される方がコストもかからないし、その後の事業を後押しする効果が格段に大きい。
ひと昔前までは、中小企業の情報を報じるのは日本経済新聞の地方経済面や産業紙、業界紙など一部に限られていたが、一般紙の地方面や地方紙の経済面でも中小企業紹介の紙幅が広がっており、またテレビの中にも特色ある中小企業をクローズアップする番組が増えてきた。マスメディアはいまや、大企業や上場企業だけのためのものではない。舞台は整っている。
将来に向け事業の拡大を狙う企業はぜひ、広報PRを経営の重要課題として積極的に取り組んでいくことをおすすめする。
(平成29年11月16日 日刊工業新聞掲載)

広報PRを企業経営の重要課題に (下)
目的を正しく持ち実践/社会評価=ブランディングの獲得狙う
妹尾浩二(四国支部)
社会に対して自社の認知度を高める手段として、広報PR戦略を採り入れる中堅・中小企業が増えてきた。意識の高い経営者・広報担当者はすでに、有料の広告よりも低コストでできるPRに注目し、ニュースネタになる商品やイベントの企画、プレスリリースの発信などに取り組んでいるようだ。
ただ、その目的が間違っているケースが見受けられるので注意が必要となる。プレスリリースを配ってマスコミに露出することで顧客を増やし売上を上げたいと短絡的に考えていると、結果が出づらく難しいものになってしまうのだ。PRの目的は、マーケティングや販売促進の手前にある、社会における評価の獲得であると考えたい。
弁護士や医師、○○分野の評論家がテレビのバラエティ番組などにレギュラーで登場しているのをよく見かける。テレビのギャラはせいぜい数万円で彼らの時給としては割に合わないだろう。また、全国ネットの番組に出演したからといって急にクライアントや患者が押し寄せてくるものでもない。それでも彼らがメディアに登場したがるのは、自分が「テレビに出るほど有能な弁護士・医者」であり「○○分野のエキスパート」であるというブランディングと業界内でのポジショニングが目的だからである。
人は、ちゃんとしたテレビや新聞から流れてくる情報はおおむね信用する。ということは、テレビや新聞に登場する人や会社は“それらしく見える”のだ。極端な言い方だが、必ずしも最高品質でなくても、人は「本物に見えれば信用してくれる」のである。広告での露出と記事やニュースとして取り上げられることの一番の違いは、この「真実味」と「信用度」。マスコミに取り上げてもらうことで得られる効果はまず、ターゲット市場の中であなたの会社が「○○分野のエキスパートであり、信用・信頼に足る会社である」という評価が生まれること、つまりブランディングだ。
ニュースネタを積極的に作り出し、プレスリリースを発信し、マスコミに絶えず露出していく。こうした広報PR活動をこまめに継続していけば、業界の中でおのずとあなたの会社の評価が定着し、ひいてはマーケティングにも良い効果をもたらすだろう。
(平成29年11月23日 日刊工業新聞掲載)

健康経営の実践
先ず健康診断・ストレスチックから/生産性高める「投資戦略」
上野延城(埼玉支部)
新聞、テレビなどのメディアで健康経営の言葉を見聞きすることが増えた。健康経営とは、企業において従業員が健康で気持ちよく働くことが会社にプラスになるという視点に立ち、従業員の健康管理を経営の観点で考え、戦略的に推進していく手法である。
健康であれば気持ちよく働き、モチベーションも高く生産性も高い状態で働けるので、当然企業での貢献も高くなる。
東京商工会議所は従業員の健康づくりを通じて生産性向上を目指す「健康経営」に都内の中小企業がどう取り組んでいるか調査した結果をまとめた。
調査では健康経営について「内容を知っている」が27.4%、「内容はしらないが聞いたことはある」が32.6%。全体の6割が何らかの形で認知はしていた。
実際どう取り組むかに関しては「近い将来具体的な実践の予定がる」が4.6%、「いずれ実践したい」が67.1%。すでに「実践している」と合わせて9割超が関心を示した。
一方で「実践したいとは思わない」も7.5%あった。
健康経営を進める上での課題を聞くと、最も多く挙がったのが「どのようなことをしたらよいか分からない」で38.1%。「ノウハウがない」「社内の人員がいない」がともに22.7%で続いた。
健康経営の取り組み方としては、まずは法的に必要とされる定期健康診断の100%実施から始めることになる。従業員の健康に関するコンプライアンスの徹底が必要である。 ストレスチェックの実施から法的に要求される事項の実施である。
その部分から自社の足りないところを確実に実行することから始める。
法的要求事項を実施した後の取り組み事例としては、「毎朝のラジオ体操や禁煙運動」「健康状態の共有に向けた工夫」「残業時間を削減し、ワークライフバランスを追及」などが挙げられている。
労働生産性に大きく影響する社員の健康は、生産性向上も含む投資戦略として取り組むべき課題とも言える。そのためには、まずは健康経営の内容を広く周知させることが必要である。
東京商工会議所では、今後は活動方法や効果の上がった例を具体的に伝えるなど、普及・支援の充実を図ると語っている。
(平成29年12月7日 日刊工業新聞掲載)

働き方改革について考える(上)
個人主義移行で過重労加速/「人を大切にする」企業が生き残り
堺 剛(東京支部)
安倍内閣は、働き方改革を提唱しているが、働き方改革が進んでいると胸を張って言える企業は少ないのではないだろうか?
過重労働が加速した背景にはバブル崩壊が大きく関係している。バブル崩壊により多くの企業が経営を維持させるための特効薬として人件費を削減した。終身雇用が崩れ、リストラが行われ、新卒を採用せず、即戦力としての中途採用を行う企業が増えた。正社員の代わりに派遣社員の需要が高まったのも、成果主義が導入されたのもこの時期である。 日本社会は、チームワークを重視した仕事の進め方から個人の能力に頼る仕事の進め方に重点を置くようになった。全体主義から個人主義への移行とも言える。
就職氷河期と呼ばれる時期は10年以上続いたため、21世紀初頭、多くの企業では採用を控えたことによる人手不足に陥った。人手不足を解消するために、一人ひとりの業務量は増加した。社員の使い捨ても問題になってきた。社員の使い捨てにより、仕事の引き継ぎが上手くいかず、業務効率が悪くなったことも過重労働の一因となっている。教える人がいない、マニュアルもない、誰に聞いたら良いのかわからない、では、せっかく採用した優秀な人材が活躍することは難しい。
2013年、国連は日本政府に対して、「多くの労働者が長時間労働に従事し、過労死が発生し続けている」と指摘し、「長時間労働を防ぐ措置を強化し、労働時間の制限に従わない事業者らに対し予防効果のある制裁を適用する」よう強く求めた。米国の公聴会では「日本には人権無視の奴隷制度が存在する」として、外国人技能実習制度を悪用する日本企業に対する意見があがった。これらの外圧が働き方改革に大きな影響を与えている。
経営資源は、ヒト・モノ・カネであることは言うまでもない。しかしながら、ここ数十年は、モノ・カネ・ヒト、もしくはカネ・モノ・ヒトになっていた傾向がある。バブルの大きな罪は、チームワークの大切さを日本人から奪ったことなのかもしれない。
今後は、人口減少等により、人材確保が難しくなることが予想される。ヒトを大切にする企業のみが生き残っていく。
(平成29年12月14日 日刊工業新聞掲載)

働き方改革について考える(下)
「おもてなし」も過重労働の一因か/過剰サービスの撤廃を期待
堺 剛(東京支部)
日本の労働者は一人当たりの生産性が外国と比べて低いと言われている。労働時間が長いにも関わらず生産性が低いのはなぜか? 「お客様は神様です」との考えが日本の労働者を苦しめているのではなかろうか?海外駐在された方はうなずいて頂けると思うが、外国では物を売る側と買う側は対等の立場で、買い手の要望に売り手が堂々とノーを突きつけて議論の余地を残さないことも多い。
それに対して、日本は買い手の立場が強いケースが多い。お得意様の要望に応えるため、売り手はいろいろなサービスを無償で行ったり、商品や製品にさまざまなオプションを追加したりする。これらの「おもてなし」が過重労働を引き起こしているのではないだろうか?
大手運輸会社が宅配便の再配達を有料化する動きがあるようだ。消費者が再配達を避けるようになれば当然ドライバーの残業も減る。残業が減れば、ドライバー職を敬遠していた労働者からの応募が増え人手不足解消につながる。良い循環が実現するのではないだろうか?
人手不足が叫ばれている昨今、日本社会が行うべきは、過剰サービスの洗い出し・撤廃である。ここで言う過剰サービスには、無理な納期・納品を特急料金なしで売り手に要求することや、再三のやり直しを下請け企業に要求すること等も含まれる。下請いじめはもっての外である。過剰サービスがなくなれば残業は減り生産性は高くなる。 経済産業省は大企業が中小企業への買いたたきなどをしていないかを調べる「下請けGメン」を2017年4月から本格始動させた。悪質な場合は改善勧告や社名の公表も視野に入れとのことである。大企業と中小企業の関係が健全になり業界や社会の常識が変わることを期待したい。
買い手としては今までどおりのサービスが受けられなくなることで一時的に不自由さを感じるかもしれない。しかし便利さを捨てることで回り回って別のメリットがもたらされるかもしれない。それは、家族との時間であったり、自分自身の時間であったりするかもしれない。
一人ひとりがワークライフバランスを実現し、豊かな日本とするよう祈りたい。
(平成29年12月21日 日刊工業新聞掲載)

AI時代のビジネス活用法
あらゆる業種、最前線にヒント/専門性高い営業担当者ニーズ急進
上野 延城(埼玉支部)
人工知能(AI)への関心が高まり、AIは人間の仕事を奪うのか、と不安を抱いている人も多い。
歴史を振り返れば人類は次々と新たなテクノロジーを生み出すことで、生活を飛躍的に向上させてきた。例えば、1440年の印刷機の発明で本の大量生産が可能になると、製本や輸送、マーケティングや販売などの仕事が発達した。
その後、印刷所が増え印刷コストの低下が新聞の創刊につながった。印刷機の登場により写本筆記者という職業はなくなったが、その代わりに新たな仕事が生まれていった。テクノロジーによって奪われる職業があると同時に、予期せぬ形で新たな仕事が生まれるのもまた世の常である。
ATMの普及期にあたる1980―2010年において、米国の銀行員数と銀行の支店数は予想に反して増加している。これは、情報技術の進化により多くの新しい金融商品が生まれたことで、営業担当、管理担当、お客様担当のスタッフや、技術サポートといった新たな職種が必要になったからである。
こうした新たな仕事の登場は、消失した職業を補って余りある。
オートメーションはすでに、人間の労働を補完する機能を果たしている。米国、ドイツ、韓国では、ロボットの活用と人間の雇用が同時に増加している。また、オートメーションやマシンのインテリジェンスによる生産性の向上は、労働者に直接的なメリットをもたらしうる。
米国のある企業では、製造の反復作業にロボットを導入して生産性が20%向上した結果、より多くの従業員を雇用できるようになった。
さらに、ロボットには製作からプログラミング、保守、修理、監視までが必要になるため、新たな種類の技術職と管理職が生まれる。
世界経済フォーラムは今後、専門性の高い営業担当者のニーズが急速に高まると予測しているが、これはテクノロジ-があらゆる産業に深く浸透するため、異業種に自社のプラットフォームの利点を説明できる営業担当者が必要になるからと述べている。
AIの進化は止められない。各社が独自に磨いてきた人間に依存する作業を再定義ことが、AIと上手に付き合うカギである。あらゆる業種の最前線にAI活用のヒントがある。
(平成29年12月28日 日刊工業新聞掲載)

提言と新書